第五話 ヒラメキ
「それと……それ二つ……。あとこれを三つもらおう」
「凄い買うっすね。やっぱ職場の人に渡すんですか? 社会人は大変ですね〜」
「ん? 違う違う。 これは新幹線で食べる用だ。同僚に土産など買ったことはない」
「………………」
「もしかして欲しいのか? しょうがないな、特別だぞ三白少年。ほら、そこの剣に龍が巻きついてるキーホルダー買ってやろ……」
「いいです!あ〜新幹線でちゃいますよ!早くしないと!」
「わかったから急かすな。全く……」
小早川との戦いから一夜あけ、俺は東京行きの新幹線に乗っている。目的地は白山羊の本部。なんでも俺の体を調べるんだと。血液中のナントカが何パーセントだ〜とか、難しいことを言っていた。
「そういえばハイドさんは一緒じゃないんですね」
「アイツの能力は事後処理に最適だからな。まだ少し残って働いてもらう」
「ふーん……」
能力……。フラッシュにも個性があるのか。昨日の小早川とかいう奴はナイフや槍を持ってたな。フラッシュの形を変えたのか……?
「ねえヨミさん。昨日の事なんだけどさ。小早川のフラッシュって……」
「今から飯を食べる。悪いが後にしてくれ」
ヨミさんのカバンには大量の弁当が見える。こんな量なら食べるのにも時間がかかるはず。話すのは東京に着いてからにしよう。
「ふぁぁ……」
昨日は眠れなかったからな。今のうちに寝るか……。
俺はヨミさんのムシャムシャと頬張る音を聞きながら眠りについた。
「おい。三白少年。起きろ」
「ん……」
「着いたぞ。ここが白山羊の本部だ」
もう着いたのか……。まあ熱海から東京なんてすぐだよな。たいして眠った気がしないなぁ……。
「つーかでっけー……! こんなに堂々と構えてるなんて思わなかったですよ!」
「白山羊は国公認の組織だぞ。表向きは製薬会社やらなんやらとカモフラージュしているがな」
「ん……? そういえば何で俺の足は地面についてないんだ?」
「私が担いでいるからだな」
「何で俺は担がれているんだ……?」
「良く眠ってたからな。起こしちゃ悪いと思って駅からここまで担いできたんだ」
「………………………」
この人……ちょっとズレてるな……。良かれと思ってやってくれたんだろうけど……。
「ヨミさん、ありがとうございます……。でももう降ろしてください!」
「何だ遠慮するな! 私は構わないぞ!」
「いや……降ろして!」
白山羊本部の中はとても綺麗だった。受付の人に緊張しながら会釈をして先へ進む。エレベーターに乗って上に目をやると東京駅みたいな天井。こんな感想しか出てこないなんて、おのぼりさん丸出しで恥ずかしい。それに東京駅の天井は見ていない。そこを通った時、俺は熟睡していた。
「さて、まずは身体検査だ。三白少年は高一だったな。健康であれよ!」
表向きは製薬会社なだけあって医療器具は充実していた。スタッフたちは慣れた手つきで身体検査を終わらせると結果をまとめた紙をくれた。
身長に体重、体脂肪率に視力、やっぱりどれも平均的。
「よし! 検査終了! 少年! 白山羊に入る手続きを……」
「まだでしょうヨミさん。 コカゲくんの『ヒラメキ』は見たんですか?」
「うわぁっ!!」
ハイドさんが俺の後ろに……!い……一体いつ来たんだ……!
「慣れた方がいいぞ少年。ハイドはいつもこうやって登場する」
「ははは。それは私の影が薄いって言いたいんですか?」
ヨミさんも変な人だと思ったけど……。ハイドさんも……。良く考えたらこの人も窓から部屋に入ってきてたな。普通の人は玄関から来るはず。そこで気づくべきだった。
「ヒラメキはまだ見ていない。多分『召閃』だろう」
「昨日のアレを見るに十中八九そうでしょうが……調べておくべきですね」
「ああ」
知らない単語が俺の前で飛び交っている。カッコつけてわかった様な顔をして頷いていたら
「力を込めろ」と写真を渡された。十歳くらいの男の子が写ってる。
「フラッシュの使い方は四種類あるんだ。これでわかるのは少年が得意なタイプ」
俺は目を瞑って昨日のことを思い出した。体の芯が凍る様な……あの感覚を頼りに力を込めた。
「出ましたね。コカゲ君のヒラメキは——」