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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第八章 続く、迷宮探索
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百四話

 リンゼイは派手な雰囲気の美女であったが、聖域の乙女は清楚な美女である。

 突然礼拝堂に入って来た一行を見て、始めは驚いた顔を見せていたが、次第に困ったような表情になる。

 その儚げな姿は聖なる乙女としか表現出来ない。

 純白の『一角馬の毛皮ウニコール・フリュール』は清らかさの象徴のように見えた。

 下には踝まで覆う法服を纏っている。首元から手先、足元まで全身真っ白で、一切の露出がない。


 黒い外套を纏うリンゼイと白い法衣を纏う聖域の乙女は対称的な見た目であった。

 二人の美女を見比べたリリットは、突然語り始める。


『――世の男性の多くは、清楚系で大人しそうな女性を結婚相手に望むと言われていて』

「!?」


 リリットの言葉を聞いたリンゼイは、ハッとなってクレメンテを見る。

 だが、兜を装着していたので、どんな目で聖域の聖女を見ているか確認することが出来なかった。


『一方で、派手系の美女は周囲に自慢をする目的で付き合いたいとは思うけれど、結婚はしたくないと』

「!?」


 リンゼイは近くに居たウィオレケに周囲に聞こえないように質問をする。


「ねえ、私ってどっちなの?」

「何が?」

「清楚系と派手系」

「……姉上、清楚系か派手系か聞く前に、自分が美女って自覚しているんだね。すごい自信だ」

「だ、だって、エリージュが私のことを美人って言っていたもの」

「……」


 とりあえず、自分の容姿に自信過剰な件については後で話し合うとして、ウィオレケは姉の顔をまじまじと見る。

 身内なので美人かどうかはよく分からない。

 だが、濃い紫色の髪につり気味の黒目、くるりと上を向いた長い睫毛に目鼻立ちがくっきりとしているリンゼイは清楚な顔立ちと言えないことだけは分かった。


「多分、派手系?」

「!」


 まさか!? と言わんばかりの表情になるリンゼイ。今まで自分の顔をどういう風に思っていたのかと質問したくなる。

 若干涙目になっていたのを気の毒に思ったウィオレケは、義兄はリンゼイの顔が好きな訳じゃないということを伝えた。

 弟の言葉にホッとしたのも束の間、リリットがまたしても要らぬ情報を提供する。


『ちなみに、派手系美女の結婚年齢は、清楚系よりも高い傾向があると』

「その情報、今必要!?」

『ごめん、全く必要のない情報だわ』


 リンゼイはリリットの体を掴み、腰に着けた鞄の中に素早く収納した。


 聖域の乙女は憂いの表情を崩すことはなかった。

 リンゼイは話し掛けてみる。


「ねえ、あなた、どうしてここに?」


 ふるふると首を振る。口をパクパクと動かしてから、また首を横に振った。


「もしかして、喋れないの?」


 コクリと、一度だけ頷いていた。

 言っていることは分かるようなので、そのまま話を続けさせて貰う。


「あなたが来ているその法衣、『一角馬の毛皮ウニコール・フリュール』なんだけど、国の所有物だって、知ってた? 盗品だって法国が主張していて、盗んだ人を国際手配しているの」


 知らないでこの場に居たからか、聖域の乙女は悲痛な表情となる。


「それ、返してくれる?」

「!」


 ビクリと、乙女の体が揺れる。

 リンゼイは構わずにツカツカと近づいて行った。


「あ、リンゼイさん!」


 クレメンテも後に続く。ウィオレケは杖を取り出して、その場で相手を警戒していた。


 乙女の腕を掴もうと手を伸ばせば、するりと避けられてしまった。


「なんで避けるの!?」

『リンゼイの顔が怖かったからじゃない?』

「なんですって?」


 リンゼイが歩みを止めた隙に、聖域の乙女は距離を取るように駆けだした。


「あ、逃げた!」


 盗品と分かって尚、返却しないということは、相手は法衣の価値を分かっていて身に着けているということになる。

 一刻も早く取り返さなければと、リンゼイは後を追い駆けた。


 クレメンテと二手に分かれ、端に追い詰めた。

 割と全力で走っていたので、被っていた頭巾は外れてしまう。

 露わとなった顔は、完全に怯えていた。


「さあ、もう、逃げ場なんかないから!!」

「観念して下さい」


 罪のない娘を追い詰めている悪役面の男女二人組に見えたが、リリットは何も言わないでおいた。

 リンゼイはじりじりと近づいて行く。聖域の乙女は口元を両手で覆い、悲鳴を呑み込んだ。

 ほろりと美しい涙を流したが、容赦はしなかった。


 隙を見て一気に詰め寄り、手首を掴んで捻り上げてから背中に回し、壁に体を押し付けた。空いている方の腕を相手の首元にぐっと押し付ければ、身動きが取れなくなる。


「――ん?」


 聖域の乙女を拘束したリンゼイはある違和感を覚え、首を捻る。

 白い手袋に包まれている手が、女性の物にしては大きく、ごつごつしているような気がした。


「リ、リリット、ちょっと」

『ん、クレメンテじゃなくて?』

「いいからこっち来て」

『いいけど~』


 リンゼイの肩に止まったリリットは内緒の話かと声を潜める。


「いや、内緒話とかじゃ、ないから」

『?』

「この子の『鑑定』をして。調べてないでしょう?」

『そういえば、していなかったね』


 リリットは『鑑定』の力を使って相手の情報を読み取った。


 アレクシス・ジュドール

 年齢:十八歳

 職業:元聖女?

 特性:聖魔術師

 身長:百七十五

 体重:五十七 

 性別:男


  調べた情報を得たリリットは衝撃のあまり、あんぐりと開いた口が塞がらなくなっていた。リンゼイにどうかしたのかと声を掛けられて、我に返る。


『リンゼイ、この子、男の子だよお!!』

「やっぱり」


 その瞬間に「チッ」という舌打ちが聞こえた。拘束を振り解こうとするので、力負けをすると思ったリンゼイは手を離し、後方に跳んで距離を取る。


「どうかしましたか?」

「あいつ、男だったの!」

「まさか」


 聖域の乙女、改め、アレクシス・ジュドールはくるりと振り返って満面の笑みを浮かべた。

 美しい微笑みであったが、すぐに消え失せる。


「――その、まさかなんだよね」

「!」


 低い男の声で返事をする。

 目の前の人物は間違いなく男性であった。

 訳が分からないと、困惑する一同。事情を知る為に質問をしてみる。


「ねえ、聖女に憧れていたから、それを盗んだの?」

「違う」

『聖女の格好が似合うから、着てくれって頼まれたとか?』

「それも違う」

「聖女の替え玉をしていたとかですか?」

「全部違う」


 リンゼイとリリット、クレメンテと続けて外すので、アレクシスは不機嫌な顔になる。

 どうしたものかと顔を見合わせていれば、コツコツと、速足でウィオレケが近づいて来た。話はリリットの目耳を通じて把握していたから、説明は不要だと言う。


「この人は、多分、先代聖女だ」


 ウィオレケの言うことは正解だったのか、更に表情は険しいものとなった。


「ど、どういうことなの?」

「……すべては元老院が十年前にトチ狂ったせいだったんだよ」


 すっかりやさぐれた態度になった元聖女は、なげやり気味に語り始める。


 かつて、荒れすさんだ国だったムスタジュマールは、貧困に喘ぎ、都の民達のほとんどは流行り病に侵されて目も当てられないような時代が長く続いていた。

 そんな中で、ある年に高い魔力を持つ女の子供が生まれた。

 その子供は奇跡の力を有しており、病魔を退け、貧困に喘ぐ者に救いの手を伸べた。

 民達は、その者を『聖女』と呼び、感謝と信仰をするようになった。

 民の人気を独り占めする娘に目を付けた元老院は、その者を捕えて支配下に置いた。

 聖女が亡くなるまで何十年と、拘束を続け、利用していたのだ。

 聖女亡き後は魔力の高い子供を探し出し、聖女教育をして民達の信仰が国に傾くようにと誘導していた。


「そして、魔力を持つ者が少なくなった現代で、ついに聖女候補が尽きてしまったという訳」


 だが、諦めきれなかった元老院の者達は、魔力のある子供を辺境の地まで探し回り、ついに見つけた。


「まあ、それが十歳になる僕だった」


 麗しい子供は高い魔力を有していたが男だった。

 だが、他に適任が居ない。

 元老院はありえない判断を下す。


 男を女と偽って、聖女として育てるのだと。

 十歳にもなる少年に受け入れられるような事態ではなかった。

 だが、貧乏な家の生まれであった少年は、既に身を売られた後だったのだ。


 居場所が他にない少年アレクシスは聖女になることを受け入れるしかなかった。

 頼れる人も居ない、悲しいだけの人生だった。


「今頃、焦っているだろうね。自慢の法衣も無ければ、聖女も居ない」


 国には帰るつもりもないし、法衣も返さないとアレクシスははっきりと告げた。


アイテム図鑑


乙女の涙


色んな意味で偽物だった!

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