表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第一章 新たなる一歩
4/173

四話

 薬草を探しながら、クレメンテが居て良かったとリンゼイは思う。

 葉に上に浮かぶ粒のような朝露集めは根気と時間が要る作業だ。自分で採取する様子を想像してぞっとしてしまう。

 使役精霊を召喚すればいい話であるが、人外との契約は案外面倒なのだ。

 泥人形作りは得意中の得意であったが、繊細な作業は苦手で大雑把な指示しか聞けないので無理だろうと考える。


 クレメンテに感謝をしていたら、彼とも面倒な関係にあったことを思い出してげんなりとなった。

 だが、積極的に夫婦関係を強要している様子もなく、あくまでの『親戚のお兄さん』に徹しているようだった。


 ――まあ、仲間が出来た位に思っておこう。


 結婚についてはとりあえず棚に上げて、薬草摘みに集中することにした。


 主な材料となるシシリ草はどこにでも生えているものである。

 薬効は疲労回復、鎮静作用、殺菌、解熱などがある。店で売っている生薬の原料でもあった。

 万能薬のように見えるが、摘んだ後の性質劣化が早いので薬にしても日持ちしない。それに苦味が強く、急いでいる時以外は砂糖水に溶いて飲んでいる者も多いと聞いている。


 リンゼイの作る霊薬エリキサは長く持ち運べて、かつ、口当たりはまろやか、というものを目指していた。


 二時間ほど薬草を集める。

 籠の中の葉がシシリ草かどうか、間違いがないかを一枚一枚選別してから特別な道具箱に入れる。

 手の平大の大きさの緑色の小箱は、リンゼイが霊薬エリキサ作りにハマっていた時に作ったものだった。


 彼女はこれを薬草箱と呼んでいる。


 薬草箱に材料を入れたら、鮮度を一カ月程保つという効果がある。様々な品物を生成する錬金術を嗜む者には不可欠な道具でもあった。


 籠の中に薬草は全てシシリ草で間違いなかったので、薬草箱に収納した。


 残りの時間は白紅花の根を引いた。土を近くにあった湖で洗う。

 花の根はそこまでたくさん必要としない。二株分あれば十分だ。煮詰めた液体を使う。


 偶然にも、辿り着いた湖は妖精が棲む所だったので、精製水の材料となる水も頂いた。

 精製水を作るための条件として、妖精や精霊の棲家であることが決まっている。

 いつも取りに行っていたのは王都から竜で三十分ほどの川だったので、こんなに近い場所にあったのかと驚いてしまった。


 同時に探し方が雑だったなと反省する。


 水も大きめの瓶に十本頂いて道具箱に入れた。

 湖に住まう妖精へのお礼として、蜂蜜を固めた飴を湖に三粒落とす。

 森の住人への礼儀である。


 時計を見ればちょうどお昼時だったので、クレメンテの元に戻った。


「お疲れ様。疲れたでしょう?」


 振り返ったクレメンテは眉を下げて困ったように笑う。


「どうしたの?」

「いえ、これだけした採れなくって」


 差し出された瓶はほとんど朝露で満たされていた。


「え、すごい! こんなに採れたの?」

「え? ええ。ですが、こっちの瓶は全然」

「それは予備の瓶だから。そっちの瓶に半分入っていたら十分だったのに」


 採取をする時小さな瓶だったら作業がしにくいだろうと思い、リンゼイは大きめの瓶を渡していた。二つ渡したのはうっかり割ってしまった時に使うためだった。


「左様でしたか」

「ごめんね、説明していなくて」

「いえいえ、聞かなかった私も悪いので」


 薬草も多めに採れたのでちょうど良かったと言えば、クレメンテもほっとしたような表情を見せていた。


 昼食を食べて少しだけ休憩をしたら再び竜に乗って帰宅をすることになる。


「さて、これからどうしましょうか?」


 ご指示をというので、仕上がった霊薬エリキサを入れる瓶をお願いすることにした。


「大きさはどの位で?」

「指の第一関節から第二関節位の大きさの」

「……?」


 クレメンテが自らの手のひらを広げて見ていた。

 リンゼイは「これ位ね」と言って親指と人差し指を手の平に当てて説明をしようとしたが、指先が触れた瞬間にさっと手を引っ込められてしまった。


 思わぬ動作にびっくりして、リンゼイはクレメンテを見る。


「あ、すみま、せん」

「いいえ」


 なにごともなかったかのように、リンゼイは瓶の個数を言ってお買いものをお願いした。


「あと、針金付きのタグもあったらお願い。それと果実酒も!」

「分かりました」

「領収書も忘れないでね」

「はい」


 クレメンテは素早く身を翻して小走りで買い物に向かう。

 その後ろ姿を見ながら失敗したなと反省していた。


 リンゼイは五人兄弟で、下の弟を溺愛していた。

 十も歳が離れた弟と同じ様な感覚で接触してしまったのだ。


 夫となったクレメンテは距離を置いた付き合いをしようとしていた。

 リンゼイもそれに習わなければならないと、自分に言い聞かせた。


 ◇◇◇


 地下の実験室ラボラトリウムには簡易的な竈が三つと大きな鍋、調理道具、作業用の机、棚、換気のための空気口があった。最低限の設備が整っていたので満足をする。

 案内してくれた侍女に話を聞けば、酒を作るために作られていた部屋だという説明をしてくれた。


「ここの国民の多くは自家製酒を嗜んでいます」

「へえ、そうなんだ。面白いね」


 言われてみれば街に酒屋を見かけなかったことに気づいた。


「奥様は、お酒は?」

「飲まない」

「左様でございましたか」


 魔術師にとって酒は禁忌とされている。酔っ払って魔術を放ち、街のほとんどを壊滅させた迷惑な魔術師の話は魔道書の一頁目に必ず書かれてある。

 創作話かもしれないが、恐ろしい話として教師から絶対に酒は飲まないようにと何度も指導されていた。


 侍女の手伝いの申し出を断り、リンゼイは一人で作業を開始する。


 まずは鍋の中に井戸水を張って白紅花の根を煮詰めることから始めた。

 竈の中に火の魔石を入れて、発火呪文を唱えればボッと音をたてて点火する。

 もう一つ鍋を置いて、湯を沸かす。同じように火を点けた。

 沸騰したら調合で使う道具を入れて、煮沸消毒を行う。


 次に精製水作りに取り掛かった。

 精製水とは不純物を取り除き、殺菌をした純粋な水のことである。

 それに加え、妖精や精霊が棲んでいた川や湖という条件を満たしたものが霊薬エリキサ作りに使われるのだ。


 使う道具は蒸留器。

 金属の器の下に加熱装置があり、沸かした湯を蒸発させて、浮かんだ蒸気を冷やして液体にするものである。


 その後、何度かろ過を繰り返し、物質変化の魔術を掛ければ精製水は完成をする。


 湖の水を蒸留させている間にシシル草を乳鉢ですり潰す。

 粘り気が出て来るまで練り、色が黒っぽくなるまで混ぜた。

 練ったシシル草は密封出来る瓶の中に入れる。薬草箱に収納すれば、完成品でなくても長期保存も可能となるのだ。


 棚の中に果実酒があったので頂く。近くには瓶の入った木箱が置いてあった。商品用のタグも棚の中にある。

 クレメンテが買ってきた品々を置きに来てくれていたようだが、集中していたので気付かなかったようだ。


 ありがたいと思いつつ、勝手に使わせて頂く。


 材料は揃ったので、試作品を作ってみることにした。


 天秤で慎重に重さを量ってから、素材を混ぜ合わせる。


 その後、何度かろ過をして、蒸留器に掛けて残ったものが簡易霊薬エリキサとなる。


 煮沸消毒をした瓶の中に透明度の高い緑色に染まった液体を注ぐ。

 ぎゅっと蓋を閉めて、むふふと満足げな笑い声を上げてしまった。


 久々に作ったにしてはよく出来ているような気がすると、謎の自信があった。


 苦労して何年も掛けて作った大霊薬マグヌス・エリキサに比べたら簡単なものである。


 完成品をクレメンテに見せるために一階へと上って行った。


アイテム図鑑


薬草箱


リンゼイ特製の道具箱。

時間の経過とともに劣化する素材などを、鮮度をそのままに保存することが出来る便利な箱。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ