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異説・東方花映塚  作者: 小湊拓也
10/30

第10話 審判者

この作品は「東方Project」の二次創作です。


原作 上海アリス幻樂団


改変、独自設定その他諸々 小湊拓也

 戦いが、止まった。

 一時的に、止める事は出来た。

 太陽の畑・上空にて行われていた、弾幕戦である。

 風見幽香、小野塚小町、十六夜咲夜。

 三つ巴、に近い形で対峙する彼女たちの間に、霧雨魔理沙は無理矢理に割って入っていた。

「そこまで、だぜ」

 間近にある、風見幽香の美貌に、魔理沙は八卦炉を突き付けている。

「お前ら全員、それぞれの行動に理由があるのは理解した。それを踏まえて言う……私に、力を貸してくれ」

「……ねえ魔理沙。貴女、私に頼み事をしているの?」

 幽香が、微笑んだ。

「こんな恐い物を、突き付けながら……」

「頭を下げたら、その頭をもぐ。土下座をしたら踏み潰す……私、お前にそう言われたぜ」

 あまりにも優美な笑顔を、魔理沙は至近距離から睨み据えた。

 八卦炉の中央から、微かな炎が、蛇の舌の如くチロチロと噴出する。

 幽香の綺麗な鼻先を、舐めようとしている。

「花の咲いてる場所なら、どこへでも行けるんだったよな、幽香お前。冥界へも、行けるんだよな」

 魔理沙は言った。

「……頼む、私も連れて行ってくれ。白玉楼の連中が、幻想郷に幽霊を垂れ流しているんだとしたら……やめさせる。西行寺幽々子と、話をつける」

「何を言ってる……!」

 死神の小野塚小町が、声を上げた。

 刃の歪んだ大鎌を、振り立てようとしている。

「そこは是非曲直庁の管轄だ! お前ら定命の連中が、手を出していい所じゃないと何回言えば」

「はいはい落ち着いて、億劫がりの死神さん」

 その大鎌の長柄を、矢田寺成美が、錫杖で押さえ込んでいる。

「本当に……一大事なのね。貴女がこんなに、やる気を出すなんて。是非曲直庁だけじゃ、どうにもならなくなってるんじゃないの? もしかしたら」

「……だとしても。あたいらだけで、どうにかしなきゃならないんだよ、これは。定命の連中に手伝わせる、わけにはいかないんだ」

 魔法地蔵と死神が、そんな会話を交わしている間。

 十六夜咲夜の眼前では、ルーミアが両腕を広げ、通せんぼうをしていた。

「さ、咲夜さん……落ち着いて、欲しいなー」

「……貴女こそ、取り乱しては駄目よ? ねえ、雇われ妖怪」

 咲夜は微笑み、ルーミアの柔らかな頬を摘まんで伸ばした。

「レミリア・スカーレット様より御下命を賜った、この私の行動を……阻むなんて、ね」

「ひうー」

「健気さに免じて、一度だけは見逃してあげる。私に協力しなさい。ほら、馬鹿な事をしている間にリリカ・プリズムリバーがどこかへ行ってしまったわ。捜さなければ」

「捜してやる、手伝ってやる。だから咲夜、お前も私を手伝ってくれ」

 幽香に八卦炉を向けたまま、魔理沙は言った。

「この異変……おかしな感じに花が咲く、程度じゃ済まなくなる気がする。外の世界から幽霊が流れ込んで来る、なんてのは前座でしかない。そう思わないか」

「貴女は……異変解決を、しようと言うのね。霊夢を差し置いて」

 咲夜は息をつき、ルーミアの頬をぴたぴたと弄んだ。

「霊夢を……出し抜こうとしていない? ねえ魔理沙。貴女たち二人が最初から力を合わせれば、出来ない事はないと思うのだけど」

「…………否定は、しないぜ」

 魔理沙は、唇を噛んだ。

「駄目なんだよ。私と、あいつは……力を合わせて異変解決なんて、出来ないんだ。そういうふうに、なっちまってる……なっちまってるんだよ、畜生……」

「いいと思うわ、それで」

 幽香が言った。

「最初から、霊夢と協力する。霊夢を支え、霊夢を立てて裏方に徹し、良い場面は全て霊夢に譲る。自身は決して目立つ事なく、博麗の巫女の健気な相方であり続ける……それはもう霧雨魔理沙ではないわ。ところで、いつになったらマスタースパークを撃ってくれるのかしら?」

「……お前にな、マスタースパークをぶち込む……こんな恐ろしい事って、ないぜ。なあ風見幽香……」

 魔理沙は微笑んだ。

 牙を剥くような笑顔に、なってしまった。

 この怪物に、協力を求める。

 一度も戦わずに、それが出来るわけがない。

 わかりきった事ではあった。

 八卦炉から噴出する微かな炎が、一気に爆炎に変わる……寸前。

「……無謀は、功徳とはなりませんよ。霧雨魔理沙」

 何者かが、喋った。

 幽香ではない。小町でもなく、咲夜でもルーミアでもない。成美とも違う。

 道を歩いている時に、路傍の地蔵像が突然、言葉を発した。

 魔理沙は、そのように感じたのだ。

 幽香の美貌が、引きつっている。

 美しい唇が、何事かを紡ぎ出そうとしている。

 悲鳴か。

 この怪物が、悲鳴を上げる事など、あり得るのか。

 悲鳴を噛み殺しながら、幽香は血を吐いていた。

 花の香りがする鮮血。点々と、魔理沙の身体に付着した。

 幽香の全身あちこちに、何かが突き刺っている。

 剣の如く鋭利に加工された、木製の笏、に見える。

 何本ものそれらに全身を穿たれ、幽香は血を吐きながら、辛うじて言葉を発した。

「不覚……だったわ。全然、気付かなかった……本当に貴女、道端の……お地蔵さん、なのね……」

 ゆっくりと、幽香は落下して行く。

 飛翔・滞空を、保てなくなっている。

 その様を見下ろしながら、地蔵のような少女は告げた。

「貴女の全身に突き刺さっているのは、悔悟の棒……風見幽香という一個の生命体が、これまで犯してきた罪の重さです。貴女はもう翔べません。沈んでゆくしか、ないのですよ。己の罪を抱いて、地獄へと」

 言葉に合わせ、光が生じた。

 絢爛豪華な衣装をまとう、小柄な肢体。

 その衣装ではなく、少女の存在そのものが、光を発しているのだ。

 道端の地蔵であった少女は今、そうではないものに変わりつつあった。

 本物の地蔵尊にも匹敵し得る、のではないかと思えるほどの、何かへと。

「天知る、地知る、我知る、人知る……最後の審判を免れる事は、出来ませんよ」

 光が、迸った。

 極太の破壊光線が、少女の小柄な全身から放たれて幻想郷を照らす。

 そして、幽香を直撃する。

 太陽の畑へと落下しながら、幽香は跡形もなく消滅した。

 いや。微量の塵は、残ったのか。

 それらしいものが、ぱらぱらと舞い落ちる。

 太陽の畑の、肥やしとなったのか。

 呆然と魔理沙は、そんな事を思った。

 ルーミアが、泣き声に近いものを発した。

「…………幽香……」

「安心なさい、宵闇の妖怪。風見幽香を完全な絶命・消滅へと至らしめる事は……この私の力をもってしても、不可能です」

 先程まで路傍の地蔵であった少女が、小さく溜め息をつく。

「あの怪物に……真の意味で、最後の審判を下す。それが出来るのは……地獄の最高権力者たる、あの御方だけ。なのだろうか……」

「心配するなよ、ルーミア」

 涙ぐむルーミアの頭を、魔理沙は撫でた。

「あいつは死なない。ちょっと時間はかかるかも知れないけど、いずれ……その辺から、生えて来るさ。それにしても」

「映姫先輩……」

 成美が、震える声で呼びかける。

「まさか、こんな所まで……御自分で、出て来られるなんて……」

「是非曲直庁には結局、異変に対応出来る人員が二人しかいませんからね」

 成美の先輩であるらしい少女が、微かに苦笑する。

「億劫がりの小町を無理矢理、働かせるだけでは足りません。私も、身体を動かさなければ」

「いや……お見事でした、四季様」

 小町が、頭を下げた。

「あの化け物を、ああも簡単に……」

「不意討ちが成功しただけです。正々堂々の勝負といきたかったところですが……風見幽香には少しの間、大人しくしていてもらわなければ」

「あいつが冥界に殴り込むような事態、そんなに避けたいのか」

 魔理沙は、訊いた。

「西行寺幽々子を……そんなに、刺激したくないのか」

「無論です。彼女が、いかなる存在であるか……貴女は目の当たりにしたはずですよ、霧雨魔理沙」

 鋭い眼差しが、返って来た。

「……名乗るのは、初めてでしたね。四季映姫・ヤマザナドゥと申します」

「名乗った覚えはないが、何故か私の名前を知ってるんだな。そう、私は霧雨魔理沙だぜ。お前とは、冥界で少しだけ会ったな」

「定命の者が、生きたまま冥界に立ち入る事など、本来あってはならぬもの……だったのですが」

 四季映姫・ヤマザナドゥは言った。

「……月・防衛宙域における戦い。お見事でしたね」

 何もかも見られている、知られているのだと、魔理沙は思った。

「貴女たちは、月の勢力から幻想郷を守ってくれました」

「ふん? そういう事に、なっちまうのかな」

「充分過ぎる功徳と言えるでしょう。しばらくは大人しく、安全に過ごしていなさい」

 悔悟の棒、と呼ばれたものが複数。四季映姫の背後で円形に並び、後光を成した。

「白玉楼への監査は、我ら是非曲直庁の職分。立ち入りは無用に願いましょう……西行寺幽々子には、決して近付かぬように」



 サニーミルクが、姿を消した。

 あっさりと見抜かれた。

 まるで虹を圧し固めたかのような、色彩豊かな光弾が一粒。

 何もない空間を、直撃した。

 サニーミルクが、永遠亭の庭へと墜落しながら姿を現す。

「何で! 何でわかるの~!」

「うふふ。私、最初の頃はねぇ。目隠しをして妹紅と戦ってあげた事もあるのよ?」

 蓬莱山輝夜が、空中でころころと笑う。

 そこへ大妖精は、猛然と弾幕を撃ち込んだ。

「ごめんなさい、サニー!」

 スターサファイアとルナチャイルドが、それに合わせて光弾を放つ。

「大丈夫。サニーは優しいから、囮にしても許してくれるわ!」

「サニーの犠牲、無駄にはしないっ」

 妖精三人分の弾幕が、光の嵐となって吹き荒れる。

「あらあら……」

 輝夜が、のんびりと宙を舞いながら光を撒く。

 翼を思わせる広い袖から、キラキラと弾幕が溢れ出していた。

 そこへ、妖精三人分の光の嵐が激突する。

 砕け散った光弾の破片が、煌びやかな目眩ましとなった。一瞬、何も見えなくなった。

 スターサファイアが息を呑み、呻いた。

「後ろに……!」

 遅かった。

 端麗な唇が、大妖精の耳元で囁きを紡ぐ。

「……ごめんなさいね。少し、貴女たちを甘く見ていたわ」

 広い袖をまとう左右の細腕が、後ろから大妖精の身体に巻き付いて来る。

 優しく、容赦なく。

「光学迷彩が使える子を、囮にする作戦……考案したのは貴女よね? 大妖精さん」

 輝夜は、大妖精の背後にいた。

「見ていて、わかったわ……貴女が、この子たちの司令塔」

 後ろから、優しく抱き締められている。

 永遠亭の姫君の、細腕。振りほどくのは容易い、ように思える。

 だが大妖精には、わかる。

 この一見たおやかな姫君が、その気になれば、自分は一瞬にして圧し潰されるか引き裂かれる。

 この細腕は、人妖の知を超えた怪力の塊だ。

 優しい抱擁の中で、大妖精は青ざめるしかなかった。

 ルナチャイルドとスターサファイアも、青ざめている。

「あわわわわ、だっ大ちゃんが! 捕まっちゃった……」

「こ、ここは戦略的撤退ねっ。ルナ、私の盾になりなさい」

「寝言は寝て言え!」

「あらあら、喧嘩は駄目よ?」

 左腕で大妖精を抱き捕らえたまま、輝夜は右手で、煌めく色彩を撒いた。

 弾幕だった。

 彩り豊かな光弾の嵐が、ルナチャイルドを、スターサファイアを、猛襲する。

 二人が、どのような目に遭ったのか、大妖精にはわからない。

 ただ、悲鳴は聞こえた。

 雄叫びも、聞こえた。

「うおおおおおおっ! あたい、とつげきぃーっ!」

 青い流星が、輝夜の弾幕を突っ切るようにして飛んで来る。

 冷気をまとった、チルノだった。

 被弾せず飛んでいるのは、実力か、悪運か。それとも輝夜の手心か。

「やい、かぐや! 弾幕戦の必勝法ってもの教えてやろう。それはな、相手にひたすら近付く事だっ!」

 氷の粒子が大量に混ざった冷気で、全身を包んだチルノ。

 まさに、青い流星だった。

 それが、輝夜に激突する。

 氷の粒子が、キラキラと大量に飛び散った。

 輝夜の右腕に、チルノはしっかりと抱き止められていた。

「こういう目立つ子を、陽動に使うのではなく、姿を消せる子に囮の役を任せる。いい作戦だと思うわ。光学迷彩を見破るのに私、ひと手間かけなければいけないものね」

 チルノと大妖精を、輝夜はまとめて抱き締めている。

(え……私、死ぬの? 妖精、なんだけど……)

 大妖精は、息が出来なくなった。

 輝夜の雅やかな匂いと、チルノの清涼な香りが、鼻孔も気道も肺も満たしてしまっている。

「そこまでに、しときなさいよね」

 下の方で、声がした。

 永遠亭の庭に、いつの間にか、博麗霊夢が佇んでいた。

 撃ち落とされたサニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアが、頭でたんこぶを膨らませ、涙ぐんでいる。

 そちらを一瞥し、霊夢は言う。

「この連中にしては……まあ、よくやった方だと思う。弱い者いじめは程々にね」

「なかなか、どうして。侮れないわよ、この子たち」

 チルノと大妖精を抱いたまま、輝夜はふわりと降下し、霊夢の眼前に着地した。

 そこでようやく、妖精二人を解放してくれた。

 目を回し、よろめくチルノを、大妖精は支えた。

「チルノちゃん、しっかり……」

「うぅ……つ、強いなぁ、かぐや。馬鹿力だなあ……」

 呻くチルノの頭を、霊夢が撫でる。

「強い奴に誰彼構わず喧嘩売るのも、まあ程々にね」

「あたいは、あたいは戦わなきゃいけないんだ」

 チルノが、小さな両拳を握る。

「……強くなって、戦わなきゃ……」

「チルノちゃん……」

「…………ごめんよ、大ちゃん。せっかくの作戦だったのに」

 チルノが言うと、ルナチャイルドとスターサファイアが、じとりと大妖精を見つめてきた。

「……結局、何。あれなの? 私らも囮だったってわけ。最後にチルノを突っ込ませるための」

「やるわねえ、大ちゃん」

「え、いやその……あははは、ごめんなさい」

 大妖精は、俯いた。

 サニーミルクが、小さく息をつく。

「……まあ、そこまでしなきゃって時は確かにあるよね。チルノだけじゃない、あたしたちも……戦わなきゃ、いけないのかも。よくわかんないけど」

「妖精が、何だか……やる気を出しちゃってる」

 霊夢が、顎に片手を当てた。

「あんたたちがね、異変の度にトチ狂って弾幕ばら撒く……のは、いつもの事なんだけど。今回は、それとも、ちょっと違う感じがするわね」

「貴女のトチ狂いようも、なかなかのものだったわよ霊夢」

 輝夜が、微笑む。

 霊夢は、頭を掻いた。

「それは言わないでよ……なんてわけには、いかないか。ずっと言われ続けるのね、私」

「当然」

 輝夜は言った。

「博麗の巫女が、いかなるものか。未来永劫、私が語り続けるわ。永遠を彩るものを見せてくれて、本当に……ありがとうね、霊夢」

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