九十九話
参考の為に他の者の戦いを見たいと思ったが、出番前は控室から出てはいけないので、大人しく過ごすしかなかった。
暇な時間は戦法について話し合う。
しばらく待てば、リンゼイとクレメンテの名が呼ばれた。
二人とも、「やりすぎないように」という極めてシンプルな戦い方を胸に刻みながら会場へと向かう。
案内された先は石で出来た二枚扉。
左右に待機していた兵士が開く。
会場となる建物は四階造りで、全体は半円形となっていた。梁で繋いである天井は吹き抜けで解放感がある。
指定された位置まで歩いて行けば、観客席にいた者達がワッと沸いた。すごい人の数だと、クレメンテとリンゼイは顔を見合わせる。
地面は雪が積もっている。戦闘を重ねた為に雪が踏み荒らされて、凍結している部分も多い。リンゼイは足元に気を付けるようにクレメンテに言う。
観客を盛り上げる為に、参加者の紹介が行われていた。
「この二人は初参加のようです! クルユゥイ地方から来た主従コンビ! 伝説の竜殺しの下僕系鎧男に、殺戮の神子とも呼ばれた最凶の魔術師!」
出身地や名前さえも、適当な情報が読み上げられていた。申し込みの時に書いた個人情報は綺麗に無視されている。
拡声魔術が使われており、男の声は会場中に響き渡っていた。
嘘で塗り固められた紹介にうんざりとするリンゼイ。クレメンテは困惑をしている。
夫婦の冷えた表情とは裏腹に、会場の盛り上がりは最高潮に達していた。
「それにしても」
「?」
客席の周囲には強力な防護壁がある。戦闘に巻きこまれない為の対策であるが、このような大規模な魔術を長時間展開していることに疑問を持った。
大抵、こういった大きい術式には綻びというものがあるが、客席に張ってあるものには見当たらなかった。
一体、何を核として運用しているのやらと訝しげな視線を周囲に向ける。
客席の前に張られた防護壁は現代の魔術では説明が出来ない完璧なものであった。
この場が既に不思議でいっぱいだったので、気にしないでおこうと、考えることを放棄した。
クレメンテにはなんでもないと言う。
そうこうしているうちに、適当な紹介が終わる。
クレメンテとリンゼイが入った出入り口の向かいの位置に、鉄格子で固められた扉があった。そこから、濃い魔物の気配が漂ってくる。
戦闘の開始が告げる鐘が鳴れば、重たい扉が開いていく。
薄暗い鉄格子の先に、真っ赤な目が浮かんだ。
クレメンテは剣を抜き、リンゼイは杖を構える。
のっそりと出て来たのは、巨大な鳥であった。
人里へやって来ては家畜を食べ、人を襲っていたという被害が読み上げられる。
「あれは、夥し鳥!?」
それは、世界一大きな鳥とも言われている魔物であった。
曲がった嘴は鋭く、真っ赤な目には狂気が滲み出ている。黒く尖った爪先は掴んだ獲物は放さないとまで言われていた。
茶色の羽は艶があり、十分に餌が与えられていたからかむっちりとしていた。
この魔物は体が大きすぎるが故に、空高く飛べない。背中に付いた二枚の羽は飾り物のように見えるが、羽ばたけば人が立っていられなくなる程の風を起こすことも出来るという。
夥し鳥が世界一の名を冠するのは体の大きさだけではない。世界一凶暴な鳥としても有名であった。
巨大な竜を見慣れているクレメンテとリンゼイは、そこまで魔物の大きさに恐怖を覚えることはなかった。
それでも憂いの表情を浮かべているのは、きちんと仕留められるかという不安からである。
先に動いたのは夥し鳥であった。
鋭い爪をクレメンテに向けながら、羽の力を使って跳び上がり、突進をしてくる。
動きは素早くはない。なので、寸前まで引きつけてから避けることにした。
夥し鳥は『カァ!』と甲高い鳴き声をあげる。
クレメンテが夥し鳥の気を引いている間に、リンゼイは呪文を唱えていた。
慣れない属性のものなので、詠唱にも時間がかかる。
多少苛つきながらも、術式を完成することが出来た。
――凍解け破るは果ての蔦泥梨、釁隙より芽生え、我が荼毒たる忌み敵を、掣肘せよ!
作り出した魔術式は相手を拘束する効果があるもの。
地面より氷を破って出て来た蔦のようなものが、夥し鳥の足元まで伸びて行った。
足元を拘束すれば二本目が出て来て、もう片方の足を絡めとる。
ジタバタと暴れていたが、動けば動くほど拘束が強くなるという仕様であった。
ついに身動きが取れなくなった夥し鳥は必死に羽ばたかせて抵抗を試みる。強力な風が舞い上がっていたが、残念なことに前方に攻撃対象が居なかった。
隙を見て、クレメンテは夥し鳥に接近をして、足元を斬りつけた。
均衡を崩したからか、体が大きく傾く。
地面に付した鳥の首元に刃を刺せば、周囲に血が飛び散った。
一度剣を抜いてから、再び首を力任せに斬り落とす。
そこで戦闘終了の鐘が鳴らされた。
再び歓声に包まれる。
以降は審査に移った。
四階席には三名の審査員が居た。クレメンテやリンゼイからは遠目なのでどういった者達なのかは見えない。
結果はすぐに発表された。
「先ほどの試合の結果を発表いたします!!」
食材状態(十点満点):七点 戦闘美(十点満点):八点 仕留め方(十点満点):九点
「合計、二十四点! 初参加ながら高い点数を弾き出しました。凶暴な魔物である夥し鳥を短時間で仕留めたことが高い評価に繋がったようです!」
ちなみに、十五点以下はその場で失格となるので、注意をしなければならない。
結果を聞けば、リンゼイ達は下がるように言われる。
その後、夥し鳥を食材として使った『お料理王部門』が始まるのだ。
次の出番まで時間があるので、クレメンテとリンゼイは試合を見ることにした。
購入をしたのは端の席ではあるが、四階席なので会場の全体を見ることが出来る。
飛び散っていた血は雪を削って綺麗にされ、調理台などが運ばれていった。
「あれ、本当にお料理になるんですかねえ」
「そうね。どこから見ても魔物の死骸にしか……」
巨大な鳥はとてもではないが食材には見えない。
一体どういう料理になるのかと、固唾を呑んで見守っていた。
しばらくすれば、『お料理王部門』が始まる。
出入り口から出て来たのは、料理人の白衣に身を包んだ屈強な四名の男達であった。
「あの方々は……」
「戦闘部門の人にしか見えないんだけど」
だが、彼らが筋肉質な理由はすぐに判明する。
開始の鐘と共に動き出す。
調理台の横に置いてあった長方形の大きな箱から出て来たのは、男の全身よりも大きな包丁であった。日の光に反射して、眩い輝きを放つ。男はぶんぶんと素振りをするように包丁を振っていた。
大きな食材を捌く為には、普通の料理人では腕が立たないのだ。
「なるほど。だから彼らは戦士のような体を持っているのですね」
「そうみたい」
一方で、残りの三名の料理人は夥し鳥の解体に取り掛かる。
まずは羽を毟ることから。
男達は「ふん!」「よし!」「せいや!」という謎の掛け声と共に、手で羽毛を抜いていく。背中回りが終われば、力を合わせてひっ繰り返して、背中の羽も綺麗に毟った。手羽に生えているものも、しっかりと抜く。
羽を毟り終えたら。男達の中の一人が杖を取り出した。そして、残った毛を魔術で作った火で炙っていく。羽焼きを終わった後は氷魔術で冷やしていた。
ここで、ようやく巨大包丁の出番となる。
首元から裂いていって、手が空いている者が食道を引っこ抜く。
次に、お腹を上に向けて、尻から切り目を入れて、腸を取り除く。
尻を切り落とし、背面から斬り進めてから腹を開いて、内臓などを外していった。
この時点にまで到達すれば、魔物は肉にしか見えない。ただし、見たこともない程大きな肉塊である。
巨大な魔物が解体される様子を、観客たちは静かに見守っていた。
これから調理に取り掛かるようで、血まみれのエプロンを新しいものに取り換えていた。
アイテム図鑑
夥し鳥の肉
美食家の間では一番おいしいとされる鳥肉として有名。
滅多に討伐されず、また、仕留めるのに時間が掛かれば不味くなってしまうので、本当に美味しいものが提供されるのは稀。




