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花園

長く寝かせていたこの話…

なかなか更新されない(出来ない)夢幻草紙の登場人物 緑翠王の恋を綴った話です。


「桜木…桜花はいるか?」


庭先で笛を吹いていた桜木に、不意に現れた緑翆王が声をかけた。

桜木が、答えようと口を開きかけた時…縁から声が飛んで来た。


「おお…緑翆王…いかがした?」


緑翆王は声のする方へ向かい…


「すまんが朱緒に会わせてくれぬか?土産を持って来た…」


手にした瓢箪を見せながらが用の向きを告げた。


「ああ…ふふ…いつものか…喜ばれようの…」


桜花の君は、そう含み笑いをしながら桜木を呼びつけ何やら言い渡し…


「ゆるりとされるがよい…」


そう言い残すと、部屋へ入って行った。


桜木は、緑翆王と屋敷の裏手にある大桜のところへ行く。

この大桜の周りには、囲みがしてありみだりに入る事が出来ぬようになっていた。

桜木は桜花の君から預かった鍵で戸を開けた。


きぃーっ


小さく音を立てて戸が開く。

中に入ると大桜の下は、厚い苔が敷き詰めように広がり、その周りには花が咲いていた。


「うわあ…」

「綺麗であろう…ここは特別な花が植えられているところじゃ。ここは花王様の花園…魂の浄化場じゃ。」


桜木は初めて見るその庭の様子におもわず声をあげた。

緑翠王はそう桜木に説明すると他の花を眺めるでなく、奥まった大桜の根元にある牡丹のところに向かう。

静かなその場所には、いつもの庭先にはない花々が植えてあり陽の光を受けそれらは神々しく花を咲かせていた。

桜木はその花の美しさに声もなく一つ一つを覗いて回る。

一足も二足も遅れながら大桜の下の牡丹のところへ行くと、緑翠王が花に語りかける様にして座ろうとしていた。

手にした瓢箪の口を開け牡丹の根元に水を注ぎながら、まるで人に語りかれている様子が桜木には不思議だった。


「朱緒…これはなぁ、南の神の真名井から頂いた水じゃ。そなたに持って帰りたい…と言うたらの、快く分けてくださった…」


水を注ぎ終えると、不思議そうな顔をして立つ桜木に気がつく。

笑いながら傍に座るように手招きをして座る様に桜木を呼んだ。


「おかしな事をしておると思うたであろう?」


桜木の君は一瞬ドキリとした。

もしかしたら自分は覗いてはならない、緑翠王の大事なものを見てしまったのかもしれない...そう思いながらもじもじと緑翆王の顔を見ていたが、笑いながら手招きするのに自然その場に座り込んだ。


「この花園はな…桜花が先にこの里をまとめておられた花王様から預かった特別な花を植えてある園じゃ。

ここに入るは、桜花の許可がいる…故に囲みがされ鍵がかけられておる。」

「…特別な花…にございますか?」


聞き返す桜木に、緑翆王は静かに頷いた。


「うん…ここの花は、元々精霊であったり人でも特別な魂を持って生まれた者が、魂に受けた傷を癒す癒し場じゃ。

普通なら命が終わったら自分の魂の輪廻に戻り、また新しい魂として生まれ変わるのだが…

ここの花のほとんどは神であったり精霊であったりする者と、人の間に生まれた特別な魂を持つ者が命を終わらせた時に花に身を変え受けた傷を癒す。

癒しが終わり花が開いた時、花に込められた魂が目を覚ましてそれぞれの輪廻の中に帰っていく。」


そう言いながら緑翆王は傍らの…朱緒と呼んだ花を見つめていた。

その視線は、いつも見る緑翠王の視線とは違い随分優しい目をしている…と桜木は思いながら眺めていた。

いつもは猛々しいほどの強い光りを放ち、周りの者を圧倒させる…そんな目をしているのになんだかその中にどうにも出来ない寂しさを宿していた。

それを感じた桜木は緑翠王にとってはこの花が、特別以上なものなのかもしれない…とそう思う。


「この花はわしの命…半身になる者の命を宿した花。わしに名前を付けて傍でいつも笑い、暗い闇の中からわしを救ってくれた女の魂が込められておる。」

「ここにある…と言うことは、その方は…」

「ふふ…そうじゃ。特別な魂を宿しておった。今はこうしてこの不思議の里に住んでおるが、わしも元は人間じゃ。

この花の…朱緒に出会ってわしのすべてが変わった、生き方も生きる場所も。」

「緑翠王様も?」

「そなたもそうであろう。桜花も同じと聞くぞ。

この里に住む者の多くが神の御技、恩恵を受け住む事を許された者が多い。」

「その方はどうして花に身を変えられたのですか?緑翠王様もどうして龍に身を変えられたのですか?」


緑翠王は朱緒をじっと見ると、話しても良いか?とそう問いかける。

花の傍らを風がさやさやと吹き抜け、まるで静かに微笑みながら頷くように葉を揺らす…


「ふふ…ならば話そうか。

もう…随分前の事、わしがまだ人であった頃の話…」


緑翆王はそう言いながらぽつりぽつり話始める。



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