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白き雪の足跡は。  作者: 宙来
本編 二つの道。
13/23

第十三話

一つ一つ視点が違います。

 お兄様が、“婚約者様”の始末を影に命じたらしい。

 辺境伯として認められているお兄様を害そうとしたらしいが、近衛騎士団長閣下直々に招聘されるほどの剣術を修めていらっしゃる人を亡き者としようとしたその阿呆らしさに愛想が尽きました。

 ちなみに、知らせてくれたのは同じ影で私についてくださった(らしい)人。

 リサの幼い頃に浮かべた笑みが、心臓を打ち抜いたのだとか。

 まあ、そんなのはどうでも良くて。


 今日の私は端から見てもわかるぐらいに上機嫌である。

 朝食を取りに下りたダイニングで、お兄様から笑われるぐらいには。

 何故かというと……。


 空に、ちらりと見えたのだ。


 瑠璃の姿が。


 正真正銘想い人(想い神、かな?)である彼の姿が見えたのだから、浮かれても仕方がないと割り切って欲しいのですよ。


 転生か憑依かはまだわからないけど、きっと瑠璃が助けてくれるのだろうと思う。

 信じることぐらいは許して欲しい。


「…瑠璃。待ってるから」


 どこにいるのかはわからないけど、瑠璃なら聞こえるよね?





「参ったなぁ……」


(大切な(ヒト)にそんなことをいわれたら……のこのこと出ていきたくなっちゃうじゃないか…)


 少年は、葛藤に沈む。





「……何だったんだ…?」


 空を浮遊している少年がいた。

 ほんの数瞬の間だったが、確かに少年はいた。


 珍しく上機嫌なリサ、空を飛ぶ少年。


 本日のお日柄は良く。

 なのに波乱に満ちる予感がする青年だった。





「……」


 無表情な妻。彼女が笑っているのはほんの数回しか見たことがない。

 しかも、それらの時も子供達が関わるときぐらいなものだったのだ、正直に言えば子供に嫉妬した。


 私は、辺境伯の立場から引きずり降ろされた、ただの伯爵。

 でも、たまには。

 子供達に一矢報いてもいいと思わないか?





 私は王女だった。

 現在はただの伯爵となった夫の背中を見守るだけの女。

 でも、その落差に後悔することなどない。

 私は、夫に恋していた、そして今も恋しているのだから。


 幼い頃からどうしても表情を動かせなかった私は、無表情なりに夫へ尽くしてきたつもりだった。

 王女としても、一個人としても、尽くしてきたつもりだった。


 だが、それだけでは足りなかったらしい。


 私にも専属の影というものはいるのだ。

 息子と娘に何をしようとしているのか、バレないとでも思っているのだろうか。


 私は、努力してきたつもりだったのに。





「…ルーカスの奴、ちゃんと明日には帰ってくるんだよな?」

「王太子サマに愛想を尽かして国に残っちゃったりしてね~」

「冗談に聞こえんぞシェンディ!」


 ぎゃーぎゃー騒ぐ上司とその上司を眺めながら、一人の影はただ祈る。


(ルーカス様が帰って来られますように…。王太子殿下に愛想を尽かされませんように…)





「……」


 鬼気迫る形相で鍛錬に励むルーベルトを、平の騎士達は遠巻きに眺めていた。


(婚約者殿に会いに行ったらルーカス様のご命令で追い出されたって?)

(強姦したらしいしな……妹思いの兄君はさぞお怒りだろうしな…)

(自業自得だろ…)


 ひそひそと囁かれる言葉が殊更にルーベルトを苛立たせる。

 最愛の女と両想いではなかった現実と、何時も非友好的な態度で接してくるルーカス・アージェンへの怒りが燻っているというのに。


 ただ只管に、彼は。





「ふふふ……」



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