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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第四章 夫婦として
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五十八話

 急遽、翌日も『メディチナ』は休暇となった。

 リンゼイとクレメンテがお守りアミュレットの材料作りに出掛けるので、屋敷に残る他の者は休み扱いにした。

 同行者は人間四名。妖精二名である。

 リンゼイは時間よりも早くやって来て、二頭の竜を呼び出した。

 プラタは数日の間で更に大きくなっている。成長期はまだまだ続くようだった。メレンゲよりも大きな体つきになっていたが、人懐こさは相変わらずで、リンゼイが頬を撫でてやったら嬉しそうな鳴き声を上げている。

 空は晴天。絶好のお出掛け日和。

 今日ばかりはドレスを纏わずに、動きやすいブラウスとズボンを穿いて上から魔術師の外套を纏った姿で行くことにする。


 庭に集合をしていた中の一人をリンゼイは眺めながら話し掛けた。


「まさか、あなたまで行くと言い出すとは思いもしなかった」

「申し訳ありません、奥様」


 突如として同行すると名乗り出たのはイルだった。スメラルドが行くというので、心配して同行することを望んだのだ。


『イルさんは、心配性ですねえ』


 申し訳なく思い、俯いているイルを覗き込むスメラルド。いつの間に仲良くなったのかと首を傾げるリンゼイであった。

 ウィオレケは未知の種族と接触を取るかもしれないので朝から緊張をしていて、口数が少なくなっていた。

 部屋に引きこもって絵を描いているという男が凄腕の弓矢使いだと紹介されて信じがたい気持ちであったが、今は自分のことで精一杯である。


 メレンゲはリンゼイ達が背中に乗りやすいように姿勢を低くしながら待機をしており、プラタは二本足で立ってクレメンテが来ないか屋敷の方向に向かって爪先立ちをしつつ覗き込んでいる。


 プラタの尻尾が揺れ出した。

 遠くからガッシャンガッシャンと音を立てながら全身鎧を纏う男が走って来ているのが分かる。

 その様子を見て、ウィオレケはぎょっとする。


「な、なんだ、あれは!?」

「なにって、普通にクレメンテだけど」

「はあ!?」


 詳しい話を聞けば、クレメンテは全身鎧を纏って近接戦闘を行う剣士だと言う。普段の様子からは想像出来ない姿だったので、ウィオレケは本当に中に入っている人が義兄なのかと疑ってしまう。


「う、嘘だ」

「だから、本当にうちの人だってば」


 訝しむウィオレケに、リンゼイは本人だと示す為に顔を見せようと、頭部を覆っている兜の前部分を開く。すると、そこには眼鏡を掛けていないクレメンテの顔があった。

 思いの外、目付きが悪かったので、ウィオレケはビクリと肩を震わせる。


「ウィオレケさん、あの、分かりますか?」

「あ、ああ。確かに、義兄上あにうえだ」


 声を聞いて、なんとか判別することが出来た。

 眼鏡を掛けているのと、いないのとでは随分と印象に違いがあるなと、ウィオレケは思う。

 だが、それよりも気になることがあった。


「義兄上」

「はい?」

「それは、重装騎兵の装備では?」


 重装騎兵とは馬に乗って戦場を駆ける兵士のことである。

 戦場では機動力を利用して、追撃や突撃を行う戦法に利用される兵装だ。

 当然ながら、鎧の重さは相当なものであるので、馬に乗った状態でないと全く使い物にならない。

 そもそも、全身鎧と言うものは世界的に廃れつつあった。

 現在、多くの国で使われているのは胸甲と呼ばれる頭から膝までを覆う甲冑である。

 以上がウィオレケの鎧についての知識であった。


 一方で、クレメンテは近接戦闘を行う剣士で、馬や竜に跨って戦う戦法は取らないと聞いていたので、歩兵がそのような姿で戦える訳がないと断言をする。


「いや、普通に戦っているってば」

「嘘だ」

「嘘じゃないって」

「な、なんか、すみません、こんなで」


 ウィオレケはあり得ないことだと納得しない状態であったが、ここで証明出来るものでもないので、移動することにした。


 メレンゲにリンゼイとスメラルド、ウィオレケが乗り、プラタにクレメンテとイルが乗ることになった。


「さて、どういう順番で座るかが問題ね」

「姉上、私が前に座ろうか?」

「いや、大丈夫」


 幼少期からメレンゲに乗るのに慣れているウィオレケが、一番危険な位置に座ることを名乗り出たが、リンゼイはすぐに断りを入れる。

 順番はリンゼイ・スメラルド・ウィオレケとなった。


 初めて竜に乗るというスメラルドは、満面の笑みで居る。


『うふふ、一度でいいから、竜様の背中に乗ってみたいと思っていたのですよねえ』

「それは良かったね」

『はい。奥様のお蔭で夢が叶いました』


 先にリンゼイが背中に跨り、次にスメラルドの手を引いて竜の背中に乗せる。竜の騎乗になれているウィオレケは軽々と背に乗った。ところが、ある問題が生じる。


「うわっ」

「なに?」

「尻尾が、顔に」

『あらあら~、若様、ごめんなさいねえ』


 スメラルドの長い尻尾はゆらゆらと揺れていて、ウィオレケの顔に当たる。

 ふわふわの尻尾が鼻先を撫でれば、くしゃみが出てしまった。


「ウィオレケ、尻尾は手で持っていなさい」

「え!?」

『若様、申し訳ありませんが、そのようにお願い出来ますか?』

「……」


 仕方なく、ウィオレケはスメラルドの尻尾を手で抑えながら跨ることになった。


 プラタに乗る二人は、淡々とした様子で背中に跨っていた。

 楽しそうにしている三人を見ながら、目を細める男達である。


「旦那様、背後を失礼します」

「……」


 可能ならば、いつかリンゼイと二人でプラタに乗ってみたいと思っていたクレメンテであったが、初めての同乗者はイルとなってしまい、切ない気持ちを噛みしめる。


「旦那様、空を飛ぶのは初めてなので、とてもドキドキしますね」

「……イル」

「はい!!」

「少し近いから、離れて座れ」

「はっ、申し訳ありませんでした!!」

「……」


 悲しい気持ちを引きずりながら、プラタに飛翔の合図を出す。

 その前に、遠くから慌てるような声が響き渡った。


『待って、待って~~!!』


 遅れてやって来たのはリリットである。

 どうやらお弁当の準備をしていたら、あっという間に出発時間となっていたらしい。


 リリットは弁当の入った籠をリンゼイの薬草箱に弁当を入れてくれとお願いをする。

 それから、リンゼイの鞄には入らずに、クレメンテの方にやって来て、荷物の中に紛れ込ませてくれと頼んでくる。


「リンゼイさんの所じゃなくてもいいのですか?」

『リンゼイ、なにをするか分からないから』


 双眼鏡代わりにされたり、突然竜から飛び降りたり、魔物と近接戦闘をしたりと、空の上のリンゼイは何をするのか分からない危険人物と化していたので、さすがのリリットも警戒をしていた。


 イルが持つ荷物に紛れ込み、昨日のうちから自分で詰めていたリリット用のお菓子を開封して食べ始める。

 同乗者にも食べないかと勧めたが、イルもクレメンテも丁重にお断りをしていた。


 プラタとメレンゲは、翼を広げて空を舞う。


 休憩を挟みつつの空の旅が始まった。


 途中で昼食の時間となったので、竜の湖に降り立って、食事を摂ることにする。

 少しだけ狭い空間だったので、プラタとメレンゲは地面にぴったりと顎を付けてから、身を寄せ合って座っていた。

 リンゼイが湖水を良く飲んでおくようにと言えば、何かを伺うように上目づかいで見上げるメレンゲ。

 すぐに、プラタに竜の湖水を与えたいのだろうということに気付く。

 リンゼイは好きにすればいいと言った。メレンゲは嬉しそうな鳴き声で返事をする。


『いやはや、すっかり若夫婦のようですな』

「……まあ、あの子がいいのなら、文句は言わないけどね」

『でも、お母さんとしては複雑でしょう?』

「そうね。卵からの付き合いだから。本当、自分の娘みたいに思っているのかも」


 今まで幸せそうなメレンゲの様子を見たことがなかったので、寂しいような嬉しいような何とも言えない気分となる。


『竜のことよりも、リンゼイはクレメンテのことをですね』

「あの人がどうしたの?」

『いや、あそこで男三人、気まずそうにしているから』

「あ!」


 スメラルドは敷物の上に弁当を広げていた。

 そこから少しだけ離れた位置に居るクレメンテ、イル、ウィオレケは会話もなく湖の波紋を見て時間を過ごしていた。


 とりあえず、暗い雰囲気の男衆の姿は見なかったことにして、リンゼイはスメラルドの元に向かって準備を手伝うことにした。


アイテム図鑑


お弁当


お出かけにはなくてはならないもの。

リリットはお弁当の準備に命を懸けている!

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