表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】転生大魔女の異世界暮らし~古代ローマ風国家で始める魔法研究~  作者: 灰猫さんきち
第二部少女期 第八章 テュフォン島の災厄

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/277

10:知恵を絞る


 あの夜、襲ってくる竜から逃げ延びて以来、私はずっと対策を考えていた。






 元老院は素早く動いて討伐軍を繰り出したけれど、失敗してしまった。

 今はワインと豚肉をあてがうことで時間を稼いでいる。でもいつ、竜の気分が変わって街を襲いに来るか知れたものじゃない。

 可能な限り迅速に手を打つ必要があった。


 今現在、ユピテルで最も殺傷力の高い攻撃は、私の落雷魔法だと思う。

 一撃で大木を炭化させる威力があるけれど、これで竜は仕留められるだろうか?

 確実とは言えないだろう。竜のうろこは物理的な防御力が高いが、魔法や電撃に対しても耐性があるかもしれない。

 近づくだけで危険なので検証は難しい。それに奴はそれなりの知能があるように見える。下手に小出しでこちらの手を見せると警戒されそうだ。


 落雷を軸として、何重にも攻撃の手を用意しなければ。

 その一つに、お酒で酔い潰す作戦は良いと思う。馬車いっぱいのワインでもちょっと酔う程度だそうだが、それならばもっと強い酒を飲ませてやればいい。







 私はティベリウスさんに落雷魔法の話をした。

 有力な元老院議員である彼は多忙を極めていたけれど、ちゃんと聞いてくれた。いつもの執務室で、オクタヴィー師匠とドルシスさんを交えて話す。


「雷を落とす魔法、か。ゼニスの魔法はいよいよ神技の域に差し掛かってきたね」


 おどけた口調だったけれど、眼差しは真剣だった。

 国名にもなっている主神ユピテルは、雷神にして天空神。この国では雷は神聖視されている。

 だから下手に魔法で再現できるなんて公開したくなかったんだけど、この状況じゃ出し惜しみなんてしていられないもの。


「竜の動きを封じる手段の一つとして、お酒を使いましょう」

「だが大量のワインでもさしたる効果はなかった」

「蒸留酒を作ります。度数を目一杯高くしてやれば、竜でも潰れる可能性が高まります」


 ユピテルのワインのアルコール度数は、高くてもせいぜい15度程度だと思う。うろ覚えの前世知識だと、これ以上の度数になるとアルコール酵母菌が自分の作るアルコールで死んでしまうので、醸造酒は15~20度が限界とかそういう話だった。


「蒸留酒は、アルコール……酒精と水の沸騰温度が違うのを利用して作ります。酒精の方が低い温度で沸騰して蒸気になるので、それを集めて冷やして、液体に戻すんです」

「そんな方法があったとは。分かった、すぐに必要な器具の作成とワインの確保をするよ」


 蒸留酒はアルコール度数60度とかざらだ。ワインと比べて単純に四倍以上。

 あんなクソ竜に良いお酒を飲ませてやるのはもったいない、工業用の純エタノールでも飲んでろって思う。でも、竜にも好みがあって不味いから飲まないとかになると困る。

 だからちゃんとした蒸留酒を作らないと。


 あれ、そういえばビールを蒸留したらどうなるんだろ。麦酒だからウィスキーになる?

 まあいいや、どうせ熟成させる時間はない。今回はそこそこ飲める味で度数がめちゃ高いお酒が出来上がれば何でもいいのだ。


 蒸留器の形と仕組みはうろ覚えだったので、ざっくり伝えるに留めた。ユピテルの職人はレベルが高いから、任せた方がいいものが出来るのではないか。


「それからもう一つ、落雷で確実に仕留めるための方法を考えました」


 ここからが本題だ。

 私は持ってきたバッグから記述式呪文を刻んだ白魔粘土を取り出して、執務机に乗せた。


「シリウスと開発した新しい呪文です。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「なんですって!?」


 師匠が思わず、という感じで声を上げた。







 魔法の効果を物に付与する。これがここしばらくの研究の成果である。

 記述式呪文の発動箇所は呪文を書いた媒体に限られていた。けど、一定の条件下では白魔粘土に接触したモノでも魔法の効果が出たのだ。


 私とシリウスはこれが対竜の武器にならないかと、あの日以来ずっと研究を続けていた。

 そして一つの結果にたどり着いた。


「記述式呪文で『鋭』『貫』といった効果を武器に与えれば、殺傷力が相当に高まります。恐らく竜のうろこも貫くほどに」

「それをスコルピオの矢に与えれば、竜の体を貫通するかもしれんな! 急所を大型矢で貫けば、いかに竜とて死ぬだろう。何なら兵器や矢をもっと大型化してもいい」


 ドルシスさんが意気込む。


「いえ、それが……」


 私はぎゅっと拳を握った。


「発動にはかなりの制限があって、矢では無理なんです」

「というと?」


 ティベリウスさんが冷静に先を促した。


「発動の条件は、『魔力を流し続けること』です。流す魔力の量は少量でいいのですが、途切れればすぐに効果が切れます。

 だから、誰か魔法使いが武器を持たないといけません。矢のように手元を離れる武器では不可能です」


 記述を変えて何度も試したけれど、どうしてもその条件を克服できなかった。


「私の考えた作戦は、こうです。

 まず、酔い潰すなどして竜の動きを封じる。

 そこへ魔法を付与した武器を持った人が、竜の背に槍を突き立てる。

 最後に私が落雷の魔法で、刺した槍に向けて雷を落とす」


 竜のうろこは防御力が高い。でも、うろこと表皮を突き破った先の肉はその限りではないだろう。

 だから槍を突き刺して、体内に直接、雷を叩き込む!!

 槍は避雷針を兼ねる。確実に雷を落とせるはずだ。


 避雷針の原理を説明した。

 雷は高い所、その中でも細長くて電気が通りやすいものに落ちやすい。その性質を利用して避雷針に雷が落ちるように誘導する。

 そういった意味のことを伝えると、フェリクス家の三兄弟はうなずいてくれた。彼らも経験として、雷が木などの細長くて丈が高いものに落ちやすいと知っていた。


「槍の材質は銅がいいはずです。銅は金属の中でも電気を――雷を通しやすい性質なので」

「だが銅は柔らかい金属だ。いくら魔法で強度を上げられると言っても、武器には向かんぞ」


 と、ドルシスさん。

 そういえばそうだ。失念していた。もちろん元の素材が強固な方が、魔法の効果も上がる。

 師匠が続けた。


「銅の合金じゃ駄目なの?」

「えーと、どうでしょう。青銅とかどうだったかな」


 なんかもううろ覚えで、金銀と銅が導電率いいよ! くらいしか記憶にない。この文系人間め、肝心な時にこれだクソッタレ!

 自己嫌悪に陥っていたら、ドルシスさんが案を出してくれた。


「要は竜に突き刺した上で、雷が通りやすければいいんだろう。じゃあ、穂先だけを鉄で作って柄の部分は銅にすればいいんじゃないか?」

「それ、いいですね! それで行きましょう」

「芯を銅で作って、周りを鉄で覆ってもいい。石突き側は銅を露出させてな」

「具体的な仕様はお任せします」


 石突きは槍の穂先の反対側、柄の底だ。今回は避雷針として最初に雷を受ける部分になる。

 そういやその部分は三叉が良かったんだったっけ。その方が電気を受け取りやすいとか見た覚えがある。

 その旨も伝えておいた。


「それから、槍を使う人選をお願いしたいです。かなり危険な役目なので、本当は私がやればよかったのですが……」


 私は落雷魔法を使わなければならない。これは誰にも代わってもらえない役割だ。

 最初、槍の役はシリウスがやると言っていた。だが彼は目を覆うばかりの運動音痴である。とてもじゃないが任せられない。

 槍に使う記述式呪文の発動は、魔力を扱える人でないとできない。だから軍に所属している魔法使いから、適任の人を選んでもらうつもりだった。


 けれど。


「選ぶまでもない。俺がやろう」


 まるで散歩にでも出かけるような気楽さで、ドルシスさんが言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

-


転生大魔女の異世界暮らし~古代ローマ風国家で始める魔法研究~

コミカライズ配信サイト・アプリ
>>コロナEX
>>ピッコマ


>>転生大魔女 書籍情報

転生大魔女の異世界暮らし1巻
TO Books.Illustrated by saraki
― 新着の感想 ―
[良い点] とうとうゼニスが必殺技を竜にぶちかましてしまうんですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ