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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第十章 『メディチナ』、やっと再開!
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百四十八話

 リリットや使用人が居ない、夫婦二人だけのお出かけは久しぶりだった。

 どことなくぎこちない様子をしている二人である。


 薬草茶を出す喫茶店に行くのも数ヶ月ぶり。

 向かい合った席で、二人は店主の持って来たメニュー表を眺める。

 難しい顔をしている夫婦に、店主は話し掛けた。


「何か、体で気になることがあれば、ぴったりのお茶を選びますが」


 店主は今回も薬草茶を選んでくれると言う。


「リンゼイさんはどうしますか?」

「なんか、気分が落ち着かないというか」

「私もです」


 二人して緊張をしているので、心を鎮めるお茶を注文することにした。


 リンゼイは今日初めてクレメンテの顔を見る。

 なんだか顔色が悪いような気がして、薬を飲めばいいと勧めた。


「いえ、大丈夫です。リンゼイさんの顔を見たら元気になりました」

「そんなわけないでしょ?」

「ほ、本当です、本当なんです!」


 必死になって言うので、リンゼイは思わず笑ってしまった。

 その笑顔に、クレメンテは心を奪われる。


 しばらくして、薬草茶が運ばれてきた。


「ビターオランジ茶でございます」


 春を告げる可憐な花から作ったお茶だと話す。

 気持ちの高ぶりを沈め、不安や落ち込んだ気分を引き上げる効果がある。


「今の私にぴったりなお茶です」

「でしょうね」


 店主はおまけに焼き菓子を置いて行った。

 ふわりと、甘い香りが漂う。

 ひとまず、お茶を飲んで落ち着くことにする。


「リンゼイさん」

「何?」

「今日の口紅、いつもと感じが違いますね」

「本当?」

「はい、なんだか、その、とってもいいです」

「ありがとう」


 今日塗っているものは『メディチナ』の新商品だと告げた。

 自分の作った品を褒められて嬉しかったリンゼイは、照れ隠しをするために素材集めの苦労や製作現場の混沌ぶりなどを語って聞かせた。


「エリージュは化粧品を妖精シリーズとして売りたいみたいだけど、主に作っているのは筋肉妖精マッスル・フェアリだし、個人的には複雑な心境よね」

「……ですね」


 だが、今となっては妖精おっさんの腕力は、製品作りにはなくてはならぬものとなっている。


「化粧品については、頬紅と美容水を出そうと思っているの」

「無理はなさらないでくださいね」

「ええ、大丈夫」


 それから、セレスティーナ・アルマロウ男爵令嬢についても話した。


「どんな方なんですか?」

「結構私に似ているかも」

「リンゼイさんに、ですか?」

「ええ」


 気が強くて意地っ張り、きつそうに見える。

 だが、実際話をしてみれば、案外普通の娘だと語った。


「そうでしたか。いい返事が来るといいですね」

「そうね。エリージュは、きっと受けてくれるだろうと言っていたけど」


 変な根回しをしていないといいなと、リンゼイは思った。


「お会いするのを楽しみにしています」

「え?」

「はい?」


 一瞬、何を言っているのだとムッとしたリンゼイだったが、すぐに社交辞令的な意味合いであることに気付き、赤面をした。


「あの、リンゼイさん、私、変なことを言いましたか?」

「ごめんなさい。なんでもないの」

「はあ、左様でございましたか」

「ええ。忘れて、今すぐに」

「分かりました」


 従順なクレメンテは、リンゼイの言いつけ通り、それ以上追及をすることはなかった。


 渋い薬草茶を飲んでふわふわとした気持ちを引き締める。


 どうしてか、気持ちは全く落ち着かなかった。


 ◇◇◇


 帰宅後、リンゼイはリリットを呼びだした。


『何かな~』

「ちょっと視てもらいたいものがあるの」


 リンゼイは鍵付きの引き出しの中から、細長い木箱を取り出す。

 中には、真紅の宝石が付いた首飾りが入っていた。

 購入後、金属部分が曇っている部位があったので、交換などをしていたために、届いたのはつい最近だと、侍女が言っていた。


 ここ最近のリンゼイは多忙を極めていたので、首飾りについての情報を全く把握していなかったのである。


 リリットは首飾りを覗き込み、目を見開く。


『おっと、これは!』

「どう?」

『精霊、居るっぽいよ』

「やっぱりね」


 問題は扱いについて。

 リンゼイは専門家ではないので、安易に手を出さない方がいいと思った。


『知り合いに専門家とか居ないの?』

「一番上の兄上がそうだけど、絶対に聞きたくない」

『まあ、うん。会ったことないけど、癖のある人なんだろうね』


 沈黙は肯定を意味する。

 リンゼイの一番上の兄も厳格そうに見えて、大変な変わり者であった。


『中に居るのは炎の精霊で、リンゼイとは相性がいいっぽいけど、今は眠っているし、普段関わっている精霊との関係もあるから、あまり関わらない方がいいかもね』

「そうね」


 魔術を使う際、近隣を守護する精霊と短い契約を交わし、術を形作る。

 リンゼイは十年以上、ここの国に居る精霊との付き合いをしてきた。

 同じ地域に同じ属性の精霊が居るという話はあまり多くない。

 なので、下手に目覚めさせない方がいいだろうと判断をした。


『まあ、装備しているだけでも、いろいろ効果があるっぽいし、ラッキーだったね』

「お店で見つけた時は驚いたわ」


 精霊宝石の効果は五つ。

 ・炎系魔術の威力を爆発的に上げる。

 ・炎系魔術の無効化。

 ・低位魔術であれば、すぐに放つことが出来る。

 ・炎属性の生物を従わせることが可能。

 ・地面よりマグマを噴き出せるようになる。


「へえ、いろんな効果があるのね」

『いや、なんかもう、人外的な力というか……』


 普段から身に付けるのはいささか重たいので、杖に取りつけたいと構想を練っていた。


 ◇◇◇


 翌日。

 リンゼイは新たな商品作りに取り掛かる。

 製作するのは、頬紅。


 材料は絹雲母セーダ・マイカ珊瑚雲母コーラル・マイカ粉糖ゼア、スギナの葉。

 以上のものを粉末にして混ぜ合わせる。


 本日は妖精組(リリット、スメラルド、筋肉妖精マッスル・フェアリ)侍女達の手を借りて作る。

 リンゼイは各人に作業分担を割り当ててから、自分の担当する仕事を始めた。


 スギナの葉は肌の潤いを保つ効果がある。それを乾燥させて粉状にした。

 鉱物類も潰して粉末にする。

 この辺の作業は筋肉妖精マッスル・フェアリに任せた。

 今日も気合の入った掛け声が実験室に響き渡っていたが、作業する人達は慣れたもので、真剣に各々の仕事を勧めていた。

 材料を全て混ぜれば頬紅の完成となる。

 色は調節して、濃い目と薄目の二種類作った。


 侍女達には以前王妃に献上した美用水を作って貰っている。

 エリージュが『王妃愛用の品』と謳って売り出せばいいと言っていた。恐れ多いと思っていたが、お茶会の時に感じた恐怖の慰謝料だと考えることにした。


 これで、『メディチナ』新商品は揃ったことになる。

 特別な鉱物を使って作ったおしろい、『森のフォレ・妖精肌フェアリ・ベルポ』。

 大蜜蜂グロ・メリッサの蜜蝋を使った口紅、『妖精のフェアリ・口付けフィリ』。

 つやつやと輝く時間が長続きするグロス、『妖精のフェアリ・花蜜メル』。

 肌の発色を良くする効果がある頬紅、『妖精のフェアリ・紅潮ファラジュ』。

 王妃も絶賛したかもしれない美容水、『花の美容液フロル・セロム』。


『いっぱい作ったねえ』

「ええ。あとはセレスティーナ・アルマロウ嬢のご意見を頂けたら完璧なんだけどね」

『返事は?』

「まだ」


 そんな話をしているところに、手紙が届いたと声がかかる。


 差出人を見れば、噂をしていたセレスティーナからだった。

 リンゼイはすぐに手紙を開封する。


『どう? どうだった?』


 紙面に目を走らせる。

 書かれてある内容は、良い知らせだった。


「『メディチナ』のお仕事、受けてくれるって」

『おお、すごい! 良かったね!』

「ええ、本当に」


 早速、スケジュール管理をして、数日後に来てもらえることになった。


アイテム図鑑


『メディチナ』、化粧品シリーズ


主に筋肉妖精が積極的にかかわって作られた化粧品。

夢見る乙女は製作現場を覗いてはいけない。

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