第12話 やはり俺の排除対象だ
「各機は、Ⅴ1の援護だけに徹して。あれを倒せるのはフィンだけですわ」
モニターを睨みつけれながら、セレジアは言った。
そっと傍に寄ったバートラムが、彼女に告げる。
「お嬢様。敵ジャミングの出力が増しています。“ブルー・レーン”管制、およびアルジャバール本社共に通信が取れない状況に陥っております」
「くそ。誘い込まれましたわね……船をGSたちに近づけすぎないように」
一礼し、再びコンソールの前に戻っていく執事を見送り、画面に目を戻す。
スマート・パッドに映る戦術マップ。機体熱源反応は味方が3つ、敵が1つ。
圧倒的な数的有利だが、実質的にそれは、一対一の戦いになっていた。
フィン以外の二人は、強化兵士たちの駆るGSの戦いについていけていない。
仮に、彼が沈められるようなことがあれば、このチームは、船は、理想は――。
◇
『ハァ、ハァっ……ダメ、撃つとフィンに当たっちゃう』
『まったく追いつけねえ……なんなんだコイツら……』
援護射撃、それすらも困難なほど、蒼と紅のGSの機動は苛烈だった。
二機は頻繁に位置を入れ替え、着かず離れずの距離で、斬り合い、撃ち合う。
まるで予定された演舞のように、それらは鮮やかで、計算的な動きだった。
海原が大きく荒れ、互いの得物が交差し、眩い火線が互いの装甲を掠る。
「……早い」
『主殿、右じゃっ!』
「わかっている」
この“舞”の中で、敗者という役割を押し付けられていたのはフィンの方だ。
彼は、追われるような動きのまま、敵の連撃を凌ぐことに終始している。
『――この程度のものか、アーキタイプ』
『敵機から受信、割り込み回線じゃ!』
「秘匿回線にしろ。セレジア以外に聞かせるな」
『……? あ、あい分かった、主殿……!』
ふいにコクピットに響いたのは、胃の底を冷やすような声色だった。
短波通信による通話、その発信元は――眼前の〈アラクネ〉のパイロットだ。
太刀とサブマシンガンを構えた姿勢のまま、相手は静かに言葉を続ける。
『本気を出せ。お前を、私の性能テストに使えと言われてる』
「ゼニットの被験体か。であれば、やはり俺の排除対象だ。消えろ」
『消えるのはお前だ。旧式のお前とは違う、私は実用モデルだ』
やはり敵パイロットは、ゼニット・コンツェルンの強化兵士だった。
ATS社のオクタヴィア号を襲撃したときの個体より、性能は更に上か。
「――セレジア、敵のパイロットはインプラント入りだ」
『狙いは貴方……どうも見逃してくれそうにないですわね』
「逃げはしない。プロジェクトの産物は、ここで始末する」
フィンを狙う太刀型の高周波ブレードの切っ先が、ぎらりと光る。
『お前に、この“シュルプリーズ”を超えることはできない』
「それが貴様の名前か、ゼニットの強化兵士」
『割り与えられた符号だ。名前などない。私にも、お前にもッ!』
「認識を改めろ……お前とは違う、俺には名前がある……!」
〈ブルー・ブッチャー〉と〈アラクネ〉。対峙する二機は加速を続けた。
両者は互いの銃撃を浴びる。それぞれが太刀で、装甲で弾を受け止めた。
得物が激突し、火花が弾けた。鍔迫り合いのまま、二機は射撃を開始。
さながら、飢えた獣同士が、その身を喰い合うかのような激しさだった。
ポンプの唸り声が増す。銃口を払い除けて、互いの刃を押し付け合う。
「……くっ!」
機体胴体部への、コクピットへの蹴りが炸裂。フィンは衝撃を堪える。
一歩せり出すように深紅の“シュルプリーズ”が距離を詰めた。
太刀が振るわれる。咄嗟にナイフを突き出して受け流す。
超振動を起こす二振りの刃がぶつかるたび、ひどく耳障りな音が立つ。
『この程度では、私の性能の証明にはならんぞ。アーキタイプ』
敵の攻勢は終わらない。弾かれた切っ先を返し、左から右への袈裟斬りに繋げる。
それが避けられたとみれば、左肩の装甲を〈ブルー・ブッチャー〉のボディに叩き付け、タックルで姿勢を崩す。次の瞬間には、相手の背中がこちらを向いていた。
隙ではなかった。逆手に構えられた太刀が、脇腹の間を通って突き出される。
「――しッ」
フィンは、死角からの一撃にアサルト・ライフルを叩き付けた。
無骨な銃身が大きく引き裂け、機体の身代わりとなって散る。
『ほう。だが……ッ!』
『主殿……ッ!?』
逸れたと思った切っ先が〈ブルー・ブッチャー〉の喉元へ戻ってくる。
〈アラクネ〉の有り余る膂力が、無理やり太刀筋を修正したのだ。
装甲の表面を削って、火花を跳ね散らかしながら、鋭い刃が迫り――。
そこで静止した。ふいに〈アラクネ〉が踵を返す。
『…………な、なんじゃ?』
『目標達成。テストを終了する』
「……ッ」
シュルプリーズは言い捨てると、太刀を翻し、海面を勢いよく斬りつけた。
霧が噴き出し、視界を全て覆いつくす。フィンは即座に距離を取った。
ややあって、霧が晴れていく。その空間に、既に〈アラクネ〉の姿はなかった。
『き、消えやがった』
『いったい、なんだったのサ……』
完全なる傍観者と化していたジョニーらが、ようやく我を取り戻す。
『主殿。見逃された、ようじゃな』
「――……ッ」
カティアの呟くような声に、フィンは答えなかった。
何の感情も表さない、いつもの顔のままだ。
暗い眼は、ただ虚ろにモニターを見つめている。
『……ジャミングが晴れていくわ。皆、ひとまず帰投して頂戴』
セレジアの声を聞いて、ナイアが機体を旋回させたが、フィンは機体を止めたまま静止を続けている。
いつもの返答、無感情な「了解」の言葉が返ってこないことに、セレジアの心へ不安にそよいだ。




