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ダメージディーラー  作者: 広森千林
真章 血
25/31

四 ヴァンピール強襲

 春夏が目の前にいるのもかまわず、僕は携帯型の端末を起動させ、同時にインカムも強制集音モードで起動する。発信ボタンを押していなくてもインカムの声を拾える、リード以上だけができる機能だ。

 何も聞こえない。インカムを起動させていないのだろか?

 通話の切れた携帯をポケットにもどし、インカムで呼びかける。

「DD222よりDD333、なにがあった?」

問いかけながら、333のインカムの位置を端末で探る。さっき別れてからそれほど時間もたっていないから遠くないはずだ。

 インカムの発信情報はあっさりと見つかった。ということは、電源は入っているということだ。なのに返事がないというのが解せない。

 見つけた場所は、走れば十分もかからない。しかし、十分もリミットをはずした全力疾走だと、さすがに肉体が悲鳴をあげるだろう。状況によっては、先にアンプルを使う事も視野にいれてリュックを背負いなおす。

「お兄ちゃん?」

 静かに事の成り行きを見ていた春夏が心配そうな声をあげる。

「急な仕事がはいった。また出かけてくる」

 そう声をかけ、音を立てないように気をつかいながら一階の玄関に急ぐ。インカムからは、さっきの僕の問いかけへの返事はいまだに無い。携帯の通話も切れた。

 外に出た瞬間、再びインカムで呼びかける。

「DD222よりOC。AM及びSVに緊急呼び出しを頼む」

「OC了解」

 オペレーションセンターは二十四時間体勢だが、DDやエリアマネージャーなど現場担当は十二時を目処に勤務外になるからインカムで呼びかけても無駄だ。端末の緊急事態用の呼び出し音を使って現場に戻ってもらうしかない。その権限は現場ではスーパーバイザーからしかないから、オペレーションセンターに頼るほか無い。

「AM2よりDD222。何があった?」

 さすが七草、早いな。

「DD333に何かあったようだ。インカムの場所にむかってほしい」

 敬語をつかう暇があったら、端的に報告しろがインカム上の暗黙のルールだから、上司相手にも敬語は使わない。

「こちらSV88(エスブイダブルエイト)、詳細を報告しろ」

 スーパーバイザーも来た。

「DD333より携帯に救援要請あり。インカムでの応答はなし。現在インカムの位置に向かっている。アンプルの使用許可を願う」

 戦闘、治療以外でのアンプルの使用は許可が必要なのだ。めんどうだが、ルールである以上仕方がない。

「SV88了解。許可する。MCは必要人員確認まで待機。OCは最短ルートの割り出し、ヘリ、火器の準備を急げ」

 僕はすでにアンプルを首にそえ、あとはボタンを押すだけの状態だった。許可がおりた瞬間にボタンを押し、体内をヴァンパイアの血で充たす。そこから一気に加速をかける。

「AM2よりDD333、返事をしないと行ってやらないぞ」

 スーパーバイザーの指示の合間に、AM2がまた無茶な事を言っているのが聞こえる。当然ながら応答はない。

 複数の人間が現場復帰し、インカム上のやりとりが慌ただしくなる。

 インカムが破壊されていれば、現在地も分からない。しかし、インカムは現在地を示すランプが公園らしき広場を示している。インカムは正常だが、当の持ち主からは応答なし。どういうんだ……?

 インカムが外れてしまっている……? もしそうなら、今向かっている場所には、333は居ないかもしれない。

 インカムがはずれていないのに応答がないのであれば、それはつまり……すでに死んでいる……という可能性が大きくなってしまう。

 僕は家の上を飛び跳ね、端末が指し示す場所に向かってショートカットし、目的地への最短ルートを突き進む。

「AM14よりDD222。こっちはあと三分で着く。そっちはどうだ」

 別のエリアマネージャーも動いてくれているか。

「こちらDD222、一分以内に着く」 

「AM14了解。到着次第、報告を優先せよ」

「DD222了解」

 やり取りをしている間に、目的地が見えてきた。ヴァンパイアの血が視力も大幅に強化してくれているから、かなり先まで確認できる。滑り台やブランコが見える。やはり公園か。しかし、動いているものは確認できない。

 最後にありったけの力でジャンプし、一気に公園の敷地内に入る。携帯端末のマップを拡大して、指し示すインカムの場所を探る。もう少し前方。四角いジャングルジムが見える。

 近づくと、そのジャングルジムは──その名称に相応しくないほどに原型を留めていなかった。ボロボロに曲がった、ただの鉄の棒の塊と化していた。その脇に白い小さな機械、インカムを見つける。

「DD222より報告。DD333のインカムのみを発見。争った形跡はあるが、人気はない」

 どうする? 333は何処にいるんだ? どうやって探す?

 333のインカムを手に、途方に暮れていると、突然、獣の咆吼のような雄叫びが聞こえた。心臓を締め付けるような威圧感に満ちた、恐怖という感情を刺激する叫び。

 ──なんだ?

「逃げてええええええええええええ」

 聞き覚えのある声が背後から聞こえた。この声は──。

 声の主を確認するべく振り向くと、小さな影が僕に向かって走ってくるのが見えた。

「なにごとだよ、トリプルス──」

 思いのほか元気そうな333の姿に安心し、普通に語りかける僕のすぐ横を猛スピードで通り過ぎる333。

 その333が走ってきた方に目を戻すと、見たこともない生き物が公園の柵を破壊して、僕に近づいてくるのが目に入った。

 基本は人の形をしている。手足各二に頭が一。普通に足だけで歩行というか、突進してくる。だが、それ以外の外見はとても人とは言えないものだった。

 錆びた鉄のような赤黒い皮膚。頭髪はなく、数本の短いトゲのようなものが代わりに頭を飾っている。服らしき物も何も身につけていない。胸には、女性の乳房のようなふくらみが確認できるから、これは女──といっていいのか、メスと表現するべきか。体全体の大きさは、人間をほんの一回り大きくした程度で、僕と大差はないように見える。

 つまり──僕の知識の中にある生き物ではない、という結論にいたる。化け物という言葉がこれほどしっくりくる生き物もそうはいまい。

 最初は333を追っていたように見えたが、僕の存在に気づいたのか、真っ赤に輝く二つの光を僕に向け、立ち止まる。

 なんというか──これはあきらかに、僕をロックオンしているな。

 あの女、僕に興味をひかせるために、わざと僕のすぐ横を通ったな!

 GRUUUUUUUUと、獣のような音が大きな牙の見える口元から聞こえる。さっきの咆吼もこいつだろうか。

 なんて事をのんきに考えていると、インカムから僕に呼びかけるAM2の声が聞こえた。

「222、逃げろ」

 所属を表す記号であるDDを飛ばすというルール違反を犯してまでの、AM2の警告。その意味を考える余裕を、僕はもらえなかった。

 気がつけば、僕の右腕が付け根から消えていた。

「え……?」

 僕は無意識のうちにAM2の言葉を実行して、左に体を移動させていた。だからこの程度で済んだのだろう。

 化け物は、僕の立っていた場所を通り過ぎ、僕の後ろに移動していた。ゆっくり振り向く化け物は、僕からもぎ取った右腕を──とてもおいしそうに食べていた。

 ようやく僕は事態を理解し、腕を失った痛みを知覚して跪き、呻き声をあげる。

「うっ……がああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「落ち着け。手はすぐに再生される」

 この場にいないのに、なぜ僕の状況がわかるんだ、この男は。インカムを通した音だけで、把握しているというのか。もしそうなら、AM2は目の前の化け物以上に──化け物だ。

「声に出てるぞ。血の音、移動による空気の流れる音、そういった音の情報を立体的に脳で組み立てれば、その程度は誰だって分かるだろ」

 分かるか! というつっこみをぐっと我慢し、失った右腕に目をやる。けっこうな速度で再生がはじまっているが、その途中経過は自分の腕とわかっていてもなかなかにグロい。しかし、痛みは引いてきた。おかげで、思考がクリーンになっていく。

 ちくしょう、美味しそうに人の腕を食べやがって。さすがに骨には興味ないようで、ペッと吐き出しやがった。

 僕は無事なほうの左手でリュックからスピアを抜き、戦闘態勢をとる。もう油断はしない。これ以上、自分が食べられるとこを見るなんて、ごめんだ。

 化け物の心臓に狙いを定めた瞬間、突然プロペラのような爆音と光が僕と化け物を包んだ。目を細めて光の正体を確認すると、上空に黒いヘリが漂っていた。そのヘリから照明が向けられていた。

「AM14より各位。目標をヴァンピールと確認。周辺住人の避難は警察にまかせ、到着した者から捕獲行動に移れ。MCは車両五台投入急げ」

「SV88より伝達。近隣住人の避難完了後、火器の使用を許可する。アンプル未使用者は下がれ」

 いつのまにか、ヘリが数台この公園を囲っていた。

 なんだ? なにが始まるんだ? ヴァンピール? これが? 火器ってなんだ?

 数々の疑問が頭を通過していき、得られぬ答えにもどかしさを感じていると、僕の右腕を食べ終わった化け物──ヴァンピールが再び僕に目を向ける。もう目を離さない。まずはスピードを見極めてやる。

 ライトアップされているヴァンピールを睨み付けながら、再生された右腕も使って改めてスピアを構える。

 今度は背後から人の気配がした。まったく……今度はなんだ、慌ただしいな。

 上空からエリアマネージャーが見ている今、背後の気配が敵ならば警告くらいはしてくれているだろうから、味方と判断して目の前の敵に集中する。

 突然、右肩に衝撃が襲った。少し驚いただけで、耐えられない程の衝撃ではない。333が僕の背後から近づき、僕の右肩を踏み台にしてヴァンピールに飛びかかったのだ。

「っらああああああああ!」

 333は上空から雄叫びをあげ、両手で持ったスピアをヴァンピールの心臓めがけて突き出す。ヴァンピールは僕を見たまま、333の事など気にもとめていない。気づいていないだけか、それとも余裕なのか。

 答えはすぐに出た。

 333の持つスピアは、ヴァンピールの胸に当たった瞬間に折れてしまった。333が着地する前にヴァンピールが腕を横に払い、避けることが出来なかった333は吹っ飛ぶ。ものすごい勢いで数メートル先の滑り台に激突して止まった。ヴァンピールは僕から視線を333に移し、そのまま333を見つめたまま動かない。

 さっきまでは僕だけに集中していたのに、今はちょっかいを出した333しか見ていない。行動に一貫性がないというか、目的がないというか……もしくは、思考が──無い? 本能の赴くままに、単純に視界に入った者を攻撃対象に選んでいるだけに見える。

「生きてるか?」

「当然!」

 僕の問いかけに、333が立ち上がりながら答える。

「だったら、僕を踏み台にした事を謝れ」

 僕の場違いな発言に、333が白い目を向けてくる。

 ヴァンピールはというと、滑り台の残骸に立つ333に向かって歩き出している。

 僕の声には無反応か。音や声よりも、視覚に入るものを優先している……?

 そういう相手なら、背後からの攻撃が有効そうだが、さっきの333の攻撃がまったく効いていないのを見ると、へたにちょっかいをだして、また標的にされるのも嫌だな。

 とりあえず現状報告。

「DD222より報告。333生存確認。スピアでの攻撃は効果がないが、どうすればいい?」

 リードへの昇進試験マニュアルでも、ヴァンピールに関してはエリアマネージャー以上からの指示に従えとしか書いていなかった。リード以上から教えといてくれよと思う。

「AM2よりDD222。注意をひきつけ、出来るだけ動きを止めろ。攻撃はこちらがする」

「DD222了解」

 つまり、囮になれって事か。ひどい指令だ。上空にいるヘリのどれかにAM2も乗っているのだろうか。適当なヘリを軽く睨み、333に伝言する。

「動きを止めろってさ。どうする?」

「死なない程度に頑張るしかないわね」

「アンプル使用中でも注意しないといけないとか、どんな罰ゲームだよ」

 そんな無駄話をしている間に、ヴァンピールが333の目の前まで接近していた。しょうがないか……女子に囮なんてさせられないな。

 僕はスピアを両手に持ち、一気に距離を詰める。ヴァンピールの手が333に触れそうになるギリギリ手前で、背後からスピアで思い切りヴァンピールの後頭部を殴りつける。鉄の塊を殴ったような感触が返ってきた。微妙にスピアが曲がってしまっている。

 僕の攻撃に合わせるように、333がヴァンピールに足払いを試みるが、びくともしない。

「いったーい! 鉄か、お前は!」

 333はそんなつっこみを入れながら、ヴァンピールの迫る手をかいくぐり、距離をとるために後ろに下がった僕の元に駆け寄ってくる。

 さっき僕の腕をすれ違いざまにむしり取った素早さはどこへやら。ゆっくりと振り向いて僕と333を交互に観察している。遊ばれているような感覚。猫に追われるねずみの気分だ。本気をだせば、いつでも殺せるんだといわんばかりの……いや、さっきからの行動を見ていると、そんな明確な思考ではなさそうだ。ただ純粋に、狩りを楽しんでいるだけに見える。

「どうしたものか……何か策あるか?」

「もっと具体的な作戦の指示はないの?」

「ないな。てかお前、なんでインカム放置してたんだよ」

「今そんな話してる場合じゃないでしょうに。対処法ちゃんと聞きなさいよ」

「そうだな。もう一度聞いてみるか」

 ゆっくりと僕達に近づいてくるヴァンピールを睨み付けながら、インカムで呼びかける。

「DD222よりAM2。攻撃はどこからするのか? どれくらい動きをとめればいい?」

「AM2よりDD222。上空から全機がねらいを定めている。数秒でいい、確実に動かない時間をつくれ」

「DD222了解……」

「どう?」

「数秒でいいから確実に動かない時間をつくれだってさ」

 僕の伝言に、333が眉をしかめる。ヴァンピールから目を逸らした一瞬だった。

 ゆっくり向かってきていたヴァンピールが、一気に距離を詰めてきた。手が僕の顔めがけて迫ってくるのがスローモーションのように見える。

 死というものを知覚した瞬間、僕の体が横に吹っ飛んだ。

 333が足で僕を蹴り飛ばしたようだ。

「ぼうっとするな! 死にたいの!」

 どうやら、333に助けられたらしい。ありがたいけれど、もうちょっとやさしい助け方は無いものだろうか。脇腹が普通に痛いぞ。

 まあ、死ぬよりはましか、と自分を納得させ、予備のスピアをもう二本リュックから抜く。一本で殴って駄目なら、三本ならどうだ。

 ヴァンピールは目標を333にしたようで、333を追いかけている。

「333! こっちに来い!」

 僕は叫び、その声に呼応するように、333が僕の方に逃げてくる。

「僕のすぐ横を通れ!」

 僕は三本のスピアを束ねた状態で野球のバットの様に持ち、構える。ヴァンピールの足を、飛んでくるボールに見立てる。ピッチャーの投げる球に比べたら、目標は大きいし遅いしで余裕じゃないか。

 僕は左足を軽く上げ、軸足の右足でタメをつくる。近づいてきた333は指示通り、僕の横を通過する。そのすぐ後ろから、ヴァンピールが駆け込んでくる。

 今までの行動を見るに、急に僕に目標を変更するとは思えないという、たいした根拠もない前提の攻撃だ。

 僕は上げていた左足を着地させ、腰に捻りを加え、スピアという謎のバットを思いっきり振った。狙いは外角低めのストレート。そのストライクゾーンにあるボールの代わりはもちろん、ヴァンピールの足。

 スピアとヴァンピールの足が衝突し、ものすごい衝撃が両手に伝わってくる。ビリビリとしびれる感触を懐かしく思いながら、全ての力を前方に向けて出し切り、スピアを振り抜いた。

 足払いされた格好のヴァンピールは、走り込んできた勢いのまま盛大に転倒した。その様はまさにヘッドスライディング。怪我するからスライディングは足からのほうがいいぞ。

「動き、止めたぞ」

 僕が言い終わる前に、銃声のような大きな音がいくつか重なり、倒れ込んだヴァンピールの体に何かが数本、突き刺さるのが見えた。ヴァンピールが苦悶のうなり声を上げている。

 見上げると、数台のヘリの中からゴーグルのようなものをつけたAM2の姿を確認する事が出来た。機体の横から体を半分乗り出して、バズーカのような物を肩に担いでる。他のヘリでも、みな同じ物を構えている。

 ヴァンピールに突き刺さっている、丁度スピア三本分はあろうかと思われる太い槍は、どうやらそこから放たれたようだ。これがSV88が言っていた火器だろうか?

 AM2はゴーグルを外しながらインカム上でしゃべり出した。その姿は無駄に様になっていて、いちいち格好つけているように見えてかんに障る。

「AM2より各位。ヴァンピールの心臓への命中を確認。待機中のMCは回収作業に入れ」

 心臓に命中か……ということは、終わったのか。

 ふぅ、と一息ついた。その瞬間、目眩がした。急に無重力の場所に放り出されたような浮遊感に襲われ、視界が闇に包まれる。

 ………………。

 ………………。

「大丈夫?」

 333の声が近くから聞こえた。全身の感覚が戻ってきて、顔になにやら弾力のある物が当たっている事に気がついた。なんだろうと目を開けると──なるほど、これが333の胸か。小柄なのに、なかなかのボリューム。

 なんて関心している場合ではない。どうやら僕は、333に支えられているようだ。どうしたんだろう、僕。

 しばらくして、ようやく体に力が入りだした。ぼやけていた思考もクリアになる。

「気持ちいいから、もうすこしこのままがいいな」

「トドメさすわよ?」

 トドメを刺されたくはないから、軽くふらつきながらひとりで立つ。

「サンキュー」

 お礼を言い、改めて周りを見渡す。すでにメディカルセンターの車や、おそらくはヴァンピールを乗せるであろう貨物トラックが到着し、数人がかりでヴァンピールを鎖で拘束している。上空のヘリはすでに見えない。

「僕、どのくらいの時間意識無かった?」

「二分くらいかしら、反応無かったわよ」

 なんだろう。いままでこんな事無かったのにな。

「SVがメディカルチェック受けるようにだって。盛大に腕を取られていたから、貧血じゃない? 片手分の血が一気に無くなった訳だから」

「なるほど、これが貧血か。はじめてだったからびっくりしたよ」

「こっちもびっくりよ」

「ははっ……てか、腕取られたの見てたのかよ」

「隙をうかがっていたのよ」

 まったく……誰のせいであんな目にあったと思っているんだ。

 公園内を見渡すと、いろいろな物が破壊されている。いままで言葉だけの存在だったヴァンピールが、一気に身近な存在に感じた。

「DD222。本部で検査します。車に乗りなさい」

 横から聞こえたその声は──久しぶりに聞く声。メディカルセンターのトップ、MC11だ。現場に来るなんて、めずらしいな。この珍事もヴァンピールがからんでいるからか?

「333」

「なに?」

「明日……てか、もう今日か。今日の放課後、会えないか?」

「シンプルなデートのお誘いね」

「なんでそうなる……」

「冗談」

「今日の事、詳しく聞きたいんだ」

「それはいいけど……どこで?」

「そのへんは後でメールする」

「……おっけぃ」

 333と別れ、僕はMC11と共に車で本部に向かった。本部でのメディカルチェックや輸血にかなりの時間を要し、家に戻れたのは朝の六時前だった。

 その日の朝日は──なぜか、とてもまぶしく感じた。

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