あまりに興奮して連載設定にしてしまった
私の名前は菱江浪漫、漫画家だ。ちなみに27歳、独身の、加齢臭など無縁のナイスガイである。
ちなみに私の大好物といえば、ウイスキーだ。
ウイスキーの中でもスコッチを好む。
貧乏であるので、しかしブレンデッド・ウイスキーは好まないゆえ、シングルモルトのシーバスリーガルなどをいつも買っている。
とはいえ、いつかはマッカラン──
マッカランの30年物が飲んでみたいのである。
700mlの瓶一本が、軽く80万円はする。
まぁ、60年になると4億ぐらいするらしいので、安いともいえるのだが──
少なくとも、大して売れていない私のごとき漫画家が買える代物ではない。
漫画のネタを探してネットの海を彷徨っていた時、オークション・サイトでそれを見つけた。
『300年寝かせたカレー』
現在500円 残り時間二日
商品は木箱に入れられ、中身の画像は添えられていなかった。
300年寝かせたカレー……それは私の興味を誘った。
ウイスキーは寝かせれば寝かせるほど価値が上がる。
カレーも同じだろう。一晩寝かせればより美味しくなる。
偽物かもしれないと警戒したが、鑑定士による認定書が付属しているという。
一体、どのようなものであろうか。私は興味をそそられまくり、そのページから目が離せなくなった。
『中身は実際に見てのお楽しみ。けっして損はさせません』
そんな売り文句も最高だった。
『当時の将軍、徳川吉宗が、暴れん坊ぶりを発揮して、ヨハン・セバスチャン・バッハのブランデンブルグ協奏曲に乗って、南蛮渡来の【カレー】なる食べ物を御庭番に作らせ、それを壺に詰めて300年寝かせたもの』だとのこと。
なんと浪漫に溢れていることだろう!
これは絶対に、私の漫画のネタにできる!
これを落札すべき人間は、私を置いて他にいない!
そんな使命感のようなものに取り憑かれ、私はそれを一万八千二百三十円で落札したのだった。何、マッカランの60年ものに比べたら安いものだ。
届いた。
ふつうにアマゾンのニヤリ箱に入って、それは私のアパートの部屋に届けられた。
わくわくしながら、震える手で箱を開け、プチプチに包まれた新聞紙を破ると、ネットで見た通りの壺が現れた。
これを開ければ、そいつと出会える。
もったいつけることなく、私は壺の蓋を開けた。
300年も寝かせたら、ウイスキーならうまくなるのだろうが、カレーはもはや食べ物ではなくなっているのではなかろうかと思っていた。
その反面、450年ものの梅干しを美味しく食べたという話を耳にしていたので、カレーにもそんな奇跡があるのでは? と期待している私がいた。
しかして、壺の中から現れたのは──
ウンコであった。
正直、青や白や緑や黒のカビがびっしり生えてるようなものを想像していたが、カビも吸い取るものがなくなったのか。それはただのウンコの化石のように、黒く固まっていた。ただのちいさな乾いたフェレットのウンコのように、ちんまりと壺の底に鎮座していた。
私は激しく興奮した。
一万八千二百三十円払ってよかったと思っていた。
やはりウンコはカレーだったのだと悟った。
あの美味しいカレーは、300年も経つとただのウンコになってしまうのだと、この世の深淵を覗き見た気分になり、高揚した。
私は一人、声を昂らせた。
「カレーは寝かせてもせいぜい一週間! 300年も寝かせては、ウンコになるだけなのだ!」
そして、諦めることができたのだ。
マッカランの30年物を!
そして、私の新作漫画は、特にネタも降りては来なかった。




