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異説・東方花映塚  作者: 小湊拓也
31/31

第31話 花鬼

この作品は「東方Project」の二次創作です。


原作 上海アリス幻樂団


改変、独自設定その他諸々 小湊拓也

「汚物は消毒だー!」

「うぎゃー!」

「あっはははは、ルナが灰になった灰になった」

「撒いちゃえ撒いちゃえ、そぉーれ」

「枯れ木に花を咲かせましょう♪」

「枯れ野に草を生やしましょう♪ わら、わらわらわらわら」

「お前らも灰になれーッ!」

 太陽の畑に、舞台が特設されていた。

 その上で、妖精三名が謎の演劇を披露しているところである。

 客席も、設けられていた。

 豪奢な椅子が、たった一つ。

 そこに身を沈め、膝の上に人形を抱いたまま、風見幽香は観劇に興じている。

 人形は、メディスン・メランコリーだった。

 四季のフラワーマスターによる優しい抱擁の中。小さな身体を、さらに縮めている。

 怯える少女の頭を撫でながら、幽香は楽しそうであった。

「あっはははははははは。ほらほら、意地悪お爺さんが狸に煮られて食べられちゃうわよ? 助けてあげなさい」

「ふおおおおお……」

 傍らに座っていたチルノを、幽香は掴んで舞台上へと放り投げた。

 給仕をしている大妖精が、血相を変える。

「ちょっと! 何をするんですかっ!」

「チルノが心配?」

 幽香の美しい五指が、大妖精の愛らしい顎と口元に絡み付く。

「貴女、あの子を……本当に、気にかけているのね。優しい子は好きよ、私」

「……チルノちゃんに、ひどい事をしないで下さい」

 優しく威圧する笑顔を、大妖精は毅然と見つめ返した。

「チルノちゃん、だけでなく……出来るだけ大勢の方々に対して、ひどい事をしないで下さい」

「貴女、私を止めると言ったわね。何を止める? 私が一体、何をすると思っているのかしら」

「……それを、私が知りたいんですっ」

 大妖精が、健気にも問いかける。

「風見幽香さん! 貴女は……一体、何がしたいんですか」

「私は日々、愉しく過ごしていたいだけよ?」

 妖精四名が跳ね回る舞台を眺めながら、幽香は左腕で大妖精を抱き寄せる。

 右手で、空のワイングラスをかざす。

 そこへリリーホワイトが恭しく、果実酒を注ぐ。

 一気に飲み干し、幽香は言った。

「幻想郷の妖怪は皆、そうではないかしら。ねえ? 貴女も日々、愉しく過ごしているんでしょう? 毎日、愉しそうよね本当に」

「お、おかげ様で。ネタに困らない日々を過ごしております」

 射命丸文は、答えた。

「私としては、貴女を取材しているつもりなんですけどねえ幽香さん。こ、このままだと私の方が記事になっちゃいます。敏腕美少女ジャーナリスト、太陽の畑にて変死」

 幽香の傍らで、文は磔刑に処されていた。

 様々な蔓植物が、天狗少女の全身に巻き付きながら強固に絡み合い、樹木にも似た磔台を成している。

 少女のしなやかな四肢を、ぐるぐる巻きに拘束しながら花を咲かせた、蔓植物の塊。

 彩り豊かな磔台に捕えられたまま、文は愛想笑いを浮かべた。

「と言うか私このままだと、変死体すら残らない感じ? ですか? あやややややや」

「わかっているじゃないの。そう、貴女はこのまま太陽の畑の肥やしになるのよ。骨のひとかけらまで私が、有機肥料として活用してあげる」

 幽香は冗談を言っているわけではない、と文は確信していた。

「さあさあ妖精たち。この哀れな新聞記者を助けたければ、お話を盛り上げなさい。もっと、もっと」

「うおお、それじゃ鬼ヶ島に突撃だあっ! ついて来い、いぬ! さる! きじ!」

「ちょっとチルノ! お猿は、あんたの役でしょうが!」

「まあ犬がルナなのは確定事項として」

「何でよ! いや、それはともかく……鬼ヶ島って? 鬼って誰なの、まさか」

「大ちゃんと射命丸を、いじめるなあああああッ!」

 チルノが、氷の煌めきをまといながら幽香に突っ込んで来る。

 サニーミルクが、ルナチャイルドが、スターサファイアが、血相を変えて追いすがり、止めようとする。

 文も、叫んでいた。

「駄目! 駄目ですチルノさん、いやそれは助けていただけたら嬉しいですけどっ」

 無念の思いを、噛み締める。

「ああ、もう……何やってんの私。チルノさんたちは必ず守りますって、言っておきながら何たる様……」

 風見幽香と戦い、あっさりと敗れて囚われ、この様を晒している。

 この新聞記者を助けたければ、と幽香はサニーミルクに、ルナチャイルドに、スターサファイアに、言った。

 舞台の上で何かしなさい、と。

 結果。妖精たちは脚本を書く暇も与えられず、稽古も無しで演劇をする事となったのである。

 演者に加えられたチルノが、氷で出来た日本刀を振りかざし、幽香に斬りかかる。

「鬼め、あたいが退治してやる!」

「あらあら……大役を貰ってしまったわね、私」

 メディスンを大妖精に押し付け、幽香はゆらりと倚子から立ち上がった。

 赤い、チェック柄のベストとスカート。

 清楚な純白のカッターシャツ。

 その色鮮やかな装いが、キラキラと光に変わり、花びらの如く散った。

 裸の風見幽香が一瞬、出現した。

 縞模様も見えた。

 黄色の地に黒く入った、虎柄である。

 本物かどうかは、わからない。

 風見幽香ならば、しかし虎を仕留めて毛皮を取るなど朝飯前であろう、と文は思う。

 虎縞模様のブラジャーが、豊麗なる胸の膨らみを拘束し閉じ込めていた。

 同じく虎柄のショーツが、ぴったりと腰に巻き付きながらも、白桃の如き尻の双丘を覆いきれずに縮んで歪む。

 格好良く引き締まりくびれた裸の脇腹に、文は見とれた。

 美しい。それは、認めざるを得ない。

 その美しさは間違いなく、妖精の愛らしさの延長上にあるものだ。

 手足が自由に動けば、間違いなく撮っているところである。

 ともかく。

 風見幽香は今、虎縞模様の、下着か水着か判然としないものを着用していた。

「参考までに……」

 要らぬ事と知りつつ、文は言った。

「鬼の皆様ね。虎柄をお召しになってる方々、実はそんなに多くはないんですよ」

「そうなの?」

「まあでも眼福ですから。私は一向に構いませんから」

 眼福をもたらす鬼と化した幽香が、斬りかかって来たチルノを左腕で抱き止める。

 そうしながら、軽やかに舞台へ上がる。

 躍動する美脚の飾り立てているのも、虎縞のロングブーツである。

「ほらほら、鬼ヶ島から鬼が出張してきたわよ?」

「ひぃいいい! ちっ違うんです、あたしたち桃太郎に無理矢理」

「ききききびだんごに変なお薬! 入れられて! 言うこと聞かされてるんですうう!」

「お宝あります、差し上げますから! ここ掘れワンワン、ここ掘れワンワン」

 サニーミルクが、スターサファイアが、ルナチャイルドが、あたふたと命乞いをしながら、蔓植物に絡め取られてゆく。

 文と同じく、磔刑に処されてゆく。

 泣き叫ぶ妖精を拘束した、植物の磔台が三つ。

 舞台上で、それらに囲まれたまま。幽香はチルノを抱き捕らえている。

 じたばた暴れる氷精を、胸で黙らせている。

 虎柄のブラジャーを形良く膨らませた双丘の間で、チルノは窒息寸前である。

 鎖骨と谷間の取り合わせが、本当に魅惑的だと文は思った。

 それどころではない様子で、大妖精が叫んでいる。

「チルノちゃん! チルノちゃああああん!」

「ちょっと馬鹿、やめなさいよ……」

 メディスンが、大妖精を抱いて止める。

「風見幽香は……恐ろしい、奴なのよ。私、自分が……生まれたての、ちっぽけな妖怪でしかないって事。思い知らされた。妖精だって……殺されちゃう……」

「…………思った通り。メディスンさん、本来の貴女は……とっても、優しい子」

 大妖精は、言った。

「心配してくれて、ありがとう。でも駄目。妖精には……弾幕使いには、戦わなきゃいけない時があるの。たとえ相手が誰であっても」

「よく見ておきなさい、メディスン」

 左腕でチルノを抱いたまま幽香が、右手でワイングラスをかざす。

 そこにリリーホワイトが、いそいそと酒を注ぐ。

「貴女はね、これから一個の妖怪として……人間にも、妖精にも、他の妖怪にも、嫌われ恐れられながら存在していく事になるのよ。弾幕使いが、己の意志と意地を押し通す。それが一体どういう事なのか、見て学びなさい」

 注がれた酒を、幽香は呷った。

 いや、飲み干してはいない。口に含んでいる。

 文は、嫌な予感がした。

 大妖精が、青ざめた。

「やめて…………!」

 かすれた悲鳴が可愛らしい、などと文が思っている間。

 幽香は、チルノの唇を奪っていた。

 幽香の美麗な唇と、チルノの可憐な唇が、酒の飛沫を飛ばしながら密着する。

 酒が、小さな氷精の体内に流し込まれる。

「いやああああああああああああああああッッ!」

 大妖精の悲鳴が、響き渡る。

 顔を赤らめて目を回しているチルノを、優美な細腕と豊かな胸で拘束しながら幽香は言った。

「いい悲鳴ね、もっと聴きたいわ」

「風見幽香…………っっ!」

「チルノに、そうね……どんな事をしたら、貴女はもっと泣き叫んでくれるのかしら」

 文は、目を凝らした。

 幽香に抱かれたチルノの胸元に一瞬、向日葵が咲いた、ように見えたのだ。

 何か禍々しいものが今、酒と一緒にチルノの中へと流し入れられたのではないか、と文は思った。

 ともかく。

 大妖精の顔が、悲痛に青ざめながらも初々しく赤らみ、可愛らしい憤怒を露わにしている。

 そのまま幽香にぶつかって行こうとする大妖精の身体に、メディスンが懸命にしがみついた。

「だから落ち着きなさいって! 喧嘩売っていい相手と、いけない相手」

「放しなさい、メディスン」

 幽香は命じた。

「その子が今から見せてくれるわ。一個の弾幕使いとして、己の意志と意地をどう押し通すのか」

「もう、いい加減にして下さい……!」

 大妖精の言葉に合わせて。

 目に見えぬ炎、のようなものが燃え上がった。

 文には、そう感じられた。

「自分の極端な考え方だけを、一方的に押し通す……貴女の、そういうところは許せません! 本当に」

「名無しの大妖精……貴女にはね、興味があったのよ」

 授乳をするが如くチルノを抱いたまま、幽香は言った。

「貴女は、他の妖精とは何かが違う。ずっと、そんな気がしていたのよね」

「私は、ただの妖精です……大妖精、なんて呼び方を最初にしてくれたのは霊夢さんか魔理沙さんだと思いますが、それが何だか定着してしまいました。どうでもいいです。チルノちゃんを返して下さい」

 目に見えぬ炎が今、大妖精のたおやかな全身から立ち昇っている。

「今……チルノちゃんの身体に、変なものを流し込みましたよね。出して下さい」

「私の力を一部、植え付けてあげたわ。並の妖精なら、植物の塊に変わって枯れ果ててしまうところ……この子には許容力がある。まるで大地のよう。私の力を、種として内包しておける。芽吹く事が今後、あるかも知れない。ないかも知れない」

 幽香が笑う。

「芽吹いた時には……さあ、どんな花が咲くのかしら」

「チルノちゃんを……何だと思って、いるんですか…!」

「興味の対象よ。そして、それは貴女も同じ」

 酔っ払ったチルノの身体を、幽香は傍らのリリーホワイトに押し預けた。

「名無しの大妖精、貴女の本当の名前は何? 貴女は私に対して、一体どんなふうに意志と意地を押し通すのかしら。貴女が今から、どんな悲鳴を聴かせてくれるのか、どんな花を咲かせてくれるのか……本当に、興味が尽きないわ」

 もはや言葉を返しはせず大妖精は、目に見えぬ炎を燃やした。

 それが、目に見える弾幕として発現するか……と思われた、その時。

 空間が、裂けた。

「うおおおおおおおっ!」

 悲鳴と怒号を、綯い交ぜにしながら。

 霧雨魔理沙が、空間の裂け目から現れ、落下し、地面に激突する。

 同じく裂け目から落下して来た十六夜咲夜が、瀟洒に軽やかに着地を決める。

「大丈夫? 魔理沙」

「私は平気だぜ、くそっ! 紫のヤロー!」

 魔理沙が、空を睨む。

 空間の裂け目は、閉ざされ消え失せていた。

 つまりは。

 スキマ妖怪・八雲紫が、この両名をどこかから追い出した、という事なのだ。

「ここは……太陽の畑、かしら?」

 咲夜が見回し、状況を理解せんとしている。

 理解出来るものではなかろう、と文は思う。

 理解を諦めた咲夜が、とりあえず妖精三名の救出に取りかかった。

 蔓植物による拘束を手際良くナイフで切断し、ルナチャイルドを、サニーミルクとスターサファイアを、解放してゆく。

 おずおずと、文は言った。

「あ、あのう……私も、助けて下さいますよね? 紅魔館の、瀟洒で優雅で完璧なメイド長様」

 咲夜は無視した。

 魔理沙は言った。

 虎縞を身にまとった幽香の姿を、睨みながらだ。

「…………何をやってるのか、訊いてもいいか?」

「いらっしゃい魔理沙。今はね、異説・桃太郎の公演が一段落ついたところよ。桃太郎と鬼が仲直りの酒宴をして、まあ見ての通り桃太郎が酔い潰れてしまったの」

「要するに暇なんだな。じゃ手伝え。力を、貸してくれ」

 酔い潰れたチルノを、魔理沙はリリーホワイトから受け取った。

「風見幽香。お前の権力または暴力で、プリズムリバー楽団を再結成させろ。四の五の言ってる場合じゃないんだよ」

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