第一話 デアイ
俺、三白虎陰は普通の高校生だ。
体力テストは全種目全国平均。教室の座席は三列目の四番目。好物はハンバーガー。
カッコつけて洋楽を聴くタイプの、どこにでもいる平均的なヤツ。
今日も平和に授業を受けて、平凡に時が流れる。
「おう、コカゲ。昨日のあれ見たかよ」
「あ〜、あの深夜番組? 面白かったよな〜」
最近クラスで話題の番組だ。普通の高校生である俺はチェックを欠かさない。
「コカゲくんも見てるんだ〜! なんか意外だね!」
「そう? まあ俺そういうの好きだし。結構サブカル詳しいし」
「そうなんだぁ」
「……じゃあ俺、帰るわ」
そう言って俺は教室を後にした。
風薫る五月。外は気持ちのいい風が吹いている。
「んぁぁぁ……!」
俺は頭を抱えた。
「さっきの会話、ちょっとキモかったかなぁ……? なんか女子と話すとなるとカッコつけちゃうんだよなぁ……」
そう、俺こと三白虎陰は普通の高校生。
後になって色々考えちゃうタイプの高校生。
さっきの会話つまらなかったかな、とか。相手に嫌な風に伝わってないかな、とか。
至る所で小さな黒歴史を作り、毎夜思い出しては恥ずかしくて死にそうになる。
そんなどこにでもいる高校生。
「おい君」
「へぁ?」
頭を抱えて座り込んでいるところに話しかけられた。恥ずかしい。これもまた夜に思い出しては死にたくなるんだろうな。
「君、黒山羊だろ」
「は? 黒山羊……?」
目の前にいる女が不思議なことを言い出した。
「私は暗閃病患者捜査官。名前はヨミ」
「はぁ……どうも」
俺なんかよりよっぽど恥ずかしいヤツ。
どうしよう、こういうのに絡まれた時はどうするべきなんだ。
「では、対策法に則り、君を殴る」
知らんぷりするのが一番かな。知り合いと思われるのも恥ずかしいし。
「ハハ、そうですか。じゃあ俺は…………殴る?」
女の拳が俺の頬をかすめる。
「避けるか。さすがこれだけのオーラを放つ者だ。次は本気でいく」
「は…は……なんだよ……くそ」
俺、三白虎陰の平和で平凡な日常は、今日で終わりそうです。