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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第四章 夫婦として
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五十五話

 ウィオレケは一日目から早速薬作りの協力をすることになった。

 本日は頭痛薬を作る。

 だが、薬作りを始める前に、気になっていたことがあったので聞いてみた。


「姉上、その格好は?」

「え?」

「魔術師の外套を着なくてもいいのかと」

「あ、これは……」


 リンゼイはドレスにエプロンという、魔術らしからぬ格好で調合を始めようとしていた。

 その姿は動きにくいだろうと指摘する。


「薬剤が爆発したり、飛び散ったりしたら危ないんじゃ」

「いや、大丈夫。エプロンに防御呪文を織り込んでいるから」


 他の者が身に着けているエプロンにも同様の効果が付加されていた。

 それに、劇薬を作っている訳ではないので、そこまで危険な薬品は扱っていないとも言う。


「そこまでして、その格好をしなくてはならない理由が?」

「……エリージュに脅されているっていうか」

「え!?」

「日々、美しい姿を維持するのは、貴人としての嗜みなんですって」

「……そう」


 あの、王太后が言うのならば仕方がないことで、さすがのリンゼイも従う以外の道はないのかと、納得してしまうウィオレケであった。


 魔術師の外套を着ながら薬品作りに挑もうとしていたが、自分もエリージュから何か言われるのではないかと、少しだけ怯えることになる。幸い、本日の手伝い要員は若い侍女三人だけであった。


 早速作業に取り掛かる。


「とりあえず、ウィオレケ、あなたはソールの樹皮とムサの実で浸剤しんざいを作って」

「分かった」


 頭痛薬の作り方を知っているウィオレケは姉の簡単な指示で動き始める。


 振り出し薬とも呼ばれている浸剤しんざいは、植物などの材料を刻んで湯煎の中で煮込むことによって有効成分を浸出させる飲み薬である。これも頭痛薬の材料の一つとなるのだ。

 薬効の劣化が早いので、状態保存の魔術を掛けなければならない。


 任された材料の入った籠を手に取りながら、精油を作らなければならないマムの花を見て、量が多いので抽出作業は大変そうだと考える。

 これだけの人員ならば、製作には一日半ほど掛かるだろうなと推測していた。


「じゃあ、マムの花の精油作りはお願いね」


 一番大変な精油作りを他の者に頼むのかと、驚いてウィオレケは振り返る。

 だが、背後に居た者達を見て更に驚くこととなった。


「あ、姉上、その者達は!?」

「花の妖精だけど」

「それは見れば分かる!」


 リンゼイは紹介が遅れたと言って妖精姉妹たちの紹介を始めたが、ウィオレケにとってはそれどころではなかった。


「ま、魔導新聞! 何か月か前のやつ、読んで――」

「ないわ。ごめん。折角送ってくれていたのに、ここ半年位本当に忙しくって」

「なんだって!?」


 ウィオレケは早口でまくし立てる。

 花の妖精国が何者かに滅ぼされたと。その話はリンゼイも知っていた。

 重要なことはこの先だと言う。


「この先何百年か後には、この世界の植物の生態系が変わり、滅びてしまうだろうと、妖精学の専門家は言っている」

「なんですって!?」


 リンゼイは花の妖精姉妹にそうなのかと訊ねた。

 姉妹らは何百年とは言わないが、この先いずれかは世界中の草木は枯れ果ててしまうだろうと話す。

 花の妖精国には『世界樹コズモズ・アブル』という、人界にある全ての植物の源となる大樹があった。

 それは、花の妖精達が世話をしていたものである。

 大樹の存在を知るのは、一部の専門家のみであった。

 妖精達が居なくなった現在は、じっくりと時間を掛けて枯れていくだけであると発表されている。


「魔物を退治しようにも、花の妖精界と繋がる家系は残っていなくて、打つ手なしの問題となっているのが現状」


 花の妖精国へは、住人の力を借りないと中へは入れない。

 現在、世界中から妖精魔術を使える家の者を集めて、何か打つ手はないのかと話し合っている最中だと言う。

 ウィオレケは早く国に連絡をして、花の妖精達の存命を伝えるべきだと言った。


「……」

「姉上!」


 リンゼイは腕を組んだまま、瞼を閉じて動かなくなってしまう。

 ウィオレケがもう一度姉を急かすような言葉を掛ければ、閉じていた目は開かれた。

 揺らぐことのない眼差しは、花の妖精姉妹に向けられた。


「あなた達は、どうしたい?」


 優しい声色で問いかける。

 彼女らは口々に、あの日のことは思い出したくないし、恐ろしい魔物が居る国にも行きたくない、出来るならば、このままここで静かに暮らしたいと言った。だが、世界樹コズモズ・アブルのことは心配だと呟く。


「ウィオレケ」

「なに?」

「国に連絡するのはナシ!」

「え!?」


 国に連絡をすれば、花の妖精達は貴重な種族として『保存』される。

 それは、彼女らの望む『静かに暮らしたい』という要望には当てはまらない。

 当然ながら、姉の決定に納得しないウィオレケである。


「世界が滅んでもいいとでも!?」

「いいえ。そんなこと、望んでいないけど」

「だったら!」


 リンゼイは言う。これは自分達で決めて良いものでもないと。

 妖精達はセレディンティア王国内で見つけた存在なので、国を通して交渉するのかと聞けば、そうでもないと言う。


「姉上、これは自分達で抱えていい問題ではないと!」

「まずはうちの人に聞かなきゃ」

「は?」

「こういうことは、話し合って決めないといけないの」

「どういう、意味?」


 リンゼイはこの件についての全てはクレメンテに決めてもらうと言う。

 何の知識もない者に聞いてどうするのかと指摘しても、今までも困ったことがあればクレメンテや屋敷の者達に相談をして、今までもなんとか切り抜けてきたと話す。


「世界の存亡を、家族会議なんかで決めるなんて!!」

「ああ、そうね」

「!?」


 またしても、姉の発言が分からずに絶句をするウィオレケ。

 こんな人だったかと、魔術師らしからぬ考えばかりするリンゼイを信じがたいような気持ちで見上げた。


「私達って、『家族』なのね」


 リンゼイの言う家族とは、クレメンテと、それから屋敷で働く者達全てを含んでいた。

 弟の言葉を受けて、これが家族なのだと気付く。


「安心して、ウィオレケ」

「!」

「あの人、ああ見えて結構頼りになるの」

「え?」


 一見して、賢そうにも強そうにも見えないと、クレメンテの姿を思い浮かべながら考えるウィオレケ。

 それが分かったからか、リンゼイは笑ってしまう。

 そして、頼りになるという言葉に「戦闘面でおいては」という一言を付け足した。


 ◇◇◇


 相談すると言っても、クレメンテは営業に出かけている。

 他の者も各々の仕事があり、手が空いている状態に無かったので、リンゼイ達は頭痛薬作りを再開させた。


「さてと、お喋りはこのくらいにしましょうか」


 ムサの実の加工は侍女達にお願いをする。

 皮を剥いで、実を細かく刻んで鍋で滑らかになるまで練りながら煮込むという工程である。


 リンゼイはコジベリーを粉末にする仕事を担当した。

 固い実なので魔術で圧力を加えて柔らかくしてから、乳鉢ですり潰す。

 散剤こなぐすりも傷みやすいので、加工をしている間に劣化しないように、物質保存の魔術を掛けながら作業を行った。


 最後に、材料の分量を量りながら、鍋の中に入れて練っていく。

 ぼそぼそとしてまとまらないので、急遽蜜蝋を入れることにした。

 個体となった頭痛薬の塊は丸薬にする為の加工を行う。

 整粒は丸薬の型を用いる。

 からくり仕掛けの整丸機は『エレン・リリィ』の店主が買わないかと持って来た品であった。


 丸薬となる材料を上部にある金属製の入れ物に詰め、取っ手を回せば装置の中で丸薬が生成されて、綺麗な丸となった物が下部にある排出口からコロリと出てくる、という仕組みであった。


「へえ、面白いですね」

「他国で作られている品ですって」


 薬学の授業では薬を大量生産するわけではない。なので、丸薬作りの授業も、手で丸めて完成となっていた。

 大量生産するとなれば、手で丸めるのも大変なので、このような品があるのだと、ウィオレケは感心していた。


「魔術のない国の発明品には、驚くばかりよね」

「本当に」


 整丸機のおかげで、整形の短時間で完了となった。

 完成した薬はリリットが『鑑定』をして、効果を確認する。


『問題ないね!』


 その様子を見て、ウィオレケは驚く。


「そんな便利な能力が」


 薬草学の授業で作った薬は、専門家でもある教師が直接効果を確かめるのだ。

 ウィオレケの担任は変わった男で、気分次第で課題の点数を付ける偏屈者であった。

 正しく作れているであろう薬を何度も赤点評価を貰ったことがあって、悔しい思いをした記憶が蘇ってしまった。


「薬学の課題の採点係りとして必要な人材だ」

『なんだか、その偏屈者の先生と一緒に仕事したくないんだけど』

「確かに」


 今となっては関係ない話だと思い、気分を切り替えて完成した薬を満足げに見下ろすウィオレケであった。


アイテム図鑑


頭痛薬ペインキラー


これを飲めば頭もすっきり!

子供にも飲みやすい果実風味。

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