私、愛される予定ではなかったのに
私は完璧な令嬢らしい。
礼儀作法は当然ながら、剣術も魔法も家政も、抜かりない。
社交界では「フロレンズ公爵家の宝石」や「誰も手が届かない才女」と囁かれている。
……正直、笑っちゃうほどの過大評価だ。
だって私は、ただの転生者にすぎないのだから。
十六年前、前世である日本で事故に遭い……目を覚ましたら、この世界の名門公爵家の娘になっていた。
そしていま、誰もが憧れる立場だ。
私は知っている。
この世界の魔法理論が前世の量子場理論に似ていることも、礼儀作法を丸暗記するより論理的に覚えたほうが効率がいいことも。
つまり私は、他人より圧倒的にスタートラインが前だっただけだ。
五歳の頃から日本での記憶があるってのは、チートでしかない。
だから完璧に振る舞えるようになったのも、当たり前といえば当たり前の話ではある。
「アリシア、入りなさい」
父の呼び声に応じて、応接室の扉を開ける。
今日は、客人が来るとだけ聞いていた。
けれどそこにいた人物を見た瞬間──私は一瞬だけ、目を奪われてしまう。
銀色の髪に、深紅の瞳。
背筋を伸ばし、窓辺に佇むその青年は圧倒的な存在感を放っていた。
うわ、めっちゃイケメン──
「こちらの方は、第四王子のオーラ殿下だ」
聞いたことがある。
この世界の『最強の王子』として、よく噂になっている。
剣も魔法も知力も、全てにおいて他を圧倒する孤高の存在だとか。
「お前と縁を結んでくれるかもしれないんだ。まずは二人で、ゆっくり話すといい」
そう告げると、父は部屋から出て行ってしまう。
いや、さすがに説明不足すぎる。
二人になった途端、彼が私に向かって発した最初の言葉は意外すぎるものだった。
「君は、僕の人生に干渉しないでくれれば、それでいい」
……あん?
「邪魔をしないなら、この婚約も拒まない」
……えぇっ、これが第一声とかアリですか?
混乱する私をよそに、オーラ殿下は椅子にも座らず、ただこちらに背を向けて続けた。
「形式上の交際を三年間行う。問題なければ結婚。それでどうだろう?」
「……はい。異論はありません」
私はそう答えた。
完璧な令嬢を装って努めて冷静に。
けれどその瞬間、心の中では思っていた。
──この人、とてつもなく感じ悪いな……。
目が私を見下しているのがわかる。
態度には出さないように、にっこり微笑むのは得意だ。
前世でもよくやっていた。
でも内心はまったく笑ってないから。
「学年は違うが君とは同じ学院だ。見かけても極力話しかけないでくれよ。極力関わりを持たない方がお互いのためだ」
「……そうさせていただきますね」
絶対話しかけないので安心してくださいね。
この最悪の邂逅が、私とオーラ殿下の最初の出会いだった。
◇ ◆ ◇
翌週、私は馬車で学院へと向かっていた。
王都の中心から少し外れた高台にある、王立魔術学院。
貴族の子女を中心に剣と魔法、政治学、文化、礼儀作法までを学ぶ、いわば貴族育成の最高機関である。
私は今年からの入学生で一年生となる。
例の王子はすでに在籍しており、一学年上。
同じ校舎内にはいるが基本は別行動になる。
……それでよかったのかもしれない。
正直、オーラ殿下の第一印象は最悪だった。
美しく整った顔に、鋭い瞳。誰もが息を呑むような外見だったのに、放たれた第一声は『干渉するな』だったのだ。
「まあ、干渉しませんよ。お望み通り」
小さくつぶやいて、窓の外に視線を移す。
この婚約は形式。
学院で三年間の交際を経て、問題がなければ結婚。
王と仲の良い父の約束を果たすためのもの。
私は、邪魔にならないように、控えめの令嬢を演じきればいい。
私はモヤモヤした気持ちのまま、入学の手続きを済ませた。
入学初日、私は学年首席として壇上で名前を呼ばれた。
隣の男子生徒たちがざわめく。
「うわ、本物だ……フロレンズ家のアリシア嬢……」
「完璧って噂、ホントだったんだな」
──そんな噂流れてたんだ……。
SNSがあるわけでもないのに、やはり人の噂の飛散力はすごい。
私は、凛とした表情を崩さない。
転生者として、私はこの世界に慣れすぎた。
でも同時に、実力を見せすぎてはいけないという自制もある。
前世の知識で優位に立てても、それを鼻にかけたら疎まれるだけ。
ここでは、あくまでちょっと努力しただけの才女でいこう。
控えめに。静かに。でも着実に。
そうやって、王子の邪魔にならないように過ごす。
私としても王子の妻になれば、良いことが多い。
もう愛とか恋とかそういうのは割り切って、生き延びることを優先する。
ここは日本じゃない。
ちょっとしたことで命落としかねないのだから。
などと心を決めて数日を過ごした。
特に問題はなかったのだが、週末に想定外の出来事が起こる。
昼休みに共有ラウンジで軽く読書していたところに、なぜか彼が現れたのだ。
「……何をしている」
「えっ……読書ですが」
オーラ殿下。
一年上の先輩である彼が、なぜか私のテーブルをじっと見下ろしていた。
学年も違うし、極力関わらない約束だったはずでは?
私はそっと本を伏せて席を立ち、軽く一礼する。
「それでは、私はこれで」
立ち去ろうとした、そのとき。
「待て。君に聞きたいことがある」
ぴたりと足が止まる。
「なぜ、君は掃除をしていた?」
「……はい?」
「今朝、廊下の雑巾がけをしていたな。何故、令嬢である君があんなことをする必要がある?」
……見られていたらしい。
朝早く到着してやることがないのと、掃除係がサボっているせいか、廊下がとても汚かった。
そこで行動してみたら、なんか楽しくなってピカピカにしてしまったのだ。
「ぜんせ……いえ、私の家では『掃除は心を整える』と言われていました。感情のコントロールや集中力向上に効果があると」
「……感情の、制御……?」
オーラ殿下の目が一瞬だけ揺れた。
ほんのわずか。
けれど、その変化を私は見逃さなかった。
なんかこの人、そういうことに悩んでいそうな気がする。
「瞑想という習慣もありますよ。心を落ち着け、脳に変化を起こし、注意力や論理的思考力が高まるらしいです。お悩みでしたら試してみるのもありかと」
「なぜ、俺が悩んでいると思った?」
「……ええと、なんというか、反応でそう感じました。自分事として捉えているような。違っていたらすみません」
彼はしばらく黙っていた。
そして、ふっと顔を背けた。
「謝る必要はないさ。それにしても、変わった考え方だな」
「はい。でも、私はそういうものに随分と助けられてきました」
「そうか。……集中力向上に、掃除や瞑想が効果あると」
ブツブツとなにかを呟きながら、彼はその場を去った。
私は椅子に戻り、本を開きながら思う。
干渉しない生活って、向こうの方が破り始めてるじゃない。
あっちは話しかけても自由だが、私は勝手に声をかけるなってことだろうか。
そりゃ身分は違うけど、さすがにわがまま過ぎる気もするなー。
次からは関わらないようにしよう――
――そのはずだったのに、オーラ殿下は毎日のように私の視界に現れるようになった。
「君、また廊下を拭いていたな」
学院の中庭で花に水をやっていたら、背後からそんな声が聞こえた。
「えぇ、まあ……朝は掃除から始めると気持ちがいいので」
返す私の声は、自然と落ち着いていた。
何度か顔を合わせるうちに、王子との会話にも少し慣れてきてしまった。
けれど、今日もまた来たのか……という驚きは、正直ある。
「俺は最近、魔法学の成績が落ちていてな。集中力が足りてないと指摘されていた。そこで瞑想を始めたんだが、かなり改善されてな」
この人、案外思い込みが激しいのだろうか?
瞑想ってそんなすぐには効果が出ないことが多い。
普通、二ヶ月くらいは期間が必要だったりする。
でも気分良さそうなので、指摘しないでおこう。
「殿下のお役に立てたようで光栄です」
なので、そろそろ帰っていただけると嬉しいのですが……。
オーラは興味深そうに私の横顔を眺めてくる。
「君の家にもメイドくらいいるだろう? それでも自分で掃除したりするのか?」
「はい。掃除をして、部屋で香を焚いたりします。リラックスできて意外とオススメですよ」
オーラ殿下は一瞬だけ黙り込む。
そして、ぽつりと漏らす。
「最近、女子がうるさい。俺の容姿や地位だけを見て付き合いたいようだ。君もそういうタイプか」
「はい? 地位や容姿は確かに素晴らしいと思いますが……それだけです。お付き合いも別に私が望んだわけでもないですし」
まずいっ。
あまりにも失礼だったかもしれない。
キレてないか急いで顔を確認すると、怒るどころかちょっと嬉しそうにしている。
なんでッ!?
もうこの人がさっぱりわからない……。
「……君は、どうしてそんなに整っているんだ」
「整う? といわれましても」
「言葉も、態度も、動きも。まるで何かを見透かした後の人間のようだ」
その言葉に、私は内心ひやりとした。
図星だからだ。
私は前世を持っている。
本来の年齢は余裕でオーラの倍以上あるわけで。
そりゃ十七歳から見たら、おばさんのメンタルはかなりのものに見えるだろう。
さらに一度は死を経験してもいる。
だからこそ無駄を削ぎ落とし、合理的な判断を優先できる。
それを整っていると表現されるのは、なんとも皮肉な気分だった。
私は微笑んで、静かに返した。
「……習慣です。何度も繰り返せば、自然とそうなるものですよ」
オーラ殿下はその言葉をしばらく噛み締めるように沈黙し、やがてくるりと踵を返す。
「勉強になった。失礼」
今日も私からは干渉してませんよね?
なんかあの人、思ったよりガンガン絡んでくるのなんなの。
彼は少しずつ、私に慣れてきてしまっている気もする。
それから、王子の行動は次第に不可解なものになっていった。
休み時間に教室で本を読んでいると──教室がザワザワとし始める。
特に女性の黄色い声が気になる。
なにより視線を感じて顔を上げると、教室のドアの外に立つ人影。
……オーラ殿下?
じっと、こちらを見ていた。
ドアに手をかけたまま、話しかけてくるでもなく、ただ凝視するように見ている。
一体あなたは、なにがしたいの?
……目が合ったからには無視するわけにはいかない。
私は小さく会釈をすると、王子は少し驚いたような顔をして、目を左右に泳がせる。
それから頷いたか頷いてないか微妙なくらいだけ顎を下げ、そのまま立ち去っていった。
その一連の動きを見ていたクラスメイトが、そわそわと耳打ちしてくる。
「ねぇ、アリシアさん。もしかして王子と付き合ってるの?」
この学院は――少なくとも建前上は――身分を持ち込まない。
だから敬称もテキトーで良かったりするし、態度も王子だからといって必要以上に畏まることはない。
実際は、それなりの敬意は当然生じるけれど。
「ええと、そういうわけでは……」
「でもさー! 最近いつも中庭で二人で話してるでしょ?」
あれは王子が勝手にきて、よくわからない話をして帰るだけなんですぅ。
「あれはちょっとした世間話で」
苦笑いしながら否定するが、周囲の目は完全にそういう目になってしまっていた。
噂になっていたらしい。
王子と公爵令嬢なので話題にはもってこいというわけだ。
……まずい。これはまずい。
周囲から注目されて生活しにくくなるのは勘弁してほしい。
昼休みに入ると、人目の逃れるように私は一人で図書室にいた。
読みかけの本があと少しなので、一気にラストまでいきたい。
けれど扉が開く音がして、ふと顔を上げると──
「やっぱりいたか」
またしても、オーラ殿下の登場である。
顔は美形でかっこいいのに、なんか恐怖めいたものを感じる。
この人、絶対にストーカーの気質あるでしょ!
干渉の件、自分から言い出したのを思い出してくださいね。
なんでそんなに寄ってくるんですか? なんて口が裂けても言えないが。
「……どうかされましたか?」
「うちのクラスで女子どもが話していた。男を見てあいつはアリ、ナシと」
「失礼ですよね、そういうの」
「でも人間だし、内心はそういうのあるだろう?」
そりゃあるけれど、口には普通出さない。
みんな若いから、しょうがないのだろう。
「強いていうなら、クラスで絶対にないと思う男子は誰だ?」
「ですから……」
「わかってるさ。でも強いていうならだ。二人だけの秘密だから、言ってみてくれ」
そもそもクラスの男子に興味があまりないのだが、なんとか顔や態度を思い出す。
「強いて言うなら……バルトくんですかね」
黒縁眼鏡で気弱な性格の男子。口数も少なく、すぐに謝る癖がある。
バルトくんには申し訳ないが、もう直感でテキトーに答えている。
「なるほど」
彼はそれだけ言うと、静かに図書室を去っていった。
なんだったんだろう。
天才は奇人と紙一重みたいなことをいうけど、こっちの世界も同じなのかもしれない。
◇ ◆ ◇
「おい、君。名前は?」
静まり返る教室で、オーラは一人ずつ男子に名を尋ねていく。
目当ての名前が出ないと、次の男子に声をかけるという生徒たちには奇妙なムーブをしている。
「ひゃっ……は、はいっ!? バ、バルト・サヴァロンですっ!」
「お前がバルトか。彼女……アリシアをデートに誘ったりしていないだろうな?」
「そ、そんな恐れ多いこと……! とんでもないです!」
「そうか。なら、君は密偵係だ」
「えぇっ!?」
「彼女に近づく男子がいたら報告しろ。動きが怪しい者も」
「……そんな、僕がですかっ?」
「君になら安心して任せられる。君は選ばれなかった――じゃなくて、選ばれし者だ」
「…………」
「悪いようにはしない。君の将来にもプラスに繋がる」
「かしこまりましたぁ……!」
そうして、密かに監視の輪が生まれたことを、当のアリシアはまだ知らない。
◇ ◆ ◇
「アリシアさん、今週って空いてますか? 実は演劇のチケットが余分に手に入って」
ええと、グロードだったかしら。
短髪で背の高い男子がチケットを見せながら、遠回しのデートに誘ってきた。
正直、演劇はかなり興味ある。
けれど、ここで誘いに乗ったら尻軽女確定なので残念そうに首を横に振る。
「ごめんなさい。私、そういうのは苦手で」
「そっか……。また誘うよ」
そう言って彼は席に戻った。
一応、王子との噂があるってのに、度胸あるね。
彼は自信家なのだろう。
しばらくすると、例のごとくオーラ殿下がやってくる。
私のところにくると思いきや、なぜかバルトに話しかけていた。
殿下は強ばった顔をしたかと思えば、今度はグロードを教室から連れ出す。
なにをしているのか不明だけど、今日は目的が私ではなかったらしい。
ホッ。
なんて安堵していたのも束の間。
戻ってきたオーラは私の前の席に座る。
「今週末、演劇にいかないか」
王子が持っていたチケットは、さっきの彼が持っていたものと全く同じだった。
たまたま同じものを持っていたか、彼から買い取ったのか。
その辺は不明だが、私としてはかなり行きたい。
でもそういうのは苦手って言った手前、二つ返事を返すことができない。
迷っている私の手に、彼は強引にチケットを握らせてくる。
「いくぞ。サボリは無しだ」
そう言って、彼は教室から出て行った。
まぁ、楽しみといえば楽しみだけど……。
◇ ◆ ◇
週末の演劇は最高だった。
悲劇だけど、愛の大切さを確認できる内容で、劇中に何度も涙を流してしまった。
こんなに泣いて恥ずかしいと横を向いたら、殿下が私の三倍は涙を流していてビビった。
「ずびぃだね、ばいっでよ」
なんて意味不明な言葉を話していたので、とりあえず頷いておいた。
その後は美味しいご飯を食べ、夕方の六時には私の家まで送り届けてくれた。
日本の社会人の感覚だと早いけど、こちらでは夜になると凶悪事件も増える。
彼の紳士的な面が見れて、私の中の評価は結構上がった。
週明けは気分が良い状態で登校したのだが、どうやらそれは続かなそうだ。
正門に到着した瞬間、私は異変を感じた。
ざわめく声。動かない生徒たち。
いつもなら笑い声や談笑であふれる朝の登校路に、重い沈黙と、緊張した空気が満ちていた。
なにがあったの?
門のすぐ内側、石畳の広場の中央に、生徒たちが輪になって集まっていた。
顔を青くし、誰もが口をつぐんでいる。
私は近くの女子に声をかけた。
「ごきげんよう。何かあったのかしら?」
その子は震えた声で答えた。
「……死んでるの。女生徒が。あの花壇のそばで……朝、先に来てた子が見つけたって……」
全身が冷えた。
私がいつも手入れをしている花壇のそば──視線を向ければ、白い布がかけられた人影と、それを囲むように立つ教師たちの姿が見える。
「えっ……」
飛び降りだろうか?
それとも病死?
膝が震えているのは、自分が一番よくわかっていた。
すぐに鐘が鳴り響き、学院の理事長が皆の前に立った。
「本日の授業は、事件の関係で中止とする。生徒の皆さんは、すぐに帰宅すること」
動揺が再び広がる。
事件ということは、殺人だろうか。
近くにいた生徒たちが死んだ女子生徒の名を呼んでいた。
親友というほどではないが、私は何回も話したことがある生徒だった。
いい友達になれそうな気がしていた子。
知っている女子の死に、ただ立ち尽くす。
そこに現れたのは、見慣れた銀髪だった。
「アリシア。帰るぞ」
オーラ殿下だ。
彼は私の腕を自然に取ると、抗議の隙も与えず歩き出した。
「い、いえ、私ひとりで──」
「そう言うな」
拒否する気力がなかった。
というより、彼の手のひらの温かさに、かすかに安心している自分がいた。
馬車に乗って移動する。
カーテンは閉ざされ、光はわずか。
車輪の振動だけが静かに響く空間で、私はぼんやりと膝の上を見ていた。
「私のクラスメイトでした。死因はわかりますか?」
低く、オーラ殿下がつぶやく。
「体のあちこちに刺傷があった。どれが致命傷かわからないほど酷い」
その無感情な言葉が、却って現実味を与えた。
「犯人は……」
「まだ不明だ。だが、教師か生徒である可能性が高い」
「え!? どうしてですか?」
「校門の魔力結界が、正常に機能していた。外部から侵入した痕跡はなかったそうだ」
学院は不審者が入れないように、基本的には結界を張っている。
私たちのような生徒は普通に入れるが、大人は入るのに認証がいる。
つまり犯人は、今も学院内にいるかもしれない。
「問題は、3分の1と書かれた紙切れが彼女の近くに落ちていたことだ」
オーラ殿下が険しい表情を浮かべた。
私の中で、何かがひやりと冷えた。
その日、家に戻った私は、一日中何も手につかなかった。
殺人事件。
この世界にも当然犯罪はある。
むしろ日本よりずっと治安が悪い。
けれど学院内で、しかも生徒が殺されるなんて想像もしていなかった。
私、何かできただろうか……。
もどかしさと無力感が混ざる。
何度も話したことのあるあの子の顔を思い出すと、胸が苦しくなった。
それでも私は、翌日から少しずつ学院内の様子を観察するようにした。
先生方は見回りを増やしていた。
生徒たちはおびえ、女子は集団で行動するようになった。
誰もが警戒するのも当然だ。
3分の1の紙が置かれていたことは、もうすでに知れ渡っている。
最悪、あと二人は犠牲者が出るかもしれないのだ。
――その最悪は数日後だった――
二人目の被害者は、またしても女子生徒。
今度は、図書室の裏手で発見された。
何十箇所も刺されており、強い恨みの動機が見え隠れしていたという。
そして、現場には3分の2と書かれた紙切れが捨てるように置いてあったという。
私は恐怖に襲われながらも事件のことを整理する。
共通点は、女性、私のクラス、最近私とよく話していたこと。
そう、二人目の子もよく話すようになっていた。
最近、彼氏ができたという話を嬉しそうにしていたのに……。
そういえば、最初の子も似たような話をしていた。
偶然だろうか?
その瞬間、何かが私の中でカチリと噛み合った。
私はこの事件を、放っておくわけにはいかない。
授業のあと自室に戻らず、学院内をゆっくり歩いていた。
やはり何か引っかかっていた。
翌日から、私は静かに調べ始めた。
あくまで、噂話の体裁で「怖いですよね最近」などと話しかけながら、
「彼女、どこで倒れてたんですか?」
「その日、誰と話していたかわかります?」
そうやって集まった断片的な情報を、頭の中で繋いでいく。
共通点はあった。
・どちらも、最近恋人ができていた
・どちらも、人と深く関わるよりは個人で行動することを好む子だった
・そして、どちらも死んだ日に──バルト・サヴァロンと言葉を交わしているのが目撃されていた
バルト。
同じ学年の男子で、目立たず、静かで気弱な生徒だ。
以前王子に「絶対にない男子は?」と問われたときに、軽く名前を挙げたことがある。
思い出せば、ふとした瞬間に彼の視線を感じたことがある。
気づけばこちらを見ていて、目が合うと慌てて逸らす、そんな場面が──何度かあった。
気のせいじゃない、かもしれない。
私の中で、輪郭の曖昧だった疑念が、少しずつ形を帯びていく。
◇ ◆ ◇
「事件のことを調べているそうだな。絶対にやめるべきだ」
その日も、私の行動を見ていた者がいた。
オーラ殿下だ。
そういえば、彼の視線が元祖でしたわ。
「どうしても、気になることがありまして」
「君はどこか、ひとりで抱え込む癖があるな」
「放っておくなんてできません!」
返した声は、いつもよりかなり強かった。
オーラ殿下は少し面食らっていたが、怒ったりすることはない。
「友人だったのか?」
「……楽しく会話だってしたんです」
うつむく私を見たオーラ殿下は黙って数歩歩き、隣に並んで肩に優しく手をのせる。
「……必要なら、言え。力は貸す」
その言葉に、私はほんの少しだけ、表情を緩めた。
ありがとうございます、と私は口にした。
「君が困ったとき、助ける魔法をかけよう」
彼が私の前に手を差し出す。
赤い魔力が可視化できるほど漏れ出している。
凄い。
私などとは、次元の異なる魔法の使い手に違いない。
「許可するなら、俺の手を握ってくれ」
「よくわかりませんけど、信じてみます」
私が彼の手を握ると、赤く見えていた魔力が私の手に移ってきては消えた。
「これって、なにをしたんですか?」
「聞くな。俺を信じろ」
「そう言われましても……」
私が抵抗の意志を示そうとするなり、彼は逃げるようにそそくさと移動した。
怪しすぎる。
あの人が犯人だったりして……さすがにないか。
放課後、みんながいなくなるのを待って、私は思い切った行動に出た。
教室で、バルトが座っている席に腰を下ろしてみたのだ。
うちのクラスは席を自由に決めていい。
だからこの席はバルトが望んで選んだ。
静かな場所。奥まった壁際。そこからは、出入口までよく見える。
まるで、誰かを観察する側の席のようだ。
この席に座って、人の行動を見ていたなら──その人物のパターンはすぐに把握できるだろう。
いつ誰が、誰と話し、廊下へ消えていくのか。
たとえば、私の行動さえも──
……気づかれないように、見られていたのかもしれない。
冷たいものが、背筋を撫でた。
その夜、ベッドの中で私は目を閉じながら、ゆっくりと整理していく。
本当にバルトが犯人だろうか?
なんか違う気もしてきた。
あんな気弱そうな男子が、あんな凶悪じみたことをするように思えない。
だとしたら、誰が犯人なんだろう?
王子に相談しようか。
一人で行動するなと言われたし……。
悩みすぎて、一睡もできなかった。
◇ ◆ ◇
静寂に満ちた教室で、私はふと目を覚ました。
……やってしまった。
睡眠不足だったせいもあって、私は午後の授業を完全に居眠りしてしまっていたらしい。
顔を上げた瞬間、時計の短針が5の位置を指しているのを見て、思わず息を呑んだ。
いや、いくらなんでも眠りすぎだよ……。
クラスの皆も優しいから、気を遣って私を起こさなかったのだろう。
当然、教室には誰の声も、気配もない。
日は傾き、窓際の机には長く赤い影が伸びていた。
慌てて荷物をまとめようと立ち上がった──そのとき。
「随分、お疲れだったんですね」
声がした。
視線を巡らせると、教室の最後列。
一人の男子が机に座って、こちらを見ていた。
「……バルト、くん」
私の声は恐怖で震えていた。
彼はにこりと笑った。
けれどその笑顔には、妙な違和感があった。
「君が寝てる間、誰も入ってきませんでしたよ。僕が見張ってましたから」
「……そう。親切にありがとう」
荷物を取る手を、自然に緩めた。
この世界には魔法があり、私も幼い頃から練習して習得している。
攻撃魔法もあり、この距離なら近づかれる前に反撃可能だ。
目を逸らさずに、ほんの少しだけ、後退する。
私の動作に警戒が滲んだことを、彼は察したのだろう。
笑顔のまま、椅子を引いて立ち上がった。
「……バレてるんですね、やっぱり」
「何が、かしら?」
「惚れた女の目は、やっぱりわかっちゃいますよ。僕、そういうのに敏感でね」
教室の空気が変わった。
暖かな夕陽が照らす中、そこだけが冷気に包まれたような錯覚に陥る。
やはり、彼が犯人だったのだろうか。
「怖がらないで。話がしたいだけです」
「別に怖がってなどないわ。話くらい聞きましょう」
「嬉しいです。アリシアさん、君はすごい人ですね。完璧で、頭も良くて、優しくて、誰もが振り向く」
「……嬉しいけど、今その話をする理由は?」
「恋をしたからです」
彼の声色が、少しだけ熱を帯びた。
「一人目に死んだあの子。可愛くて、気が利いて、僕と何回も目が合ったことがあって。恋をしました」
「……」
「でも彼女は、僕の気持ちに気づかないまま……別の男と付き合い始めた」
バルトの笑顔が、少しだけ歪む。
「だから、消えてもらいました。……静かに、綺麗にね」
「……」
「次に好きになったのは、二人目の彼女。読書好きで、おしとやかで。でも、彼女も他の男の話をするようになった」
「……やっぱり、あなたが」
「アリシアさんはわかるかな? 大切な誰かを奪われる気持ち」
「残念ながら、そんな経験はないのよ」
「僕はある。特に最後に好きになった相手――それも今までで一番好きな人が奪われた。……君だよ、アリシアさん」
いつもの気弱なバルトではない。
不敵な笑みを浮かべ、一歩ずつ近寄ってくる。
その足音が、夕暮れの教室にやけに大きく響いた。
「アリシアさんは、僕に微笑み、僕の名前を呼んでくれたよね? 大体の女子は僕を虫けらみたいに見るのに、君は本当に違かった」
「誰にでも、そうしているだけよ」
「僕は夢を見た。君と一緒になる夢を。身分が違っても結ばれることはある。恋は奇跡だって起こせる。そうだろう?」
……ぞっとした、という言葉では表現しきれない。
背筋に一万匹の毛虫が這っているような不快感さえ覚える。
彼の中には、恋という名の身勝手な欲望が渦巻いているだけだ。
バルトは悲しそうに肩を落とす。
「最悪なことに、君は王子を選んだ。あのオーラ・ヴィオレストを!」
そこにあったのは、妬みでも怒りでもなく、狂気だった。
「君は権力に飛びついた! 僕ではなく上を見た! だから……僕は、決めたんです」
「やめなさい、バルト。あなたは間違っている」
「大好きな君を、僕のものにする。――永遠に」
飢えたように、じっとりと私の全身を見ていた。
静かな怒り。静かな執着。
微笑んでいるくせに、そこに人間らしい理性はなかった。
私はゆっくりと後ずさる。
教室のドアは、彼の背後。
窓も完全に閉められている。
私は静かに集中して、体内の魔力を練り上げる。
「君を傷つけるつもりなんてなかったんです。最初はね」
バルトの手の中で、刃渡り二十センチは超えるナイフが光を弾いた。
私は、机を挟んで後ろへ下がる。
「いい加減にして」
「嫌です。君が僕以外の誰かと結ばれるなんて、耐えられない」
その時、彼の目がにわかに狂気の光を増した。
私は魔法を撃つ覚悟を決めて、右手に魔力を集中させる。
この距離、この状況でも、一撃で仕留めることは十分に可能──――
魔力が、固まった。
まったく撃てない。
おかしいのは腕も、肩も、脚もだ。
全身がまるで石になったように固まっていた。
「ッ!?」
金縛り? いや、違う。
下だ──
床を見る。
机の下、床板の影に、複雑な紋様が淡く浮かび上がっていた。
「君を起こさないように描くのは、大変だったよ」
やられた……。
魔法を発動しようとした瞬間に、対象者を一定時間拘束する魔法陣だった。
バルトが甲高い声で哄笑する。
勝利の確信があるのだ。
「しばらくは抵抗もできませんよ」
動かない。逃げられない。声も、届かない。
バルトがナイフを持って、ゆっくりと近づいてくる。
「ああ……これでぇ……君は永遠に僕のものだ」
笑みを浮かべながら、彼は高く掲げたナイフを振り下ろした。
──ゴッ、と私の首の肉にナイフが刺さる。
痛みや圧迫感が、あった。
ナイフは首元にグッと押し込まれる。
私の首から柄が出ているのがわかる。
刃は全く見えない。
あんなに長かったそれが完全に入っていた。
死は免れないだろう。
視界が白く霞む。
肺が潰れたのか、息がうまく吸えない。
──ああ、私は、また死ぬんだ。
今度はこんな死に方か……。
不思議と涙は出なかった。
ただ、意識がふっと遠ざかる。
オーラ殿下……ごめんなさい……。
「――あれ?」
バルトの様子がおかしい。
声が震えている。
「な、なぜ、血が、出ないのですか?」
彼がナイフを引き抜く。私の体から。
ナイフの刃は──そこにはなかった。
柄だけを残して、肝心の刃の部分が、根本から消えていた。
違う、刃の部分は空中に不自然に浮かんでいる。
先ほど、バルトがナイフを振り上げた位置だ。
その時に、根本から折れて刃だけその場に留まったということ?
「どういう現象ですか!?」
異変に気づいてバルトの呼吸が荒れる。
バルトが一歩後ずさった、そのとき──
教室の扉が派手に蹴り破られた。
「アリシア!!」
全身に真っ赤な魔力を纏った、銀の王子が突風のように教室に現れた。
その瞳には、殺気と怒りと、そして……焦りが混ざっていた。
「どうして王子が!?」
バルトが振り返った瞬間、その足元に魔法の赤い矢が突き刺さった。
轟――
矢が破裂して爆音がしたかと思うや、その衝撃でバルトの足首が吹き飛び、壁に叩きつけられる。
「ぐァアアアッ!!」
足首を失ったバルトは床に転がり、芋虫のように激しく暴れる。
我に戻ったのか、すぐに片足で立ち上がろうとする。
が、それすらも許されなかった。
オーラは寸分の迷いもなく、指先を鳴らす。
空気が裂け、第二波の魔力が炸裂する。
教室の床に魔力の鎖が幾つも走り、バルトの体に何重にも巻き付き、完璧に拘束した。
「貴様ごとき殺すのは容易いが、まずは裁きを受けろ」
その声は、氷より冷たく、雷よりも容赦なかった。
「ア、アリシアァァ――!」
発作的に私のことを思い出したようで、オーラ殿下は取り乱しながら駆け寄ってくる。
「本当に危なかった! よかった、生きててよかった!」
オーラ殿下は今まで見たことないくらい喜んでいる。
いや、安堵しているのだ。
金縛りが解けた私の体は、支えを失ったように崩れた。
私は咄嗟に、彼にしがみついていた。
ほとんど無意識だった。
足が震えて、声も出せなくて、怖くて。
「安心しろ。もう、大丈夫だ」
彼の腕が、私の背にまわる。
優しくて、でも力強くて。
緊張の糸がほどけた瞬間、頬を伝って涙が流れた。
「……ごめんなさい……、こわくて……っ……!」
「謝るな。君はとても頑張った」
「だって……ほんとうに、死ぬって……思って……」
「もう二度と、そんな思いはさせない」
オーラ殿下の声は震えていた。
この人も、私と同じくらい、怖かったのだとわかった。
◇ ◆ ◇
学院の外へ続く石畳の道を、私たちは並んで歩いた。
事件は収束し、バルトは兵士たちに連行されていった。
教室には結界が張られ、調査と修復が始まっているはずだ。
夕陽はまだ完全には沈んでおらず、幻想的な光が世界を照らしている。
私がナイフが根元から折れて空中にあったことを話すと、彼が魔法で折ったのだと判明した。
どうやったのかと尋ねた。
すると彼は私に手を出すように言うので、その通りにした。
彼が私の手を握る。
すると、私の手から赤い魔力が出ていって彼の元に戻っていく。
「君の目を通して、同じ景色を見ることができる魔法だ」
「そんな魔法まで使えるんですね……」
「もちろん、プライベードは一切覗いていない! そうなりそうになった時は、すぐに遮断していた」
少し慌てたようにするのがおかしくて、私がフフッと小さく笑う。
気を遣いながらも私のことを護ろうとしてくれていたのだ。
私はふと、彼に言った。
「ごめんなさい。私、少し約束を破っているかもしれません」
「どういう意味だ?」
「少し……好きになってしまったみたいなんです」
あんなに必死に助けに来てくれて、好感を抱かないなんて無理だ。
隣を歩く彼が、少しだけ足を止めた。
どこか動揺しているようだったので、私はすぐに言葉を続ける。
「それが自分の判断なのか、ただ命を救われたからなのか……まだ、わかりません」
「……わからなくていい」
彼は地面の一点を見つめながら話す。
「君が少しでもそう感じたなら、それだけで十分なんだ」
彼の横顔が赤く染まっていたのは、夕陽のせいだけではなかったはずだ。
「でも私たちは形式的な恋人ですし……もちろん消すつもりです……」
「──消すな! いや、消さないでほしいんだ」
彼は衝動的に私の手をぎゅっと握った。
それから告白でもするような声で、彼は告げる。
「俺は、君の炎に照らされているのが、好きなんだ」
ここで私は堪えきれなくて、思わず笑ってしまった。
「オーラ殿下はもっとクールな人だと思ってました。そういうセリフ、さらっと言うようになったんですね」
「……君のせいだろ」
ちょっと拗ねたようにする殿下に、私は微笑みかける。
「それなら責任取ってもらいましょうか」
その言葉に、彼は目を丸くしてから、ふっと笑った。
夕暮れの道を、ふたりでゆっくり歩いていく。
もう火を消すつもりはなかった。
◇ ◆ ◇
少し迷ったけれど、私は普通に登校することにした。
昨日の金縛りの影響もないし、バルトは捕まったので学院も平常運転に戻るだろう。
もう安全な場所のはずだから。
とはいえ、通学馬車に揺られている間は不安だった。
襲われた時の恐怖と学校がどうしても結びついてしまって、体がどこか拒否しているような感覚がある。
学校に着いて重い足取りで馬車から下りる。
「──迎えに来た」
「……え?」
学院の門で待っていたのは、銀の髪と瀟洒な制服をまとったオーラ殿下だった。
「この学院、門から校舎まではけっこう遠いからな。途中でまた何かあっても困る」
「いえ、でも、さすがに平気では?」
「今日はたまたま空いてて、暇だしな」
いや、絶対に空けてきたんですよね。
一緒に通学路を歩いている間、彼は完全に私をガードするように立っていた。
まるでボディーガードだ。
特に男子への威嚇が半端じゃない。
すごく頼れるし、感情が不安定だった私にはとてもありがたかった。
でもさすがに剣をチラつかせるのは過剰すぎじゃありませんか、なんて考えて過ごしていたら、昼休みにまた訪れてくる。
女子生徒に囲まれて昼食を食べていたところに、強引な割り込みで彼は入ってきた。
「アリシア。昼は何を食べた?」
「……見てわかりません? 今食べてる最中です」
「栄養バランスがあまり良くないな」
「気にしてくれるのは嬉しいですが……」
「じゃあ、明日から弁当を届けようか」
「それはやりすぎですっ」
クラスメイトたちがヒュ~! とからかう中、王子はどこ吹く風だった。
これだけにおさまらず、極めつけは放課後だ。
先生の挨拶が終わるなり入ってきて、彼は私の横に陣取る。
「帰るんだろ。俺が命を懸けて送ろう」
いやこの王子、簡単に命懸けすぎ!
私なんかより遥かに大切な命だっていうのに。
それに嬉しいけれど、さすがにみんなの前では恥ずかしすぎる。
肩を並べて歩く帰り道、王子は言う。
「君の周りは、俺が全部守る。全部把握する。だから、安心して生きてくれ」
「ええと、それって恋人っていうより、情報管理官では?」
「未来の妃だからだ」
「まだお付き合い期間ですよ。そもそも殿下が形式だけのものにする言ったのでは?」
「……そんなこと、言ったか? あのバカ犯人の攻撃で頭を打って記憶がない」
あなた、バルトから一撃も食らってませんよ。
一方的に倒してましたけど……。
けどすごく可愛いので、そういうことにしておきましょう。
しばらく歩いたところで、オーラ殿下の横顔に緊張が見えた。
不思議がっていると、急に私の肩に手をかけてきて、自分の方に引き寄せる。
これがしたくて緊張していたらしい。
「これからは毎日、こうやって帰ろう。安全だし」
「はいはい」
私は笑いながら、彼の方に体を寄せてみる。




