第四話 タビダチ
体の芯が凍る様な感覚だった。忘れていた過去を思い出すと同時にまた次の過去を思い出す。感情の波が押し寄せる。俺はその場に立ちすくんでしまっていた。
「少年……。大丈夫か?」
カッコよく助けると言いながら心配させてしまった。ああ恥ずかしい。恥ずかしい。
「……恥ずかしいなぁ」
俺の周りで揺らいでいた何かがはっきりと見える。ぼやけていたモノが輪郭を持ち始める。爪もあるし牙もあるみたいだ。これがフラッシュ……。
「嘘だろおい……! このガキ……! 多重契約も多重契約じゃねえか……! こんな数……くっそ……!」
このフラッシュたちを使ってアイツの槍を取り上げるか。あの槍さえなきゃ怖く無いはず……。
「少年! 気をつけろ! 小早川が仕掛けてくるぞ!」
小早川はできるだけ少ないモーションで槍を伸ばしてきた。ヨミさんの言動から察するに少しでも触れたらアウト、それぐらいには強力な力を持っているのだろう。だからこそ静かに槍を伸ばした。
「残念だったなガキ」
「そういうのは勝ってから言えっての!」
小早川の腕にはフラッシュがしがみ付いている。その数はどんどん増えていく。
「こんなもん……!振り解いて……!」
「できるもんならやってみろよ!」
俺の放ったフラッシュは腕だけじゃなく、小早川の体全体を覆っていた。小早川は重さに耐えきれなくなったのか地面に座り込んだ。
「くそ……! こんなガキに……俺が負けるはずな…………」
小早川にまとわりついたフラッシュは口元まで到達していた。何か言いたそうだったけどよく聞こえなかった。
「何もさせないとはな……」
ただただ物量でのゴリ押し。アイツの槍は凄そうだったけど使えなきゃ意味ないよな。まぁなんにせよカッコよくヨミさんを守れたし一件落着だ!
「ありがとう少年。助けられたよ」
「いやいやそんなぁ。いいんですって」
あ〜いい気分だなぁ。誰かを守って感謝されるなんて……。授業中に何回妄想したか……。フラッシュ最高ー!
「代償を払ってまで人を助けるなんて、中々できる事ではないよ」
「ん……代償」
そうだった。代償があるんだ。なんだったっけ。でも死にはしないだろ。大丈夫大丈夫!
「あ〜。こりゃ凄いことになってますねえ〜」
さっきヨミさんと一緒にいたスーツの男が窓から入ってきた。正確にはさっきまで窓があったところから。
「先程はすみません。基本的に素性は隠しているんですよ。巻き込まないためにもね。しかしこれは……」
「私のせいだ。想定外の事が起きてな。少年には命を助けてもらった」
「どういう事です? 貴方が苦戦するほどの相手では……」
「火槍を持っていた」
「……なるほど」
スーツの男の表情が険しくなった。やっぱりあの槍はそれほど凄いモノなんだろう。
「遅れました。私は灰戸鼠一と言います。よろしく」
「三白虎陰です。よろしくお願いします」
「まずは謝罪をさせていただきます。あなたにフラッシュとの契約をさせてしまった……。本当に申し訳ありません」
「いやそんな……! 俺が勝手にやっただけですし……」
「フラッシュとの契約なのですが破棄なされますか?それともウチで……」
「ハイド、少年には仲間になってもらう。私が決めた」
「そんな横暴な……こういう時は本人の意思を尊重するべきで……」
なんだか良く分からないけど話が進んでいるみたいだ。それよりウチの窓はどうなるんだ?誰がお金を出してくれるんだ?
「あの〜……窓の修理代とかって……もらえたりするんですかね? この男に請求するべきですかね? でもこの男は……」
「なあ少年」
「はいっ」
「人を助けたいか?」
「え……」
「その力があれば人を救える。誰かのトラウマができる前に止められる」
人を救う……。そんな事が……俺に……
「話をするためにもウチに来てみませんか? 細かいことはそっちで話します。そこで答えを決めたらいい」
「ハイドさん……ウチって……」
ヨミさんはハイドさんを押しのけてドヤ顔でこう言った。
「暗閃病患者対策局……通称白山羊だ」