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【書籍化】転生大魔女の異世界暮らし~古代ローマ風国家で始める魔法研究~  作者: 灰猫さんきち
第一部幼少期 第四章 魔法の商売

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10:断熱材探し

 ティトと一緒にフェリクスのお屋敷に帰ってきた私は、さっそく課題に取り組んだ。

 テーマは『ドライアイスを使わずに、効率よく冷やす』。

 ドライアイスの魔法は私にしか使えない。冷たい飲み物とかき氷の商売の規模を拡大するには、他の魔法使いでも扱える方法を考える必要があった。


 前世の記憶を掘り起こして、役に立ちそうなものを探る。

 まず、冷蔵庫と冷凍庫。これは私の知識では無理。どういう仕組みなのかさっぱり分からない。


 次に塩と氷といった「寒剤」について。

 かき氷は飲み物よりも単価が高いものの、塩をふんだんに使えるほどではない。よってコスト的に不採用。

 実は塩以外の寒剤として、オクタヴィー師匠から硝石を教えてもらった。

 水に溶かすとよく冷えるのだけど、塩よりも高価。つまりとても使えない。


 余談として硝石といえば黒色火薬の材料で、トイレの排泄物を利用して人工的に作るイメージがある。

 地球の偉人がたくさん異世界に召喚される漂流者な某漫画では、織田信長がそれで火縄銃を作っていた。

 けれどユピテルでは、硝石はあくまで寒剤、ないし食品の防腐剤。

 天然物しか存在せず、そのため量が採れなくてお高い。


 それから――私は火薬は作らないよ。

 もし火薬が出来上がったら間違いなく兵器に、人殺しの道具に使われる。

 いつかこの世界で火薬や銃火器が発明される日が来るとしても、それはこの世界の人の手によるべきではないかと思う。







 というわけで、寒剤全般もナシである。


 それ以外で冷やす方法というと、クーラーボックスだろうか?

 前世のお祭りやキャンプで、クーラーボックスに氷を詰めてペットボトルを冷やしていた。

 クーラーボックスは断熱性の高い素材で箱を作り、冷たさを閉じ込めて長持ちさせるんだったね。


 クーラーボックスの材料は、確か発泡スチロールやウレタン。

 ――見事にこの国にない素材だった。駄目じゃん、ちくしょうめ!


 おっと、つい悪態をついてしまった。失礼。

 だって考えても考えても壁にぶつかるから……。


 でも諦めたらそこで試合終了なのだ。

 ユピテルで手に入る断熱材を探してみよう。

 ぱっと思いつくのは、羊毛。暖かいイメージのある羊毛は、それだけ体温を逃さない断熱性がある。

 毛糸や毛織物ではなく、加工前の羊毛の方が良さそうだ。何なら圧縮してフェルトみたいにするとか。


 他には何かあるだろうか?

 ティトと一緒に考えたが、思い浮かばない。他の人に聞いてみることにした。

 自室を出て、滞在中の食客や使用人、奴隷の人に聞いて回る。


「断熱材のいいやつを知りませんか。羊毛みたいに熱を逃さないやつ」

「羊毛みたいに、ねえ。分からないわ。羊毛そのものなら余ってるけど、いる?」

「下さい。ありがと!」


 途中、使用人のおばちゃんから羊毛をもらった。枕に詰める余りだそうだ。

 引き続き聞き歩く。何人かは空振りをして、ついに当たりを引いた。

 以前、私の基礎教養の教師をやってくれたおじいちゃん先生である。


「わしの故国、グリアはユピテルよりも冬が厳しい土地でしてな。石造りの家はとても冷える。壁に石綿の布を貼り付けて、寒さをしのいだものです」

「石綿……」


 アスベストのことか!

 前世じゃ健康被害が取り沙汰されていたアスベストだけど、注意して使えば有用だろう。


「先生、石綿持ってますか?」

「今はありませんな。が、建材や衣類でよく使われております。買おうと思えばすぐに手に入るでしょう」


 お値段を聞いたら、案外お手頃価格だった。後でオクタヴィー師匠かティベリウスさんに入手先を聞いてみよう。

 さらに人を捕まえて聞いていると、もう一ついい話が聞けた。

 食客の建築技師さんである。


「断熱材?それならコルクでどうだい?このお屋敷の給湯管も、コルクで包んで断熱してるよ」


 そう言って、手持ちのコルクを分けてくれた。コルクの木から剥ぎ取った樹皮の切れ端だ。

 これで羊毛とコルクは手元にゲットできた。石綿はまだだけど、とりあえず実験してみよう。


「ティト、部屋に戻ろう。断熱材のテストをするよ」

「はい、色々手に入ってよかったですね」


 部屋に戻ってコップ2つを取り出す。呪文を唱えて氷を入れ、羊毛とコルクをそれぞれ巻き付けた。羊毛は上手にコップ全体を包めたけど、コルクは紐で縛っても多少の隙間が出来てしまった。

 まあいいか、隙間の分を差し引いて結果を見ることにしよう。


 意外に手早く実験の準備ができてしまった。他にやることはないか、改めて考える。


 クーラーボックスといえば、保冷剤とセット運用が多かった。お弁当とか、少量のペットボトル程度ならクーラーボックスに保冷剤を入れてやれば、冷たさが持続する。

 保冷剤の中身は何だっけ。ジェル状の吸水ポリマー?ペットシーツに使うのと似たやつ。

 私は前世でも犬を飼っていたので、その辺はおなじみである。

 これもユピテルにはない素材だ。まったく、前世の化学製品の豊富さは改めてすごいと思った。


 ジェル状、ぷるぷる、そんなワードでふと思い出した。

 以前、魔法学院の卒業課題のために魔力の体内移動を観察した時。でんぷんのりと魔力石で、偶然に謎の白ぷよが出来たっけな。

 あれは結局、あまり使い道がなくてそのままになっている。シリコン粘土みたいなぷるぷる触感なので、ラスと一緒に粘土遊びをしたくらいだ。


 あれ、保冷剤にならないだろうか。ダメ元で試してみることにする。

 白ぷよを入れていた壺から一部をちぎって取り出し、ちょっと伸ばしてテーブルに置く。


「それも断熱材ですか?」


 と、ティト。

 断熱材じゃなく保冷剤だよと言いかけて、似たようなものかと思い直した。要は冷たさが保たれればいいわけで。


「うん、ものは試しで」


 もう一つカップを出して、氷を入れる。他の2つと同じように白ぷよで包んだ。粘土状なのでよく伸びて、しっかり包めた。


「これでよし。後は夜にでも氷の溶け具合を確かめよう」

「はい」

「時間、余っちゃったね。どうしようか」

「ラス殿下と遊んでさしあげたらどうです?ここのところ忙しくて、あまり会えなかったでしょう」

「そうだね、でも、ラスも前より大人になったみたいで、寂しいと言わなくなったよ」

「遠慮してるのでは?」


 うーむ、そうかもしれない。あの子、何でも我慢しがちだから。

 わがままらしいことを言ったのは、私の里帰りについてきたがった時くらいかな。それ以外はいい子すぎるくらいいい子でいる。

 里帰りの件だって結局、連れて行って良かったわけだし。ノーカンだ。


「よし、じゃあ今日は夕ご飯までラスと遊ぼう!何しようかな、暑いから中庭で水遊びとかどう?」

「いいですね。準備してきます」

「お願いね。ヨハネさんも誘って、事故のふりして水かけたら怒られるかな?」

「あたしは知りませんからね。お説教は一人で受けて下さい」

「えーっ、ティトひどーい」


 なんてことを言い合いながら、ラスを水遊びに誘うべく、私とティトは再び部屋を出た。







 そして、たくさん遊んだ夕食後。

 断熱材の性能実験の結果を見ようとコップを取り出したら。


 文句なしのぶっちぎり一番で、白ぷよの優勝だった。


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転生大魔女の異世界暮らし1巻
TO Books.Illustrated by saraki
― 新着の感想 ―
[一言] 石綿、健康被害が怖いですね。 白ぷよは原料の魔石が結構なお値段だったはずだけど需要があれば安定供給に動いて安くなるのかな?
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