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~セカンド・プロローグ~

「アストリア・オンラインへようこそ!」

「……ん」

 頭の上からの快活なアナウンスにつられて目を開ける。

 目の前には黒を基調としたバーチャル空間が広がっている。どうやら無事にログインというやつが出来たらしい。

「これからお客様がお遊び頂くのは、アストリア・オンラインでお間違いありませんか?」

「……間違いない」

 アナウンスの声は女性のものだが姿は見えない。

「ありがとうございます!これよりアストリア・オンラインでお客様自身となるアバターの作成についてご説明させて頂きますが宜しいでしょうか?」

「……宜しくお願いする」

 どうやらこの空間は女性のアナウンスに従って進行していく様だ。

「はい。それではアバター作成についてご説明させて頂きます。アバター作成に際して当ゲームにおいて不正防止の為、ご利用頂くお客様のバイタルデータをスキャンさせて頂きます。スキャンさせて頂いたバイタルは個人情報保護の観点から当方で責任を以て管理し、第三者への譲渡等は行いません。また当ゲーム退会時にお客様に関わるデータの全てを破棄させて頂きます」

 ゲームにおける不正防止についてはこの手のゲームをやったことがないので良く分からないが性別や顔、体型を偽ったり出来ないということなんだろう。

 個人情報についても退会時に全てのデータを破棄すると言っているし、しっかり管理してもらえるなら特に問題は無い。

「以上に同意頂きましたらアバター作成を開始致しますが宜しいでしょうか?」

「……同意する」

「ありがとうございます!それではバイタルデータのスキャンを開始致します。目を閉じてそのままお待ち下さい」

 言われるままに目を閉じて待つ。瞼の上を光が走っていくのが分かった。

「バイタルデータのスキャンが完了しました。目を開けて頂いて結構です。お疲れ様でした」

 早い。あんな一瞬で終わりなのか。

「続いてアストリア・オンラインにおけるお客様のお名前、ユーザーネームを決めて頂きます」

「……ああ……うん?ユーザーネーム?」

 科学の進歩というのは本当に目覚ましい等と感慨に耽っていたところに声をかけられた為、思わずオウム返ししてしまった。

「はい。今決めて頂くユーザーネームはアストリア・オンラインでお客様の呼称になります。また、ユーザーネームの変更については今のところ予定しておりませんので慎重に決定して頂く様お願い致します」

 ゲームでの自分の名前か。このゲームをどれくらいやるかはわからない。たが今のところ名前を変更可能にする予定が無いのなら、ちゃんと納得のいく名前にしないといけないだろう。

 大昔に某RPGをやった時に、名前をつけるのが面倒でお任せで決定したら名前がチンパになってしまった苦い記憶が蘇ったのはここだけの話だ。

「それでは、ユーザーネームの入力をお願い致します」

「……了解した」

 目の前には半透明のタッチパネルが出現する。

 後はパネルを操作してユーザーネームを入力すればいいだけだ。カタカナを選択して文字を入力していく。入力を終えて決定のパネルをタッチする。

「ご入力頂いたユーザーネームにお間違いはございませんか?」

「……大丈夫だ」

 見えているかは分からないが、言葉だけでなく頷いて同意の意思を示す。

「お客様のユーザーネームはタンチクに決定致しました。ありがとうございます!最後にアストリア・オンラインのシステムについてご説明をさせて頂きますが宜しいでしょうか?」

「……説明してくれ」

「はい。かしこまりました。当ゲームにおけるお客様は時空の旅人としてアストリアへ訪れることになります。また、従来のVRMMOとは異なりレベルの概念がございません。ステータスについてもヒットポイント・マジックポイントのバー表示はありますが、その他の具体的な数値の表示はございません」

 ステータスの具体的な数値の表示が無いのは珍しい。たいていのゲームには力や魔力といったステータス数値の表示があり、物理攻撃が得意だとか魔法攻撃が得意というのが分かる様になっているのだが。

「……何か理由がある……のか」

「はい。もちろんです」

 独り言のつもりだったのだがどうやら聞こえていたらしく、彼女から答えが返ってきた。少々恥ずかしいが今さら独り言だと言うわけにもいかないので、開き直って聞いてしまうことにする。

「……それはなぜだ?」

「アストリアにおけるお客様方、つまり時空の旅人は当ゲームにおいて無限の可能性を持つ者とされています。具体的な数値を示さないのはお客様方にご自身の可能性の限界を決めて欲しくないからです」

 さらに彼女は続ける。

「この措置は当ゲームで使用可能なスキルについても同様です。こんなスキルを使いたいという時空の旅人のイメージと想いの数だけスキルも存在します。アストリア・オンラインはイメージと想いでどこまでも広がる世界なんです!もちろん相応の経験は必要になりますが」

「……そうだったな。可能性を決めない世界……だ」

「はい!」

 思い出した。

 アストリア・オンラインのパッケージに書かれていた謳い文句は今口にした、可能性を決めない世界。なるほど納得のシステムだ。ぐぅの音も出ないほどに。

「説明は以上になります。長い時間お付き合い頂きありがとうございました」

「……こちらこそ丁寧な説明、ありがとう」

「ありがとうございます!そう言って頂けてこちらも嬉しいです!それでは、これからタンチク様をアストリアの入り口へとご案内致します」

 彼女がそう言い終わると目の前に魔方陣の様なものが現れた。

「アストリアの入り口にナビゲート・スピリットと呼ばれるアストリアの住民がいます。彼女たちはアストリアで時空の旅人の案内をしていますので、アストリアの世界のことは彼女たちから聞いて下さい」

「……了解した」

「それでは目を閉じて正面にお進み下さい」

 彼女の声に従って目を閉じ、ぐっと足に力を込めて一歩前に踏み出す。瞬間、瞼越しでも分かる位の目映い光が身体中を包みこんだのが分かるのと同時に意識が強烈な力で引っ張られた。

「タンチク様の旅に良い風が吹きます様に!」

 薄れ行く意識の隅で彼女がそう言ったのが聞こえた気がした。






 ◇◇◇◇◆◆◆◆






「時空の旅人さん!ようこそ!」

 意識を引き戻したのは鈴の音の様な心地良い声だった。

 気持ちの良い音に目を開けると視界一杯に笑顔の小さな女の子が写りこんだ。驚きのあまり思わず仰け反ってしまう。

「はじめまして!ワタシはナビゲート・スピリットのマニュといいます」

 マニュと名乗った小さな女の子は宙に浮いた状態で勢い良くお辞儀した。併せて彼女の背中にある薄い緑色に光る一対の羽の様なものから光の粒が弾けて流れる。

 危ない。仰け反っていなければ確実に直撃していた。

「これから時空の旅人さんを時空の門より私たちの住む世界、アラストリアへとご案内します!」

 行きと同様に帰りも勢い良く頭を上げたマニュがずずいと顔を近づけ、不思議な輝きを宿した瞳でこちらを覗きこんできた。

「……ああ。宜しく頼「それでは早速!……ととっ!そういえばまだアナタのお名前を聞いてなかったですよね?」

 若干たじろぎながら返事を返そうとしたところで遮られてしまった。恐らくこちらの声が小さくてマニュに良く聞こえなかったのだろう。

 聞こえていなかったのならやり直せばいい。それに、まだこちらの自己紹介が済んでいなかったからむしろ好都合だ。

「……俺はタンチ「すいません!ワタシそそっかしくて。仲間のスピにも、マニュは慌てん坊だねってよく言われるんですよー」

「あ!スピというのはワタシたちナビゲート・スピリットの略称です。カワイイですよね~この呼び名」

 本日二度目の遮り。さらに話が急に別の方向に飛んでしまってついていけない。

 もしアストリアに学校があり通知表が渡されるのなら、マニュの通知表にはきっと先生からこんな一文が贈られているはずだ。

 自分のお話ばかりせずに先生やお友達のお話を良く聞くようにしましょう、と。

「……おほん!脱線してしまったので話を戻しますね。しかも、マニュはもっと落ち着いて相手の話を良く聞きなさいよとも言われるんです……ヒドイですよね!」

「時空の旅人さんを案内する役目のナビゲート・スピリットは相手のお話を聞いて、質問にキチンと答えて導くのがお仕事なんですから!」

「それが出来ないなんてありえないんです!」

 図らずも予想は当たっていたようだ。ナビゲート・スピリットの役目がマニュの言う通りだとしたら、それを果たせているかこの時点で相当怪しいが、それを口に出すことはしない。

「だから安心してください!それにワタシ、時空の旅人さんを案内する練習をたくさんたーくさんしてきたので必ずお役に立てると思います!」

 マニュは自信満々に話しているのだが、その瞳に不安の色が混じっている様に感じるからだ。

 直感だ。自慢じゃないが職業上の理由で鍛えられたこの直感がハズレたことは無い。

 もしかしたら、いつかその理由を知る時が来るかもしれない。だが今はマニュというナビゲート・スピリットの小さな女の子の、

「ワタシがどれくらい役立つのか気になるとは思いますけど、それはアストリアに着いてからのお楽しみということで♪」

「さあ!ワタシの手を取って目を閉じて!」

手を取り導かれるままに、

「これから時空の門を通ってアストリアに向かいます!」

「それでは今度こそ!GOー!!」

アストリアの世界へ俺の目的を果たしに行こうと思う。

「……ん~?あれ?なにか忘れてる気が……??」

「ああっ!時空の旅人さんのお名前聞くの忘れてましたぁぁぁぁっ!!」


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