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異説・東方花映塚  作者: 小湊拓也
21/30

第21話 妖精の戦い

この作品は「東方Project」の二次創作です。


原作 上海アリス幻樂団


改変、独自設定その他諸々 小湊拓也

 迷いの竹林が、妖精に乗っ取られたのか。

 因幡てゐは一瞬、本気で、そう思った。

 前後左右、東西南北。竹林の風景、全ての方角に妖精がいた。

 数は、一目では数えられない。

 向日葵を抱えた、妖精の群れ。

 風見幽香を、護衛している。

 否、この怪物に護衛など必要ない。

 風見幽香と共に、破壊を行う。滅びをもたらす。

 幻想郷そのものを、花の肥やしに変えてしまう。

 妖精とは、そのために存在する兵器なのではないか。

 妖精とは、風見幽香という魔王が使役する、兵隊なのではないか。

 幻想郷を、花以外の生命体が一切、存在しない場所に変える。

 そのために動き出そうとする軍団と、博麗霊夢が今、たった一人で対峙している。

 その戦いが、しかし始まる前に今、止められていた。

 チルノが、いつの間にかてゐの腕から脱出し、霊夢と幽香の間で両腕を広げている。氷の翼を、広げている。

 お祓い棒を構え、とりあえずは振らぬまま、霊夢が口調を険しくする。

「あんたたち……」

 チルノ、だけではない。

 大妖精が、リリーホワイトが、サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアが。

 霊夢と幽香の間で、防壁のような陣形を成している。

 博麗の巫女を差し置いて。

 妖精たちが、風見幽香と戦おうとしている、のか。

 竹林で行われる弾幕戦が、妖精たちに仕切られようとしている、のか。

 やはり今、妖精たちが迷いの竹林を乗っ取りつつある、のであろうか。

「だ、駄目だよ! みんな、落ち着いて」

 向日葵を持つ妖精たちに、まずサニーミルクが声をかける。

「霊夢さんはね、何かおかしくなっちゃった幻想郷を、元に戻すために戦ってくれてるの! あたしたち妖精のために戦ってくれてる、わけじゃなくても似たようなもんなんだから邪魔しちゃ駄目!」

「……持ち上げたって、何も出ないわよ」

「えっ、何も出してくれないんですか?」

 そんな事を言うスターサファイアの口を、ルナチャイルドが慌てて塞ぐ。

 リリーホワイトが、咳払いをした。

「花の幽香よ。貴女が元々、妖精だったというお話……本当であれば、とても誇らしいです」

「貴女たちもね、頑張れば私みたいになれる……かも知れない? と。そういうお話なのかしら」

 幽香が微笑み、一匹の小妖怪を抱き締める。

 メディスン・メランコリー。

 美しく膨らんで中身に満ちた純白のブラジャーを顔面に当てられ、圧死しかけているように見える。

「とりあえず、人里で大量殺戮でもしてみる? 手ほどきをしてあげるわよ」

「なりたいです、貴女みたいに」

 リリーホワイトが、小さな拳を握った。

「春は……死の、季節。確かに、そうなのかも知れないです。花は、命を肥やしに芽吹くもの」

 まるで風見幽香のように、とはリリーホワイトは言わない。

「私、春が好き。だから……春に死んでいく命を、まっすぐ見つめなきゃいけない……」

「死んでゆく、喰われてゆく、肥やしになってゆく命に向かって、にこにこ笑いながら春を告げる。それが出来たら、なかなかのものよ春告精」

 幽香は言った。

「血まみれの笑顔で……春ですよと、叫んでごらんなさい」

「貴女の言っている事は、極端過ぎます!」

 叫んだのは、大妖精である。

「物事の、残酷な一面だけを強調する! それだけで真理を語っているような気に、ならないで下さい」

「あらあら」

 幽香の笑みが、大妖精に向けられた。

「物知り顔で、いい気になって、得意げに語っている……貴女には私が、そんなふうに見えているのかしら」

「はい。そんなふうにしか、見えません」

 その笑顔を、大妖精は正面から受け止めた。

「とりあえず、なんて言い方はあれですけど。メディスンちゃんを放してあげて下さい」

「この子にはね、今から妖怪の何たるかを叩き込まないといけないのよ。誰にも必要とされず、誰からも忌み嫌われながら、それでも在り続ける。居続ける。誰かのためではなく、ただ自分自身のためにだけ存在する……エゴイズムの塊、それが妖怪よ」

「その考え方が、極端過ぎると言ってるんです。誰かに必要とされたい、誰かのために生きたい……そういう想いも願いも、確かにあるんです。どうか否定しないで下さい」

 大妖精は一度、幽香に向かってぺこりと頭を下げた。

「……考え方はもちろん、それぞれあっていいと思います。だけど風見幽香さん! 貴女は、その残酷な考え方を……実行に、移してしまいます。たくさんの命が失われます。見過ごせません」

「見過ごせなければ?」

「……止めます、貴女を」

「はい、そこまで。いい加減にしなさいね」

 霊夢が、威嚇の形にお祓い棒を振るった。

 紙垂が、白刃の如く一閃した。

 妖怪を直撃すれば、跡形もなく粉砕するだろう、とてゐは見た。

「博麗の巫女を差し置いて……やっていい言動、いけない言動。あんた妖精のくせに頭いいから、わかると思ってたんだけど」

「聞いて下さい霊夢さん。今回の異変、まだ終わってはいません」

 恐ろしい事に大妖精は、霊夢を背後に庇い、幽香と向かい合っている。

「この風見幽香さんは、確かに強いです。恐ろしい存在です。だけど……異変の元凶、ではありません」

「利いた風な事、言うじゃない。妖精に何がわかるってのよ」

「おわかりの、はずです。霊夢さんには……異変の、元凶が」

 じっと幽香を見つめたまま、大妖精は言う。

「……元凶に、向かって下さい」

「風見幽香を、この化け物を……あんたたち妖精に、一任しろって言うの!?」

「幽香が」

 チルノが、ようやく言葉を発した。

「本当に……幽香が元々、妖精だったって言うんなら。あたいたち妖精が、何とかしなきゃいけないと思う」

「あらあら。私、何とかされてしまうの? 貴女たちに」

 妖艶にして清楚な下着姿の全身で、幽香は花を咲かせた。

 てゐには一瞬、そう見えた。

 赤い、チェック柄のベストとスカート。純白のカッターシャツ。

 ランジェリーの上から普段の衣装を着用した、四季のフラワーマスターの姿が、そこにあった。

 左肩に日傘を担ぎ、右腕でメディスンを抱いたまま、幽香は言い放つ。

「……妖精の戯言、で済ませるつもりは無いわよ。自分の言葉に責任を持つという事、貴女たち妖精に出来るのかしら?」

 向日葵を持った妖精たちが一斉に、幽香の周囲で編隊飛行をしながら弾幕を放つ。

 光弾の嵐、レーザーの豪雨。

 チルノが、大妖精が、リリーホワイトが。

 サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアが。

 健気にも、反撃の弾幕を一斉射した。

 弾幕と弾幕が激突し、光の破片が大量に煌めいて飛散する。

 その煌めきが消え失せた時。風見幽香の姿も、そこには無かった。

 妖精たちも、消え失せていた。

 てゐは見上げた。

 迷いの竹林の上空、遥か彼方へと、キラキラした何かの群れが遠ざかって行く。

 幽香と、妖精たち。

 弾幕戦を繰り広げながら、空の彼方へと飛び去ったのだ。

「してやられた……っ!」

 後を追って飛翔しようとする霊夢を、ふわりと追い抜いて行く人影があった。

「私に任せて! チルノさんたちは必ず守ります。まあ、さっきから私の方が守られたりもしてましたが。ともかく!」

 射命丸文であった。

「霊夢さんは、異変の元凶を! 叩いて下さい!」

「あんた……」

 霊夢が呟いている間に、文は姿を消していた。

 空の彼方へと消え失せた、弾幕戦の煌めきを追ってだ。

 視認不可能な速度。幻想郷最速は伊達ではない、と思うしかなかった。

 もはや何も見えなくなった空を、霊夢は呆然と見上げている。

 博麗の巫女が、風見幽香との戦いよりも優先的に、やらなければならない事。

 それは霊夢自身、理解はしているはずなのだ。

「異変の、元凶」

 訊くまでもない事、と思いつつ、てゐは言った。

「お前さんには……わかっているんだって? 博麗の」

「西行妖」

 霊夢は、即答した。

「つまり、冥界へ行かなきゃいけないって事なんだけど」

「行った事、あるんだろう?」

「迷い家を通って、ね」

 霊夢は、小さく息をついた。

「行こうと思って通れる道じゃないわ。それに行けたとしても、そこで終わりじゃなし……」

 お祓い棒を、霊夢は振るった。

 自身の迷いを祓ったのだ、とてゐは感じた。

「そう……よね。先延ばしに出来る事でもなし。西行寺幽々子と決着、付けなきゃね」



 外の世界より流れ入って来た、無数の幽霊が、幻想郷の植物に取り憑いて花を咲かせた。

 それら幽霊たちを、自分・小野塚小町が回収した。

 この度の異変が、それで終息を迎えた、わけではない。

「幽霊なんてものは、いくらでも湧いて出る……」

 小町は、ぼやいた。

「人が死ねば、ね。で……死んだ人間が、どこへ行くのかっていうの、実はあんまりキッチリ決まってるわけじゃないんですよね? 四季様」

「……我ら閻魔の裁きを受ける事なく、畜生界や餓鬼界に流れ着いてしまう者もいる」

 語りつつ四季映姫・ヤマザナドゥは、空中でふわりと立ち止まった。

「悪しき者が堕ちる地獄、善き者が昇り着く天国……それ以外にも、死せる魂の行き先は複数ある。いくつも、あります。そこは、もはや閻魔の力が及ばぬ領域。地獄の最高権力者たる、あの御方でさえ、果たして把握をなされているものか……」

 地獄の、最高権力者。

 そのような存在がある事は、小町も聞いてはいる。

「西行寺幽々子の管理する冥界は、今やそのような、閻魔の力が……いえ、私の力が及ばぬ場所と化しつつある。ひとえに、閻魔たる私の力不足……」

「そんな事、言わないで下さいよ四季様。あの西行寺幽々子ってのがバケモノ過ぎるだけです」

 小町も空中で立ち止まり、死神の大鎌を構えた。

 小柄な映姫を、背後に庇う格好となった。

「ただ……どうなんですかね、これは。白玉楼のバケモノのせい、ってわけでもないような気がします」

 幻想郷、上空。

 おぞましいものの群れが、そこに出現していた。

 空間の歪みが、人面を形作っている。

 怒り狂い、泣き叫び、狂笑する、醜悪な人面の群れ。

 幽霊、である。

 一体どれほど惨たらしい死に方をすれば、ここまで歪むのか、と思えるほどに醜くおぞましい霊魂たちが、溢れ出し漂っている。

 どこから、溢れ出しているのか。

 空中に、ざっくりと生じた裂け目からだ。

 空間が、裂けていた。

 笑う口のようでもある、その裂け目から、無数の幽霊が吐き出されているのだ。

「……お前か。お前の、仕業か」

 小町は問いかけ、睨み据えた。

 空間の裂け目を、誰にも閉じさせまいとするかの如く。

 その少女は空中に佇み、二刀を構えている。

 右手の楼観剣、左手の白楼剣。

 どちらかで空間を切り裂き、幽霊の通り道を作った少女剣士。

 小町は、なおも言った。

「冥界に流れ着いた、外の世界の幽霊どもを。そのまんま幻想郷へ垂れ流せと! 西行寺幽々子に、命令されたのか!?」

「私の一存だ」

 魂魄妖夢は、即答した。

「幻想郷ならば……多少の汚物を流し入れたところで、そう悲惨な事態にはならぬ。霊夢や魔理沙が、どうにかしてくれる。だから」

 楼観・白楼の二刀よりも鋭く険しい眼光が、周囲の幽霊たちに向けられる。

「この、鬱陶しく汚らしいものどもを……少しばかり幻想郷で、引き受けてもらおうと思ってな」

「死者を受け入れる、冥界の役割を……貴女の一存で放棄しようと言うのですか、魂魄妖夢」

 映姫が、言った。

「そのような事が、許されるとでも」

「許さなければどうする、地蔵尊の紛い物よ」

 小町の脳天に、一気に血が昇った。

 身体が勝手に、動きかける。

 白玉楼の庭師でしかない小娘を、この歪んだ大鎌で叩き斬る。

 それ以外の行動を取れなくなった小町の首根っこを、映姫が掴んで引き戻す。

「紛い物に何が出来るか、お望みとあらば見せましょう。その前に……是非曲直庁に対する苦情があるならば、聞きますよ」

「どうにもなるまい、お前たちでは」

 傍らに浮かぶ半霊に、妖夢は白楼剣を手渡した。

「お前たちの上にいる、神仏でさえ……どうにも、なるまい。この汚らしい者どもは」

 浮遊する幽霊の一つを、妖夢は左手で掴み捕えた。

「…………何だ? これは」

 半透明の、歪んだ人面。

 そうとしか表現し得ぬものが、少女剣士の鋭利な五指に圧迫され、さらに歪み潰れてゆく。

 おぞましい声を、発しながらだ。

「ッッッッたりめーだろクソ宗教野郎が! 守矢に人権なんざぁねええええええええんだよバァーカ! 死ね死ね死ね死ね死ね」

 喚く幽霊を、妖夢は左手で握り潰していた。

「……何なのだ? これは」

 小さくも強靭な左拳の周囲で、霊体の破片が弱々しく消滅する。

「このような、穢らわしいものどもが……冥界に流れ込み、白玉楼の空気を汚し澱ませる。何なのだ? 外の世界は今、このような汚物しか生み出さないのか? ならば滅ぼしてしまえと言いたいが……そうしたら、こんなものが尚更、大量に……白玉楼へと、押し寄せて来る事になるのか。ふ、ふふふふふ……どうしたら良い? 神仏とて、どうしようもあるまい」

「押し寄せて、いるのですね。外の世界の幽霊たちが、白玉楼に……西行妖に」

 言いながら映姫は、小さな片手で小町の後ろ首を掴んでいる。

 相変わらず、凄まじい力だった。

「幻想郷で、季節に合わぬ花々が咲いたように……西行妖も、咲いてしまったのですね」

「七分、いや八分咲き。といったところかな」

 妖夢は、含み笑いを続けている。

 嘲笑いながら、激怒している。

「滑稽なほど、おぞましいものどもが……西行妖に寄り憑き、咲かぬ桜を咲かせてしまった。そのせいで……」

 半霊に巻き取られていた白楼剣を、妖夢は引き掴んだ。

 二つの刃が、燃え盛るように輝いた。

「幽々子様が……お目覚めに、ならぬ……どうして、くれる?」

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