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【書籍化】転生大魔女の異世界暮らし~古代ローマ風国家で始める魔法研究~  作者: 灰猫さんきち
第一部幼少期 第二章 首都での生活

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02:ティベリウス

「よく来たね、ゼニス。今日からここを我が家だと思って暮らしておくれ」


 執務机に肘を置いて座っている人は、まだ若い男性だった。20代半ばくらいじゃないだろうか。

 てっきり壮年くらいの人が当主だと思っていたので、私はちょっと固まってしまう。

 その様子に気づいて、彼は軽く苦笑した。


「俺はティベリウス、フェリクス現当主の息子だよ。オクタヴィーの兄だね。父は各地の荘園を見回って不在なので、今は俺が当主代行として屋敷を預かっている」

「そ、そうなんですね」


 あわあわと落ち着きなく喋ってしまった。前世から続いて、私はいつもこうだ。予想外のことが起きるとびっくりして、思考も行動もフリーズしてしまいがちなのだ。

 落ち着こう。今日のミッションはフェリクス本家の人たちへの面通しだ。当主が不在なのは私と関係のないことだから、この人にちゃんと挨拶ができればいい。

 筋道立てて考えをまとめれば、心は静まってくる。小さく頷いて、事前に練習した通りの礼をした。


「お初にお目にかかります、ゼニス・エル・フェリクスです。オクタヴィー様に引き立てていただいて、今日からお世話になります。こちらは使用人のティト。よろしくお願いいたします」

「うん。偉いね、まだ小さいのにちゃんと挨拶ができる。では、俺のことはリウスと呼んでくれ」

「えっと……」


 またもや試練が降り掛かってきた。偉い人が気さくに言ってきたことを、素直に言葉通りに取っていいものか。

 私、空気読むの下手くそなんだよ。だいたい空気読むって何よ。空気は吸うものじゃないか。

 とはいえ何かしらのアクションは必要だ。ひとつ可能性を考えてみよう。


1.言葉通り愛称で呼ぶ。

 彼に他意がなければオッケー。でも本当はそんな馴れ馴れしく呼んではいけない場合は、礼儀知らずとして私、ひいてはエル家の評価が下がる。


2.遠慮して正式名で呼ぶ。

 目上から親しげに言われても遠慮するのが礼儀なら、オッケー。彼が善意で愛称呼びを持ち出した場合は、機嫌を損ねる。


 ……うあー、わからん!初手で混乱するとか、なにやってんの私。

 この手の相手の言葉に素直に答えていいか悩む系の試練というと、前世で就職したての新人だった頃を思い出す。当時のお局様が「ねえ新人ちゃん。私、年いくつに見える?」と典型的地雷な質問をしてきたことがあった。世間知らずだった私は素直な感想として「40歳くらいですか?」と言った。すると彼女は般若を思わせる笑顔で「38歳だけど?」と答えたのである……。

 あの時は思ったままの素直な数字ではなく、サバ読みの35歳、なんなら30歳くらいにしておくべきだった。28くらいでも喜ばれたかもしれん。悲しいね。


 いや、そんなことはどうでもよろしい。とりあえず今をどうするかだ。

 不幸中の幸い、今生の体は前よりもハイスペックで、思考がけっこう速い。こんなに下らないことをぐだぐだ考えても全部でまだ3秒とかだ。

 よし……結論。

 分からんのなら聞くべし。だいたい今の私は対外的に7歳だ。完璧は求められていないだろう。


「本当にリウス様と呼んでいいのでしょうか。もし失礼でしたら教えて下さい。不勉強でごめんなさい」


 これでどうよ。いたいけな女児(中身はアラフォーだけど)が素直にこう言って、意地悪を返してくるなら根性悪認定してやる。

 するとティベリウスさんは柔らかく微笑んだ。


「本当にしっかりしている。リウスと呼んでくれていいよ。きみは魔法使い志望であって、行儀見習いや秘書候補ではないからね。今まで勉強の機会がなかったのも聞いている。あまり片肘張らずに楽にしてくれ」

「はい……」


 思ったよりいい人だった。根性悪呼ばわりしてすまなかった。なんならオクタヴィーさんより親切なくらいだ。

 そのオクタヴィーさんは仏頂面で腕組みしている。なんでや。


「さて、ゼニスはまず一般教養を学ばないとね。家庭教師の手配は済んでいる。いつから勉強、始められそうかな?」

「すぐにでも大丈夫です。明日からでも、今日からでも!」


 勢い込んで言ったのだが。


「ははは、今日からは無茶だね。旅の疲れもあるだろう。まずは屋敷を一通り案内させるから、ここの暮らしに慣れなさい。ああでも、熱意は買うよ。勉強は早めに始めよう。3日後でいいかい?」

「はい!」


 勇み足を反省しながら、私は答えた。度重なる失敗が恥ずかしくて、顔が赤くなる。


「よろしい。ではそのように」


 なんだか話がもう終わりそうだったので、聞いてみる。


「あの、他の本家の方への挨拶はいいのでしょうか?どなたがいらっしゃるのかも、よく知らなくて」

「フェリクス本家の直系で今、屋敷にいるのは俺とオクタヴィーだけだよ。父は地方荘園の見回り、母も同行。姉は嫁入り済み、それから弟は軍務で遠方に駐留中」


 あらま。


「分家筋や食客は数人いるが、彼らには数日以内に顔を通せばいいよ。その辺も案内させる」

「分かりました。ご配慮ありがとうございます」

「よし。じゃあオクタヴィー、案内をよろしく」

「え」


 話を振られたオクタヴィーさんは、鼻にしわを寄せた。


「なぜ私が。使用人か奴隷で十分でしょう」

「だめだよ。ゼニスはお前の初弟子だろう、大事にしてやりなさい」


 お?そういえば、魔法使いの卵としてお世話になるのだから、彼女はお師匠様になるのか。なんかいい響きだなぁ、お師匠様。魔法使いの弟子になった気がする。


「よろしくお願いします、お師匠様!」


 私が言うと、リウスさんは笑って、オクタヴィーさん改め・お師匠様はうんざりした顔でため息をついた。

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転生大魔女の異世界暮らし~古代ローマ風国家で始める魔法研究~

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転生大魔女の異世界暮らし1巻
TO Books.Illustrated by saraki
― 新着の感想 ―
[一言] 歳の話は何いっても角がたつとかいって答えないのがいいと思いますね、ゼニスの答える前に聞くというのはいい手ですね。 思考がハイスペになってるのは非常にありがたい変化ですね。
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