第二話
「……リサが、すまないね」
「いえ。両思いだと、勘違いして…婚姻を無理強いした私も悪かったのですから」
「そうか……」
女、リサを男、ルーベルトが保護して二日。
リサは目を覚ますことなく、昏睡状態が続いていた。
仕事上の関係で昨日は見舞えなかったルーベルトが伯爵邸を訪ね、入ったリサの寝室で伯爵と対話していた。
伯爵は、ルーベルトと己の娘であるリサが両思いであると信じ込み、もとより婚姻させる予定だった男が娘の純潔を奪ったと聞いても、どうせ将来はそうなるのだからと思っていたのだ。
だから。
伯爵家の伝統としてウェディング・ドレスを作るために向かわせた妻を、娘が拒絶するとは夢にも思わなかった。
娘であるリサは母親である伯爵の正妻と似て、表情が表に出てくることはほとんどなかったから。
本人の意思を無視して結婚話を進めようとしていたのかと伯爵は葛藤を抱えていた。
一方の、ルーベルト。
彼は、好機であると考えていた。
このまま目覚めないのなら、伯爵家から誑し込んでいけばいい。
目覚めるのなら弱っている隙を突けばいい。
どちらにしろ、リサを手放すつもりはなかった。
それぞれの思いが表に出ることはなく、リサは眠り続ける――…
※蛇足編※
「…よし」
カーテンが閉め切られた暗い部屋の中。………………の光によってぼんやりと照らされている。
その中で、女は……………を叩き続けた手を止め、ぼきぼきと関節を鳴らしながら伸びをした。
つい先程までやっていた作業はひと段落。二十五日に…………されるようにすれば今日の作業は終わる。
カチカチッ。
「よしっ!完了!」
ぺたんとベッドに倒れ込んだ女は、この疲れる作業をやるきっかけとなったある……を見つめ直していた。
それを書いたのはお気に入り…………に……している人。
定期的に肥料をやらないと枯れてしまうが。
楽しそう。
ただ、それにつきる。
ついうっかり書き始めてしまったが……死者を出さずに終わらせよう。
そう誓って。
「さて、書くか」
再び、光の点らない部屋から、かちかちと音が響き始めた。