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ダメージディーラー  作者: 広森千林
黎章 命
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六 ようこそ、ヴァンピールブラッドへ

 持出厳禁と書かれた書類四十枚ほどに目を通し、本物のヴァンパイアを管理、偽物と呼ばれるレプリカとヴァンピールを排除するヴァンピールブラッドという組織に属するという事がどういう事なのか、大まかには把握することが出来た。

 イタリアやフランスなど、ヨーロッパ諸国がお金を出し合って創設された組織で、本部はイタリアにある。僕が今居る場所は、ヴァンピールブラッドの日本関東支部。

 どうやら僕はその組織の中で、先日僕が見かけた偽物のヴァンパイアを捕獲する部隊、ダメージディーラー、通称DDに配属されるようだ。ちゃんと給料というものが支払われるようで、偽物の捕獲に成功した者にはさらに別途報酬がある。組織の事、ヴァンパイアの事は家族であっても、しゃべってはいけない。ペナルティに関しては、記憶の消去、もしくは命の消去によって秘密を守る事になる……か。

 こええ……。暗に、口外したら殺すって事だよな。よくても、記憶の消去……そんな技術があるのかもよく分からないけれど、肉体にとって決してプラスになるようなものでもないだろうし……。

 しかし、普通に脱退は出来るみたいだ。もちろん、組織の事に関して口外すれば、以下略、な結末になるのだろうけれど。僕の場合は……春夏が生きている限り、所属し続けなければならない。

 生きている限り?

 いろいろと疑問がわいてきた。不老不死というイメージがあるけれど、春夏の場合も、もしかして年をとらない? オリジナル、レプリカはまあ分かったけれど、三つめのヴァンピールってなんだろう。

 一通り頭に入ったところで、僕が質問する番だ。僕は目の前に座る女性に声をかける。

「質問、いいですか?」

「どうぞ」

「ヴァンパイアは不老不死である、と書いてありました。でも、太陽だけは苦手というか、日の光をあびると死ぬと。これって、不死という言葉の定義からはずれていませんか?」

「そうね。注意書きみないなものよ。注一、但し、太陽の光を浴びた場合を除く、的なね。実際、まだはっきりと解明されている訳ではないのよ。太陽の光が苦手。では、なぜ苦手なのか。太陽の何が体にどういう影響を与えるのか。まだまだ研究の途中なの。漠然と太陽というのではなく、太陽からくるプラズマ風が影響しているのではないかと最近報告が上がってきているから、そのうちすべて解明できるかもしれないけどね。ただひとつの条件を除けば、不死というのも間違ってはいないし、省略しているだけ」

「偽物……も、同じなんですか? 老いることもなく、死ぬこともなくというのは」

「いいえ。それはあくまでもオリジナル、本物に限っての話。レプリカは、所詮は肉体の元は人間だから、普通に老いていく。不老でも不死でもない。限りなく本物に近い肉体になるだけであって、完全なオリジナルのヴァンパイアになる訳ではないのよ。驚異的な力と再生能力を得る代わりに、日中の行動が不可能になるだけ」

 それならば……春夏と同じ時間を生きていける。年を取らないなら、僕が死んだあと、どうなるのだろうと心配だったけれど、そこは当分考える必要もなさそうだ。

「本物というのは、どれくらいいるのですか?」

「世界中で百八十二ってところかしらね」

「えらくはっきりした数字ですね……」

「だって、本物達は私達が完全に管理しているのだから当然よ。居場所も全て把握出来ている。彼らも、あなたと同じで選択の余地はないのよ。私達の管理下に入るか……死ぬか」

 背筋が凍るとは、こういう時に感じるものなのか。まさに今、僕は全身に寒気が走った。それほどまでに目の前の女性は不気味に、そして美しく言い放った。

「そのかわり、彼らには飢えをしのぐための血を無償で与えているわ。不老不死というくらいだから、食事で栄養を摂る必要もないし、血を飲まないと死ぬなんてこともない。ただ、周期的にやってくる渇望期がやっかいなだけ。どうしようもないほどに喉がかわいてしまう。その渇きは、血でしか潤すことができない。人間と同じで、最初は我慢できても、いずれ耐えきれなくなる。人は水で満足できるけど、ヴァンパイアはそうはいかない。我慢の限界を超えれば、見境無く血を求めて人を襲ってしまい、レプリカが生まれてしまう。それを防ぐために、管理下にある全てのオリジナルには血を提供しているのだから、普通に人間社会にとけ込んでいるわ。もちろん夜限定だけどね」

「その血を……僕が買って、妹を飢えさせなければいいんですね」

「そうね。そのために一番稼ぎやすいDD……レプリカ捕獲部署を選んであげたのよ。処理班や研究部なんかもあるけど、そのへんはかなりの知識が必要というのもあるけどね」

 確かに肉体労働のほうが性に合っているか。

「偽物は何人いるかは分かってないんですか?」

「不明ね。管理下に入る前のオリジナルが生み出してきたレプリカが、さらに新たなレプリカを生んでいく……そういう広がりがかなりの規模で起きた時代があったから、その名残をまだ引きずっているの。レプリカをゼロにするのがあなたたちDDの仕事」

「そのDDというのは、具体的にはどんな事をするのですか?」

「そのへんは、直接DDのリードから指導があるわ。あとで紹介します」

「リード?」

「ああ、えっと、リーダー、隊長、そういった意味合いかしらね。私達の呼び方で、深い意味は無いわ」

「じゃあ、あと、ヴァンピールってなんですか?」

「それに関しては、気にしなくていいわ。めったに生まれるものでもないみたいでね。たぶん、突然変異みたいなものだと思うけれど、私達もまだ確認がとりきれていないの。新種かもしれないし……捕獲例が少ないし、まだまだ研究の初期段階なの」

 なんだろう。何かを隠している? と、なんの根拠もない疑惑が一瞬心にわいたが、本当に根拠がないから確認のしようもない。まあ、そうそう目にする機会もない存在のようだし、ヴァンピールに関しては忘れておこう。

「他になければ、サインをするかしないか、決めてくれる?」

「もちろんしますよ。サイン」

 選択の余地がないのは向こうも分かっているのにな。あくまでも、同意の上としたいのだろう。何があってもいいように。

 気の許せない団体なのはわかる。でも、春夏を守る術は他にない。今更迷う事などありはしない。

 僕は同意書にサインをした。

「ようこそ、ヴァンピールブラッドへ」

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