第二話 クロヤギ
はぁ、今日は散々な目に合う日だ……。女子とうまく話せなかったと思ったら女の人に殴られかける……。なんだってんだよ。
「どうした? 向かってこないのか? 早くフラッシュを出したらどうだ?」
何を言ってるかさっぱりだ。フラッシュ……黒山羊……この女の人は一体……
「ストーップ。ヨミさん、その方は一般人です」
スーツ姿の男がそう言った。
「そんなはずが無いだろう。この大きな力は……」
「気づきました?」
「………………」
ヨミという女は少しの沈黙の後、俺に向かって頭を下げた。
「すまなかった。こちらの勘違いだったようだ。君は黒山羊では無い」
「黒山羊……何なんですかそれ、アンタたちは何者なんです……!」
「それは僕が説明します」
スーツの男が名刺を出す。
「暗閃病対策局?」
「ええ。名前ぐらいは聞いた事あるんじゃ無いですか?」
暗閃病……。確か学校で習ったな。精神病の一種だったか。過去のトラウマがフラッシュバックし続け、しまいには自殺してしまう。
「じゃあ……お二人とも医者なんですか?」
「いいや。私たちは医者じゃ……むぐっ」
ヨミの口をスーツの男が覆った。
「まあそんなところです。黒山羊というのはウチを辞めたヤツの事でして。そいつに対して不満が溜まってたんです。僕も彼女も。ですからどうか先程の事、許してくれないでしょうか?」
「……………まぁ、別に、いいですけど。」
なんだか納得できないけどいいか。変に関わる方が面倒だし。
「じゃあ俺はこれで」
「…………おい灰戸」
「ええ、さっきの子。ツいてましたね」
「力が大きすぎる……。あんなの見た事ないぞ……」
「貴方が黒山羊と間違えてしまったのも納得です。あんな子が一般人だなんて、信じられませんよ」
「私はあの子を追う。だから……」
「大丈夫ですよ。今回の黒山羊の等級はB-。僕一人でも問題ありません」
「すまない。恩に着る」
「はぁ〜〜疲れたよ本当」
俺は部屋のベッドにうつ伏せに倒れ込む。手を使わず足だけで靴下を脱ぎ、床に放る。
「……………………………………」
今日の朝…コンビニ入ったらレジに店員さんいなくて……呼ぶの恥ずかしくて…結局なにも買わないで出てったな…。あれ絶対見られてたよなぁ。うわぁ恥ず…! あっ、そういえばラーメン屋に行った時もそんな事あったな。食券じゃないのにテーブルに店員呼ぶボタン置いてなくて……なかなか呼べずにメニュー選んでるフリして…‥。
「はっっっっっっっず………」
「よう少年。なにが恥ずかしいって?」
「……………!?」
さっきのヨミとかいう女が窓からこっちをのぞいている。どうなってんだ!俺の部屋は5階だぞ!
「こんな登場で悪いな。君と話がしたかったものだから」
「だとしても玄関から来るべきでしょう……!」
「ははは!悪い悪い!」
ヤバイぞ…!今度こそぶん殴られる……!この人可愛い顔してヤバいパンチを繰り出してきたからな……当たったら大変なことに……!
「少年。フラッシュは知ってるか?」
「……は」
「フラッシュだよ。その様子じゃ知らないみたいだな。まあ半ば都市伝説みたいになってしまっているからな。知らないのも無理はない」
フラッシュ、、都市伝説。そういえば黒歴史から怪物が生まれるって噂を聞いたことがある。
「フラッシュというのは人間に見えない怪物のことだ。奴らには実体がないんだよ」
「実体の無い怪物……都市伝説の通りですね……」
「ああ。そしてそんな実体のないフラッシュは、人間の負の記憶が食料なんだ。そして人間と契約することで実体を得る」
「契約……どんな契約なんです?」
「一生、黒歴史を食わせ続けるんだ。フラッシュが黒歴史を食べるとき、その黒歴史がフラッシュバックする。どうだ、なかなかキツそうだろ?」
「うん……なかなかにキツそうです」
「…………………………信じてないだろ」
バレた。でも信じられるわけない。フラッシュなんてただの都市伝説……
「プルルルルルルルルルル」
ヨミの電話が鳴った。ヨミは窓から部屋に入って電話に出た。
「どうした?」
「すみません。黒山羊一人じゃなかったみたいです」
バキバキバキっ
「は……なっ……!」
「…………」
窓を壊しながら男が俺の部屋に入ってきた。最悪だ。俺の部屋の窓は玄関じゃないっての!
「少年。これでもまだ信じられないか?」
「そうですね……。めっちゃ信じてます。だから……助けてください!!」