第七話
一人、静かに笑う女がいた。
その女は、言葉にできないナニカを持っていて。
一人、静かに考える。
「神にも伴侶となるべき者というのはいるのですよ、瑠璃。必然的に出会い、必然故に惹かれ、必然がために唯々恋い慕う相手が。…貴方は、まだ若いですがね……」
うふふ、と静かに笑う。
「貴方は、…どうしますか?」
静かに、笑う。
☆
息子は、産まれたときから既におかしかった。
産声一つ上げず、泣き叫ぶこともない。
ただ、虚ろな瞳をみせるだけ。
それが変わったのは、友人であるアージェン伯爵のお嬢と会わせたときだろうか。
まるで、年相応に瞳を輝かせて彼女を見ていた。
初めて楽しそうに遊ぶ姿を見て、アージェンに迷わず婚約を申し込んだ。
幸い、我が家の領地は王室御用達の絹がとれる。多少融通するだけでも金貨数百枚が浮かぶぐらいの人気ぶりで、伯爵家相手であろうと切り札にできる物だったのだ。
政略結婚をさせるつもりはないと初めは断られたが、切実に事情を話せばお人好しの気がある彼は迷いながらも了承してくれた。
少々強引に婚約を了承させた私の良心は痛むが、息子が幸せになってくれるならと思い、それを無視した。
頻繁に伯爵家へ通わせるようになってから数年。
アージェンに『お前の息子のことで…』と相談されたのはいつだったか。
そんな心配は無用だろう、と笑い飛ばした我が身を懲らしめてやりたい。
今思うと、近すぎた故にわからなかった、のだと思う。
アージェンの懸念は決して的外れの物ではなかったと、身を持って知ることになったのだから。
それを聞いたとき、最初は冗談だろうと思った。
だが、アージェンの側近だという送られてきた使者は蒼白だった。
急いで駆けつけたとき、そこにはひどく満足そうに笑う息子がいたのだ、間違っても冗談ではないのだと突きつけられた。
ルーベルトがやったことは、強姦、だった。