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12:準備完了

本日(1/22)二度目の投稿になります。

 アイスクリーム作りは、フェリクスの料理人たちを巻き込んで進行中だ。


 ミルクと生クリームと卵の基本レシピは、思い出せるだけ作ってみた。

 濃厚な口溶けは、卵黄のみ、布で丁寧に裏ごしのレシピでかなり再現できた。究極と至高にはまだ届かないけど、けっこう満足。

 それらに各種の果物やスパイス、ハーブ類を加えてみる。

 料理人たちはさすがに食材に精通していて、色々教えてくれた。スパイスやハーブだけでも膨大にある。

 そして、隠し味として蜂蜜を入れるのがユピテル料理のコツなんだそうだ。みりんや砂糖を使う日本料理に通じるものがある。


「ゼニス様、こちらを召し上がってみて下さい」


 料理人の一人がクラッカーみたいな小さいパンにチーズを乗せて差し出してくれた。

 ぱくっと食べると、ほんのりニンニクの風味が効いていておいしい。クラッカーもパリパリだ。


「おいしい!」

「まだ終わりではありませんよ。次はこの白ワインを」


 ユピテルでは子供の飲酒もさほど制限されていないので、大目に見てもらおう。

 きりりと冷えた白ワインを一口だけ含んだ。

 するとワインの風味でニンニクの香りが流されていって、後にはチーズのクリーミーさとほのかな甘味が残った。蜂蜜の甘さだ。


「どうです。こういった味のハーモニーこそが、我々フェリクスの料理人の得意とするところなのです」

「ゼニス様の白魔粘土のおかげで、ワインを冷やすのも簡単になりました。ちょうど良いタイミングで料理と一緒に出せて、助かっております」

「アイスクリームも、斬新で興味深い。どういう味で作りましょうか」


 料理人たちは誇らしげだ。

 ううむ、こりゃあ古代だからって軽く見てられないな。

 味付けに関しては料理人たちに教えを請うた方が良さそうだ。


 では、私はディスプレイとデコレーションの案を練ってみよう。

 学院長から聞いた北国の話をヒントに、アイスクリームとアイスキャンディで一枚の絵を描くような、楽しい風景を作りたい。

 アイスをいろんな形に作るのは、金型を用意してそれにアイス液を入れて凍らせればいいと思う。

 氷像として他のものを作るのもいいな。

 頭の中で描いた光景に翼を生やして飛ばすように、イメージを膨らませていった。







 ティベリウスさんやオクタヴィー師匠、結婚式の準備を取り仕切っている家令さん、マルクスやティトたちにも意見を聞いたり力を借りたりしながら、アイスクリームアートの原案が出来上がった。


 イメージするのは、ユピテル全土の縮図。

 中央に首都のある半島を置いて、北西山脈、北部森林から東のエルシャダイ王国、内海を挟んで南の大陸まで。

 そしてそれらを繋ぐ、ユピテルの大動脈である街道。

 大きな台の上に氷の板を置いて、その上に氷とアイスで作った造形物を配置した。


 陸地は茶色や緑の色を付けたかき氷を薄く敷き詰めた。

 北西山脈はかき氷を高く積んで、山に見立てる。青や白で本物っぽく色付けしたよ。


 各地方にはそれぞれの名産品やランドマークをアイスで型どって作り、置く。

 長く伸びる街道の上には、ミニチュアの荷馬車だ。氷細工の馬に、荷馬車には一粒サイズのアイスを乗せる。

 海の上には小さい船もあるよ。


 首都ユピテルの位置には、色とりどりのアイスキャンディを立てて。これは、ユピテルの代表的な建築物である列柱回廊を模したものだ。

 その真ん中に氷の碑を置いて、フェリクスの氷のシンボルマークを添える。


 新しく始める冷蔵運輸をアピールしつつ、各地の名産品の形をしたアイスも食べられちゃうという、楽しい仕上がりになった。

 名産品は実際に冷蔵運輸で扱う品を中心に、ティベリウスさんに教えてもらった。


 マルクスにイメージイラストを描いてもらって、みんなで確認した。


「ゼニスの発想はいつも素晴らしいね。こうして立体の地図を見れば、我が国の領土と特産品がよく分かる」


 ティベリウスさんが褒めてくれた。


「料理の最後を締めくくるのにふさわしい。ぜひ、これを作ってくれ」

「はい!」


 一度、氷とアイスで試作品を作ることになった。







 量を増やしてアイスを作り始めると、なんと例の野菜水切り器が役に立った。

 すくい取った山羊ミルクの脂肪分をこれに入れて回転させれば、水分が飛んでさらに濃いクリームになる。

 ミルクそのものを入れてもちゃんとクリームが取れて、時短になった。作っておいてよかった!

 自然に脂が浮かんでくるのを待つと、何日もかかっていた。おやつに食べるくらいならそれでいいけど、まとまった量が必要だもの。


 試作品作りの日、中庭に大きな大理石の台を用意して、その下にドライアイスを仕込んだ。

 その上に氷の海、かき氷の陸地を作る。氷を削るのは大変だから、今回は私が粉雪の魔法を使って降らせた。

 本番は色付けした氷を削ってもらう予定だ。魔法で出した氷じゃなく、果汁やハーブを混ぜた水を凍らせた氷。

 あとは型抜きしたアイスを配置して、仮の完成!


 みんなで色んな方向から確認して、アイスの配置を見直したり飾りを追加したりした。

 海の部分が寂しいということで、波に見立てた白い花びらを散らしてみた。陸地の部分もところどころに、生花を置いた。華やかになったよ。


 そうしてさらに完成度をアップさせると、誰ともなく拍手が起きた。うん、感慨深い……。

 でもまだ、終わりじゃないのだ。


 そのまま中庭に置いて、溶け具合をチェックした。

 六月初旬の式の時期と比べると今はまだ涼しいけれど、それを差し引いてもさほど溶けないで保ちそうだった。


 全ての確認が終わった後は、使用人たちを含めたみんなでおいしくいただいた。

 アレクとラスは羊の形のアイスを取った。羊肉と羊毛で有名な土地に置いていたやつ。

 オクタヴィー師匠は栗が入ったアイスが気に入ったみたいで、つまんでは口に放り込んでいたよ。







 試作を繰り返すのに時間がかかって、もう五月に入っている。結婚式まであと一ヶ月。

 ユピテルではそろそろ夏の気配が近づいてくる季節だ。


 時間ができた私は、首都の隣の港町へ駆り出されて魚の冷凍実験をやったりしていた。今のところドライアイスの魔法を使えるのは私だけなので、冷凍する時は呼び出される。

 他の魔法使いにも二酸化炭素や分子の概念を教えているけど、ユピテルの常識からかけ離れた内容なのでどうも理解してもらえない。私の教え方が下手くそだってのもあるだろう。

 私だけのユニークスキルと言えば聞こえはいいが、実際は使い回しのできない不便さが目立つ。


 ドライアイスなしで冷凍するには、塩や硝石と氷の寒剤を使うしかない。アイスクリーム程度ならともかく、量のある魚介類はこれでは無理だ。

 当分の間、運輸事業は冷蔵だけになりそうである。

 冷凍は特別に貴重な品とか、そういう限定的な運用になるだろう。







 そして時間は流れて、六月になり。ついに結婚式の日がやって来た。


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転生大魔女の異世界暮らし~古代ローマ風国家で始める魔法研究~

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転生大魔女の異世界暮らし1巻
TO Books.Illustrated by saraki
― 新着の感想 ―
[一言] スイーツパラダイスができようとしている。 貴族の料理人になるくらいですから腕は確かですし、探求欲も強いでょうね。 器具は備えあれば憂い無しになってよかったね。
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