表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異説・東方花映塚  作者: 小湊拓也
20/30

第20話 竹の花(後編)

この作品は「東方Project」の二次創作です。


原作 上海アリス幻樂団


改変、独自設定その他諸々 小湊拓也

 新聞記者である。

 情報を集めるのが、仕事である。

 伝手は、あった。

 真偽定かならぬ情報も、射命丸文のもとには集まって来る。

「教えて下さい、風見幽香さん」

 絡み合う竹で出来た、巨大な卵から生まれた怪物に、文は問いかけてみた。

「貴女が元々、妖精だったというお話……本当ですか? いろんな所で、ちょくちょく耳にするんですけど」

「さあ、どうかしら。昔の事なんて覚えていないわ」

 確かに妖精のようでもある翅を、風見幽香は広げていた。

 清かな竹林を背景に浮揚し、空中に佇んでいる。

 美しい素足で、見えざる足場を軽やかに踏んでいる。

「私の、過去やら正体やらを……貴女、新聞に書きたいの?」

 キラキラと花粉を散布する、様々な花が、幽香の周囲には漂っている。

 ちぎれかけた、あるいは作りかけの、花冠のようである。

 そんなものを幾重にもまとわりつかせた裸身から、妖精の如く翅を広げ、幽香は嫣然と微笑んでいた。

「読みたがる人、いるのかしら」

「私が読みたいです」

 言いつつ文は、チルノを抱き寄せた。

「常々、思っていました。妖精の皆さんは、異変が起こる度に大暴れをしますよね。その大暴れの果てにあるのが……風見幽香さん、貴女のような存在なんじゃないでしょうか」

「まあ好きなように考えて、好きな事を書けばいいわ。そうそう、一つ特ダネをあげましょうか。まあ見てわかると思うけれど。今、霊夢も言った事だけど」

 未完成の花冠を周囲に漂わせながら、幽香の裸身は、まるで光を発しているかのようである。

 肌の白さが、眩しい。

 すっきりとした鎖骨の窪みが、豊麗なる胸の膨らみが、眩しく神々しい。

「私……戦いに、負けてしまったのよ」

 綺麗にくびれた胴の曲線から、尻にかけて広がりは、白桃を思わせる瑞々しさである。

 その瑞々しさが、すらりと引き締まった左右の太股へと続いてゆく。

 文は、見とれていた。

「こんなふうに再生しなければいけないほど、それはもう完膚なきまでに……ぼろぼろの、大負けよ。書きなさい? 新聞に」

 若草の如き緑色の髪を揺らして微笑む美貌。

 女神の美貌だ、と文は思った。

 女神の裸身が、目の前にある。

「そんなに大したニュースでも、ないかしら」

「私、読みたいです。書きたいです……」

 女神の再誕生。

 その光景を今、自分は目の当たりにしているのだ。

「四季映姫、ヤマザナドゥ……そのお名前を幽香さん、今おっしゃいましたね」

「知っているの?」

「是非曲直庁にね、取材でお伺いした事ありますから……そうですか。あの御方と、弾幕戦をなさったんですね」

「で負けた、と」

 博麗霊夢が、言った。

「冥界でも確か、やり合っていたわね。あんたと四季映姫。あの時は互角だったと思うけど、今回は……やられちゃったのね、ものの見事に」

「言い訳は、しないわ。私が弱いから負けた。それだけよ」

「やり返さないと、気が済まない?」

「当然。私はね、負けた自分が許せないのよ」

「弾幕使い、だもんね。自分が負けるのは嫌、自分が弱いままなのは嫌……当たり前よね。私だって、そうだもの」

 霊夢が、小さく息をつく。

「幽香は、強いぞ」

 文に抱擁されたまま、チルノが言葉を発した。

「強くたって、負ける……弾幕戦って、そうじゃないのか」

「……利いた風な事を言うのね、妖精が」

「あたい、最強だから」

 チルノは、幽香に怯まない。

「最強だけど、何回も負けた。それが弾幕戦だぞ、幽香」

「……なかなか散々な目に遭ってるもんね。あんたも、異変の度に」

 霊夢が、微笑んだ。

「そうよね……負けた事なら、私だってある。受け入れなきゃ、駄目なのよね」

「……報復感情も持たずに、敗北を受け入れろと」

 幽香の口調が、いくらか剣呑な響きを帯びたのであろうか。

「復讐に、囚われるな……と。氷精と博麗の巫女が、二人がかりで私にお説教をするのね」

「そんな御立派な事、出来るわけないでしょ私が」

 言いつつ霊夢は、お祓い棒を振るい構えた。

 紙垂を揺らす先端が、一体の小妖怪に向けられる。

 迷いの竹林の地面に座り込み怯えている、人形に。

「ま……こいつを大人しくさせてくれたのは感謝するわね。今ちょっと殺処分するから、その間に服でも着てなさい」

「…………ひ…………っ…………」

 弾幕と共に見え隠れしていた、黒く優美なる人影たちは今、風見幽香によって全て粉砕され、消滅した。

 後ろ盾、と呼ぶべきものを失い、メディスン・メランコリーは怯えている。怯えるしか、なくなっている。

 紙垂が、ふわりと舞い上がった。

 霊夢が、お祓い棒を振りかざしたのだ。

 このまま、メディスンを撲殺するのか。

 弾幕を発生させ、撃ち砕くのか。

「ダメだぁーっ!」

 チルノが、文の抱擁を振りほどき、飛び出していた。

 己の身体で、メディスンを庇おうとしている。

 そんなチルノに、因幡てゐが飛び付いた。

「馬鹿、死ぬ気かい! 妖精の不死身なんてね、博麗の巫女の本気には通用しないよ!?」

「放せーっ!」

 じたばたと暴れるチルノを、てゐが抱き捕えて引きずり、霊夢からもメディスンからも遠ざけようとする。

 その間、お祓い棒が容赦なく振り下ろされる……事は、なかった。

 霊夢の一撃よりも、早く、速く、宙を切り裂いたものがあるからだ。

 鞭だった。

 蔓植物が、荊が、根が、絡み合って出来た鞭。

 それが、霊夢を急襲したのだ。

「あんた……」

 霊夢は跳躍した。

 その足元で、植物の鞭が地面を打ち据える。土が飛散する。

「敗北を認め、受け入れて、先へ進む……それは、とても大切な事。わかっては、いるのよ」

 植物の鞭は、幽香の右手から伸びていた。

 美しい五指に保持されているが、掌から生えているようにも見える。

「残念ながら私、この宇宙で最も偉大・強大なる存在というわけではないから。戦って負ける事はある。思い通りにいかない事、いくらでもあるわ。氷精チルノ、そこは貴女の言う通りよ」

 ほぐれた花冠のようなものを漂わせる裸身に、いつの間にか、黒いランジェリーが巻き付いていた。

「四季映姫ヤマザナドゥが今ここにいて、私が戦って勝ったとしても。敗北が……私の、あの無様な敗北が、帳消しになるわけではないものね」

 いや、黒ではない。赤色か。

 そうかと思えば青に、オレンジ色に、若草のような髪に合わせた緑色へと、幽香の下着は目まぐるしく変色し、白い裸身を彩り続ける。

「……それは、それとして。戦わなければ、いけない時というものはね。確かにあるのよ」

 下着の色をどうするか、幽香は迷っているのだ。

「今の貴女が、まさにそう。わかっているのでしょうね? しっかりしなさい、生まれたての小妖怪」

 突然、言葉を向けられて、メディスン・メランコリーは怯えながら呆然としている。

「…………わ……私……?」

「貴女は一体、何がしたいの。何のために、これから生きてゆくの?」

 幽香が、問いかける。

 呆然としていたメディスンの瞳に、禍々しい炎が灯った。

「…………私は……咲くのよ……」

 小さな全身から、紫色の炎が立ち昇る。

 炎の如く濃密に揺らめく、猛毒の霧であった。

「全ての、命を……うふふふ。お前のような妖怪の命さえも養分に変えて、私は咲くのよ。美しく、咲き誇るの。あらゆる命は、ただ私を咲かせるためだけに」

「お黙り。私はね、貴女に話しかけているわけではないのよ」

 幽香が言った。

 メディスンの背後に浮かび上がりかけていた、黒い優美な人影が、ちぎれて消えたように文には見えた。

「私の、お話相手は……貴女よ、ちっぽけで無様な生まれたての妖怪。貴女はね、生まれた時から敗北を喫している。それは、その敗北は、受け入れては駄目」

 幽香は、まっすぐにメディスンを見据えている。

 今にもレーザー光に変わり、小妖怪を穿ち砕いてしまいそうな眼差しである。

「さあ言ってごらんなさい。貴女は何がしたいの? 何のために、生きてゆくの」

「わ…………私…………」

 メディスンの大きな瞳からは、禍々しい炎が消えている。

 この少女は今、ただ怯えているのだ。

「私…………スーさんの、役に……立ちたい……立てなかった…………」

「そう、仕方ないわね。誰かの役に立つなんて、貴女には無理だったのよ」

 幽香の言葉は、容赦がない。

「だからね、これからは自分自身のためだけに生きなさい」

「そんなの! …………生きてるって、言わない……」

 弱々しい口調、ではあるがメディスンは反論をした。風見幽香を相手にだ。

「私、居たいの。要るものに、なりたいの。要らないっていうのは……居ない、っていう事だから」

「好きなだけ、居たらいいじゃない」

「スーさんは……私なんか、もう要らない……」

「私も別に貴女なんか要らないけど、別にいいじゃないの。惨めな小妖怪は、誰かの許可がないと存在も出来ないの?」

「……そうね。私……惨め……」

 メディスンは言った。

「出来る事、何もない……誰かのために、何も出来ない……これってね、すごく惨めで不幸なのよ? 何もしない、出来ない、する事ない……それって、この世に居ないも同じ……」

「今の貴女は、確かにそうよね」

「……居たのよ! 昔は私、間違いなく……この世に、居た……誰かが、私を……要る、って……」

「要らなくなったのね」

 幽香の口を塞ぐべきだろうか、と文は思った。

「捨てられたのね。愛されなくなったから。必要と、されなくなったから」

「…………私、要らない……だから、居ない……」

「居なさい」

 幽香は、命じた。

「要らなくても、居なさい。誰かに必要とされる、されない、そんな事は貴女の存在に関係ないわ」

「そんなの……」

「誰かに愛されなければ、必要とされなければ、存在すら出来ない……生まれた瞬間から負けている、生まれたての負け妖怪。何て惨めで無様」

 優雅に嘲笑いながら今、間違いなく、風見幽香は激怒していた。

 白く眩しい裸身を飾るランジェリーは、その憤怒を表すかのように赤い。

 紅蓮色のブラジャーとショーツ、ガーターストッキングは、幽香の燃え盛る妖力が具現したものである。

「あの、風見幽香さん」

 文は、思わず声をかけていた。

「素敵な下着姿、堪能させていただいております。目の保養どころじゃありません、魂の保養です。黒も青も緑もオレンジ色も、その赤も、最高だと思います。ピンクなんかも、いいんじゃないかなって」

「命が惜しくないなら、撮ってもいいわよ」

「ははあ、ありがとうございます。ではその、一枚だけ」

 文は、カメラを構えた。

「あのですね幽香さん。私、個人的に思うんですよ。貴女に一番似合う色……案外ね、白なんじゃないかって。ちょっとリボンとか付いた可愛いやつ。清楚にいってみましょう」

「……こうかしら?」

 燃え盛る紅蓮の赤色が、清楚そのものの白色に変わった。

 目映い純白のランジェリーが、幽香の肢体を清らかに彩っていた。

 ファインダーの向こうに今いるのは、流血と破壊をもたらす女神であり、穢れなき乙女でもある存在。

 そんな事を思いながら、文はシャッターを切った。

「……最高です幽香さん、命の保養です。寿命が五千年は伸びました妖怪として」

「その寿命。今、終わらせてあげましょうか?」

「まあまあ。このお写真、新聞には載せません。私物にします。私有財産です。私だけの宝物です。凹んだ時なんかに、見つめて眺めてほっこりしようと思います」

「気持ち悪いわね、貴女」

 苦笑しつつ幽香は、軽く右手を振るった。

 植物の鞭が、メディスンの小さな全身に巻き付いていた。

「馬鹿は放っておいて……さあ、生まれたての惨めな生き物。貴女の性根、叩き直してあげるわ」

「や……やめてよ……」

 巻き取られ、引きずり寄せられながら、メディスンは泣き声を漏らす。

 泣き声、だけではなかった。

「やめてよぉおおおぉぉ…………!」

 紫色の炎が、またしても燃えている。

 炎と見紛うほど激しく濃密に揺らめく、猛毒。

 それが、幽香を包み込む。

「あら……」

 猛毒の揺らめきの中。幽香の微笑みが、艶やかさを増す。

 白い肌が、色艶を増す。

 純白の下着が、清楚さを増してゆく。

「あらあら……なかなかの毒、持っているじゃないの。そう、それでいいのよ」

 毒は全て、幽香に吸収されていた。

 博麗の巫女が不覚を取りかけていた、猛毒。

 それが今、四季のフラワーマスターの活力に変わってしまったのだ。

 ほぐれた花冠のように漂う花々が、毒性のある香気を噴出させる。

 全て、有毒の花に変わっていた。

「この悪質有害植物……!」

 霊夢が、幽香を睨む。

「一体……どうやったら駆除出来るのよっ」

「ねえ霊夢? 貴女なら、わかってくれるわよね」

 純白のブラジャーを形良く膨らませた胸が、メディスンの顔面に押し付けられる。

「弾幕使いは、常に独り……誰かに愛される、愛されない。必要とされる、されない。そんなものに関係なく、目の前にあるものを撃ち砕きながら、ただ独りで突き進むのが弾幕使いよ。それを前提とした上での、仲間であり友達。貴女にとっての、玄爺も魔理沙もね」

 顔を赤らめ、圧死しかけているメディスンの頭上に一瞬、小さな姿が浮かび上がった。

 錯覚、であろうか。

 それは、妖精のように見えた。

 アリス・マーガトロイドの遣うような人形、にも見えた。

 妖精のような人形のような、その少女が、にこりと可愛らしく微笑んでいる。

 文は、慄然とした。

 これほど可憐な、それでいて身の毛がよだつ笑顔を、文は見た事がなかった。

 メディスン・メランコリーという妖怪の持つ、本質。

 それが今、幽香の抱擁によって押し出されたかの如く一瞬、露わになったのだ。

 一瞬の事である。

 妖精のような人形のような少女の姿は、もう見えない。

 幻影か、とも思われるそれを、しかし幽香も今、視認していたようである。

「いいわ……いいじゃないの、生まれたての妖怪。貴女、本当に素敵なものを持っている。それをね、育てていきなさい」

 有毒の花々を漂わせる半裸身が、二対四枚の翅を広げ、揺らめかせる。

「誰からも愛されない、不要な存在……それでいいわ。不要どころか、有害な存在になってしまいなさい。それでこそ、妖怪」

 幽香を黙らせるべく、霊夢は呪符の束を投射した。

 複数の陰陽玉を周囲に浮かべ、光弾を速射した。

 光り輝く無数の呪符と、光弾の嵐。

 その弾幕を、何本もの太いレーザー光が迎え撃ち、切り裂いてゆく。

 呪符も光弾も全て、ズタズタに裂けて飛び散り、消滅した。

「我らの命は、幽香様のために……」

「我らの戦い、我らの弾幕……」

「……全ては、幽香様と共に」

 向日葵を持った妖精たちが、幽香の周囲に布陣していた。

 そして再び、レーザー光の豪雨を放ち降らせてくる。

 文は、逃亡にも等しい回避に追い込まれていた。

 霊夢を気遣うような、余裕はない。自力でかわしてくれる、と思うしかない。

 幻想郷最速と言われる天狗娘の全身を、妖精たちの放つレーザーが激しくかすめる。

 妖精の戦闘能力が、明らかに向上している。

 かつては妖精であった、大妖怪の力によってだ。

「居たい? 要るものになりたい? 違うわメディスン・メランコリー。貴女は要らないもの、居てはならないもの。皆に嫌われ、恐れられ、存在を禁じられ、それでもなお存在し続けるもの。妖怪が居る、というのは、そういう事よ」

 女神だ、と文は改めて思った。

 風見幽香は、妖精から妖怪へ、そして神へと至りつつある。

 破壊と殺戮の神へ。

「貴女の毒で、幻想郷を皆殺しにしてごらんなさい。奪った命を、誰かに捧げるのではなく、貴女自身の糧にするのよ」

 周囲、竹林のあちこちで、竹の花が咲いてゆく。咲き乱れてゆく。

(妖精の本質は、自然……他者の命を、糧とする事……)

 回避に忙殺されながら、文は思う。

(だから妖精は、いずれは……人を喰らう、妖怪へと進化する。そして……)

「人妖の、血と屍を養分として……花が、咲き乱れる。台無しになっていた異変、さあ二人で成し遂げましょうか」

(命を養分として、美しく咲き乱れる……花の、女神。それが妖精の……最終進化形……?)

 竹の花は、やはり凶兆であったのだ、とも文は思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ