この世界の感触
「この周りは草原なんだな」
そう、あたり一面草原なのだ。しっかり意識を集中してないと迷ってしまいそうだ。
「隣の、ペタの村まではここから西に歩いて半日ほどです。そう遠くはありませんが気をつけて行きましょう」
ルーフィアを先頭に四人が縦に並んで歩き、最後尾に俺がいる。まぁ用心棒だ、この四人を護るのが今の俺の仕事だ。
武器は今回は[毒牙のナイフ]にすることにした。様々な武器に慣れておきたいからだ。
「止まれ…敵がいる」
「えっ…!?」
ルーフィアたちには見えてないらしい。が、確かに、ここから数百メートル先に魔物の気配がした。
「さすがにまだ遠いか。少し近づいてみよう」
ちょっと歩くと、
スライム lv.1
ちゃんといたようだ。
「ミドリ様、あの距離で見えておられたのですか?」
「あぁ、まあな」
見えたというより気配を捉えた、といったほうが正しいのだが、言う必要はないだろう。
「それより戦闘だが、俺がいこうか?」
「はい。お願いします」
まぁ俺は用心棒だからな。戦わなきゃだめだよな。
まさか、即答で戦えと言ってくるとは思ってなかったが、いっか。
「レベルも1だし大したことはないだろ」
…ほんとに大したことはなかった。
近づいていくと体当たりを仕掛けてきたのだが、あまりに単調過ぎて避けるのが可哀想なくらい単純な体当たりをしてきた。
それに当たってあげるほど優しいことはなく、避けながら攻撃したら一撃で倒してしまった。
スライムが跡形もなく消え去ると地面に何か銅貨のようなものが二枚落ちていた。
「それはコルですね。さすがのミドリ様でもご存知でしょうが、これはお金です。銅貨一枚で1コル 銀貨一枚で100コル 金貨一枚で10000コルです。まあ、ご存知でしょうが」
「あ、あぁもちろん知ってるさ」
「ですが、スライムが2コルも落とすなんて珍しいですね」
「どういうことだ」
「はい。スライムは1コルしか落とさないと言われてます。まあ、一番弱い魔物ですからね。2コル落とすことはごくまれだと聞いていたのですが…」
俺には大いに心当たりがあるのだが、これは黙っておくべきだろう。
「やはり、ミドリ様には何か…」
ルーフィアが変な方向に思考を傾けているが、原因がバレるよりはましだ。ここは諦めよう。
「そんなことより、進まないか」
「…! そうですね、進みましょうか」
どうやらこちらの世界に戻せたようだ。一刻も早く次の村につきたい。あまり立ち止まりたくないのだ。
「ペタの村ってどんなところなんだ」
歩いたり戦闘したりしながら、俺はルーフィアに聞いてみた。
「また2コル落ちた…どうなってるんでしょう」
「おーい ルーフィアさーん」
「は、はい!? すみません。えぇっと…ペタの村についてですね?」
「ペタの村は村というよりちょっとした町ほどの大きさがあります。様々なお店がありますので、武器や防具、情報なんかを仕入れるのにはいいでしょう。
ミドリ様は、お一人なのですか?」
「ん? あぁ、そうだが」
「でしたらペタの村でパーティーを組んでみるのもいいでしょう。ペタの村ではいくつかの方法でパーティーを作ることができます」
ルーフィアが言うには、
1つは酒場などに行って誰かを雇う、という方法。人によってばらつきはあるがお金を払えば基本パーティーを組むことができる。言うなれば今の俺のような用心棒みたいなものらしい。
次は紹介場というところに行って人を紹介してもらう、という方法。自分以外にパーティーを組みたいと思っている人とで利害が一致すればパーティーを組むことができる。
ただ、以上2つは自分と同じ立場の相手なので色々といざこざが起きたりするらしい。
そして最後の1つが…
「…奴隷ねぇ」
そう、奴隷を買う、という方法である。あくまで自分の所有物となるので、一切のいざこざが起きることはない。この世界には奴隷税というものがあり、それを払いさえすれば所有に制限は無いようだ。ただ、パーティーの制限は最大で5人なので、パーティー用なら4人までしか買うことはできない。
(あんまりいい響きではないが、この世界では当たり前なんだろうな)
「オススメは奴隷を買うことなのですが、質がいい奴隷ほど高いのです。かなりのお金がないと買えないと思います」
「まあそうだろうな」
などと会話をしているうちに、周りの魔物が少し変化してきた。
「…! こいつは、初めての魔物だな」
「えっ!? どこです?どこにいるんです?」
こう言うのも無理はない。何故なら…
「下だ」
そう言うのと、そいつが飛び出てくるのはほぼ同時だった。
俺はサーベルを下に突き立てつつ左手にダガーをもって後ろへ飛んだ。どうやら、うまく先制攻撃できたようだ。
出てきたデカイアリ…のような奴の頭にサーベルが刺さっていた。
「こいつは、[人喰いあり]です。用心棒を雇っていない商人などは会ったら最後…らしいです」
「なるほど、この付近では一番強いんだろうな」
目を向けてみる
人喰いあり lv.5
そこらの魔物がレベル2や3なのに、いきなりレベル5か…
「レベル40近くの奴を1回相手にしてるから、たぶん大丈夫だろうけど…」
そう言いつつ、空いてる右手は毒牙のナイフを握っていた。
先に仕掛けたのは敵だった。突然地面に潜ったかと思えばすぐに出てきて、何かと思えば石を投げてきたのだ。しかも、かなり尖っていて、そのまま当たればまあまあの怪我をしてしまいそうだ。
「ちょっと頭を使うようになってるな。まあ、大丈夫か」
そう言うと、碧はお返しとばかりに飛んできた石を投げ返した。もう目の前となったところで、
「やっぱりそうするか」
分かっていたことだが、地面に潜って回避したのだ。このままじゃ埒が明かないが、近づいても距離をあけて石を投げてくるだろう。
「試してみるか」
碧は、さっきよりも小さい石を投げた。すると、敵は石を投げて相殺してきた。
「ミドリ様、急がないと日が傾き始めました。」
「わかってる」
[人喰いあり]はこのあたりでは強い部類に入る魔物だ。ゆえに少し強い人でも襲うことができる。
今回もいい餌がやってきた。しかも5人も。しばらく餌には困らないな。
また小さな石投げてきた。やっぱこのあたりの人間は頭が悪いな。さっきとおんなじように相殺して、そろそろ殺すか。
そう思いながら、ありは石を1つが投げて相殺しようとした。
…そのさらに後ろから同一軌道上に飛んできていた尖った破片に気づいた時には、既に自分の体を貫いた後だった。
「ブラインドって、魔物にも効くんだな」
碧はガラス…のようなものの破片を手で遊びながら呟いていた。
そのまま11コルを拾って一行は歩き出した。
そしてついに、
「ミドリ様、到着いたしました」
どうやらこのさっきの村とは何もかも違うこの[村]がペタの村らしい。
俺たちが着いたころには、既に日が姿を隠そうとしていた。