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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第八章 続く、迷宮探索
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百十七話

 怪植物モンス・フィトは絶対に前に出ないようにとウィオレケから注意されていた。

 親指を立てるような葉の形を作って、『分カッタ!』と元気よく返事をする。


「まず、竜は鱗をどうにかしなきゃ、剣で傷つけることが出来ないから」

「そうですね」


 竜を友とする家系のアイスコレッタは、万が一の時に備えて、竜を屠る方法も伝授される。


『それって一族以外は秘密ってやつ?』

「まあね」

「あの、私が聞いてもいいことなのでしょうか?」


 その問いかけに、リンゼイは「家族でしょう、私達」と当然とばかりに返す。

 ウィオレケは「義兄上しか頼れる人が居ないんだ」と言った。

 感極まったクレメンテは、手を口元に中てたが、手甲と兜の表面がガッチャン! と大きな音をたてるだけであった。


 クレメンテの奇行を姉弟は見ない振りをしていた。いつものことである。


 話は竜との戦闘方法へと戻る。


 全身を硬い鱗に覆われている竜であったが、急所は存在する。

 一つ目は顎の下。

 その部位は比較的鱗が柔らかい。

 二つ目は眼球。

 鱗に覆われていないので、確実なダメージを与えられる。

 三つ目は口の中。

 理由は眼球と同じ。

 眼球と口の中に魔術を当てるのはなかなか難しいことであった。

 眼は、魔力の濃度が高く、魔術が効き難い。

 口の中は、硬く鋭い牙が攻撃を阻むのだ。

 よって、狙うのは顎の下がいいと、リンゼイは言う。


 まずは顎下に切り傷を作り、魔術でその部分を抉り倒すという作戦を立てた。

 おそらく『魔法マギア』は使わないと想定する。

 火竜フォティア・ドラコは竜族の中でも好戦的で、脳みそまで筋肉で構成されている種族であった。

 過去の戦闘で火竜が魔法マギアを使ったという記録は残されていない。


 物理攻撃能力に長けている火竜の倒した方で一番多いのは、弓矢で目を狙う、ということであった。


「イルが居れば良かったですね」

「ええ。でも、大丈夫よ、あなたなら。私も支援をするし」

「は、はい!!」


 リンゼイの言葉を聞いて、クレメンテの士気がぐんと上がるのをリリットは『鑑定』の力を通して見守る。

 とても単純な男だと思っていた。


 話は竜の倒し方に戻る。


『まあ、最初に現状をどう切り抜けるか、だよね』


 まずは炎のブレスをくぐり抜けなければならない。

 リンゼイの魔石があるのでダメージを受けることはないが、それでも炎の中に飛び込むのは勇気がいる。


 だが、立ち上がったクレメンテの目には迷いがなかった。

 背後に守るべき存在が居ることが、彼を強くする。


「ねえ、クレメンテ」

「はい?」

「竜の血は浴びないように気をつけて」

「分かりました」


 竜の血は高濃度の魔力を含んだ液体だ。

 過去に、竜退治に行ったものが返り血を浴びて全身が一瞬で溶けてなくなってしまったという話もあった。

 だが、それも伝承などに載っている話に過ぎない。実際にどうなるかの詳細は明らかにされていなかった。


「――っていう話もあるから」

「全身が、溶けて、ですか」

『白竜の加護があるし、多分竜の血を浴びても大丈夫だとは思うけれど』


 ウィオレケは白竜の回復に頼った戦闘はしない方がいいと言う。


「はい。一応、気を付けておきます」


 話がまとまったところで、竜に向き直る。

 火力は治まることはない。


『あれは、リンゼイ以上の火力ですな』

「当たり前でしょう!? 相手は竜なんだから!!」


 火竜は体の全てが、広場から繋がる通路に入りきらないようで、首と胴の一部を突っ込んでいる。体を小さく縮めた姿で火を吐いていた。


「……行きます」

「ええ、お願い」

「義兄上、気を付けて」

『倒せなかったら逃げようね!』

『応援シテイルカラ~』


 リンゼイも杖を取り出して、先端となる水晶の部分でクレメンテの肩や胸を叩いていく。

 加護を込めるまじないであった。


「無理は絶対にしないで。倒せなくてもいいから」

「はい、ありがとうございます」


 クレメンテは火竜を見据える。

 一度大きく息を吸い込んで、吐き、もう一度息を吸い込むと炎の中に飛び込んで行った。


 リンゼイが言っていた通り、魔石の力のおかげで炎の中に居ても熱さや皮膚の焼ける痛みなどは全くなかった。感じるのは炎を吐かれる時に出る息の勢いだけである。


 どんどん竜との距離を詰めていく。

 竜はやっと向かって来た獲物を前に、火の勢いを強めた。

 だが、クレメンテは構わずに前に進む。


 目の前に敵がやって来たので、火竜はブレスを止めて首を引っ込めた。

 剣を引き抜いたクレメンテは、素早く竜に接近して顎の下を斬りつける。


 残念ながら首を引くのが早かったので、深い傷は入らない。

 炎が止まったので、魔術師姉弟も補助や攻撃に参加する。


 ウィオレケの放つ氷の魔術が竜を襲った。

 一応、弱点属性でもあるので、気力と体力を削っている。


 竜はまとわりつく氷魔術を振り払いながら、クレメンテを爪で引っ掻こうと動かす。隙あらば、噛み殺そうかと猛追している。だが、その行動もどんどんと鈍くなっていた。

 リンゼイがひたすら竜への能力低下魔術を掛け続けていたからだ。

 防御力低下、幸運値の引き下げ、魔防結界を薄くする等。

 そのおかげか、ウィオレケの放つ氷魔術のダメージが上がっているように見えた。


 火竜へ襲い掛かる氷魔術は冷気で視界を塞ぎ、足元を凍らせ、重石のように巨大な氷が背中に圧し掛かる。


 狭い空間では自慢の翼も使えない。

 竜が戦闘能力を最大発揮出来るのは、自由に飛び回ることが出来る広い空が不可欠である。

 牢のように狭い場所ではジタバタと暴れる以外に戦い方はない。


 ついに、顎の下の比較的鱗の薄い部位が裂かれてしまった。

 続けて、鋭く巨大な氷柱が地面より生えて来て、竜の顎に深く突き刺さる。


 縫い付けられるような形になった火竜は、大量の血を噴きだしながら氷柱を抜こうと暴れ出す。


 だが、突然体を蔓のようなもので拘束されてしまった。


『メルヴ、無茶しないでね!』

『大丈夫~!』


 リリットは戦々恐々としながら、応援をする。


 竜の体を拘束していたのは、怪植物モンス・フィトであった。


 氷の中に根を下ろし、自らの体を固定させた怪植物モンス・フィトは、小さな体から蔦を出し、巨大な竜を捕えることに成功していた。

 リンゼイは拘束する蔓の力を上げるような補助呪文で援護する。


 ついに、竜は身動きが取れなくなってしまった。


 クレメンテは竜の血を浴びながら、裂けた場所に剣を入れて、皮を剥ぐように切り込みを入れていく。


 竜の血はどんどん鎧を溶かしていく。

 だが、自身の体は柔らかな光に包まれていた。

 リンゼイが回復呪文を唱え続けているからだ。白竜の鱗の効果もある。

 クレメンテは歯を食いしばりながら、剣に力を込めた。


 刃が竜の皮を裂く度に、ウィオレケは氷柱を放って竜の体を大地に縫い付けていく。


 パラパラと鱗が雨のように落ちてきている。

 クレメンテは狩猟で得た獲物を解体するかのように、柔らかな竜の皮膚を切り進めた。


 大量の血を失った火竜フォティア・ドラコは次第に動かなくなり、息絶える。


 竜がこと切れたのと同時に、膝から崩れ落ちるように倒れるクレメンテ。リンゼイはウィオレケにその場で待っておくように言ってから、すぐに駆け寄った。


 鎧はところどころ解けている状態である。鎧の下の服もボロボロになっていた。

 幸い、外傷はないようだった。


「リリット!」

『はいな!』


 リンゼイはリリットに意識を失っているクレメンテの状態を調べて貰うように頼んだ。


『大丈夫、とりあえず死んでない!』

「とりあえずって……」


 竜の血を浴びたことによって、体が拒絶反応を示し、このような状態になっていると話す。

 通常、ただの人間が竜の血を浴びれば死に至るが、白竜の鱗の加護があるおかげでどうにかなっている状態であった。


『あ!』

「何?」

『いや、クレメンテの体が火竜の血を受け入れちゃったなと』

「?」


 火竜の血を受け入れた体は炎を無効化とし、滅多なことでは傷つかない強靭な体となる。

 他にも効果はあるようだが、『鑑定』で明らかになっているのは二つだけであった。


『クレメンテ、なんか、一人だけパワーアップしつつあるけど』

「……聞かなかったことにする」


 ハンカチで体に付着した血を拭っていれば、クレメンテは目を覚ます。


「!」


 慌てて起き上り、血に濡れた自分の体を見てぎょっとしていた。


「り、竜は!?」

「倒したから大丈夫」

「あ、左様でした、か」


 背後には氷柱が何本も刺さった竜の姿がある。

 なんとか討伐することが出来たのかと、ホッとすることになった。


「姉上」

「何?」


 ウィオレケは広場の壁の中に何かあると指差していた。

 近づいて行けば、氷の壁に宝箱のようなものがある。この中に最後の宝『飛行絨毯ヴォル・タペス』があるのではと、推測をする。


「でもこの壁、火竜の炎でも溶けなかったような」

「そういえば」


 リンゼイは魔術で炎を作り出し、壁に向かって放つ。だが、特別な術式で作られている氷の壁は溶けなかった。


『あ、やっぱり』

「どうするのよ、これ」


 ウィオレケはナイフを取り出して、壁に打ち付ける。

 怪植物モンス・フィトも枝の先に鋭い葉を生やし、壁に向かってコツコツと打撃を与える。


「駄目か」

『コッチモ、駄目ダッタヨ~~』


 ナイフや怪植物モンス・フィトの葉は表面に傷を付けることすらなかった。

 体の調子が元に戻ったクレメンテが氷の壁に触れる。


「……え?」

「嘘!」

『ヒエッ!』


 不思議なことに、クレメンテの触れた部分からじわじわと氷が溶けていく。

 溶かした本人が一番驚き、慌てて手のひらを見れば、真っ赤な呪文が浮かび上がっていた。

 文字が浮き出ているのは左手だけである。


『クレメンテのそれって魔法マギアの呪文じゃない!?』

「な、なんですって!?」


 早速、新たな火竜の力が発覚する。

 『炎の左手』、不要とするもの全て焼き尽くす魔法の手。


『クレメンテが要らないと思った物だけ焼いちゃうみたいだね』

「そ、そんな! なんという恐ろしいものを!」


 うっかり必要なものを燃やしてしまったらと不安になるクレメンテ。


『大丈夫、大丈夫』


 リリットはふわりと飛んで、クレメンテの左手に降り立った。


「!?」

『ね、平気でしょう?』


 リリットが手のひらに乗っても、呪文が発動することはなかった。念じてみても炎が生まれるはずだと言う。


 手のひらに炎が浮かす様子を想像すれば、薄い色の炎がぼんやりと浮かんできた。


 炎を壁に当てれば、溶けていって宝箱まで辿り着く。


 宝箱の中に入っていたのは、想像通り『飛行絨毯ヴォル・タペス』であった。


 リリットの『鑑定』で間違いない品だと分かった刹那、背後から手を叩く音が聞こえた。


 振り向けば、深く頭巾を被った人物が、祝福をするかのように惜しみない拍手を送っているところであった。


 リンゼイは忌々しいと言わんばかりの声色で呟く。


「シフォン・イズルーン……!」


 各国の宝を盗み出し、謎に包まれた迷宮を作り出した主を睨み付けていた。



アイテム図鑑


火竜の血


ただ人が触れたら、劫火に焼き尽くされるような状態となる。

白竜の加護があるクレメンテは、その血を体内に受け入れた。

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