洸
小さな小さなあの光を掴もうとして
俺は、一生懸命背伸びしたんだ。
「山瀬先生、いらっしゃいますか?」
私は、今日も先生の所へ行く。
もちろん、本当に勉強のことだけではない。
勉強のことだけなら、私はこんなところまで足を運ばない。
私は、数学の山瀬尚先生が好き。
例え、それが叶わない恋だと分かっていても。
この気持ちは、偽ることができなかった。
「山瀬先生、いらっしゃいますか?」
小さな小さな女の子が俺を呼んでいる。
光り輝く1等星の周りで微かに光る10等星。
彼女は、まるでそんな感じ。
けして、数学は悪くない。
でも、彼女はここに来る。
もっと来て欲しい生徒はたくさんいるのに。
俺は、愚痴を小声で吐きながら彼女の元に駆け寄った。
山瀬先生が、駆け寄ってくる。
待っている間も、私は先生を目で追っていた。
呼ばれてから来るまで、先生は微かに口を動かして何か言っていた。
誰にも聞こえないように。
もしかして、私のこと?
毎日来るのがそんなに迷惑に感じているんだろうか。
軽い自己嫌悪に陥っていた私は、先生が広い職員室からやってくるのを、ただぼーっと見ていた。
先生が、息を切らしながら言う。
「ごめん神木、待たせたな。」
たった30メートルも無い所を走っただけで息が切れてる。
中・高・大学と、バスケットで鍛えたはずの体力はどこへやら。
やっぱり、一年間机に向かってばっかりじゃ駄目だな、と感じつつ
俺は、彼女に声をかけた。
「ごめん神木、待たせたな。」
目の前にいる、小さな彼女に目をやる。
いつもの大人びた雰囲気が、一瞬ちがったものになった。
小さな光が消えてしまったようだ。
「ありがとうございます。やっと、意味が分かりました。」
私は、先生に礼を言った。
本当は、最初から分かっていた。
先生とできるだけ一緒にいたいから。
先生の姿を見ていたいから。
それが、先生に負担をかけているかもしれない。
職員室の隅にいた、先生の表情を思い出す。
ここに来る回数を、減らしたほうがいいかもしれない。
ふと、そんなことを思う。
涙で視界が滲む。
私は、そんなにも邪魔な存在なんだろうか。
できるだけ早く、先生と距離をおきたくて私は、にぎやかな声のする玄関へと走り出していた。
驚いた。本当に、驚いた。
彼女が、一瞬の間に目に涙をため、声をかけようとした瞬間に走り出していた。
たくさんの光が差し込む、玄関へと。
俺は、彼女が大きな光に吸い込まれ、いなくなってしまうかと思った。
小さな小さな光が。
俺も、彼女を追いかけていた。
彼女が、大きな光に取り込まれる瞬間俺は一生懸命手を伸ばした。
大切な人を、俺の傍においていたかった。一緒にいたかった。
なぜかこの時、彼女の目に涙が浮かんだとき俺の中で何かが壊れた。
「先生・・・?」
帰ろうと、玄関から外に出ようと瞬間ものすごい力で腕を掴まれた。
今一番会いたくない人。
私の目から、涙が零れ落ちる。
彼は、そんな事どうでもいいようで私を、人気の無い視聴覚室へと連れて行った。
入った途端、先生の胸の中に抱きしめられた。
そして、信じられない言葉を聞いた。
「好きだ。」
俺は、今の今まで気がつかなかった。
ほぼ毎日、俺に会いに来てくれる彼女の顔を見るたび他の生徒とは違う感情が芽生え始めていた。
その感情を、「恋」と認めることができなかった。
認めたくなかった。
俺達は、生徒と教師。
俺の中での「理性」がその感情を消しかけていた。
でも、その理性も彼女の涙の前では無いと同然だった。
俺は、ほとんど考えずこの気持ちを伝えていた。
なんで・・・。
今までそんな素振り見せもしなかったのに・・・。
また私をからかっているの?
「ゴメンな。お前が俺のこと『先生』と呼ぶ度にこの気持ちを必死に消そうって思ってたんだけ ど・・・やっぱり無理だった。」
先生の頬は高揚して真っ赤だ。
大人びていた先生も好きだけど、こんな先生も可愛いな。
私は、思わずクスッと笑ってしまった。
「お前、何笑っているんだよ!」
そういう先生の顔がますます赤くなっていく。
「先生、可愛い。」
私は、微笑みながら先生の顔を両手で包み正面から見た。
「先生、可愛い。」
そう言った時の彼女の動作のほうが可愛くて、思わずその十センチ程前にある彼女の唇を奪いたくなってくる。
そこでようやく俺は、ある重大なことを聞いてないことに気付いた。
俺の頬にある彼女の両手をそっと下ろし、彼女に問いかけてみる。
「お前、俺のことどう思っているの?」
言ってから俺は思った。
俺は、なんと言う大馬鹿者なんだろうか。
彼女の気持ちも知らずに、俺だけの気持ちで突っ走って・・・。
なんてかっこ悪い。
俺は、目の前にいる彼女に目をやった。
「お前、俺のことどう思っているの?」
聞かれてしまった。
やっぱりちゃんと言った方が良いよね・・・。
私は、目の前にいる彼の目をしっかりと見た。
「私も・・・。」
俺の目をしっかりと見ている彼女の口からは微かな言葉らしきものを発している。
でも、何とか聞き取ろうと彼女の口に耳を寄せた。
俺の動作で、彼女は緊張してしまったのか大きく息を吸ってようやく俺の問いかけに答えてくれた。
「好き・・・」
顔を真っ赤にして、その二文字の言葉を俺に向けて言ってくれた彼女がとても愛しく思った。
俺は、彼女を力強く抱きしめた。
俺は、遠くに居た小さな小さな光を手に入れたかった。
でも、俺は自分から君を遠ざけていた。
一生懸命伸ばしても君に届かなかったこの手が、素直になることで君にようやく手が届いた。
俺は、二度と手放さないようにしっかりとでも君が傷つかないように、抱きしめたんだ。
俺は、君の隣の11等星になったんだ。
視点が、コロコロと変わりかなり読みにくかったと思います。
一度、書いてみたかった先生と生徒。
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