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13:新店舗と駆け抜ける夏

 夕食後、ティベリウスさんの帰宅を待って断熱材の報告書を持って行く。

 執務室に行くと、オクタヴィー師匠もいた。


「なるほど。白魔粘土の性能が、他を大きく引き離しているね」


 リウスさんはうなずいた。


「早速、白魔粘土の増産を……と言いたいところだが。今、オクタヴィーと話していたよ」

「魔力石の在庫があまりないのよ。魔法学院の保存分はもちろん、ツテを当たっても大した量は確保できなかったわ」


 なんと。

 魔力石は白魔粘土の材料。そういえば、私が魔力石をまとめ買いした時もそんな話を聞いたっけ。

 今までこれといった使い道がなかったから、供給量もすごく少ないと。


「魔力石は、どこで採れるんですか?」


 これまで産地とか気にしたことがなかったので、聞いてみた。

 師匠が答えてくれる。


「北西の山脈の河原ね。川岸の石に混じって時折落ちているの。今までは現地の住民や行商人が、本業のついでに拾って来て納品していたわ」


 河原に落ちているのか。ついでに拾ってくるとか、魔力石がいかに地味な存在だったか伺える。

 なお北西の山脈はユピテルの国境にあたる。山脈の向こうは小さな部族が割拠する土地だ。お互い小競り合いはあるものの、山脈が天然の防壁となって本格的な侵攻が難しい。


「採集隊を組む準備はすでに進めている。数日中に出立できる予定だ」


 と、ティベリウスさん。相変わらず手際がいいね。


「確保できた魔力石は、70個強。これでどのくらい白魔粘土が作れるかしら?」

「えーと……」


 前に13個使って、樽一つを覆うくらいの量ができた。


「樽の断熱材として、五個か六個分くらいですね」

「やっぱり心もとない量よね。早く次を確保したいわ」


 今、屋台で樽は六個使っている。水が三つにワインが二つ、それにかき氷が一つ。

 他に店を出すのを考えたら、足りない。


「羊毛やコルクも一定の効果があるようだね。白魔粘土が行き渡るまでは、これらも活用していこう」


 ティベリウスさんが言って、師匠と私はうなずいた。

 彼は続ける。


「今後のことを話そう。雇い入れた魔法使いの腕はまだまだだが、今後、及第点まで持ってこれたと仮定して。

 フェリクスの店舗は一店、すぐにでも開始できるよう準備を整えてある。屋台ももう一つ確保済みだよ。これらは増やそうと思えばすぐに増やせるが、やはり供給能力が問題だ」

「特にかき氷ですね。飲み物を冷やすだけなら、断熱材をつけた樽と氷で何とかなると思います。

 でも、かき氷は零度……氷が溶けない温度をキープしないといけないので、ドライアイスじゃないと難しそうです。それとも、都度魔法で粉雪を出すか」


 私の言葉を師匠が受ける。


「都度は無理でしょう。粉雪の魔法だって、氷の魔法と魔力の消費はそんなに変わらないわ。そんなことをしていたら、すぐに魔力が尽きてしまう」

「そうですか……」

「ゼニス、きみの魔力量がかなり多いのよ。規格外とまでは言わないけどね。そこをちゃんと分かって頂戴」


 私を基準に考えるなってことか。人材運用の基本だなあ。

 さらに話し合いは進み、最終的にこんな感じになった。


・今の屋台に加え、店舗を一つ追加する。

・屋台でかき氷は廃止。飲み物だけにする。

・屋台の氷は雇い入れた魔法使いを複数人つけて確保する。

・屋台の樽は白魔粘土を使う。

・店舗では飲み物とかき氷を扱う。

・店舗の担当はゼニス。補佐で他の魔法使いを一人か二人つける。

・店舗の樽は余った白魔粘土と、足りない分は羊毛とコルクで補う。


 店舗の方が直射日光が当たらないし、温度管理がしやすいのでこうなった。

 念のため、屋台にもドライアイスを準備する。朝、出発する前に白魔粘土の樽に入れることにした。

 魔法で生み出したドライアイスは、消滅してしまうまで約16時間。朝6時に出せば夜10時まで存在する。十分だった。


 それからドライアイスは危険物ってほどではないが、凍傷や室内でたくさん溶かすと呼吸困難の恐れがある点は伝えた。スモークを吸うのも駄目。

 まあ、屋台は屋外だからそんなに心配ないけど。お客さんの子供がいたずらしたりしたら危ないよね。


 買い集めた魔力石は魔法学院でまとめて保管しているそうで、明日、白魔粘土を作ることにした。

 でんぷんのりも学院にあるそうだ。

 魔力石は三分割程度に割っておくようにお願いしておいた。







 そうして白魔粘土も作れるだけ作り、断熱材として樽に使うことで、私の魔力消費は相当に減らされた。

 氷もドライアイスも途中で継ぎ足すことがほとんどなくなったよ。

 雇った魔法使いたちも少しずつ魔力循環ができるようになり、実力が上がってきた。


 そろそろ頃合いだ、ということで、冷えた飲み物とかき氷を提供するお店、ついにオープンである。

 お店は角地で、大きく開いた入り口がお洒落な外観。表通りに近い立地で立ち寄りやすい。

 椅子席は店内の他、お店の前の路面もテラス席として取った。


 時に夏は真っ盛り。

 事前にお店の開店と屋台でのかき氷販売終了を伝えてきたので、大きな混乱もなく当日を迎えた。


 ……ごめん、嘘。オープン当日は少なくとも私は大混乱だった。

 だって、お客さんが大挙して押し寄せてきたんだもの!


 なんか、屋台のときより人数が多い。

 よく見ると身なりの良い人、貴族や裕福な商人なども混じっている。貴婦人然とした人もいる。彼ら彼女らも冷たい飲み物やかき氷は気になっていたけど、庶民ばっかりの屋台に並ぶのは、はばかられたらしい。立ち食い、立ち飲みだしね。

 椅子席のあるお店だからと、張り切ってやって来たようだ。


 私はいつも通りドライアイスとかき氷の粉雪を確保して、あとはちょびっと接客を手伝えばいいと思っていたら、甘かった。

 もう大忙し。カウンターもウェイトレスさんもフル回転で、私も駆り出された。


「三番のテーブルに水割りワイン二つとシロップ水一つ。かき氷は二つ!」

「はい!」

「六番はかき氷三つ!!」

「はいぃ」


 お店からはみ出た長蛇の列は、どこが最後尾かもよく分からない。

 長く待たされてうんざり顔のお客さんもいたが、冷たい飲み物を飲むとみんな笑顔になった。

 大人から子供まで、平民も貴族も美味しそうにドリンクを飲んで、かき氷を食べている。


 当面はドリンクとかき氷のみのメニューにしたのも当たりで、客の回転が速い。列が長い割にはちゃんとさばけている。

 中には一日に何度もやって来るお客さんもいて、「冷たいものを飲み食いしすぎるとお腹壊しちゃいますよ」と冗談めかして言ったりもした。







 こんな調子で次の日も、その次の日も大繁盛だった!

 まだしばらく暑い日は続く。


 その間、私たちは毎日大忙し。積み上がっていく売上の銅貨を横目に、一生懸命働いたよ。


 やがて空気に秋の気配が混じるようになって、ようやく客足も落ち着いてきた。

 かき氷は販売終了、冷たい飲み物は規模を縮小して続けることになり、私はドライアイス係の役目を終えた。


 ――こうして、忙しかった夏は幕を閉じたのである。



ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

第四章はここまでになります。次回から新章です。


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転生大魔女の異世界暮らし1巻
TO Books.Illustrated by saraki
― 新着の感想 ―
[一言] 魔力石とか鉱脈があったとしても価値を認識してなきゃ無いも同然なんで価値を知ったらいっぱい目に付くかもしれませんね。 成果が出て活気が出るのはいいことですね。 貴族も家に冷えたものが有るとはい…
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