百三十話
クレメンテ、リンゼイ、リリットの三人は、ミラージュ公国に辿り着いていた。
だが、三人の顔は冴えない。
ここに来るまでに色々とあったからだ。
一日目。
クレメンテと同室になったリンゼイが、緊張からうっかり酒を飲んでしまい、一晩中愉快に過ごす事案が発生。リリットは陽気なリンゼイが恐ろしくて堪らなかった。クレメンテは楽しかった模様。
二日目。
一晩中盛り上がっていた為に、夜まで爆睡。
二人共意識がなかったので、食事のサービスは行われず、リリットは家から持って来ていた『小軟体十本足』の干物を食べて飢えを凌ぐ。(※妖精は食べ物を摂らなくても飢えない。気分の問題らしい)
三日目。
すっかり具合が良くなった二人は、リリットに平謝り。売店で好きな物を買っていいと言って大量のお菓子を購入。
我慢出来ずにリンゼイの肩に座って板チョコレートに齧り付こうとしたら、姿を消す魔術を施し忘れていて、子供に見つかってしまい、人形と勘違いされて欲しいと激しく泣かれる。
夫婦は申し訳ないと思いつつも、全力で走って逃げた。
四日目。
船は別大陸に到着をする。そこはセレディンティア王国ではないので、入国監査を経て、船の乗り継ぎを行った。
海を出て数時間後、海賊に襲われる。
キレたリンゼイは甲板へ行った。すると、襲い掛かって来ていた海賊船は、見たことあるもので……。
『レヴィリンガー号』
クレメンテとリンゼイが色んな意味でお世話になった船である。
怒り狂ったリンゼイは巨大な火の球を作ってレヴィリンガー号の船員達を脅した。
すると、海賊船は船の先端に立つクレメンテやリンゼイの姿に気付いたからか、回れ右をして去っていく。
この辺は海賊が多く蔓延る海域で、国の政策も間に合っていないという噂は聞いていた。
だが、実際に遭遇する確率は二割以下で、海賊の多くは客船ではなく商船を狙うと聞いていたので、そこまで危機感を抱いていなかった。
しかしながら、夫婦を乗せた船は不運にも海賊に出会ってしまった。
顔見知りだったので、なんとか追い払うことに成功する。
船長には感謝をされたが、乗客からは白い眼を向けられていた。
それも仕方がない。
はしたなくスカートをはためかせながら船首に登り、火気厳禁である船で巨大な火の球を作って見せたのだ。
船の滞在はなんとなく居心地の悪さを覚える二日間だった。
リンゼイは海賊に対して、次に会った時は絶対に沈めてやると決心した。
五日目。
またもや入国監査を経て、別の船に乗り込む。
この五日間、クレメンテはまともに寝ていない。リンゼイと一緒の部屋なので、眠れない夜を過ごしていた。目が真っ赤になっていて、リンゼイに怖いと言われる。
気の毒に思ったリリットがクレメンテに魔術を掛けて、強制的に眠らせた。
六日目。
最後の最後で船が魔物に襲われる。
今回は海からの攻撃ではなく、上空から襲われた。
飛んできたのは、飛行蜥蜴であった。
リンゼイは魔術で眠っていたクレメンテを物理的な方法で起こし、甲板に出る。
戦闘員の船乗りが応戦をしていたが、全く歯が立っていなかった。
クレメンテとリンゼイは、即座に作戦会議を行って、戦略を練った。
二人が頑張って一瞬で考えたのは、リンゼイが空から飛行蜥蜴を叩き落とし、地上に落ちてきたものをクレメンテが斬りかかるという、なんとも言えないものであった。
リリットはまた力任せか、この脳筋夫婦は、と呆れてしまった。
そして、リリットは迷う。
どちらについて行くべきなのかと。
リンゼイについていて、何度も酷い目にあった。
だが、今回のクレメンテは役目を終えた後、確実に海に落ちることになる。
考える時間は少ない。
結局、海に落ちたくなかったリリットは、リンゼイの胸元に潜り込んだ。
「胸に挟まるな!」などと二人の揉める声が甲板の上に響き渡るが、飛行蜥蜴の煽りを受けて大人しくなる。
リンゼイは飛行板に乗った。
ふわりと浮上したが、風でスカートが舞い上がり、クレメンテはうっかり純白の飾りレースの付いたパンツを見てしまった。上空より「見ないで!!」 という絶叫が聞こえる。
クレメンテは言いつけ通り、さっと視線を逸らした。周囲の船員達は見ていないといいなと思った。とても確認する気にはなれない。見た者を抹消したくなるからだ。
クレメンテは船尾に向かって走った。
空を見上げると、リンゼイが飛行蜥蜴と対峙している。
どうか無事でと、らしくもなく、神に祈りを捧げていた。
上空でのリンゼイは、相変わらず魔術師とは思えない戦い方をしていた。
脳震盪で海面に落とす!! などと叫びながら、自慢の強度を誇る水晶杖を飛行蜥蜴の脳天に叩きつけるという謎戦法を取っている。
リリットは眼前に迫る飛行蜥蜴の鼻先に大絶叫していた。
『鑑定』で弱点を探る余裕などない。
やっぱりクレメンテ側についておくべきだったと、激しく後悔する。
幸いにも、リンゼイの攻撃は案外効いていて、飛行蜥蜴の巨体はふらりと傾く。そこへ追い打ちをかけるように、黒の砲弾を叩き込んだ。
飛行蜥蜴は真っ逆さまに落ちていく。
リンゼイは魔術で落下位置を調節した。
ちょうど、船の尾に行くようにする。
飛行蜥蜴が海に落下した後、船が波の影響を受けないような魔術も施した。準備は抜かりない。
クレメンテは剣を抜き、飛行蜥蜴を待つ。
上空でリンゼイと戦っていた巨体はすぐにバランスを崩し、傾いた。
そして、落下してくる。
タイミングを見計らって、クレメンテは飛行蜥蜴に飛びかかった。
首筋を全力で斬りつける。
太い血管が通っている部位から、大量の血が溢れ出てきた。
大きな体は海面に沈む。
遅れてクレメンテも海に叩きつけられることになった。
リンゼイは飛行板に乗ったまま、海面すれすれに立ってクレメンテが顔を出すのを待つ。
だが、なかなか上がって来ない。
リリットに海の中を調べて貰うように頼む。
すると、まだ飛行蜥蜴は生きていて、海中で格闘していることが判明した。
リンゼイは迷わず海に潜る。
リリットの絶叫は海の水に呑まれてしまった。
ドレスが邪魔で思うように動けなかった。
そんな状況でも、もがきながらクレメンテを探す。
飛行蜥蜴の姿はすぐに見つかった。クレメンテも共にあった。
飛行蜥蜴は向けられた剣の刃を銜え、柄を掴んでいるクレメンテを振り回しているという状態である。首からは血を流していて、致命傷を抱えている状態なので、そこまで勢いはない。
リンゼイは飛び込んでからしばらく経った後に気付く。
リリットも気付いたので、伝心術で突っ込んだ。
――水の中に居たら、魔術なんか使えないじゃん!!
初めて自身を馬鹿だと思った。
元気がなくなっていく飛行蜥蜴は、クラゲのように漂うだけのリンゼイの存在に気付いた。
クレメンテを振り回しても意味がないことにも気づいたので剣を放し、そちらへ向かおうとする。
この時になってリンゼイの姿を発見したクレメンテは大いに焦った。
その刹那、カッと全身に熱が集まるのを感じていた。
嬉々として向かって行こうとする飛行蜥蜴の首に触れ、一気に焼き尽くす。
大きな体は炎に包まれて、一瞬で消えてなくなった。
あれだけの火力なのに、周囲が全く熱くないのも不思議だと思った。
だが、そんなことを呑気に考えている暇はない。
クレメンテは苦しそうにしているリンゼイを助けに行った。
二人は勇気ある船員の出した小舟に救助される。
その後、クレメンテとリンゼイは泥のように眠りながらミラージュ公国へと渡ったのだった。
◇◇◇
以上が波乱の旅路であった。
『なんていうか、色々酷いよね』
リリットはリンゼイを生暖かい目で見る。
『無計画に海に飛び込んで、よく、生きているなって思うよ』
「だって、心配だったんだもの」
「リンゼイさん……!」
熱い視線を向けられて、照れるリンゼイ。
リリットは夫婦を見ながら、呆れていた。
そして、一言。
『もう、どうでもいいから付き合っちゃいなよ。君ら、素晴らしくお似合だからさ』
クレメンテとリンゼイに聞こえないように、リリットはそっと呟いていた。
アイテム図鑑
リンゼイのパンツ
地味な感じのものを好む。エリージュの買う派手な色の下着はチェストの奥に押し込んでいた。
クレメンテが見たのは2回とも白。




