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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第七章 お宝と迷宮と……
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百話

 解体された夥し鳥ジガンテ・タイルは胸肉、ささみ、もも肉、手羽に分けられていた。肝などは諸事情によって食べられないので処分となる。

 巨大な魔物を使った料理は、調理用具まで大きなものが用意されていた。巨大ボウルにまな板、鍋、木べらなど。調味料も大きな袋に入れられて、肩に担いだ状態で持ち込まれた。


 気合の掛け声の後、料理人達は調理に取り掛かる。


 胸肉ともも肉をぶつ切りにしていく。魔物サイズなので、切る作業だけでも大変な工程であった。

 他の料理人は巨大ボウルの中に様々な種類の粉を何袋と入れていく。

 先ほど解説をしていた男は、料理についての説明もしてくれた。


「現在、ボウルの中に作っているのはからあげ粉のようですね。から揚げとは、小魚や肉などに粉を振って揚げる食べ物のことです。こちらの大陸では珍しい食べ物ではないでしょうか?」


 からあげ粉の中身は乾燥香味野菜に小麦粉、粉末香辛料が数種類、塩胡椒。

 材料を入れ終わったら、料理人の身長よりも大きなへらで混ぜる。


 夥し鳥ジガンテ・タイルの肉を切る料理人の手は止まらない。

 勢いよく切った肉はまな板の上で跳ねてボウルの中へと入っていく。

 全て切り終えたら、粉末の香草と擦った香味野菜に酒を入れたものを混ぜて揉みこんでいく。それを、からあげ粉の中に投下していた。

 綺麗にからあげ粉がまぶされたもも肉は、巨大な鍋に入った油の中で揚げることになる。

 しっかり熱された鍋の中に粉を振った肉を入れたら、ぱちぱちと油が跳ねる音が聞こえてきた。

 だんだんと、香ばしい匂いが会場内に漂ってくる。観客は生唾を呑み込みながら、調理をする様子を眺めていた。


「――料理が完成したようです!!」


 出来上がったのは、からりと揚がった夥し鳥ジガンテ・タイル肉のから揚げ。

 大皿の上に盛り付けられた料理は、とても魔物料理とは思えない美味しそうな見た目となっている。


「なんだか美味しそうですね」

「意外なことにね」


 そして、驚いたことに作った料理は観客にも振る舞われると言う。


「だから、みなさんあんなに盛り上がっていたのですね」

「でも、魔物肉料理、だし……」


 どうやって料理を配るのかとぼんやりと料理と会場の様子を見ていれば、術師のような男が出て来て、詠唱を始める。

 巨大な魔法陣が浮かび上がり、中から妖精達が出て来た。


「え?」

「はあ!?」


 妖精達は紙にから揚げを包んでから、次々と観客に運んでいく。

 クレメンテやリンゼイの元にも、から揚げが運ばれてきた。


「あ、ありがとうございます」

「……どうも」


 大きさは手のひらほどで、から揚げ一個運ぶのが精一杯という感じの小さな妖精である。

 受け取ってからお礼を言えば、にっこりと笑って去って行った。


 使役妖精の登場に唖然としている間に、周囲の客たちはから揚げを食べ始めていた。

 揚げたてなので、手の中の料理は熱い。

 解説していた男は揚げたてが美味しいと言っていた。


「やっぱり抵抗がありますね」

「まあね」


 皆、美味しい美味しいと言いながら、魔物肉を食べている。


「いただきましょうか」

「そうね」


 二人は勇気を出してから揚げに噛り付く。


「?」

「!」


 魔物肉を使って作ったから揚げは、意外なことに驚く程美味しかった。

 味は濃い目。しっかりと味付けしてある。だが、不思議としつこさはない。

 表面はカリッと揚げられており、中の肉は柔らかい。とても香ばしくて、噛めば肉汁がじゅわっと溢れてくる。


 自分達が倒した魔物がこんなに美味しくなっているなんて、信じられないとクレメンテとリンゼイは顔を見合わせる。


「すごいですね、これ」

「本当。普通に美味しい」


 キンと冷えたお酒が欲しくなる味付けであった。

 から揚げは紙に包まれていたが、既に油が染み込んだ状態になっている。ハンカチで手に付いた油を拭いつつ、審査方法についての話を聞いた。

 味に満足出来たら、から揚げが包んであった紙を会場に投げつけるというものらしい。


 クレメンテとリンゼイはから揚げを包んでいた紙を会場に投げた。

 『お料理王部門』の結果は表彰式の時に発表されるという。


 ◇◇◇


 一方で、『お料理王部門』に参加をするウィオレケ達は魔物料理に頭を悩ませていた。


「魔物って、いったいどういう風に調理するんだよ!」

『確かに……』


 途中で控室に料理が運ばれる。

 夥し鳥ジガンテ・タイルで作ったから揚げだと言っていた。


 筋肉妖精が係の者から貰って来たが、ウィオレケはいらないと首を振った。

 肉を揚げたものにしか見えないが、材料は魔物。

 ウィオレケの顔は引き攣る。


『わ、ウィオレケ、これ、すんごい美味しいよ!!』

「……いい」

『魔物だから?』

「……」

『繊細だねえ』


 筋肉妖精マッスル・フェアリは肉を食べないので、結局リリットが全部食べることになった。


『さっきのから揚げ、夥し鳥ジガンテ・タイルを調理したやつだったんだって』

「あんなに大きな鳥を?」

『しかも解体から』

「な、なんだって!?」


 あんな魔物、調理するなんて無理だと頭を抱える。

 料理については趣味で行う程度なのに、魔物を捌いて調理するなんて無謀過ぎると悲観的な気分に。


『ウィオレケってさ』

「何?」

『リンゼイが居ないと弱気になるよね?』

「!」


 痛いところを突かれる。


 リリットの言う通り、姉の前ではついついしっかり者を演じてしまうのだ。

 リンゼイから離れたら、彼も十三歳の少年と変わらない状態になっていた。


『まあ、今回はみんなで頑張りましょうよ』

「……うん」


 調味料や包丁などの調理道具は貸し出される。

 解体は屈強な体を持つ妖精おっさん達に任せればいい。

 不安な顔をするウィオレケを筋肉妖精マッスル・フェアリ達は優しく励ましていた。


『元気を出して』

『わたくし達も支えますわ』

「あ、ありがとう」


 それから、落ち着きを取り戻したウィオレケは話し合いを始める。

 魔物の系統から、どんな料理を作ろうかと考えていた。


「鳥だったら今日作った鳥の照り焼きとか」

『おお、いいですな!』


 そういえばとリリットは思い出す。そろそろお昼時なのではないかと。


「でも、食事って姉上の道具箱の中だろう?」

『リンゼイの道具箱、ウィオレケの鞄の中に入れてあるよ』

「いつの間に?」

『リンゼイ、寝台の上に忘れてたから』

「姉上……」


 とりあえず、食事でもして力を付けようとリリットは言う。


「姉上達はいいのか?」

『まあ、控室には軽食もあるから大丈夫じゃない?』

「そうだな」


 リリットがいいと言うので、食事にすることにした。

 筋肉妖精マッスル・フェアリにはベリージャムとクリームチーズを挟んだパンを渡す。

 ウィオレケは甘辛い味付けをした鳥肉を挟んだパンを食べることにした。


 筋肉妖精マッスル・フェアリの作った丸パンは美味しい。生地はもっちりしていて、ほのかな甘みもある。挟んである肉との相性も抜群であった。


『すっごく美味しいよ、これ!』

「そうだね」

『ねえ、ウィオレケと妖精で手を組んだら、なんだかすごいものが出来そうな気がしない?』

「……うん。なんとかなりそうな気がして来た」

『でしょう?』


 食事をしたことにより、ウィオレケの自信も若干回復しつつある。

 リリットは皿の上に肉挟みパンを置いて、どんどん食べるようにと勧めた。


 しばらく待機をしていれば、出番だと呼び出される。

 食材となる魔物との戦闘が終了したと告げられた。

 ウィオレケは恐る恐る、係りの者に食材は何かと聞いてみる。


「使用される食材は軟泥状魔物スライムですよ」

「え?」

『ナ、ナンダッテ?』


 解体やら何やらのことで頭が一杯になっていたが、まさかの食材を聞かされて想像していた手順が崩れていく。


 軟泥状魔物スライムとは、どろっとした半固体型の魔物であった。


アイテム図鑑


夥し鳥ジガンテ・タイルのから揚げ


皮はパリッ!肉汁ジュワッ!

お酒が欲しくなる一品。

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