表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異説・東方花映塚  作者: 小湊拓也
5/30

第5話 花映宮

この作品は「東方Project」の二次創作です。


原作 上海アリス幻樂団


改変、独自設定その他諸々 小湊拓也

「貴女の正体」

 迷いの竹林の、どこか。

 博麗霊夢と対峙したまま、八雲紫は言った。

「私ずっと、隠し通すつもりでいたのよ。霊夢、貴女自身に対してさえも」

「……でも私、知っちゃった。自分の正体」

 霊夢は、会話には応じてくれた。

「弾幕戦の、精髄……弾幕戦そのもの。それをね、玄爺と紫が人間の形に作り変えてくれた。感謝してる、本当に」

「知ってしまったなら自覚なさい霊夢。貴女はね、この宇宙で最も危険な力そのもの……私情のみで、動いて欲しくはないのよ」

「大げさじゃない?」

「今の貴女に関しては、ね……どれほど大げさに考えても、大げさな話にはならない。私は、そう思うの」

 紫は、霊夢を見据えた。

 揺るぎない。そう感じた。

 今の博麗霊夢は、スキマ妖怪が何を仕掛けようが、決して揺るがぬ輪郭を持っている。

 輪郭を、最初に設定したのは確かに紫だ。

 与えられた輪郭を、強固に育てあげていったのは霊夢自身である。

「霊夢、今の貴女は……たった一人の妖精を救うためだけに、幻想郷を滅ぼしてしまいかねないところがある」

 その輪郭の中に霊夢は、この宇宙で最も危険な力を閉じ込めている。

 閉じ込めたものを霊夢は、思うままに解放する事が出来る。

「博麗の巫女は、それでは駄目。力を持つ者は、力を持つ者の視点に立たなければいけないのよ。個人的な友誼で物事を判断する事は許されない……数多くの生命体に対して霊夢、貴女は生殺与奪の権を握っている。それを忘れては」

「口数、多いわよ。紫」

 霊夢が言った。

 紫は、黙ってしまった。言葉を封じられた。

 微かに、霊夢は笑ったようだ。

「お喋りなら、いくらでもしてあげるけど」

 お祓い棒が揺れる。

 純白の紙垂が、不穏に揺らめく。

「ねえ紫……まさか、とは思うけど。あんた、私が怖いの?」

 会話は、終わりだった。

 紫は、扇子を開いた。鋭利な光弾の嵐が、解放され速射される。

 紫の周囲に、いくつもの裂け目が生じた。

 数カ所で空間が裂け、光が溢れ出す。

 幾条もの、破壊光線だった。

 光弾と光線から成る弾幕が、正面から霊夢を猛襲する。

 直撃。そう見えた。

 光弾の嵐も、光線の豪雨も、霊夢の姿をズタズタに切り裂きながら荒れ狂う。

 ズタズタに切り裂かれたのは、残像だった。

 荒れ狂う弾幕は、全て回避されていた。

 紫が気付いた時には、お祓い棒を喉元に押し当てられていた。

 刃物であったら、斬首されていたところである。

「…………ッッ!」

 紫は息を呑み、霊夢の左右後方でスキマを開いた。

 何カ所かで空間が裂け、そこから破壊光線が溢れ出して霊夢を襲う……

 いや。スキマは、開かなかった。

 空間の裂け目が、開く前に閉ざされていた。

 何枚もの呪符が、空間の裂け目に貼られ、これを閉ざしている。まるで、裂傷に貼られた絆創膏のようにだ。

 紫は逃げようとした。後方に、スキマを開いた。

 開かなかった。

 空間の裂け目には、すでに呪符が貼られている。

「これが」

 お祓い棒を紫に押し当てたまま、霊夢は言った。

「……あんたの作った、博麗の巫女よ。八雲紫」

(違う……)

 お祓い棒に押されるまま、紫はくずおれていた。

 たおやかな膝から、へなへなと崩れ落ち、無様に座り込んでしまう。

(霊夢、私は貴女を……作っては、いない……私は、最初の輪郭を設定しただけ……)

 そうして出来上がった博麗の巫女を、紫は放置した。

 何も、しなかったのだ。

 結果。

 博麗霊夢は、度重なる異変と激戦によって鍛え上げられ、最強の戦闘兵器と化した。

(制御……不能……)

 紫は、立ち上がる事が出来なかった。

(霊夢が……私情で暴走し、幻想郷を危機に陥れた……としても。私では、それを止められない……)

「何という……」

 呆然と、紫は呟いた。

「無様な、賢者……」

「ありがとう」

 耳元で、霊夢が囁く。

 紫は、抱き締められていた。

「私ね、あんたの事……他人を手駒にして自分は何にもしない、後ろで将棋の名人を気取ってるだけの奴だって思ってた。でも違う。幻想郷の賢者・八雲紫は、幻想郷を守らなきゃいけないんだものね」

 倒れそうな紫を、霊夢はしっかりと抱き締めている。

「私、紫を尊敬する。感謝もしてるわ。私という存在を作ってくれて……本当に、ありがとう」

(だから……それは、違うのよ……霊夢……)

 今の自分は、霊夢と、まともに会話する事も出来なくなっている。

 呆然と紫は、それを実感した。

「大丈夫。私に、任せて」

 霊夢の口調は、力強い。

「紫が守ってきた幻想郷……私、たとえ誰かを助けるためであっても犠牲になんか絶対しない。私のやり方で幻想郷、守って見せるから」

 私のやり方。霊夢の、やり方。

 それを否定する資格が、紫には無かった。たった今、失われたのだ。

(私……霊夢に、負けた……一蹴された……)

「じゃあね、行って来るから」

 霊夢が、離れて行く。

「今回の異変……幻想郷の自然がね、おかしくなってる。妖精って連中を助けてやるところから、やっぱり始めるべきだと私は思うの。ま、見ててよね」

 待ちなさい、霊夢。

 その言葉が、紫の喉に詰まった。

 自分の言葉が今、霊夢に対し、いかなる拘束力を持つと言うのか。

 竹林の奥へと歩み去って行く霊夢を、紫は、立ち上がる事も出来ぬまま見送った。

 もう一人、見送っている者がいる。

「幻想郷の賢者を相手に、陰陽玉がいかなる活躍をしてくれるものか。楽しみにしていたのですが」

 声をかけられ、紫はようやく気付いた。

「……出番、ありませんでしたね陰陽玉。まさか、これほど容易く勝敗が決してしまうとは」

「陰陽玉まで使われていたら……私、きっと殺されていた……」

 振り向きもせず、紫は言った。

 何者であるのかは、わかっている。

「私は……博麗の巫女の、独断専行を止められない……無能で非力な賢者……責めて、詰ってくれれば、いいと思うわ……」

「貴女が弱いわけではありませんよ八雲紫くん。博麗霊夢が、よもやあれほどとは……私にとっても予想外、想定外です」

 この冷酷な女神は紫に、もはや口頭注意すらしてくれない。

「何もせず、成り行きを見守るしかない場合というものは、確かにあると思います。私は」

「……私が、ずっと……そうしていたせいで……」

「博麗霊夢が、制御不能の怪物に育ってしまったと?」

 放置する以外に、やりようがあったのか。

 お前に何か、出来たのか。

 そう言われている気分に、紫はなった。

「今の博麗霊夢が、幻想郷に災いをもたらすと。貴女は、本気で思っているのですか?」

「今でなくとも、いずれ……霊夢が、そのようになってからでは遅いのよ……なのに私は……」

「一蹴された。容易く、負けてしまった。ならば、それで良いではありませんか。勝敗は弾幕戦の常……博麗の巫女とて、幾度か敗北を喫しています。戦って全て勝つ事など出来ないのですよ。敗北を認め、次に進みなさい」

 女神が、立ち去って行く。

 紫は、まだ立ち上がる事が出来ない。

 去り行く女神が、言葉だけを残した。

「今の戦い。私には、貴女がまだ本気を出せていないように見えましたよ八雲紫くん。敗れた自分が許せないのであれば……一度くらいは全力を尽くし、戦ってみては?」

 世迷い言だ、と紫は思った。

 自分が本気で戦ったところで、このように無様な事にしかならないのだ。



 ルーミアは言った。

 魔理沙は自分が連れて行く、もうここへは近付けさせないから見逃して欲しい、と。

 霧雨魔理沙は言った。

 退くわけにはいかない。自分は風見幽香と話をしなければならないから、道を空けて欲しい、と。

 もちろん道を空けてくれるはずもなく、向日葵妖精の大部隊は弾幕を放ってくる。

 光弾とレーザーの嵐を、魔理沙はひたすらに回避した。

 縦横無尽の回避飛行を披露し続ける魔法の箒に、魔理沙はしがみついている。

 後ろには、ルーミアがしがみついている。

「人間は!」

 魔理沙の胴体に抱きついたまま、ルーミアは叫んだ。

「容易く死んでしまうのに! 何故こうも死に急ぐのかー!」

「はっはっは。私はな、ここで死ぬつもりはないぜ」

 とりあえず、魔理沙は笑ってみた。

 それでルーミアが安心してくれたのかどうかは、わからない。

 ともかく。光弾やレーザーが、全身あちこちをかすめて走る。

 全方位からの、射撃であった。

 高速飛翔を続ける魔理沙に、向日葵妖精たちは弾幕を乱射しながら追い付いて来る。あるいは、回避方向に回り込んで来る。

「我らの魂、幽香様と共に……」

「我らの戦い、幽香様のために……」

「我らの命、我らの弾幕」

「……全てを、幽香様に」

 前後左右、東西南北。様々な方角から、光弾の嵐が押し寄せる。無数のレーザー光が、宙を切り裂いて来る。

 かわす方向が、あるとしたら上か下。

 迷わず魔理沙は、下を選んだ。

 上は、塞がれる。そう思ったのだ。

 思った通り、何匹もの向日葵妖精が上空で布陣し、魔理沙の上昇を阻んでいる。蓋をする感じにだ。

 空を飛ぶ生き物は、下にいる相手に上から攻撃を仕掛ける。

 猛禽であろうと、妖精であろうと、妖怪であろうと、これはもはや本能のようなものだ。

 急降下を、魔理沙は敢行した。

 地面に激突する寸前で、ほぼ直角に飛行方向をねじ曲げた。真下から、前方へ。

 全身がちぎれそうな、方向転換と急加速。

 魔理沙は耐えた。

 歯を食いしばると、微かに血の味がした。

 上空に布陣した向日葵妖精たちが、豪雨の如く弾幕を降らせて来る。

 地面すれすれの低空飛行をしている魔法の箒に、光弾が、レーザーが、集中し降り注ぐ。

 箒の速度をほとんど落とさず、魔理沙はかわしていった。

 回避すると言うより、速度で振りきった。

 魔理沙に追い付けなかった光弾やレーザーが、ことごとく地面を穿つ。

 大地を削るが如く土煙を蹴立て、低空を驀進する魔法の箒に、魔理沙もルーミアも懸命にしがみついていた。

「い、命知らずは格好いい事じゃないぞー魔理沙!」

「別にな、格好つけてるワケじゃあないぜ!」

 前方、進行方向を、魔理沙は見据えた。

 太陽の畑から生じた、と思われる植物の要塞に今、この箒はまっすぐ向かっている。

 弾幕の花粉を放射する、まさに生ける砲台とも呼べる花々を咲かせた要塞。

 その花々が、大量の光弾を噴出させる。

 極太のレーザー光を、幾本も吐き出している。

 地上に、向かってだ。

「ふふん、思った通り。対空砲火は万全だが」

 太い、大出力のレーザー光が、魔理沙の後方で地面を粉砕した。

「……足元がな、お留守だぜっ」

 巨大にそびえ立つ、植物の要塞。

 弾幕を吐く花々が咲き乱れているのは、上部。空に近い部分である。

 地面、根元に近い部分では、もはや樹木と呼べる茎や蔓が絡み合い、葉が生い茂って、花はほとんど咲いていない。

 魔理沙を迎撃する砲台が、存在しない。

「花は、上の方に咲くもんだからな……彗星! ブレイジングスター!」

 魔力を、魔理沙は全身から放出した。

 星屑にも似た魔力の煌めきが、魔法の箒にしがみつく人妖二名を包み込む。

 魔理沙とルーミアを乗せたまま、魔法の箒は流星、あるいは彗星と化した。

 そして、植物の要塞に激突する。

 星屑をまとう彗星の直撃が、強靱に絡み合う樹木を粉砕した。

 要塞への、突入。

 粉砕の衝撃に全身で耐えながら魔理沙は、しかし突入の勢いが、ゆっくりと消え失せてゆくのを感じていた。

 植物の要塞の、内部。

 中枢からは程遠い、外郭部から少し入り込んだ辺りで、魔法の箒は停止した。

 樹木か、茎か蔓か、あるいは根か、判然としないものが絡み合って巨大な網を成している。

 その強靱な網に、魔理沙もルーミアも箒もろとも、絡め捕られていた。

 ルーミアは、目を回している。

 植物の網に捕われたまま、魔理沙は見回した。

 侵入者を捕えた網の部分、以外では、植物の絡み合いは密ではない。歩行あるいは飛行出来る程度の空間が、あちこちにある。

 明るいのは、どうにかして陽光を採り入れているからか。それとも、どこかに光源があるのか。

 突入によって粉砕され引きちぎられた植物は、すでに再生を完了している。

 外から穿たれた穴が、塞がってしまったという事だ。

 魔理沙もルーミアも、植物の要塞に、突入したと言うより呑み込まれ、捕縛されていた。

「……で。ここからどうするつもりだったの? 考え無しの魔法人間」

 問いかけられた。

 いくらか安産型の人影が、いつの間にか歩行空間に立ち、捕らわれの魔理沙を見上げている。

「中に入っちゃえば、こっちのもの。あとは成り行きでどうにかなる……なぁんて、まさか思ってないわよね? いくら考え無しでも」

「あ、あんまり考え無しとか言うなよ成子」

「大事な事だから何回だって言うわよ、考え無しの霧雨魔理沙」

 矢田寺成美が、溜め息をついた。

「……まさか、中に入られるとはね。考え無し魔法人間を、ちょっと甘く見てたのは事実」

「用件は、言わなくてもわかると思うけど」

 魔理沙は言った。

「……風見幽香に、合わせてくれ。この、花の要塞だかお城だか、造ったのあいつだろ? お前は、脅されて手伝ってる感じか。私が来たからには、もう大丈夫だぜ」

「その有り様で、よく言えるわね。そういうところは尊敬出来なくもないけど」

「ははは……中に入っても全然、こっちのものじゃなかったな」

 笑ってごまかしながら魔理沙は、気付いた。

 音楽。

 微かに、聞こえてくる。

 要塞内部のどこかで、楽曲を奏でている者がいる。

 魔理沙は、耳を傾けた。

 思わずそうしてしまう、心動かす調べ、ではある。

 だが、何かが足りない。

 それを、誰よりも演奏者自身が痛感している。

 足りぬものを懸命に探し求めながら、奏でている。

 そんな楽曲。

 魔理沙は、呟いた。

「…………リリカ・プリズムリバー?」

「あの子も私もね、別に脅されているわけじゃあないのよ。自分の意志で」

 成美が何か教えてくれようとしている、ようであるが、その時。

 植物の網が、ほどけた。

 魔理沙もルーミアも、解放されていた。

 右手で箒を掴み、左腕でルーミアを抱き持ったまま、魔理沙は歩行空間に着地した。

 そして、成美に問いかける。

「……お前が、ほどいてくれたのか?」

「違うわ。そんな権限、私に無いから」

 捕虜を、拘束から解放する。

 この植物の要塞において、そんな権限を持った存在は、一つしかない。独りしか、いない。

「ついて来て、魔理沙。対面許可よ」

 成美が先導し、歩き出した。

「……外道破廉恥妖怪・風見幽香がね。貴女に、会いたがってるから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ