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異説・東方花映塚  作者: 小湊拓也
26/30

第26話 閻魔候補生

この作品は「東方Project」の二次創作です。


原作 上海アリス幻樂団


改変、独自設定その他諸々 小湊拓也

「御成りである。控えよ」

 星幽剣士コンガラが告げた。

 口調は尊大である。

 性格が尊大である、というわけではない。

 この女剣士は、ただ忠実であるだけなのだ。

 自分もまた、忠実であらねばならない。

 今ここに現臨しつつある存在に対しては。

 四季映姫は平伏した。

 地獄の宮殿、謁見の間。

 豪奢な絨毯に額を押し付け、映姫は這いつくばった。

 小柄な身体を、さらに小さく折り畳んだ。

 この場で自分を大きく見せる事など、許されないのだ。

「控え過ぎだよ、お嬢ちゃん。そこまで卑屈になる事はない」

 コンガラの隣に佇む女性が、笑った。

 あまりにも卑屈に振る舞う元・地蔵像の少女を、嘲笑っているのだろう。

 その嘲笑が、しかし優しい。

「今ここに現臨あそばされるのはね、そんなに偉ぶった御方じゃないんだよ。ちょっと馴れ馴れしいくらいで、ちょうどいい。リラックスしなさいな」

「……は……はい……」

 返事をしながら、映姫は青ざめた。

 返事など、して良かったのか果たして。

 自分など、この場で声を発する事すら許されていないのではないか。

「あれっ。私たち、もしかして怖がられている?」

 苦笑いも優しい女性である。

「ほらコンちゃん、あんたがそんな怖い顔してるから」

「……黙れ、喋るな。私語を慎め」

 馴れ馴れしく触れようとする手を、コンガラは振り払った。

「見よ。四季映姫の、この慎み深さ……せめて半分でも貴様にあればと思うぞ、魅魔」

「あっははは、ねえコンちゃん? わかってるとは思うけど……この子。慎み深さの中に、とんでもないもの隠し持ってるよ」

 悪霊・魅魔が、映姫に微笑みかける。

 笑顔は、本当に優しい。

「閻魔候補生・四季映姫……あんた、かなり弾幕戦やり込んでるねえ。見たらわかるよ」

「…………は……っ」

 自分の声が、身体が、震えるのを、映姫は止められなかった。

 弾幕。

 その単語を聞くだけで、魂が震えてしまう。

 この両名に、この場で、弾幕戦を挑む。

 そんな衝動が、欲望が、身体を突き動かしてしまいそうになる。

 星幽剣士コンガラ。悪霊・魅魔。

 両名とも、地獄の最高権力者の側近である。

 一介の閻魔候補生である自分など、本来ならば会話どころか対面すら許されぬ存在であった。

 そんな相手に、弾幕戦を挑む。

(私……どうなって、しまうの?)

 考えるまでもない、と映姫は思う。

 自分など、たちどころに殺されて地獄の下層部に落とされる。

「弾幕戦やりたくて、ここまで上がって来たんだろう? 私が相手してあげてもいいけど……まあ、もうちょっとお待ちよ」

 魅魔が言った。

「閻魔昇格試験の、最終課題。あの御方が、あんたを試して下さる。弾幕戦で、ね」

「弾幕戦を…………」

 許可なく、映姫は言葉を発していた。

「……して、いただけるのですね……かの御方に…………私ごときが……」

「弾幕は、宇宙万民に平等である」

 コンガラが、厳かに告げた。

「弾幕を司る御方。魔法を、霊魂を、司る御方。豊穣を、贖罪と浄化を、出産と死を、司る御方。祈る者に勝利をもたらす、地獄の女神にして三界の支配者……この宇宙で、最も平等なる御方の御現臨である。平伏せよ」

 謁見の間。

 最奥部に置かれてある、誰も座っていない豪壮なる玉座。

 そちらに向かって、コンガラが恭しく身を屈し、上体を伏せ、秀麗な顔面を絨毯に近付ける。

 魅魔も、それに倣う。

 映姫は、より深々と平伏する。

 誰もいない玉座に、キラキラと光が生じた。

 その煌めきが、やがて小柄な人の姿を形作る。

「ふっふっふ。よく来た、よく来た。偉大なる地獄の女神にすがる、哀れな仔羊たちよ」

 映姫よりも小さな、幼い少女。に見える。

 豪壮な玉座にすっぽりと収まってしまう小柄な細身が、偉そうに両脚を組み、ふんぞり返っていた。

「さあさあ、あたいを崇め奉るが良い。お供え物をケチるでないぞ。蜂蜜たっぷりのお菓子をぎゃぶぅ」

 少女の頭に、コンガラが拳骨を落とした。

「いったぁああい! 何すんだよ無礼者!」

「黙れ! 無礼者にして不敬者にして、たわけ者のクラウンピース! 私の剣による一回休みを味わいたいのかっ!」

 一回休み、という事は妖精であろうか。

 ひらひらとした薄手の衣服をまとう小さな身体は、怒り狂ったコンガラによって無惨に叩き斬られても、いくらか時間が経てば再生してしまうのか。

 ともかく。

 金髪を押しのけるようにたんこぶを膨らませた少女を、コンガラが玉座から摘まみ上げて揺さぶった。

「どうも姿が見えぬと思えば、くだらん事を!」

「本気でぶつ事ないだろー!」

 クラウンピースと呼ばれた少女が、コンガラに首根っこを掴まれたまま涙を散らせ、じたばたと暴れ喚く。

「お前もうちょっと優しくなれって、いっつもご主人様に言われてるクセに全然出来てない! 少しくらい努力しろよー!」

「そうとも、馬鹿者に優しくするよう心がけている。拳骨で済ませてやれているうちに、少し慎み深くなってはくれぬか貴様」

「馬鹿者だと、このヤロー!」

「まあまあ」

 魅魔が、割って入った。

「二人とも? 今日はほら、閻魔候補生の子が来ているんだ。いつもの微笑ましい光景を、あんまり見せつけるものじゃあない」

「魅魔ぁ! こいつ、やっつけちゃってよ!」

 クラウンピースが、魅魔の背中に隠れながら、コンガラに人差し指を向ける。

 そんなクラウンピースの背後に、映姫は回り込んでいた。

「……いけませんよ、そのような事。他者に誰かを殴らせる、それは時として、自分で誰かを殴るよりも重い罪となり得ます」

「あ? 誰だよお前……」

 睨んでくるクラウンピースを、映姫はやんわりと抱き上げ、魅魔の背中から引き剥がした。

「閻魔候補生、四季映姫と申します。よろしくね? クラウンピースさん」

「…………お前、チビのくせに凄い力だな」

「……貴女の方が、小さいですよ」

「なにおう!」

「ほらほら怒らないの。小っちゃなクラピー、私は大好きよん」

「ご主人様まで、そんな事言って、まあご主人様だから許すけど」

「うふふ。貴女も、小さくて可愛いわねえ」

「……誰ですか貴女は。勝手に、人の頭を撫でたりして」

「そうですよ。私だってね、この子を撫で撫でしたいの我慢してたのに」

 魅魔が、その我慢を放棄して、映姫の頭を撫で始める。

「あーもう可愛い! 閻魔候補生で、こんなに可愛い子が来るの初めてじゃないですかねえ」

「ち……ちょっと、ちょっと……」

「うふふふ。やっとねえ、閻魔っていうお仕事の魅力がねえ、若い子たちにも浸透してきた感じ? これも私が広報活動を頑張ったおかげ、コラちょっと魅魔その子を放しなさい。閻魔候補生はね、みんな私が面倒見るのよ」

「貴女が頑張ってるのは、その変なファッション広める事くらいでしょうが。映姫ちゃんにまで変な服、着せようったって、そうはいきませ」

 魅魔は息を呑み、黙った。

 コンガラが、抜き身の長剣を突き付けていた。

「……馬鹿を晒すのは、そこまでにせよ。貴女様も! いい加減に、なさって下さいませ」

「んもう、コンちゃん真面目なんだから」

 映姫は、青ざめた。

「…………! あっ…………貴女、様が…………?」

「うふふふ、そういう事。じゃ始めましょうか、閻魔候補生・四季映姫ちゃん」

 次の瞬間。

 二人は、宇宙空間にいた。

 コンガラも、魅魔も、クラウンピースもいない。皆、宮殿内の風景と共に消え失せてしまった。

 島宇宙の大渦巻きを背景に、映姫は今、地獄の女神と対峙している。

「まず訊いておきましょうね、映姫ちゃん」

 女神が言った。

「貴女にとって、弾幕とは?」

「弾幕は…………」

 考える事もなく、映姫は答えた。

「……弾幕とは。私に、出来る事」

「ふむふむ」

「私は……路傍の、地蔵菩薩像でございました。地蔵尊の御姿を模して彫られただけの、作り物です。物言わず、動けませぬ。何も、出来なかったのです。ある時……私に供え物をしてくれた子供が、野盗に殺されました。私の、目の前で」

「その子は天国へ行けたし、野盗どもは地獄へ落ちたから。安心してもらって、いいわよん」

「そうなる前に……私に、出来る事があれば……良かったのに……」

 成りたい。

 何も出来ない者から、何かが出来る者へ。

 路傍の地蔵が、最初に抱いた願望であり、最初に行った思考であった。

「私は……何かを、したかった。私に、手を合わせてくれる人々に対して。私の前を、素通りして行く人々に対して。私の目の前で、悪事を働く人々に対して。私は……真の地蔵尊には遠く及ばぬまでも、何かが出来る自分でありたかったのです」

「その思いを力の根源として、貴女は……弾幕を、やがて扱えるようになった」

 地獄の女神が、頷きながら言う。

「良かったじゃない。野盗をぶち殺して子供を助ける、程度の事は出来るようになったわよ? まだ足りない?」

「足りませぬ。何もかも」

 自分の声が、身体が、魂が、震えるのを、映姫は止められなかった。

 地獄の女神。

 一介の閻魔候補生である自分など、本来ならば会話や対面どころか、同じ空間に存在する事すら許されぬ存在であった。

 そんな相手に、今から弾幕戦を挑む。

(…………私……どうなって、しまうの……?)

 考えるまでもない、と映姫は思う。

 自分など、たちどころに殺される。

 地獄の下層部に落とされる、程度で済むかどうか。

 閻魔昇格など辞退して、逃げるべきではないのか。

 頭のどこかで、そんな冷静な計算が働いている。

 だが映姫は言った。

「強き者の悪事から、弱き者を守り助ける……それだけでは駄目なのです。悪事を働く者たちに、裁きと導きを与えなければなりません。それが出来るようになれば……弱き者を守り助ける、必要すら無くなります。誰も、悪事を働かなくなるのですから」

「そうよね。悪い奴らを、裁いて、導いて、生まれ変わらせて、もう悪事を働かないようにさせる」

 地獄の女神が、微笑んだ。

「そんな事……本当に出来たら、理想的よね」

「私は……青臭い事を、申し上げているのでしょう」

「そういう青臭さ、嫌いじゃないわよん」

 女神の一見、優しげなる美貌から、微笑みが消えてゆく。

「裁く、導く……っていうのはね。殺すより、ずっと難しいのよ? 殺すより、力が要るのよ圧倒的に。わかっているとは思うけれど」

「それこそが、閻魔」

「閻魔候補生、四季映姫。貴女にとって、弾幕とは?」

 問われた。

「次は……言葉ではないもので、答えなさい」

 力が、押し寄せて来る。

 それを、映姫は感じた。

「私に対して、さあ。何が出来る?」

「参ります……!」

 こちらも、力で押し返すしかなかった。

 力で勝てる相手であるのか否か。

 そんな事は、関係ない。

 力で来る者を、言葉で裁き導く事など出来ないのだ。

 それを地獄の女神は、この最終課題で教えてくれようとしている。

 力、そのものの弾幕が押し寄せて来た。

 光弾の一粒一粒が、惑星を破壊する。そう思えた。

 映姫は、回避に専念した。

 ちまちまと光弾を投げつけたところで、勝てる相手ではない。

 持てる力、全てを集中する必要がある。

 惑星を破壊する光弾の、一つ一つをかわしながら映姫は、それらの発生源たる女神の位置を、辛うじて見失ってはいない。

 地獄の女神の、姿はもはや見えない。

 だが。弾幕が発生し続けている、その方向は把握していられる。今はまだ、辛うじて。

「……そこっ!」

 映姫は素早く、地蔵菩薩の手印を結んだ。

 愛らしい手印が、光を発した。

 その光が膨張し、巨大な破壊光線となって伸びる。

 地獄の女神へと向かって、宇宙空間を灼き穿ち、伸びて行く。

 女神の放つ、光弾と光弾の狭い隙間を、押し広げるかのように直進する。

 ひらひらと、何かが舞った。

 蝶、である。

 直進する極太の破壊光線に、蝶々の群れが軽やかにまとわり付く。

 映姫は、呆然と息を呑んだ。

 まるで水や花蜜を吸引するが如く。

 蝶たちは、映姫の破壊光線を吸っていた。

 柱のようであった極太の光線が、痩せ細り、消えてしまう。

「いいわよ、貴女の弾幕……」

 地獄の女神の声、ではなかった。

 桜の花びらが、映姫の頬を撫でて漂う。

「どろどろ、している……ぎらぎら、しているわ。ふふ……うっふふふふふふふふふ」 

 桜吹雪が、宇宙空間を舞い流れる。

 地獄の女神など、ここには最初から、いなかったのだ。

「貴女は……」

 映姫は見つめた。

 とてつもなく巨大なものが、そこにあった。

 無数の島宇宙を睥睨し、聳え立つ、桜の巨木。

 天の川にも似た桜吹雪を、宇宙全域に漂わせている。

 そんな風景の中央に、彼女はいた。

「西行寺…………幽々子…………」

 映姫は呟いた。

「……いえ。冥界の管理者・西行寺幽々子となる前の…………」

「貴女、私を知っているの? 私は貴女を知らないわ、誰なのかしら……まあ、そんな事どうでもいいわね。大切な事は、一つだけ」

 西行寺幽々子という名を獲得する前の姫君が、幽雅に微笑む。

「貴女が、どろどろ、ぎらぎら、しているという事……」

 たおやかな両腕で、姫君は誰かを抱き上げている。

 どうやら眠っている……あるいは気を失っている、一人の娘を。

 死んでいる、ようにも見えてしまう。

「……………………小町…………!」

 悲鳴に等しい声を、映姫は発していた。

 ほんの一瞬ではあるが、一切の思考が止まってしまう。

 一切の行動が、停止してしまう。

 その間。

 無数の蝶々が、映姫の小柄な全身に群がり止まっていた。

 生命を、吸引される。

 先程の破壊光線のように、吸い尽くされる。

 そう思えた瞬間。

 いくつもの閃光が、映姫の全身を撫でた。

 止まっていた蝶々が、全て切り刻まれていた。

 色とりどりの破片が、キラキラと散り消えてゆく。

「貴女も……来ていたのね、閻魔様」

 映姫の喉元に、ナイフが突き付けられていた。

 優美でありながら強靭な五指が、そのナイフを保持している。

 閃光そのものの斬撃を、ナイフで生み出す五指。

 この娘がその気であれば、蝶々のみならず自分の身体も切り刻まれていただろう、と映姫は思った。

「恩を着せるつもりはないけれど、私たちに力を貸しなさい。四季映姫・ヤマザナドゥ」

「……恩に、着ましょう。十六夜咲夜、それに霧雨魔理沙」

 意識のない小野塚小町を抱き捕えている姫君と、霧雨魔理沙は睨み合っていた。

 その目が、こちらへ向けられる。

「……気のせい、かな。さっき一瞬……魅魔様が、いたような……まあいいや、よろしく頼むぜ閻魔様」

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