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【書籍化】転生大魔女の異世界暮らし~古代ローマ風国家で始める魔法研究~  作者: 灰猫さんきち
第一部幼少期 第六章 結婚式

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(閑話:3)お嫁さんはどんな人?2


R-15?表現注意。



 ミリィのお母さんのエールがお披露目されて、しばらく後。

 仮のエール製造所となっている山あいの別荘に、ティベリウスさんが視察に行くことになった。一度製造の様子を見たいのと、本格的な製造の場所を検討するためということだった。


 同行者は私とリウィアさん、ティト、それに冷蔵運輸事業に携わっている使用人が何人か。あとは荷物持ちの奴隷の人など。

 別荘はユピテルから数日の距離にある。別荘では二泊することとなった。


 往路も到着後の視察も問題なく終わり、夕食を取りながら意見交換をして、食後休みをしていた時のことである。ミリィ一家はもう下がっていて、リビングに居るのは私とティト、ティベリウスさんとリウィアさんだけだった。


 壁際の椅子に座っていた私の背後で、ふと妙な音がした。フシュ―とかそんな感じの、空気が漏れるような音。


「ゼニスお嬢様!すぐこっちに来て下さい!」


 ティトが壁を指差し、青い顔で叫んでいる。

 恐る恐る後ろの壁を振り返ったら、天井の梁から垂れ下がるようにして、縞模様の蛇がこちらを見ていた。


 ――やばい、これ、毒蛇だ。


 イカレポンチ時代に故郷の山で何度か見た覚えがある。ユピテル半島の山に広く生息している毒蛇。

 危ないから見かけたら逃げろと、お父さんからきつく言われていた。


「ど、どうしよう」


 声が震えた。蛇を刺激しないようゆっくり立って、その場を離れなければと思うのだが、足が強張ってうまく動けない。

 蛇は舌をチロチロしながら、さらに近づいてきた。その縦長の瞳に無機質な殺気が見える。

 私のことを噛む気だ。冷や汗が出る。この蛇の毒はそれなりに強い、子供の私なら死ぬかもしれない。


 やっと足が動いた。時間にすればほんの5、6秒とか、そのくらいの短い間だったと思う。でも遅かった。

 蛇がカッと口を開いて飛びかかってくる――


 ――カツンッ!!


 乾いた音が響いた。


 見れば、今まさに私に噛みつこうとしていた毒蛇が、ナイフで頭を貫かれて壁に突き立てられていた。

 ナイフの柄の延長線上、飛んできた先にはリウィアさんの姿。投擲後の腕を振り下ろした姿勢のままでいる。

 その両目はギラリと鋭い光を放って、壁の蛇を睨みつけていた。


「お嬢様!」


 ティトに手を引っ張られて、つんのめるようにして壁際を離れた。


「リウィアさん……ありがとう」

「ありがとうございます、お嬢様の命の恩人です」


 かすれた声でお礼を言うと、ティトも泣きそうになりながら感謝していた。

 リウィアさんは泣き笑いのような表情で、「無事でよかった」と言った。先程の鋭さは嘘のように消えている。

 それからティベリウスさんの方を向いて、一礼した。


「ティベリウス様、今まで騙して申し訳ございませんでした。私は見ての通り、ガサツで男のような武芸を好む、貴族にふさわしくない女です。離縁されても仕方ないと思っています。

 けど冷蔵事業が安定するまでは、実家のメンツのためにも、どうかこのまま……お仕えさせて下さい」


 うつむいた喉が震えている。

 ティベリウスさんはそんな彼女を眺めて、軽く腕を組んだ。


「なるほど。きみには違和感を覚えていたが、何重にも猫の皮をかぶっていたということか。まんまと騙されてしまった」

「…………」

「夫を何ヶ月も騙すとは、悪辣な妻だ。ひどい話だよ」

「何と言われてもその通りです。罰を与えて下さるなら、甘んじて受けます」

「とはいえ、離縁はできないな。冷蔵事業は始まったばかりだ。きみの実家の力はこれから必要になるからね。では……」


 彼はちょっと言葉を切ってから、続けた。


「投げナイフの他に得意な武芸は?」

「え?ええと、弓と剣は自信があります。そこらの男には負けません」

「そうか。それでは命令だ。――そんな強いきみを、すっかり征服させてくれ」

「え?え?」


 戸惑っている彼女を、リウスさんは抱き上げた。横抱き、いわゆるお姫様抱っこである。


「ちょっと早いが、寝室に行くよ。奴隷たちは他に蛇がいないか確認してくれ。……ああ、寝室はいい。俺とリウィアでちゃんと見るから、邪魔をしないように」


 リウスさんはいかにも可笑しそうに笑っている。

 ぽかーんとしている妻の額にキスをして、さっさと行ってしまった。


 後には無言の私たちと、ナイフで絶命した蛇が残された。


「えーと……」


 何がどうなった。いきなり毒蛇が天井から降ってきたと思ったら、ナイフが飛んできて、夫婦の絆が深まった?

 わけがわからん。


「ティト、この状況、分かる?」

「分かりますとも!リウィア様が強くて凛々しい方だということ、ティベリウス様は寛大で懐の広い方だということです。あぁ、素敵!」


 ティトの目が夢見る乙女みたいにキラキラしている。どうやら喪女には理解不能の世界に入っているようだ。

 まあいいか、結果オーライで。


 奴隷の人たちが蛇の死骸を片付けている。梁の上を覗き込んで、他にいないか確認が始まった。


 結局他の蛇はおらず、私が泊まる部屋も安全が確かめられたので、休むことにした。







 翌朝、絆を深めたらしい夫婦は、二人してやけにツヤツヤのお肌で朝食にやって来た。まあ深くは問うまい。


「ありがとう、ゼニス。あなたは私にとってウェスタの使者よ」


 頬を赤らめながらリウィアさんが言う。ウェスタはかまどの女神で、家庭の守り神とされている。ついでに夫婦の愛も司っている神様だ。

 私が女神の使者ならあの蛇は聖獣だろうか。はた迷惑な話である。


「いいよいいよ、その代わり、お礼にまたイチジクちょうだいね」


 そう言い返してやったら苦笑いしてた。

 何にせよ、彼女が明るくなってよかった。死にかけた甲斐があったというものだ。


「イチジクとは?いつの間にゼニスとそんなに仲良くなったんだい?」


 ティベリウスさんが言う。どことなく不満そうだ。

 リウィアさんはくすっと笑って答えた。


「内緒です。ティベリウス様といえど、女同士の秘密に立ち入ってはいけませんよ」

「おやおや。もう隠し事はなしだと、昨夜あんなに約束したのに」


 うおおおお、空気が甘い!黒砂糖と蜂蜜を混ぜてぶちまけたかのようだ!!

 これが前世の恋愛小説で言うところの「砂糖を吐く」というやつか?


 いたたまれなかったので、私は朝食を手早くお腹に詰め込んで席を立った。甘すぎて胃もたれするわ。

 後で合流したティトとミリィが、昨日の件で楽しそうに恋愛談義してた。

 うんうん、スイートだねえ。


 でも私は甘い空気より甘いお菓子の方がいいな。本気でそう思ってしまうから喪女なんだろうね。

 私自身の転機は当分、下手したら今生も一生、訪れないかもしれない。

 まあ、別にいいか!







 追記。

 リウスさんはリウィアさんの本性に割と気づいていたらしい。

 気づいてたのなら教えてあげればいいのに。乙女心をもてあそぶ、女の敵である。

 ……あれ、でも、リウィアさんは彼のそんな所も好きだからいいのか?ワカンネ。


 それで気づいてはいたが、さすがに投げナイフで蛇を仕留める腕前とは知らなかったそうな。


「強い女性は好きだよ。精神的にも、肉体的にもね。その方が乗りこなし甲斐があるじゃないか」


 とのこと。

 10歳の子供にさらっと聞かせるセリフじゃねぇわ。これだから色々とオープンすぎるユピテル人は!と思いました。まる。





本日1/29夜にこれまでのあらすじ、人物紹介(自作絵付き※下手くそ)、地図などの設定で一話投稿予定です。

新章本編は明日1/30から投稿します。


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転生大魔女の異世界暮らし1巻
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[良い点] ランク入りしてたので、ブクマしておいて今日一気に読ませて頂きました。全体的に読みやすく温かみが有って良い作品だと思います。ありきたりの評価ですが、読み専やっていても意外と少ないんですよね。…
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