第八話
私には、たった一人の妹がいる。
母に似て冷たく感じの美貌でありながら、(私にとっては)表情豊かな子。
使用人や両親には全くの無表情に思えるらしいが。
そんな妹の身に事件が起こったのは先々週のこと。
婚約者である子爵に強姦されたのだ。
私は元々彼が嫌いだった。
危うい光を宿した目、可愛いリサを舐め尽くすような視線。
そしてなによりも、妹を奪っていく憎い未来が容易く想像できたから。
だから、リサの身に起きたことを知ったとき、強い憎悪の感情を感じ、ルーベルトが宿していた危うい光に得心した。
彼奴に対する監視が弛んでたとは言わない。もうじき結婚する予定の婚約者同士だけにしてほしいと言われれば、使用人が居続けることなどできなかっただろうから。
それが、先々週。
4日ほど前に飛び込んできた家の使者は、更なる悪い知らせを知らせてきた。
リサの、失踪――――…。
あの子は隠れん坊が得意だった。屋敷の隅々まで探検していたリサなら、大の大人が考えるような場所以外から脱走するなんて簡単だっただろう。
ルーベルトの手によって連れ戻されたという知らせはリサの失踪を知らせた日の翌々日に齎され、一安心したものだが甘かったようだ。
深くため息をつくと、隣国の学園にある私の部屋に何故か来ている同じく留学生としてきたウチの王太子に笑われた。
「誰にでも優しく、温厚な姿勢を崩さない次期伯爵殿は何にお悩みかな?」
「何故かここに遊びに来る王太子様と、妹の記憶喪失についてお悩みですよ、エドワード王太子様」
「苛つくとやけに丁寧になる癖は抜けないか。…リサ嬢は、色々と騒動に巻き込まれるみたいだな」
「ええ、お陰様で」
私が家の実権を握ったことにより、政敵となり得る私を排除しようという者の手によってリサが拉致監禁されかけたことも。
目の前の王太子があの子に対して親しげに話しかけたことから、他の貴族令嬢からの嫉妬によるあれこれをされたり。
騒動の引き金は大体この馬鹿王子の所為である。
目が笑っていないなんて言わないで欲しい。
母譲りの顔の所為で、ただでさえ勘違いされる妹をこれ以上苦労させたくないのだ。
「それでは私は実家に戻りますのでどうぞご自分の部屋へお戻りください、殿下」
これに優しくして何が良くなるのだと強引に追い出した私は、昨日やってきた家の使者にくっついてひたすらに駆けていく。
いざ、可愛い妹の元へ。