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第九話 トモダチ

「今頃闘っているかな、あの二人」

 黒山羊クロヤギ二人を相手にしながら、壱級捜査官、連爆のヨミは事もなげに言ってのけた。

 ヨミの言うその二人とは橙八羊トヤヨー三白虎陰ミシロカコゲ

 一人は若くして参級捜査官になった男、もう一人は入隊した時からそよぎの男。


橙八トヤ少年は三白少年が気に入らないだろうな。捜査官で明るい奴は珍しい」


 独り言を喋りながら相手を圧倒していく。階級の差は実力の差。肆級よんきゅうの拳は壱級には届かない。


「有象無象のチームにはならないだろうが、鬼が出るか蛇が出るか……」











 白山羊本部ビル13階トレーニングルーム


「梵の実力、見せてもらうぜ」


 トヤヨーは空を掴んだ。ばちばちと火花が散る。

 掴んだ部分は柄へ。そして鍔、刀身と形が形成されていく。


「ドウジギリ!」


 一筋の閃光が走る。刀身に注がれた光を払い除けるように一振り。

 切先をコカゲに向ける。


「武閃てヤツね……」

「本当に斬る。覚悟は良いな、三白」


 返事を聞き終える前に走り出す。

 コカゲはトヤヨーに背を向けて逃げる。


「実戦でも敵に背後をとらせるつもりか!? もっと考えた距離の置き方を……!」

「うるせーよ! これでも食らえ!」


 ぱん、と手と手を合わせた音が響く。

 コカゲのくっつけた指の一つ一つから電流が走る。

 指と指を徐々に離していく。すると、電流は伸びていき、次第に生き物の形を取り出す。


「来ませい! 召喚だ!」


 ずずんと地響き。

 トヤヨーは一瞬体制を崩す。それはコカゲが距離を取るのに十分な隙であった。


「召閃……。しかも三匹も同時にか。梵なだけはある」

「重量級の三兄弟だ! お前ら! あの金髪を押し出せ!」


 象の様なフラッシュがトヤヨー目掛けて突進する。

 トヤヨーは後退しながら攻撃を捌いていく。


「こんだけ距離が空いたらお前は俺を攻撃できない! でも俺は違う! 大量召喚じゃあ!」


 無数のかげろうが生き物へ。

 さながら動物園の様な一団は一直線にトヤヨーへと向かう。


「まいったって言えば消してやるぞ!」

「お前が言えよ」

「!?」


 コカゲの眼前には今さっき追いやった人物。彼は当たり前のようにコカゲに刃をむけている。


「攻撃が単調だ。あれほど避けやすいもんは無いよ。それとフラッシュの量には驚いたが一気に出し過ぎ。フラッシュで俺の姿が見えなくなってたろ」


 二人の男は睨み合ったままで話し続ける。


「三白。お前が強いのは認める。けど人を助けたいなんて理由だけじゃ、やっていけないんだよ」


 トヤヨーの声には哀しみが宿っていた。

 コカゲにもそれは伝わった。


「……お前が捜査官をやってる理由は大層なもんなんだろーなぁ。けどな、俺のこの気持ちだって……本物なんだよ!」


 トヤヨーの首元には羽の生えた蛇。まとわりついたフラッシュは「シャアアアア」と鳴いた。


「全部を突っ込ませたって訳じゃなかったか……」

橙八トヤ……、俺だってマジで覚悟決めて来てんだ」


 真剣な眼差し。トヤヨーはそこに嘘はないと判断した。

 刀を下ろし、フラッシュをとく。さらさらと粒の光が流れて消えていく。


「お前の覚悟は俺が見届けてやる。いいなコカゲ」

「おおよ。最後まで付き合ってもらうぜ! トヤヨー!」









 白山羊本部ビル13階廊下


「コカゲ。お前も明日は空けとけよ」

「ん? なんかあるの? つーかさトヤヨー。お前の顔どっかで見た気が……」

「気、、気のせいだろ! それより何で知らねえんだよ! 明日はチームメンバーの顔合わせだろ!」

「チームぅ?」


 コカゲは首を傾げた。そんなことは聞かされていない。

 自分の知り合いで伝え忘れた人物……。ヨミ、もしくは——


「よかったコカゲくん。仲良くなったみたいですね」

「うわぁぁっ!」


 本人登場だ。

 色々サプライズである。


「はじめまして橙八とやくん。灰戸鼠一ハイドネズイチです」

「はい。私は参級捜査官——」

「ああ自己紹介は大丈夫です。君は有名人ですから」


 有名人という言葉に引っ掛かったコカゲは「ハイドさん、何でこいつ有名人なの?」と少しデリカシーのない発言をした。


「彼のお父さんは白山羊シロヤギの幹部なんです。それはもう子供思いの良い父親で」


 トヤヨーはこの話を遮りたそうにしていた。しかし真面目なトヤヨーがそんなことをできるはずもなく——


「ヒラメキのテストで使う写真、あの少年はよう君なんですよー!」

「……………あぁ……!」









 天原学園あまはらがくえん学生寮特別学生棟


「あはははははは!」

「いつまで笑ってんだ!ちっ……最悪だぜ」

「ちっちゃいトヤヨーも可愛かったぜ。鼻垂れ小僧って感じで……!」


 コカゲの笑い声が廊下中に響き渡る。

 トヤヨーはそれに嫌な顔しながら赤面している。


「じゃあなコカゲ! できるだけお前の顔なんて見たくねーぜ! 声も聞きたくない!」

「悪かったって! もう笑わねーから……ふふっ……」

「笑ってんじゃねーかよ! あといつまでついてくる気だよ!」

「ん? お前がついて来てんだろ」

「あ?」


 103号室のドアには大きく広末涼子のポスターが貼られている。

 隣の102号室には名刀コレクションなるポスター。


「……………」

「部屋、隣みたいだな」


 コカゲの横でため息が聞こえた。

 そんなトヤヨーの横を一陣の笑い声が通り過ぎて行った。













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