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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第八章 続く、迷宮探索
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百六話

 地下へ続く階段を降りて行けば、毎度お馴染みの扉の前に辿り着く。


『あれだよね、どうせ次も訳ありな人が居て、なし崩しに国宝を持って来ちゃったとか』


 五層目ともなれば、慣れたものとなる。

 扉の上には看板があった。


 ――ここより先は『海賊の宴会ゼーロイバ・バンケット


「嫌な予感しかしない」

「ですね」

『なんか、やっと盗難事件っぽくなったかも』


 宴会ということは、可能性があるのは『酒の魔法瓶アルコホル・テルモ』という、酒が無限に出てくる宝物である。


「絶対に行きたくない!!」

「海賊の元へ自ら進んで行けと言われても、困ってしまいます」

『さて、ウィオレケの鞄の中に入ろうかな』

「メルヴを連れて来なくって良かった」


 クレメンテは一歩前に出て扉の前に立ち、深呼吸をする。

 優柔不断のように見えるが、腹を括るのは驚くほど早い男である。

 覚悟は出来たので、背後を振り返った。

 その後、姉弟は意外な発言を聞くことになる。


「リンゼイさんとウィオレケさんは、ここに残っていて下さい」

「え?」

「義兄上、どうして?」

『あれ、わたしは行く方針で?』

「いえ、リリットさんもみなさんと一緒に居て下さればと」


 いきなりどうしてそんなことを言い出したのかと聞けば、この宝集めはリンゼイとの結婚を認めて貰う為に始めたことで、一人で達成すべきことなのではないかと思ったからだと答える。


「初めから、一人で行くべきでした。みなさんの好意に甘えてしまった自分が恥ずかしいです」

「そんなの……」


 リンゼイは本気で行きたくないと言った訳ではない。それに、今回の件、国への帰還命令に従うつもりはなかった。よって、宝探しは自分の為でもあるのだ。


「では、行ってきますので」

「ちょっと待って」

「!」


 リンゼイはクレメンテの腕にすがる。

 既に扉は開かれていた。先の風景は視えないが、薄暗い。風の音がびゅうびゅうと聞こえるだけで不気味であった。


「私も行くから!」

「え?」


 リンゼイの言葉と行動にクレメンテの頭の中は真っ白になる。

 上目遣いでいいかと聞かれたら、頷くしかない。


「ねえ、ウィオレケ、今回は二人で行って来る」

「姉上、それは……」

「今回だけ、お願い」

「……」


 扉の向こうの風はどんどん強くなっているように見えた。雨も混ざっている。

 次なる相手は海賊。荒れくれもの達の一団との交渉になる。

 天候の悪い時の戦闘経験もなければ、人間相手に戦ったこともない。

 このまま行けば、足手まといになる可能性もあるとウィオレケは思った。


「……分かった」


 渋々と言われたことを受け入れるウィオレケ。


「姉上も、義兄上も、気をつけて」

「ありがとうございます」

「心配しないで、大丈夫だから」


 リンゼイは不安げな表情を浮かべるウィオレケの体をぎゅっと抱きしめる。

 それから弟の鞄に手を伸ばし、リリットの体を掴んで取り出した。


『ちょ!!』


 手足をばたつかせて行きたくないと主張していたが、帰ったらケーキを好きなだけ買ってあげると言ったら大人しくなった。

 リンゼイは自らの鞄の中に妖精を詰め込む。


 ウィオレケはクライナの家で待機をすることになる。


 気が付けば、扉の向こうは嵐となっていた。強い雨と風がごうごうと音を立てながら吹き荒れていた。


 クレメンテは手を差し出し、リンゼイはその手をぎゅっと握りしめた。


「行ってきます」と言ってから足を踏み込めば、二人の姿は扉の向こうへと吸い込まれて行った。


 ◇◇◇


 横なぎに吹く雨が混じった強い風に、雷の轟音と閃光が暗い夜空を割るように一瞬だけ現れる。白波が立つ黒い海、グラグラと揺れる不安定な足元、場の空気は不穏なものに満ち溢れていた。


 降り立った場所は今までの中で一番の最低最悪な場所である。


 彼らは大きな船の上に立っていた。

 海が時化しけているので、ぐらりと揺れるたびに跳ね上がった海の水が激しく打ち付けてくるというなんとも言えない状況にある。


「きゃあ!」


 リンゼイの声にすぐさまクレメンテは反応し、体を支える。

 大丈夫かと聞けば返事はすぐ聞こえてきたが、弱弱しいものであった。

 ウィオレケを連れて来なくて本当に良かったと、リンゼイの判断に心から感謝をすることになる。

 鞄の中に身を隠しているリリットにも大丈夫かと声を掛けた。

 こちらも平気だと、はっきりとした返事が聞こえて来たので安堵する。


 夫婦が立っているのは船室の上。

 甲板では怒号が行き交っていた。なんとか転覆を逃れようと、船員たちが帆を畳んでいるところである。

 船員は三十名ほど。ひと際大きな体を持つ男が中心になって命令を出している。見た目は海賊のようであるとしか言いようがない。顔は髭だらけであったので、正確な年齢は分からなかった。

 差し迫った状況下であったが、男は的確な指示を出していた。

 慌てている暇はない。早く帆を畳まなければ風に煽られて転覆をしてしまうのだ。


 バキリと、大きな音を立てて折れたのは帆を支える柱の一つ。バランスを崩した船の揺れは強くなった。


「――あ!!」


 大きな波が前方から襲ってきた。

 クレメンテは帆柱の一つをしっかりと掴み、空いている腕でリンゼイをしっかりと抱きしめた。


 甲板に居る船員たちは絶望からか恐怖と懇願と諦めと、様々な叫び声を上げる。


 眼前に迫った波は一番高い帆を覆うような大きなものであった。


 もう駄目だと思い、ぎゅっと目を閉じる。

 先ほどまで勇ましく叫んでいた男でさえも、呆然とした表情で大波を見上げていた。


 ――終わった。


 誰もが同じようなことを思っていたが、ある違和感を覚える。


 いつまで経っても前方からの衝撃はやって来ないし、なんだか体が温かい。


 体がポカポカしており、ここは天国かと船員の一人が呟く。

 近くに居た物が、悪事の限りを尽くしていた自分達が天国なんかに行ける訳がないと突っ込んだ。その通りだと同意する一同。

 ポカポカとしていると思っていたが、だんだんと熱くなる一方で、この時になって異変に気付き閉じていた瞼を開いた。


 船員達は驚きの声をあげる。


「――な、なんだありゃ!?」


 船の前方を覆うように、巨大な火柱がいくつも上がっていたのだ。

 大きな波は船に到達する前に消えていく。


 背後から眩い光を感じて振り返れば、巨大な魔法陣が空中に浮き上がり、その後ろに誰か立っていることに気付く。


「だ、誰だ!?」


 船長の顔を見たが、彼ら同様にぽかんとした表情でいた。


「お、お頭の知り合いじゃねえの?」

「違うみたいだ」


 大きな波が上がる度に炎の火柱が壁のように立ちはだかって、船を守ってくれた。

 我に返った大男が再び船員達に指示を出す。


 夜明けになれば嵐を過ぎ去って穏やかな海になっていた。


 ◇◇◇


 この船の名はレヴィリンガー号。

 海を行き交う商船を襲って略奪を働き、各国の法を掻い潜るようにしながら生きる海の賊である。


「あんた達はなにもんなんだ?」


 船の状態が落ち着いた後で、荒くれ者達を纏める海賊船の船長であるレオンは謎の二人組に声を掛けた。

 一人は時代錯誤な全身鎧を纏い、一人は角の生えた外套を纏っている。見るからに怪しい者達であった。

 二人共どこを見ているのか分からない。ただ、黙ったままその場に立つばかりである。


「おい、大丈夫か?」


 返事はない。

 次なる質問を投げかけてみる。


「一体、どこから来た?」


 声を掛けても微動だにしない二人を見ながら、言葉が通じていないのかと思いながら頬を掻く。


 変わった者達であったが、敵対心のようなものはなかった。

 それどころか、彼らのお蔭で転覆をま逃れたのである。


「まあ、一応礼を言っておく。助かった」


 一応、命の恩人として迎える為に、食事を準備するように部下に指示を出した。

 ひと際大きな声で問いかけてみた。


「おい、言葉は分かるか~!?」

「――あ、はい。すみません」


 全身鎧男の方が反応を示した。


 事情を聞けば、転移陣の移動先がここに繋がっていたのだと話す。

 不思議なことはなんでも魔法のせいにする海賊はその説明で納得をしてしまった。


「あの、お願いがあるのですが」

「なんだ?」

「お風呂とか、ないですねえ」

「ねえな」

「やっぱり」


 船旅では水は貴重なもの。風呂になんか使うために積んでいる訳がなかった。

 そう言えば、水は自分達で確保出来るので、体を洗えるような場所を貸してくれと申し出て来た。


アイテム図鑑


海賊船・レヴィリンガー号


かつてはとある国の軍艦だった立派な船。

帆を張って風の力で走る風帆船である。


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