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ivy  作者: 雨上紡佳
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某 教室

 高校生。中学の時期待した、キラキラした生活。初めて高校の制服に袖を通して、学校指定のベストにきっちりした丈のスカート。どこかまだ着られているような気がするこの制服。入学式の時に初めてみる顔の面々。入学式が終わって初めてクラスメイトと顔を合わせる時間。体育館から教室に移動する際。この時直感で、この人かっこいいかも、思った。その彼はすぐに目の前から消えていなくなった。

 私の苦手分野、入学時恒例の、自己紹介タイム。私は自分の強みとかも分からないし、得意なこともあまりなかった。人の自己紹介を似せて答えようかな、とかくだらないことをぼうっと考えていた。そんなことも束の間、自分の苗字は早く順番が回ってきてしまった。教卓の横に立ち、自己紹介を始めた。「うづき おとです。ぬいぐるみとかマスコットが好きです。得意な教科は数学でした。よろしくお願いします。」平凡だ。特に変哲もない普通そのもの。こんなので友達ができるなら世話ないな、とか自分の自己紹介に少し反省。私が席に戻ったその時、一際「可愛い」が似合う女の子が立ち上がった。「うらのむゆりです。可愛いものとかが好きです。得意な教科は国語でした。よろしくお願いします!」女の私も一目惚れを起こしそうなほど可愛かった。髪は三つ編みに結ってあって、まつ毛が長く、リップはほんのり桜色だった。自己紹介を終えたむゆりは綺麗に背筋を伸ばして歩いていて、スカートを曲線に沿ってなぞり席についた。心を打たれた後、また数人、平凡な顔ぶれで流し見ていた。「次!……柊、早く前に出ろー。」先生の声が響いた後、少し笑いが起きた。「すんませんー!今行く!」と後ろから勢いよく人影が出てきた。移動中のあの時、密かにかっこいいと思っていたあの人が目の前に現れた。「えっと、柊 透和って言います、こうやって書くからみんな覚えて!」柊は、慣れない黒板にチョークで名前を書いた。慣れない分少し字が歪んでいた。でも私にはそんなことよりも、かっこいいと思った人が目の前にいる事実を受け止めるのに必死だった。多分私はその時柊に釘付けだったのだろう。彼はニコニコしながら自己紹介を続けた。「好きなのは、ご飯?ゲーム?割となんでも!得意な教科は……無いかも。」バツの悪そうな顔でヘラヘラ笑う柊。「クラスのみんなと必ず1回は話すから、よろしくー!」この時私は想像するより明確な高鳴りを感じていた。自分の中でのイケメン認定を潜り抜けた人が、一度は話してくれる。彼の言葉を間に受けて嬉しくなっていた。嬉しさのあまり、そのあとの自己紹介をしている人たちのことは、ほとんど聞き流していた。

 自己紹介も終わり、たくさんの教科書を目の前に名前を記入する時間。後先生に呼ばれたら、廊下で面談。あまりの教材の多さにたじろぎながら、最初はフルネームを記入していた。卯月は苗字の都合上、比較的早く面談に呼ばれる苗字のため、数冊書き終えて次の教材に苗字を記入した後すぐ、先生に呼ばれた。先生に呼ばれた内容は、緊急時の連絡先と住所、あとは進路だった。私は、高校卒業後は、どこでもいいから大学か、専門学校に行くつもりだ、と答えた。けれども、そんなのは真っ赤な嘘だ。高校一年生の私に進路を聞かれても、思い描く理想の将来像などなかった。足早にこの先を決めろだとか、そういう言い方に聞こえて、少しイラついた。席に戻り、名前を書き込もうと思っていたが、やはり量が多く、先生からの先ほどの言葉もあり、教材に対して、怒りと不安を押し付けるように苗字のみを記入して、誰よりも早く書き終えた。先生との面談も終わり、教材に名前を書くのも終わり、時間を持て余していた。一息ついて、教室を俯瞰して見てみた。やはりかっこいいと思った彼以外は、何か冴えなくて、さっき自己紹介をしたはずなのに名前も思い出せない。私もその一人なのだろうと急に自己嫌悪に陥った。よくいう暗いオーラを纏った感じ。前髪も垂らして顔を見られないように自分の椅子に小さくなって座っていた。「……い、おーい。」背後から声がした。声の主を追いかけるように目を向けた。自分の目元が前髪で隠れていたのに、誰かわかった。あのイケメンだ。目があったすぐに目線を逸らしてしまった。「ユウレイじゃん。はは。」と乾いた笑いで嬉しくもない言葉をかけられた。「クラス全員と話す予定。一人目は、君だったね。ねえ、早速で悪いんだけど、ネームペン借りていい?忘れちゃってさあ。」嫌いだ。人をなんだと思っているんだコイツ。駒みたいに扱う気なのかもしれない。無愛想な態度をあからさまにとり、ネームペンを差し出した。「ありが……。」言い終わる前にペンをひょいと上にあげた。「な……「100円。」動揺する彼に値段を言い渡した。「このペン100円で売るよ。どうせ回して使うんでしょ。」バツが悪そうな顔の男が数人、揃いも揃って気まずそうな顔をしていた。イケメンな彼は、なぜか気まずそうでもなく、どちらかと言えば口角は上がっていた。ポケットから150円出して、私の手を優しく開いてお金を置いた。「ワイロ。」と小声で呟きお金を置いた手をゆっくり握り込むように包んでくれた。あまりの突拍子もない行動に私は、さっきまで一枚上手でいたつもりが丸め込まれていることに気づかなかった。ただこの人間は、普通じゃないことだけがわかっていた。さっきまで手元にあったネームペンはするりと手から抜け、茫然としていた。一頻り終わって、心此処にあらず、の状態で自分の机に向かった。後ろ側は、ペンをゲットした彼とその周りの人で盛り上がっていた。

 気がついたら全員の面談が終わり、時計も11時45分。もうお昼の時間だった。今日はまだ本格的な授業もない為、このまま帰れる日だった。お腹も空いたしコンビニでちょっと何か買って帰ってもいいかなと思いながら帰る支度をしていた。支度を済ませて、さあ行こう、とバッグのチャックを閉めて前を向いた。少し離れたところに女子たちが数人、こちらを向いて何かヒソヒソ話していた。直接聞く勇気もないし前を通る時に少し聞こえたらいいか、とバッグを持ち教室を出ようとした。ちゃっかり聞こうと女子たちの目の前を通り過ぎる時、明らかに先ほどより大きな声で聞こえた。「なんか、早速男?捕まえた感じ?やだー。」明らかに私に向けた言葉だと思った。こっそり聞こうと思ったこちら側の意図を逆手に取られた気持ちだ。恥ずかしい気持ちや、過去の態度、思い返していいものじゃない思い出に塗り替えられた感覚。確実にこのクラスで浮いてしまった。現実から逃げようと教室の扉を足早に駆けた。早くこの空間から逃げたかった。昇降口に向かって周りに目もくれず早歩きを続けた。靴箱を開いた時、反対側の靴箱から声が聞こえた。「あんなに言わなくても。あなたはあの男子になめられたくなかったんでしょ。私はあなたのこと、全部はわからないけれど……少し似てるわ、私に。」話し終わると、彼女は私の横にいた。気がついたら、いた。というより、その言葉に耳を傾けて私は時が止まったように動けていなかった。彼女は、一際可愛いと思ったあの彼女だった。「私、浦野舞揺。あなたは?」数時間前に聞いた名前と一致した。自己紹介は既に終わっているはずだったのに、もう一度名前を言うことに少しためらった。「卯月、乙。」少しつまった声を出して名前を言った。彼女はそんなことも全く気にせず「乙ちゃんね、舞揺でいいよ。同じクラスでしょ?私も何かあのクラスと馴染めないし、ここは一旦協力してこの一年は乗り切ろう。ね、悪い話じゃないでしょ?」確かに悪くなかった。既に浮いている私と、協力という形でも一緒にいてくれるという、ちょっとした約束じみたものだ。けれども私は、言い返した。信頼のかけらもない今の私たちに、求められそうなものは特にないことも明らかだ。「いいの?既に浮いた私で。あなたも巻き込まれるかも。」言い放ったつもりで少しつんけんしすぎたかも、といらぬ心配を他所に彼女は食いかかるように答えた。「舞揺、ね!……いいのよ、乙がいいの。言ったでしょ?私は乙以外の人とは合わない気がしてるの。協力でいいのよ、その先の友達とか、そういうのって初対面で完成しないでしょ。後、乙は私に似てるの。仲良くなれそうとか、適当な事言うつもりもないし、ね?」正直言い訳はもう思いつかない。まあ、そこまで悪い話じゃないし、仕方なく承諾の意味を兼ねて頷いた。彼女は顔を明るくして「ありがとう!これは、私からのプレゼント。可愛いものは正義でしょ!」と、私の髪にゴールドのシンプルなヘアピンをさしてくれた。手で触れてみると、そのヘアピンにはリボンのような装飾がついていた。私には似合わないと思いながら、少し私の中にある乙女心が疼いた。

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