第八話 カイキュウ
「は〜〜い、ここがあなたの部屋で〜〜〜す」
「ど、どうも……」
コカゲは妙にテンションの高い職員に促されるまま部屋に入る。
「結構広いでしょう。まあ高校生なんだし贅沢言わないわよね」
「ははは。そうですね。でも俺高校生じゃないんすよ。今日からしっかり働いて……」
「わかってるわよ。働くからこの部屋を貸すの。でも高校にも通うのよ」
「え?」
白山羊本部ビル18階会議室B
「あ〜言ってなかったでした? 身長173.5cm……」
「俺覚悟決めてたんですから。青春は捨てて働こうって」
「それはそれは。股下は……」
「でも何で高校に? いく必要あります?」
「ええ。高校なんて黒歴史の宝庫ですから。いっぱい黒歴史を作ってきてください」
「なんか嫌な理由だなぁ……」
「はい。採寸は終わりです。次はトレーニングルームに向かってください。君と働く仲間が待ってます」
コカゲは新しい出会いに、期待と緊張を混ぜた春の気持ちを感じながらトレーニングルームへと向かった。
「ここか……」
未来感のある白い大きな扉。捜査官手帳をかざすと開く仕組みになっている。
コカゲは先ほどもらったばかりの手帳をかざした。
縦にも横にも何もないだだっ広い空間には一人の男が座っていた。
金髪を真ん中で分けた髪型に切れ長の目。両耳に黒いピアス。
「遅いぞ。十分遅刻だ」
「あ、すんません。道迷っちゃって」
「任務では十分が命取りになる。次から気をつけろ」
ヤンチャそうなのに真面目。人は見た目で判断できないんだとコカゲは思った。
「俺は橙八羊。歳は16。階級は参。よろしくな」
「ああよろしく。三白虎陰16歳。階級はよくわかんないけど……。タメだから仲良くしよーぜ」
仲良くしようの言葉とは裏腹に、トヤヨーの顔は訝しげだ。
「階級が分からない? 何でだ?」
「俺さ新人なんだ。だから良くわかんなくて」
「……そうか。なら手帳見てみろ。階級が書いてある。新人なら肆級だろうけど——」
「えっと……。読めないこれ……。なんて読むの?」
「な……!? 梵だと……!?」
「高い? 低い?」
「高くも低くもない。その階級は評価の外にある。梵の人間なんて初めて見た……」
「ふーん。なんかカッコいいじゃん!」
「……………………」
トヤヨーはジッとコカゲを見た。
「おい。お前は何で白山羊に来た」
「え? 何でって……。フラッシュから人を守るためだよ」
「何でお前が守る必要がある? お前がやる必要なんてないだろ」
「いや……。でも、俺には力があるから!」
「……………チームアップ前に顔合わせするだけのつもりだったが、やるか」
「ん?トヤヨー君?」
「フラッシュをだせ。トレーニングルームはで使用の許可が下りてる」
真面目なトヤヨーの顔がもっと真剣になる。
「お前みたいな軽薄そうなヤツはすぐにやめる。だから、俺に負けたら白山羊から出てけ」
ゆるゆるのコカゲの顔も締まる程の緊張感。トレーニングルームにはお互いの声が良く響く。
「俺も覚悟して来てるんだ。軽薄かどーか……わからせてやる!