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異説・東方花映塚  作者: 小湊拓也
13/30

第13話 禍の花を咲かせるもの

この作品は「東方Project」の二次創作です。


原作 上海アリス幻樂団


改変、独自設定その他諸々 小湊拓也

「一本つけてはダイコクさま~、二本つけてはダイコクさま~。百八十柱の御子のため、お燗つけましょー。はぁ燗しましょ」

 ミスティア・ローレライは、歌は上手い。

 金を取れるかどうかはともかく、このような場所で酔客相手に披露するものとしては申し分ない。

 リグル・ナイトバグは、そう思っている。

 屋台の席で、燗酒を呷った。

 八目鰻の蒲焼きとは、確かに合う。

 月も、綺麗だった。

 地形の模様が、言われているほど『餅を搗く兎』に見えるかどうかは、よくわからない。

 得体の知れぬ怪物の姿にも、見えてしまう。

 月には、想像を絶する宇宙規模の大妖怪がいて、単なる太陽光を妖力ある月光に変え、地上に降らせてくれる。

 そんな伝説は、リグルも聞いた事はある。

 ともかく。

 月明かりの中、ミスティアは歌い、踊り、羽ばたいていた。

 客たちが、喝采を送る。

 人里に近い、原野である。

 本日ミスティア・ローレライは、ここに念願の屋台を出した。

 営業初日である。

 客入りは想像以上で、屋台の周囲に簡易的な座席をいくつか用意しなければならなかった。

 それら座席も、全て埋まっている。

 客は、ほとんどが人里の男である。そう見える。

 人間に化けた妖怪が、ちらほらと混ざっているのを、リグルは見て取った。

 人妖取り混ぜた酔客たちが、歓声を上げている。

「女将さんイイよ最高っ! 脱いで、脱いでー!」

「あっはははは、お客さん。ウチはそーゆうお店じゃないんですよ、バカ言ってると切り刻んで蒲焼きにしちまうぞコラ! 人肉の下処理なんて八目鰻より全然楽なんだからなぁー!」

 ミスティアが、歌い踊り怒鳴りながら中指を立てる。

 歓声が、大きくなる。

「大盛況だなあ、まったく」

 リグルの隣の席で、藤原妹紅が苦笑気味に言った。

「あいつ、随分前から商売の準備してたんだろ? 上手くいって、良かったじゃないか」

「まだ初日だけどね」

 リグルは言った。

「初日の売り上げなんて、御祝儀みたいなものだって。二日目以降は、きっと死にたくなるくらい、お客さんが来なくなるって。そこを踏ん張れるかどうかだって、ミスティアは言ってたわ」

「立派な覚悟じゃないか。私らも見習わないとなあ」

 妹紅が、腕組みをして何度も頷く。

 早くも酔いが回り始めている、とリグルは思った。

「ほらあ、お前も。ここの女将を見習って、覚悟を決めろ!」

 連れの女性に、妹紅は言葉をかけた。

 妹紅を挟んで、リグルの反対側。

 その女性は、俯いている。

 半ば卓上に突っ伏している、その頭を、妹紅はぐしゃぐしゃと撫でた。

「この先も、ずっと人里でやってかなきゃいけないんだからな。お前は」

「…………寺子屋の子供たちも、その親御らも……私を、許してくれた……」

 辛うじて聞き取れる声を、上白沢慧音は発した。

「私が……私自身を、許せない……」

「ふん、やらかした自覚はあるんだよな。じゃ一生、反省し続ける事だ」

「…………私には、わかるんだよ妹紅」

 深く俯いたまま、慧音は呻く。

「またいつか、君が……どこかへ行ってしまいそうになった時。私は間違いなく、同じ事をする。私が許さなくとも、君が許さなくとも。誰に、どのような罰を与えられようと……私の、この上白沢慧音という化け物の、おぞましい本質は変わらない。反省など、出来るわけがないだろう……」

 無言のまま妹紅は、慧音の眼前の猪口に酒を注いだ。

 慧音は顔を上げ、即座に飲み干した。

 おずおずと、リグルは言葉を発した。

「……私、何か言ってもいい? それが許される空気? これは」

「いいさ、何でも言え」

 言いつつ妹紅は、がつがつと八目鰻を食らう。

「……美味いな、これ」

「私、見てたわよ遠くから。上白沢先生……貴女が、物凄い化け物に変わって大暴れしてるの」

 リグルは、小さな拳を握った。

「……凄かったわ。あれが、あれこそが、本当の妖怪だって……心、震えたもの私。貴女は、あれでいいと思う」

「ま、お前ら妖怪はそうだよな。そう思うよな」

 妹紅は、自身の猪口に酒を注ごうとした。

 徳利は、空だった。

「ごめん。お燗、もう一本もらえるかな」

「はい」

 下働きの少女が、短く応える。

 本日ミスティアが急遽、雇ったのだ。

 雇った少女に屋台を預けて女将は現在、大勢の酔客に向けて、即興のライブコンサートを開催中であった。

「三本つけてはカグヤさま~、四本つけてはエイリンさま~。月に御座す高貴で永遠の御方のために、お燗つけましょー。はぁ燗しましょ」

「懐かしいわー」

 リグルは言った。

 下働きの少女に、話しかけていた。

「私とミスティアに……まずは熱心に、あの歌を教えてくれたのよね少尉殿は。何、私たちが永遠亭に馴染めるように?」

「……貴女たちなら、立派に永遠亭の戦力になれたわ。私なんか、いなくても」

 言いつつ少女は、燗のついた徳利を妹紅の眼前に置いた。

「お待たせ、いたしました……」

「ありがと。うん、私は別に待ってはいないんだよ」

 手酌をしつつ、妹紅は言った。

「永遠亭の連中は……お前さんをな、待ってると思うぞ」

「…………」

 応えず、少女は俯いた。

 本物か作り物か判然としない兎の耳が、萎れて垂れた。

 そこへ、ミスティアが声を投げる。

「おーい鈴仙隊長。四番卓さんに、おでんと冷酒。お願いね!」

「は、はい。おでんと冷酒、喜んで!」

 鈴仙・優曇華院・イナバは、無理矢理に声を出し、無理矢理に耳を立てていた。



 居たい。在りたい。存在したい。

 要るものに、なりたい。

 必要とされたい。

 それが、最初の願望だった。

 叶えるためには、何をすれば良いのか。

 容易い事だ。

 して欲しい、と言われた事を、すればよい。

 容易い事、であるはずだった。

 それが、しかし自分には出来なかったのだ。

 まだ誰も、殺せていない。

 自分には、何も出来ていない。

「…………待って……スーさん……」

 捨てられる。

 メディスン・メランコリーは、本気で、そう思った。

 自分は、またしても要らないものになってしまう。

「私、やれるから……次は、ちゃんとやるから。やれるから……」

 うっすらと、目を開く。

 弱々しい言葉を、発しながら。

「……捨てないで……スーさん……」

「違うぞ。あたいは、スーさんじゃあない」

 目が合った。

 澄んだ、青い瞳。

 青い髪に、青い衣服。

 メディスンと好対照を成す、寒色系の少女が、そこにいた。

 小さな身体から、鋭利な氷の翅を広げている。

 どうやら、妖精である。

「あたいはチルノだ。そして、この子は大妖精の大ちゃん」

「貴女はメディスンさん、だったよね……大丈夫? うなされて、いたけれど」

 もう一匹、妖精がいた。

 寝台に横たわるメディスンを、心配げに見つめている。

 いつの間にか、屋内で布団を被せられていた。

 自分は確か、竹林で戦いに敗れ、殺されたはずなのだ。

 いや、とメディスンは思い出した。

 自分は、殺されなかった。

 命を助けられた、情けをかけられた。

 そして今、この永遠亭という場所で、玩具にされている。

 怒りが燃えた。頭に、血が昇った。

「殺せぇええええええッ!」

「ち、ちょっと! 落ち着いて」

 寝台から跳ね起きようとするメディスンを、チルノと大妖精が布団の上から取り押さえにかかる。

「駄目だぞメディスン。お前、霊夢に負けたんだから。妖精なら一回休みだ、もうちょっと休んでろ」

「私は妖精じゃあない! 殺せっ、殺せー!」

 涙が、飛散した。

 メディスンは怒り狂い、泣き叫んでいた。

「私、負けた! スーさんの役に、立てなかった! 役立たず! 死んだ方がいいんだ!」

「そんな事、言うなよ」

 チルノと名乗った妖精が、じっと見つめてくる。

 涙の止まらぬ目で、睨み返す。

 メディスンは、それしか出来なくなった。

「お前……あたいと同じだな、メディスン。何か、戦わなきゃいけない気になってる。戦っても、だけど勝てない。何とかしなきゃいけないって、気持ちだけが前に前に出ちゃうんだ。それで何かが、置いてけぼりになっちゃってる」

 敵意を、怒りを、憎しみを、メディスンは瞳の中で燃え上がらせた。

 そんな事をしても、涙が蒸発し消え失せてくれるわけではない。

 メディスンの敵意を、怒りを、憎しみを、チルノは青い瞳で真っ正面から受け止めた。

「大ちゃんたちにも、霊夢にも、妹紅にも……あたいが、今のメディスンみたいに見えてたんだと思う。それじゃ駄目なんだよ、って言われても……自分じゃ、どうしようもないよな」

「…………」

 今ここで戦えば、妖精になど容易く勝てる。

 メディスンは、そう思った。思っただけだ。

「……あたいもメディスンも、何かと戦わなきゃいけないのは間違いないんだよ。きっと」

 チルノは言った。

「それが何なのか……あたいバカだから、よくわかんない。お前も多分、あたいと同じくらいにはバカだと思う。それでもさ、一緒に考えなきゃいけないんだよ。だから考えよう、そして一緒に戦おうよ、メディスン」

 拍手が、聞こえた。

「お見事! チルノさん、でしたね。貴女、全然バカじゃないですよ。本当に、お見事でした」

 病室の入り口に、その娘は佇んでいた。

 凹凸の見事な肢体に短めの衣装をまとい、すらりと綺麗な脚線を惜しげなく晒した少女。

「失礼、文々。新聞執筆編集員、射命丸文と申します。いやはや私も職業柄、人様にインタビューをお願いする事が多いのですがね……そんな私からしてもチルノさん、今の貴女のお話は素晴らしかったと思いますよ。妖精にね、まさかここまで、ちゃんと物事を考えられる方がいらっしゃるとは」

「……人様に、嫌われずに話を聞いてもらうコツ。あんたもね、チルノに弟子入りでもして身に付けた方がいいんじゃない?」

 射命丸文を押しのけるようにして、禍々しいものが病室に踏み入って来た。

 紅白の衣装に身を包む、恐るべき弾幕使い。

 メディスンを、打ち負かしておきながら命を奪わず、こうして屈辱的な状況を作り上げた張本人。

「…………博麗……霊夢……ッ!」

 メディスンは、小さな口で牙を剥き、布団をはねのけようとして、またしても妖精たちに取り押さえられた。

 そこへ博麗霊夢が、射命丸文を従える格好で、歩み寄って来る。

「何の慰めにも、ならないだろうけどね。ひとつ教えといてあげるわ」

 牙を剥くメディスンの顔を、まっすぐ見据えて霊夢は言った。

「メディスン・メランコリー……あんた、強いわよ。あんたが思ってるほど私、楽勝じゃなかったから。今もね、あんたの毒にやられてる真っ最中。絶対安静だって、ここの先生に言われちゃった」

「そうそう、安静なんですよ霊夢さん」

 霊夢が鬱陶しがるのを承知の上で、文は喋っているようであった。

「情報収集は、プロの新聞記者たる私に任せてね。大人しく寝ていて下さればいいのに」

「勝手に聞いてて、勝手に記事にする。それは許可してあげるから、少し黙っているように」

 容赦のない事を、霊夢は言った。

 大妖精が、寝台の傍らに椅子を置く。

「あの、霊夢さん……」

「ありがとう」

 霊夢は座り、メディスンを間近から見つめる。

 睨み返し、唸る。

「……殺せ……殺しなさいよ……っっ!」

「あんたね。私にぶちのめされて、ここへ運び込まれて、最初にどんなザマ晒してたのか、ちょっと思い出してみなさい」

 霊夢は言う。

 メディスンは、思い出したくなかった。

「八意先生にね、おだてられて調子に乗って、限界まで毒をぶっ放して。ばったり気絶して、今に至ると……あんた、チルノより頭悪いわよ。あんなおバカを晒しといて今更、カッコつけるのはやめなさい」

 八意永琳には存分に、毒を採取されてしまった。

 不覚だった。

 メディスンとしては、叫ぶしかない。

「殺してやる!」

「その意気よ。再戦なら、いつでも受けて立ってあげる……と、言いたいとこだけど」

 霊夢の、口調は変わらない。

 眼差しは、しかしギラリと強さを増してメディスンに突き刺さる。

「それはね、この異変が片付いてから。私と戦いたいなら協力しなさいメディスン・メランコリー」

「私にスーさんを裏切らせようったって、そうはいかないわよ!」

「そう、それ。そのスーさんって方は、あんたに何を命令したの?」

 思った通り事を、霊夢は尋問してくる。

「みんなの命を集める。あんたの命も、含めて……最後には皆、そのスーさんとやらの中で一緒になる。そんな事、言ってたわね? あんた確か」

「そうよ。だからね、何やったって無駄なんだから」

 メディスンは、俯いていた。

「スーさんには……誰も、勝てないんだから」

「そんなスーさんも、万能じゃないわけね。あんたみたいな、動き回る手駒がいないと……幻想郷には、手も足も出せない」

「スーさんを馬鹿にするなぁあああっ!」

「ああ、そうね。手も足も出せない、わけじゃあない。妖精を、おかしくさせる程度の事は出来る」

 一瞬、霊夢はチルノの方を見た。

「命を集める……幻想郷を、とにかく皆殺しにする。それが、あんたの承ったスーさんの御命令なわけね」

 メディスンは黙り込んだ。

 霊夢は自分に、何か吐かせようとしているわけではない。

 メディスンの言動、口調から、何かを読み取ろうとしているのだ。

「ちょっと、いいかね」

 因幡てゐが、病室を覗き込んだ。

「そろそろ晩飯なんだけど、ここへ運ぼうか? 出て来れるようなら全員、会食に参加してくれんかね。姫様が、あんた方と話したがってるんだよ」

「……行きましょうか」

 霊夢は立ち上がった。

 メディスンの、首根っこを掴みながらだ。

「何するのよ!」

「ご飯、いただきに行くわよ。尋問は終わり」

 メディスンの小さな身体を、ぶら下げ運びながら、霊夢はずかずかと病室を出た。

 他の面々が、慌てて追いすがる。

「れ、霊夢さん……」

「おおい霊夢。メディスンを、いじめるなよー」

「掴みましたか、霊夢さん。今のお話で、何か」

「……確証がある、わけでもないから言わないわよ。特に、あんたにはね」

 ちらりと、霊夢は文を睨んだ。

「スーさん、とやらが何者なのか……何となく、ね。見えてきたような気が、するだけだから」

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