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09:一件落着、さあ次へ

 アレクの新たな宝物、リスの生首。それは犬のフィグが見つけた枝棒に刺され、さながら討ち取った敵国の将首のように掲げられた。

 誇らしげなアレクは棒を振りかざしながら、他の子供たちに見せてくると言って走っていった。


 目の前から生首がなくなったので、私は安堵の息をついた。アレクは心の優しい子だけど、やっぱ男の子だなぁ。

 さすがに私の分の生首を選ぶのはきつすぎるから、前世で培ったジャパニーズ社交辞令でやんわり断ろうと思う。


 私もお水を飲もうと思って中庭に出ると、リスの残骸がたくさん並べられていた。もうすっかりお肉になってるのとか、まだリスの原型を留めてるのとか、色々ある。ううぅ怖いよぉ……。

 なるべく見ないようにして井戸に行く。お父さんはもういない。

 カップに井戸の冷たいお水を汲んで一息ついていたら、ティトがやってきた。


「ゼニスお嬢様、ここにいましたか。応接間まで来るようにと、奥様から言いつけです」

「ラジャー、今行くよ」

「らじ……?なんですか?」

「かっこいい返事の仕方!」


 私はお水のカップを井戸の横に置いて、応接間まで行った。

 部屋の中では両親とオクタヴィーさんが椅子に座って待っていた。護衛の兵士2人は壁際に立っている。

 テーブルにはお茶のカップとお茶菓子が出ている。お茶と言っても紅茶や緑茶なんかの茶葉のお茶ではなく、大麦を煎った麦茶である。ノンカフェインで子供の胃にも優しいやつだ。この国ではまだ茶葉もコーヒー豆もないらしく、どっかで発見できたら大儲けできるだろうな。山とかに自生してないかな?


 お母さんが隣の椅子を示したので、そこに座った。


「それじゃあ、ゼニスの今後を決めましょう」


 オクタヴィーさんが口火を切る。


「フェリクス本家としては、いつでも受け入れ可能よ。屋敷の一室に下宿してもらうことになるわね。ゼニスはまだ読み書きができないから、家庭教師について勉強しなさい。一通りの学問を身に着けたら、魔法学院に入学する手続きを取ってあげる。どのくらい時間がかかるかはきみの頑張り次第ね」


 魔法学院!そんなのがあるんだ。それじゃあ私も青春学園編をやるのだろうか。前世、実際の学生だった頃は、根暗なオタクでカースト最下位だったんだけど。

 うーむ青春ものとか柄じゃないなあ。倍速スキップでいいんじゃないか。


「こちらで用意が必要なものは、何でしょうか」


 と、お父さん。


「特別なものは何もないわ。身の回りのもので十分よ。そうね、ゼニスを一人で行かせるのが心配なら、この家の使用人をつけてあげたら?」

「分かりました」


 お父さんが頷いて、お母さんが続ける。


「失礼ですが、支度金などはどれほどあれば……?」


 両親が緊張している。我が家は田舎貴族で食うに困らぬ程度の資産はあるけど、そこまでのお金持ちではないからな……。私も心配になってきた。お金が足りなくて借金になって、本家でいじめられながらブラック労働をする羽目になったらどうしよう!?意地悪な女中頭がいて、食事は野菜の皮とか切れ端ばっかりになるんだよ、きっと。


「支度金ねぇ」


 オクタヴィーさんは肩をすくめた。


「別にいらないと言えばいらないのだけど、体面的にそうもいかないわよねぇ。んー。金貨と現物、どちらがいいかしら?」

「と言いますと?」

「ここはブドウの産地よね。今年の一番いいブドウ酒をひと樽か、それに相応する額の金貨か。そちらの出しやすい方でいいわ」


 お父さんとお母さんは小声で相談を始めた。

 話はすぐにまとまって、お父さんが言う。


「樽でお願いいたします」

「分かったわ。……私も樽を勧めようと思っていたの。ゼニスを首都の連中に紹介する時、ブドウ酒をふるまいながら実家の名も売り込めるからね。金貨に名前を書くわけにはいかないもの」

「ご配慮ありがとうございます」


 両親は立ち上がって膝をついた。慌てて私も真似をする。これは確か、最上級の敬意と感謝を表す礼だ。

 オクタヴィーさんが立つように言って、私たちはまた椅子に座った。このへんは様式美らしい。


 その後も話はさっさとまとまり、私は魔法を見せて欲しいと言ったのだが、またもや「また今度ね」とかわされてしまった。

 けち。いやいや、慎重なふるまいをするお方ですね。でもやっぱり、ちょっとけち。

 話し合いは終わったので、両親と私は応接間を出る。


「オクタヴィー様は若くても、さすが本家の方だな」

「ほんとに。我が家の懐事情も気にかけて下さって、ブドウ酒の売り込みまでやって下さるなんて」

「家門分家として本家にますます尽くさないとなあ」


 お父さんとお母さんはそんなことを言っている。

 オクタヴィーさんは子供に辛辣な分、大人のやり方はわきまえているらしい。


「ゼニスもよくよく感謝なさい。破格の条件でお前を預かってくれるんだから」

「うん。勉強頑張って、魔法もばっちり覚えてすごい魔法使いになるよ」


 正直、本当にラッキーだと思う。この田舎の暮らしも気に入ってるし、家族のことは大好きだけど。

 せっかく異世界転生をしたんだから、広い世界を見てみたい。色んなことを学んで、魔法も身につけて、好きなことをいっぱいやって生きてみたい。


 前世、自分の体力とキャパシティーもわきまえずにブラック労働に明け暮れて、つまらない死に方をした。

 もっと早めに転職するとか、誰かに相談するとか、あの時だってやりようはあったはずだった。それなのに最悪を選んでしまった。振り返れば後悔ばかりだよ。


 だからもう一度、こんなに恵まれた環境、いい人ばかりの中で子供からやり直せるなんて。いるかどうか分からないけど、異世界転生の神様に感謝しなきゃ。

 今度は自分を大事にして、私を大事にしてくれる人たちにも目一杯報いて、「あー幸せだった!」って寿命で死なないとね。


 よし、やってやろう。まずはこのチャンスをしっかり生かさないと。

 勉強はもちろん、エル家の名声もばっちり高めちゃうからね。

 さあ、がんばるぞー!





第一章はここまでになります。次回以降は首都での暮らしが始まる予定。

小説家になろう初投稿で、ブックマークがすごく嬉しいです。ありがとうございます。

もし面白く読めましたら、ぜひブクマしてやって下さいね。

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転生大魔女の異世界暮らし1巻
TO Books.Illustrated by saraki
― 新着の感想 ―
[一言] 解体された生き物はグロより肉がおいしそうとか感じますね。 ブラックに耐えてきた能力に、心機一転頑張ろうという志が加わると強いですよね。
[良い点] オクタヴィーさん、いいひと!
感想一覧
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