四十三話
その後、プラタは二回目の飛行を成功させた。
そこからまっすぐフィアンマ火岩窟まで移動をする。
『プラタ、すごいじゃん~』
「本当に、驚きましたね」
「ま、人を乗せてから初めて一人前だけどね」
『リ、リンゼイ、厳しい』
家に帰ったら人を乗せて飛ぶ訓練も始めると言っていた。
『それって最初から背中に乗ったりするの?』
「そうだけど。飛行魔石があったら絶対に落ちないから」
『あ、そっか』
竜に跨る者が身に付けている飛行魔石は一定の高さまで浮上をすれば、地面と反発する力が発生して、空中からの落下を防ぐ力がある。
故に、竜の飛行訓練で転げ落ちるということは絶対にない。
「まあ、酔ったりするかもしれないけどね」
『その辺はクレメンテだから大丈夫、かな?』
「……が、頑張ります」
フィアンマ火岩窟はセレディンティア大国の南部にある、活火山の麓にある地底洞窟である。
リンゼイらは竜と別れ、上質の炎熱石を採掘する為に、最深部を目指した。
『な、なんか、ちょっとすごいね、ここ』
「火山だからね」
「溶けた岩なんて初めて見ました」
岩窟内は少しの足場があり、その周囲は岩が溶けてぐつぐつと煮え立っていて泉のようになっていた。たまに岩の隙間から火柱が上がる。
焦熱地となっているマグマの中に落下をしてしまえば、一瞬で体が燃え尽きてしまう程の温度があるとリリットは『鑑定』で調べた情報を言う。
『うひゃ!』
どろどろに溶けたマグマは弾けて足場となっている岩に飛んで来る。地面に転がっていく頃にはただの石ころとなっていた。当然ながら、高温の石なので小粒でも体に当たったら火傷をしてしまう。
リリットは慌ててリンゼイの外套のポケットの中に潜り込んだ。
『あ、ここね、何層かに分かれているっぽい』
噴火で活発になって溢れたマグマが何層にも冷えて固まって出来た岩窟は、長い時を経て迷宮へと姿を変えて行った。
洞窟内は溶岩が煌々と存在感を示しているので案外明るい。それに加えて、マグマが固まって出来た壁は魔力を含むのもので、ほんのりと輝いている。灯りは不要だとリンゼイは判断した。
まずは出入り口で転送陣を敷き、魔物避けの魔術も掛けておく。
先頭を歩くのはクレメンテ。
周囲を見渡しながら、慎重な足取りで進んでいく。
リンゼイもすぐ後ろに続いた。
「こういう洞窟は、どうやって出来るのでしょうか?」
自然に出来たという火岩窟はごつごつとした岩の壁と、ささやかな足場にボコボコと泡立つマグマで構成されている。
人の手は入っていないのに、綺麗な洞窟となっているのかをクレメンテは不思議に思った。
「ここは、火口から溶け出た岩が流れ溢れて、周りが固まっている間に中心にあるマグマが下降部分にどんどん流れて行って、そのあとが空洞になって、みたいな現象が繰り返されて作られるみたい」
「へえ、そうなんですねえ」
「え、今の説明で分かった?」
「はい」
「私、自分で言っていて訳分からなくなってたんだけど」
「分かりましたよ」
「だったらいいけど」
『……リンゼイって、そういう雑なところがあるよね』
暢気な会話をしながら進んでいく。
装備品のお陰で暑さは感じない。だが、マグマが煮え立つ状況という視覚的な恐怖はあった。
ふと、リリットは背筋がぞわりと粟立つのを感じた。
こういう時に起こることはひとつだけしかない。
『ね、ねえ、クレメンテ、リンゼイ』
「なんでしょう?」
『なんか、居る』
「なにが?」
『リンゼイ、一応、魔物避けを掛けているって言ってたけど――うわっ!!』
「!?」
「嘘!!」
『み、右ッ~~!!』
リリットの警告に従って、クレメンテは剣を抜いて右方向に飛びかかる。
『ひえぇぇ~~、クレメンテ~~、右からなにかが来ているから、逆方向に避けてって意味だったのに~~!!』
「分かっていて行ったんでしょうよ!」
マグマの中から這い出て来たのは、意志を持った岩の魔物であった。
どろどろに溶けたような、泥人形のようにも見える。
「こんな低層にこんなのが隠れているなんて、詐欺!!」
『うう、どうしてこうなった~~!!』
リンゼイの魔物避けの魔術は基本的に低レベルの魔物にしか効果がない。
よって、低層だからと安心して散策していると、このような事態に遭ってしまうのだ。
クレメンテはマグマの中にある岩の足場を使って人型をした魔物に斬りかかる。
容易く腕は落とされたが、マグマから火柱が噴き出し、腕が無くなった肩は炎に包まれた。そして、また同じように生えてくる。
『うわ、あれって無敵ってことじゃん』
リリットはリンゼイの脳筋爆弾攻撃も効かないと嘆いた。
「ねえ、今、脳筋攻撃って言った!?」
『い、言ったけど!』
「まだ、やってみないと分からないでしょう!?」
クレメンテが体勢を整えるために数歩引いた隙を見て、リンゼイは杖を取り出して柄に刻まれた呪文を指先で摩り、術式を発動させる。
高濃度の魔力を結晶化させて大砲のように発射させるリンゼイの特技『黒の大砲』。
黒い砲弾がマグマの魔物めがけて勢い良く飛んで行った。
見事、頭部に直撃したのは良かったが、魔物は倒れない。
先ほどと同じように炎に包まれた後に、無くなった部位が復活する。
『ほら、やっぱり!』
「黒の大砲は物理攻撃じゃないのに!」
リリットには全力で殴りつけるような術にしか見えなかったが、指摘しないでおいた。
魔物が腕を振れば、炎が生まれる。
竜巻のように巻き上がった炎は意志を持った魔物のように襲ってくるのだ。
リンゼイは魔術で一つ一つ打ち消していく。
クレメンテはザクザクと魔物を切り刻んでいった。
足元を切り付け、マグマの中に沈めたが、綺麗に復活した状態で起き上がって来る。
「っていうかさ、これ、中核みたいなのがあるでしょう? それをどうにかしないとキリがないと」
『あ、そっか』
いくら体を傷つけても勢いは衰えない。
そういう場合は体のどこかにある心臓とも言える部位を破壊すれば倒すことが出来るのだ。
リリットは魔物を魔眼で『視た』が、中核の発見までには至らなかった。
『――溶岩人間、恨みの炎を滾らせる悪霊だって』
「……」
悪霊と分かったので、リンゼイの物理攻撃にも力が入っていた。
魔術の知識で説明出来ない存在が個人的に許せないからである。
クレメンテが斬りつけて小さくなった溶岩人間を、炎に包まれて体が修復される前に、リンゼイは杖の先端で殴りに行く。
中核に当たるような手応えは無かったので、思わず舌打ちをしてしまう。
溶岩人間は何度目かも分からない復活を遂げた。
『もうやだ、この脳筋夫婦……』
斬ったり殴ったりの攻撃を繰り返すクレメンテとリンゼイを見ながら、リリットは誰にも聞こえないように呟いた。
「!」
クレメンテは確かな手応えを感じた。
そのまま力いっぱい剣を溶岩人間の体に沈めていく。
もう終わりだと思った刹那、大きな火柱がマグマから立ったが、リンゼイの防御魔術によって被害は防がれた。
真っ二つになった体は再生せずに、一瞬で石となって崩れ落ちる。
割れた中核も朽ちて飛び散った。
「リンゼイさん、大丈夫ですか」
「私は平気。あなたは?」
「ええ、私も無傷です」
「そう。良かった」
視線を交わし、安堵し合う二人。
魔物の討伐が本格的な夫婦初めての共同作業となったが、殴る・蹴る・斬り付けると、美しくない戦闘風景を見ていたリリットは、これは初めての共同作業としてカウントしない方がいいのではと思ってしまう。
戦闘を終えたクレメンテとリンゼイは二人揃って清々しい顔をしている。
そして、以前よりもずっと良い雰囲気になっていた。魔物が落とした中核の欠片を仲良く回収している。
『うわ、二人ともすっごい楽しそう……』
調合したり、素材集めが趣味のリンゼイと、リンゼイのすることを手伝うのが趣味のクレメンテ。
リリットの目には、もはやお似合いな二人にしか見えなかった。
アイテム図鑑
溶岩人間の中核
武器や防具に炎の属性を付加出来る。
リンゼイとクレメンテが仲良く集めたアイテム。




