第十五話
エタらないよ!
誤字脱字の報告は大歓迎です。
本人が自覚していない矛盾などもある可能性があります。
私は、元王女。……いえ、辺境伯へ降嫁しても父上と兄上が望んだ為に今尚王位継承権を持つ王族。
父が望んだ相手に嫁ぎ、そして、夫に恋した愚か者。
私の容姿は御婆様に似ているのだそうだ。
当時の王位継承権第二位の保持者でありながら騎士として剣を振るい、叔父の伴侶…当時の王太子妃(後の王妃)を守るために尽力したと言われる歴代最強の女騎士。男社会である騎士になり、実力で王太子妃筆頭護衛騎士となった上に大半の近衛騎士達を破ったお方。
30すぎてから婚姻し、母を産んだその方は既に亡くなられているけれど。
そんな御婆様の容姿を継いだ我が子、リサは仮にも純潔を奪われた相手である婚約者の訃報を眉一つ動かさず受け入れた。
ご冥福をお祈り致します、の一つで部屋に下がったあの子を使者が唖然とした表情で見送っていたのがとても対称的だった。
私は、私を可愛がってくれているお兄様の懇願によって、王家に属しているはずの影の半分を預かっている。
彼ら影は、とても優秀である。
ルーベルト殿の死因も特定し、誰の差し金であるのかもきっちり調べられる程度には。
だから、私は殺された彼に同情しない。
公爵に準ずる辺境伯、しかも歴とした王位継承権持ちである息子に手を出した彼が悪いのだから。
夫はそれを知らないが故に、悲しげに顔をゆがめていた。
ああ、そろそろこの愛しい人が余計なことを言い出す前に使者を引き上げさせなければ。
「ご冥福をお祈り致しますが、二度と我が家へ参られないようお伝えしていただけるかしら。それでは、失礼いたします」
夫は伯爵でしかない。元とはいえ王女であり、王位継承権保持者である私と比べれば地位は圧倒的に低い。
いや、辺境伯の地位を奪われたから私よりも低くなったと言うべきか。
向かい合ったソファに座りながらも厳しい表情を崩さない夫は、兄に辺境伯の資格はないと判断された。私も愛しくはあるが、王侯貴族が背負うべきものと感情は別物。
何一つ、理解できていないこの人は、きっと私が使者へ向けた言葉に反発するのだろう。
侍女が持ってきた紅茶を口に含んで喉を湿らせた私は、口を開いた夫の言葉に耳を傾けた。
「……あの言葉はどういう意味だ」
「あの言葉、とは?」
「二度と我が家へ参られないように、とはどういう意味だと言っている!」
「では逆に、旦那様は何を根拠に彼らを庇われるのです」
「彼らとは交友関係を結んでいる」
「結んでおりましたわね。…それで?」
「私の人間関係に君が口を出す必要はない!」
「私はアージェン家の名誉のため、あの様に申し上げたのです。理由をご存じ無い旦那様にはご理解いただけないかもしれませんけれど」
「なんだと!」
「失礼いたしますわ。疲れましたの」
影を解散させてしまったが為に得られる情報が圧倒的に少なくなってしまったことを未だ理解しない愛しい旦那様。
私は……貴方様の妻であると同時に、王位継承権持ちの王族でもあり、何よりあの子達の母親なのです。
聡明な子供達を守るのに、何を躊躇する必要があるのでしょう。
「影、旦那様の愚行を止めなさい」
「…はっ」
お母様と同じ、とお母様に繰り返し呟かれた顔に、うっすら笑みが浮かんでいることに気づかなかった。
連続投稿します。取り敢えず明日は確定。




