百二話
結果は全試合が終わった後、一時間の審議を経て発表となった。
最初に、全員に参加賞が配られる。
一つは過去の大会の魔物一覧や解体や調理について書かれた分厚い本。
もう一つは、なんでも切れる魔法の巨大包丁であった。
クレメンテ達は置き場所に困る本を六冊、包丁を六本貰うことになる。まとめて道具箱の中に収納した。
「では、『食材戦闘部門』の発表から!!」
『食材戦闘部門』は見事、巨大な軟泥状魔物を無傷に近い状態で討伐をしたチームに贈られた。
『リンゼイ達、駄目だったね』
「まあ、私達は魔物食材の専門家じゃないし」
『そうだった』
優勝者の点数は二十九点。納得の結果である。
次は『お料理王部門』。
魔物を美味しく調理するという、自分達の国ではありえない、めちゃくちゃな大会であった。魔物の捕獲に手間取り、解体に苦労して、調理にも時間がかかる。
魔物なんて、と思って食べてみたら思いの外美味しい。驚きの連続であった。
「優勝は、チーム美少年!!」
会場は盛り上がっていたが、参加者の中で喜んでいる者達は居なかった。
「ねえ、リリット、あの人、今、なんて言った?」
『チーム美少年』
「も、もしかして、優勝はウィオレケさん達なのでしょうか?」
「そんな馬鹿な」
反応がなかったので、もう一度結果が読み上げられる。
『お料理王部門』は巨大な軟泥状魔物を美しく調理した美少年率いる妖精チームが優勝だと。
『ほら、やっぱりウィオレケのことじゃん!!』
「すごいじゃない、ウィオレケ!」
「おめでとうございます、ウィオレケさん!」
「……あ、うん」
優勝した喜びよりも、まず「チーム美少年ってなんだよ」という疑問が頭の中に浮かぶ。
呆然としていたら、リリットに背中を押され、前に出ることに。
司会をしていた人物より、優勝の記念品である巨大な銀の匙を渡された。
ウィオレケの背丈よりも大きく、受け取った瞬間によろけてしまった。代わりに筋肉妖精が持ってくれる。
戻って来たウィオレケをリンゼイが抱き締める。
クレメンテも満面の笑みを見せていた。
「ウィオレケ、あなた、本当にすごいわ!」
「ええ、本当に!」
「いや、私だけの力ではない」
力持ちの筋肉妖精が居なかったら巨大な軟泥状魔物の下ごしらえは出来なかったし、リリットの呟きがなければゼリーを作ることも思いつかなかった。
皆が力を合わせて得た結果だと言う。
だが、姉や義兄が喜んでいるのを見て、ウィオレケも嬉しくなってしまった。
『いや~、なんか感動。あのアイスコレッタ家で、こんなに良い子が育つとは』
「それ、どういう意味?」
『ナ、ナンデモナイデス』
会場の中は祝福で包まれる。
その後、筋肉妖精は自らの世界に戻ると言う。ウィオレケは何かお礼をと言ったが、彼女らは『人の喜び』を生の糧とする存在なので、対価は十分に頂いたと言って消えていく。
夕食は美食王主催の晩餐会となる。
家族も誘って良いということなので、皆で参加出来ることにウィオレケはホッとしていた。
「あ、でもドレスがないじゃない」
『大丈夫だよ、リンゼイ。皆の礼服は道具箱に入れてあるから』
「いつの間に!?」
晩餐会は美食王の居城で開催される。
係りの者が移動魔法陣まで案内してくれたので、城までは一瞬であった。
男女別に部屋を振り分けられて、身支度を整える時間を与えられた。
リンゼイは風呂に入ってリリットの手を借りてドレスを着用し、化粧をする。
エリージュが準備してくれていたのは、露出は少ないが真っ赤という派手なドレスである。
『リンゼイってそういう色、似合うよねえ』
「……逆に薄い色は似合わないけどね!」
『確かに!』
髪の毛だけはきっちり結うことが出来ないので、リリットがその辺に居た侍女にお願いに行けば、綺麗に編み込んで纏める髪型に結んでくれた。
『うん、完璧美人な女王様!』
「ありがとう。女王様は余計だけど」
時計を見ればそろそろ晩餐会の時間となっていた。重たい鐘の音が鳴り響けば、扉が叩かれて、「そろそろお時間です」という女性召使いの声が掛かる。
廊下に出ればクレメンテやウィオレケも居た。彼らもしっかりエリージュが準備していた礼服を纏っている。
リンゼイは真っ先に弟に食いついた。
初めて見る礼装姿だったので、嬉しそうにしている。しきりにかっこいいと褒めていた。
そんな姉弟の様子を羨ましそうに眺めるクレメンテ。その様子に気付いたリリットは切なくなって声を掛けた。
『クレメンテもかっこいいよ』
「……ありがとうございます」
クレメンテはいつもの安眼鏡ではなく、銀縁の眼鏡を着用していた。前髪もきっちりと後ろに撫でつけて、一人前の紳士のような格好でいる。以前と違い、背筋もピンと伸びていた。
リンゼイはいつもの通り、絶世の残念美女である。
『あ、リンゼイ、今日の踵、特別に高いね』
「また一段とすごいものを用意してくれていたみたい」
『大丈夫?』
「……」
背の高いクレメンテと並んだ時にバランスよく見える為にエリージュが用意していたものである。
『クレメンテの腕を借りたら?』
リリットの言葉に目を泳がせるリンゼイ。
彼女は嫌だったらきちんと口に出す人物である。何も言わないということは、腕を借りたいということなのだ。
あいにく、クレメンテはウィオレケと会話をしていたので、二人のやりとりを聞いていない。なので、自分からお願いをしなければならないのだ。
リリットは背中をぐいぐいと押して応援をする。
「……あ、あの」
緊張の面持ちで、相手の袖を掴むリンゼイ。
一方で、リンゼイが珍しく接触してきたので、一体何事なのかと、クレメンテは目を丸くする。
「ど、どうかしましたか?」
「歩きにくいから、腕を貸して欲しいの」
「!」
呆然とした表情を見せるクレメンテを見て、リンゼイは「貸してください」と言い方を訂正した。
「す、すみませ、あ、いえ、どうぞ、ご自由になさってください!!」
「あ、ありがとう」
ぎこちない夫婦のやりとりを、リリットとウィオレケは生暖かい目で見守っていた。
召使いが会場まで案内するというので、優勝者であるウィオレケを先頭にして歩いて行く。
しばらく歩けば、広い食堂に辿り着く。
細長い机が五本あって、多くの人たちが腰掛けていた。
中心には、たくさんの食材に囲まれた豪奢な姿の中年男性が居る。
『あれが美食王?』
意外にも細身であった。
銀の髪を撫でつけており、鼻の下に生えたくるりと上を向いた髭が印象的である。王冠も被っており、いかにも国王といった風情でいる。
晩餐会に参加をしているのは、様々な人種であった。
耳の尖った異人、耳が狼に似ている獣人に、妖精族の姿もあった。
席が埋まれば、国王が杯を掲げて本日の『美食闘技会』の健闘を労った。乾杯をしてから、食事の時間となる。
振る舞われる食事は全てが美味であるとしか言いようがない。
リリットの分も人と同じ一人前の量が用意されていた。上機嫌で食べている。
晩餐会は会話を楽しむ場でもある。
『料理王部門』の優勝者であるウィオレケに皆が興味津々であった。
年の割に大人びた返答を見せるところにも会話をする相手の舌を巻くことになっている。
食事の中の会話が途切れた隙を見て、リンゼイはリリットに声に出さずに話し掛ける。
美食王の背後にある食材の中に、『竜の肉塊』があるかと聞いた。
『リンゼイ、あるよ』
(やっぱりね)
厳かな雰囲気の中、どうやって美食王に近づこうかと考えていれば、その機会はあっさりと訪れる。
美食王がウィオレケと話をしたいと言うのだ。
当然ながら、話が出来るのは本人だけである。
『わたしもついて行こ』
「お願い。無理はしなくていいと言っておいて」
『了解!』
リリットはウィオレケの肩に乗ってついていく。
美食王の前には会話をすることが許された者達の列が出来ている。
『緊張してる?』
「まあね」
ウィオレケ自身、王と名の付く者と話をするのは初めてであった。
なんとか『竜の肉塊』について聞きださなければならないという使命感も、緊張に繋がってしまう。
『無理はしなくていいって』
「分かった」
すぐに順番がやって来た。
美食王はウィオレケの作ったゼリーを褒め、王宮料理の一つに加えてもいいかと聞いて来る。
「はい、どうぞ、お使いになって下さい」
「感謝するぞ」
会話が途切れたので、『竜の肉塊』について聞こうとしたが、先に口を開いたのは美食王であった。
「どれ、お礼にお主の好きな食材を進呈しよう」
「!」
思いがけない提案に驚く。
すぐに『竜の肉塊』を希望する。
「『竜の肉塊』か。特に珍しい品でもないが?」
「え?」
「一時期流行していたであろう?」
「?」
美食王は近くに居た従者に目録を見せろと言う。
「ふむ。シフォン・イズルーンという男からの贈り物か。知らぬ名だな」
「!」
シフォン・イズルーン。
パラティエ公や元神官のクライナを迷宮に誘った人物の名である。
『竜の肉塊』はシフォン・イズルーンの手によって勝手に持ち込まれたということになる。
「まあ、いい。好きにするといい」
『竜の肉塊』に加えて、何か用事があったら訊ねて来ればいいと一通の手紙を渡してくる。中の便箋に文を綴って空に投げれば美食王の元まで届くと言う。
「あ、ありがとうございます」
「いいってことよ」
深く礼をして、美食王との面談は終わった。
『竜の肉塊』は従者から手渡された。両手で抱える程の、ずっしりと重い肉塊であった。すぐにリンゼイの道具箱の中に収納する。
『結局、ここの国の人は盗みには無関係だったって訳か~』
「ええ。不思議なお話ですね」
「……」
「ウィオレケ、どうかしたの?」
じっと手紙を眺めているウィオレケにリンゼイは声を掛ける。
「姉上、ここは――」
召使いについて行って、開かれた扉を抜けたら、そこは城の中ではなかった。
『え!?』
「ここは?」
「迷宮に戻って来た、の?」
見慣れた石畳の廊下に出てくる。先には、地下に続く階段があった。
礼装姿の一行は困惑の表情を浮かべる。
『実在の国に繋ぐなんて、なんなの?』
「魔術じゃ無理だから」
「竜や妖精の使う特別な力みたいなもの、という訳ですか?」
『多分ね』
荷物などは道具箱に入れてある。
一度、クライナの家に行って着替えなければならない。
「ウィオレケ?」
リンゼイはいまだに呆然としていた弟に声をかけた。
すると、ウィオレケは美食王から貰った手紙を皆に示して見せる。
『これは?』
「!」
リリットとリンゼイは目を見開く。
手紙には呪文が掛かれており、空に放てば目的地まで行くようになっていた。
それ自体は珍しいものでもない。
書かれていた宛先がとんでもない場所だったのだ。
「レジェンティーナの天空都市!?」
「そう」
『嘘!?』
「レジェンティーナの天空都市? なんですか、それは?」
ウィオレケは震える声で説明をする。
レジェンティーナの空中都市とは、三千年以上も前に海に沈んだと言われている街だった。
アイテム図鑑
美食王への手紙
今は亡き国へ届くようになっている手紙。
レジェンティーナの空中都市。
その国は何故海に沈んでしまったのか、その歴史は謎に包まれている。




