第十一話
「くそっ……!」
怒りだけが増加し、目の前が赤く染まるような気分を味わう。
ルーカス次期伯爵にご挨拶を、と出向いた俺は、使用人のお引き取り下さいの一言で追い出された。
食い下がれば真冬であるこの時期にも関わらず冷水を浴びさせられて、気分は最悪である。
濡れ鼠のような格好で帰ってきた主人を慌てて風呂に放り込んだ使用人は、酒の一つも用意できない下等生物だったらしい。
国を守る騎士として相応しくなれるよう鍛えていたお陰で風邪は引かないだろうが。
だが……リサに会えなかった。
次期伯爵が死ぬまで会えないだろうと思うと、再び怒りが込み上げてくる。
俺の唯一。
出会ったときから惹かれていた。
「誰にも邪魔をさせはしない……!」
まずは、ルーカス・アージェンから消す。
にやりと嗤った俺は、焼けるようなウィスキーを一気に飲み干した。
☆
「ルーカス君の暗殺、ねえ…。王太子サマの側近が必要だから将来の文官候補として知られてるけどさ、剣術は近衛騎士団長直々に招聘されるぐらいにはできるんだよ?彼」
何とも阿呆らしいことを。
そう呟く男は、真っ黒な装束に身を包んでいた。
「近衛に招聘されていたのか?あのルーカスが?」
「あのって……アンタの側近候補が武術皆無とか言ったら真っ先に狙われるに決まってんでしょう」
ただでさえアンタが敵作ってんだからと毒を滲ませたそれに、王太子エドワードは言葉を詰まらせた。
エドワードは、ある一定の時期から他人に対して毒舌をふるうのが癖になっていた。
そのお陰でルーカスを筆頭とした未来の側近候補に多大なる負担が掛かっているのは周知の事実である。
ぐぅの音も出ないとばかりに机へ突っ伏したエドワードは、王太子付きの影、シェイディに容赦なく叩き起こされた。
「ルーカス君に監督任せられてっからね、仕事が終わるまで休んじゃだめ」
「な・ん・だ・と…!」
「彼がどれだけ苦労してるかよくわかるわ」
「うぬぬ……」
今度ルーカス君に菓子でも貢いどこう、と心に決めながらシェイディは再び影へ潜んだのだった。




