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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第一章 新たなる一歩
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十一話

 帰宅後、リンゼイの竜は中庭の噴水広場に置いて貰うことに決めた。

 屋敷の者達は初めて見る竜の姿にひたすら驚きの顔を見せる。

 竜についての説明を済ませたリンゼイは、この中に法律に詳しい者はいないかと訊ねる。


「わたくしが」

「!」


 挙手をしたのはソウル・リシュテッドという、調理場を担当する中年の使用人である。

 リンゼイは城の中などで見覚えのある、元役職者と思わしき人物と本格的に出くわしたことになったが、相手が初対面のような態度を示すので、気付かない振りをした。

 ここの使用人たちを注意深く探れば、次から次へと見てはいけないもの・聞いてはいけないことなどが発覚しそうだと考える。


 動揺は笑顔の下に押し隠してから、問いかけた。


「ちょっと聞きたいんだけど、この国は竜の子供を見つけたら、どうするとかの決まりはあるの?」

「ございません。現在、竜を扱う法律と言えば、緑色翼竜についての討伐についてのみです」

「そう。私もこの国に来た時はひと通り読んだけど、それしか覚えていなかったから、間違いはなかったのね」

「はい」


 セレディンティア王国には狂暴な竜の魔物が生息している。リンゼイが従える竜のような知性もなく、ただ暴れるだけの目的で人里に下りて来ては甚大な被害を及ぼすだけの迷惑極まりない生き物だった。


「そう。もう下がっていいから。教えてくれてありがとう」

「お役に立てて幸いでございます」


 白衣の調理人は頭を下げてから自らの持ち場へと帰って行く。残りの者達も続いた。


「クレメンテ」

「はい」

「そういうことで、あの銀竜はうちで貰うことにしたから」

「はい」


 決まったことを報告しながら、リンゼイは本題へと移る。


「貴重な種族だから、他言無用で」

「わかりました」

「そのうち、あの子と契約するから」

「はい」

「あなたが」

「え!?」


 素材集めなどをするに当たって、クレメンテも竜を所持していた方が、効率がいいとリンゼイは言う

 竜というのは、基本的には主人以外は背中に乗せない。

 メレンゲも、リンゼイが居なければクレメンテを背に乗せないだろうと、竜の性質を教える。


「契約というのは?」

「自分の血を舐めさせるだけ」


 半年もすれば背中に騎乗出来る大きさになって、一年も経てば成体となる。

 幸いにも、子育てはリンゼイの竜がやってくれるという。


「私の家は七歳の誕生日に竜の卵が贈られるんだけど、子育てとかも自分でしなければならなかったんだよねえ」


 竜の食糧である湖水の確保に、一日一回の鱗磨き、飛翔訓練、人語を教えることなど。


「リンゼイさんはメレンゲさんの主人であり、お母さんでもあるのですね」

「まあね」


 クレメンテに竜についての生態や気質、竜と生きることについてなどを事細かに教える。

 とりあえず、数日は人がいる環境に慣れさせる必要があることを告げた。


「名前を決めないと」

「そうですね」

「あなたが」

「私が!?」

「主人でしょう?」

「……」


 クレメンテはちらりと銀竜を見る。

 銀竜の子は草むら上でコロコロと転がっていた。


 リンゼイが近づく。銀竜は顔を上げて『クエ~』と鳴いた。

 まるで警戒心のない竜に、どうしたものかとため息を吐くリンゼイ。


「この子の両親は、どこに行ったのか」


 このように子供の竜が単独でうろついていることなどありえないのだ。


 メレンゲが高い声で鳴く。すると、草むらで遊んでいた子竜が近づいて行った。


「あれは?」

「食事の時間みたい」

「?」


 メレンゲは噴水の水を飲んでから、子竜に口移しで飲ませている。

 子供の竜は魔力を多く含む湖水を飲んで生きていけない。魔力の濃度が高過ぎて腹を下してしまうからだ。

 幼いうちは母親が自身の魔力を薄めた水を口移しで与える。今、メレンゲが子竜にしている様に。


「すごいね。メレンゲに教えたわけじゃないのに」

「母性本能でしょうか?」

「そうかもね」


 リンゼイもメレンゲを育てる時に魔力の濃度を薄めた竜の湖水を与えたことを思い出した。

 当然ながら竜と人では口移しで食事をさせることは不可能なので、竜専用の哺水瓶を使って食事を与えていたのだ。

 メレンゲは子供の時にして貰ったことを覚えていて、それと同じ行為を子竜にしているのだと思うと、リンゼイも嬉しくなる。


 子竜はよほど空腹だったからか、何度も水を欲しがった。

 偶然見つけることが出来て、リンゼイとクレメンテは良かったと心から思う。


「それにしても、あの子の親はどこに行ったのか」

「育児放棄みたいなものでしょうか?」

「でしょうね。湖に置いて行ったことから、その可能性が高いかも」

「……」


 リンゼイはリリットを呼んで『鑑定』を頼む。


『なにを調べればいいの?』

「生後何日かと、性別と、父親と母親の情報、あと特殊能力とかあったら教えて」

『了解~』


 リリットは目を見開き、『鑑定』の魔眼を発動させる。


 銀竜:?

 性別:雄

 五日前に卵から孵る。

 両親:血のつながった母親、父親の存在は擦り込まれていない。

 特殊能力:?


『って、ところかな?』

「信じられない。生まれた時から一人だなんて。今日までどうやって生きて来たのか……」

『多分、卵の裏に付いているものを舐めて凌いでいたんだろうねえ』

「……」


 リンゼイは胸を締め付けられるような気持ちで銀竜を見眺めていた。


「ねえ、名前、決まった?」


 クレメンテを振り返り、問いかける。


「プラタ、という名にしようと」

「ふうん。異国語で銀、ねえ。まあ、単純と言うか」

「やはり、ご存じでしたか」

「ご存じでした」


 クレメンテの母親の祖国語だという。

 リンゼイはメレンゲに子竜の名前が決まったことを報告に行った。プラタにもよく言い聞かせる。


「あなたの名前はプラタ、プラター、プラタちゃん。覚えてね!」


 プラタはまるで返事をするかのように『クエ!』と短く鳴く。


「あと、このおじさんがご主人様になるから!」

「……クレメンテと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」

「あなた、自分の竜にも敬語を使うの?」

「あ、はい」

「変なの」


 それは始まったことではないかと呟き、リンゼイはメレンゲにプラタの世話を頼んでからくるりと踵を返して屋敷へと戻って行く。


 その場に残っていたリリットはポンポンとクレメンテの肩を叩いてから言った。


『いろいろ頑張れ、おじさん』

「……」


 妖精もお腹が空いたと言ってその場から立ち去る。


 二頭の竜を前に、クレメンテはそっと囁くように呟いた。


「私は、おじさんに見えるのでしょうか?」


 メレンゲは優しい目でクレメンテを見ながら、短く低い声で鳴いた。

 竜の言葉はわからなかったが、なんだか励ましてくれるような気がしたのでお礼を言ってから家に帰ることにした。


 ◇◇◇


 リンゼイの一日は、侍女に起こされることから始まる。

 エリージュが選んできたドレスをどうかと聞かれ、首を縦に振るだけの簡単な確認を終えた後、身支度にかかる。

 今日のドレスは生成り色のドレスに銀糸で花柄模様が刺されたもの。

 採取をするので腰に鞄をつけたいと言っていたので、服装に合う女性らしいベルトなどが準備されていた。


 リンゼイは鞄の中に薬草箱と道具箱を仕舞う。


 朝食を済ませれば、素材集めに出かける。

 本日はライチーの実を採りにセレディンティア王国の南部にある森へ行く予定を立てていた。

 クレメンテは鳥の餌場を作るためにプラタとお留守番と決めていた。


 しかしながら、予想外の展開になる。


「え!? プラタを連れて行くの!?」


 メレンゲは採集にプラタを連れて行きたいと主張していた。


「南部まで片道二時間も掛かるのに、その間ずっと銜えて行くわけ!?」


 聞けば、そうだと答えるメレンゲ。


「そんなの、プラタに負担が掛かるから絶対に駄目!」


 食事の世話などはクレメンテに任せてあると言っても、プラタを鼻先で近くに引きよせ、切ない鳴き声を上げるばかりであった。


 竜が本能的に持っている強い母性本能を忘れていたと、リンゼイは頭を抱え込む。


「もう、いい!!」


 私と銀竜、どちらが大事なの!? と言う言葉はなんとか飲み込んでから宣言をする。


「メレンゲとプラタとクレメンテは、今日は仲良くお留守番!!」

「え!?」

「リリットだけついて来て!」

『了解~』


 リリットはリンゼイの鞄の中に体を滑り込ませる。


「……あの、リンゼイさん。どうやって、南の森まで行くのですか?」

「空を飛んで行くしかないでしょう?」

「?」


 リンゼイは腰に巻いているベルトに着けていた鞄から道具箱を取り出した。箱の中に手を突っ込み、目的の品を掴んで地面に放り出す。


「これは?」

「移動用の板」


 地面に放り出されたものは細長い板。呪文のようなものが彫られている。


「もしかして、これに乗って、空を飛ぶのでしょうか?」

「そうだけど」

「大丈夫なのですか? その、危険とか」

「平気」


 だが、空中で竜の結界がないので、リンゼイは魔術師の外套を持ってくるように、近くに居た使用人にお願いをする。


「子供の時にね、空を飛んでみたくって作ったんだけどね。さすがに小さいような気がする。でも、ま、いいか」


 リンゼイが竜を貰う前に作った魔道具で、乗るのは十何年振りだと言っていた。


「なんというか、童話のように箒に乗ったりはしないのですね」

「当たり前じゃない。普通に座っているだけでもキツイのに、棒に長時間跨ったりしたら痛いでしょう?」

「……おっしゃる通りで」


 箒に跨る童話の魔女的なリンゼイも見たい気がしていたが、口にすれば怒られそうなので黙っておくことにした。


「そんなわけだから、行って来るわ」

「……はい。どうか、お気を付けて」

「わかってる」


 リンゼイはクレメンテに少しだけ離れるように言ってから板の上に立ち、呪文を唱える。

 周囲に魔法陣が浮かび上がり、風が舞い上がった。


 ついでに、綺麗な全円に広がるドレスのスカートもふわりと風の力でめくれ上がり、リンゼイの白い太ももを露わにする。


「――!?」


 魔法陣から吹き上げる風は更に強くなった。

 その時になってリンゼイは己の状態に気が付く。


 驚いた顔をするクレメンテと目が合ったリンゼイは、スカートを押さえながら叫び声を上げた。


 クレメンテに文句を言うのはなにか違う気がして、赤面した状態で空に舞い上がる。


 メレンゲとプラタは飛んで行ったリンゼイを視線で見送っていたが、クレメンテは地面に顔を向けて、いろいろと見なかった振りをしていた。


アイテム図鑑


飛行板


空を飛べる。あと、パンツ丸見え。

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