女騎士(78)は年老いても女騎士である。これを証明せよ。 女騎士(78)「んほぉぉぉぉ!!」 QED
とりあえず読んでみて欲しい。
たまにはこういうのも良いんじゃないかな?
ガラスケースに大事そうに飾られた聖騎士団の功労勲章。
僕のおばあちゃんは昔、女騎士だったみたい。と、言うのもおじいちゃんと結婚して女騎士を引退してるから、おじいちゃん以外におばあちゃんが何者だったのかを知る人が居ないのだ。
「ねえ? おばあちゃんは昔女騎士だったの?」
僕の質問におばあちゃんはケラケラと笑って応えた。
「昔の話じゃよ……。ずっと……ずっと昔の話じゃ…………」
ガラスケースの中では勲章が唯静かにおばあちゃんの名誉を讃えていた―――
「やーい! お前の母ちゃん女騎士ーーーー!!」
「ギャハハハハーー!!」
「グスン……」
小さな女の子を数人の男の子達が取り囲み嘲笑うかのように冷やかしている。
「やめろ!」
男の子達より一回り背丈の小さい男の子が、いじめを止めるよう大声を上げた。身形は良く、この辺りでは見掛けない子だった。
「何だぁコイツ?」
「女の子が泣いているじゃないか!」
―――ボカッ
「いでっ!」
―――ゲシッ
「痛い!」
―――ボコッ
「やめてください!」
颯爽と現れてはあっと言う間にボコボコにされる男の子。
「あースッキリした。行こうぜ!」
男の子をケチョンケチョンにしてスッキリしたいじめっ子達は何処かへと去って行った。高価な服は土に汚れ所々破けているが、それでも男の子は気丈に立ち、泣いている女の子に声を掛けた。
「大丈夫かい?」
「……グスン」
女の子はボロボロの男の子を一目見ると泣くのを止め、逆に心配そうに男の子の具合を見た。
「あなたこそ大丈夫?」
「大丈夫さ! 僕は王子様になるんだからね!」
「なにそれ? 私だって女騎士になるんだから!」
「はは! それじゃあどっちが先になれるか競争だね!」
「ふん! 女騎士になったらアイツらなんかスコボコよ!」
「はは、ダメだったら僕が守ってあげるよ!」
「いらないってば!」
「ははは!」
やがて女の子は少女へと成長すると、女騎士養成学校へと入学した。母親譲りの美貌と器量の良さ、父親譲りの剣術そして腕っぷしを持ち合わせた女の子は、養成学校でメキメキとその頭角を現していった。
「やあ」
「……?」
養成学校で話し掛けられた少女は、見知らぬ……それも男性禁制の養成学校に居る筈のない少年に疑問を抱いた。
「僕だよ僕。王子様だよ!」
身形の良い服装に、それらしい立ち振る舞い。何よりその身体から溢れ出る只者では無いオーラがそれを証明していた。
「……あ!」
少女は思い出す。幼き日の約束を……
「僕はもう少しで王子様になれそうだ。君は?」
「私は……私ももう少しよ!」
正しく売り言葉に買い言葉。少年の言葉に更なるやる気を貰った少女はより一層女騎士になるために努力をした。
「オヂルゥゥ・イキハメ・アヘルスキー! 貴殿を女騎士隊の一員と認め、女騎士隊第三部隊配属とする!!」
少女は女騎士隊入隊記録の最年少記録を塗り替え、念願だった女騎士になった!
女騎士隊の訓練は厳しく、へこたれる日もあったがそれでも少女はめげずに女騎士として生きた。そしてある任務でオークの大軍と対峙した日の事…………
「クソッ! オークの大軍に囲まれたぞ!」
「グホホホォ! この八卦陣から抜けることはまかり成らぬ!」
女騎士隊第三部隊はオークの大軍に大苦戦していた。本部の情報では唯のオークの群れとの事だったが、やけに頭の切れるオークが指揮を採っており気が付けばオークの群れに囲まれその数を確実に減らされていた。
―――バッ!
―――バッ!
オークから投げられた網に絡まり、女騎士は次々と身動きが取れなくなる。
「グフフフゥ! どれも可愛い娘だ! これだから女騎士狩りは止められねぇ!!」
次々と攫われる女騎士。少女は必死の抵抗を見せ、援軍を待ち続けた。
「ヘヘヘェ……そろそろ王宮から援軍が来そうだな。しかし別働隊が既に罠を仕掛けてある。今頃は……グフフフゥ!」
「くっ……! このままでは!!」
事実、王宮からの援軍は虎挟みや茂みに配置された案山子、そして橋の崩落、果ては伏兵と様々な足止めを受けて女騎士隊への合流が遅れていた。
―――バッ!
「た、隊長ーー!!」
「オヂルゥゥ! 隊員を連れて撤退せよ!! 私に構うな!!」
「ウボボボ! 一際巨乳ちゃんを捕まえたぞぉぉ! 今夜はご馳走だぁ!!」
オークの網に掴まり連れ去られる隊長。撤退を命じられた少女は何とか撤退を試みるが、巧妙に敷かれた陣形は隙が無く逃げる手立てが見付からなかった。少女は傷付き次第に剣を持つ手に力が入らなくなってきた……。
「くっ……!」
―――ヒヒーン!!
「ぐわっ!」
「ぐえぇ!」
少女の耳に届く馬の嘶きと銃声。颯爽と横切るように現れた白馬に跨がった男性。それは正しくあの日、幼き頃に見た男の子だった!
「オークが寄って集って女の子に乱暴とはな!!」
「―――王子!!」
「―――第六王子!!」
他の隊員が口にした名に少女は驚いた! あの日の約束は果たされ、今目の前に居る光り輝く王子はオークを蹴散らし血路を開いている!!
「この陣形は決まった方角からしか逃げられない! コッチだ!!」
王子は女騎士達に道を示し先陣を切った! オークを蹴散らし道を開けていく!
「グオォォ! 逃がすな!」
ヌッと一際大きいオークが王子の目の前を塞ぐ。王子は腰から剣を抜き紫電一閃の如く雷光の様な眩しさで一振りを見せそのままオークとすれ違った。
「……あで?」
オークの首が次第に胴体からズレ始め、ゴトッと地面に頭が落ちるとオークはそのままうつ伏せで倒れた。
「戦は相手を見てやるんだな! オークにやられる我等ではない!!」
王子の後に続く女騎士達は最後の力を振り絞りオークの陣から抜け出しようやく到着した援軍と合流する事に成功した。
「大丈夫かい?」
王子が少女に声を掛けた。少女はボロボロで王子は傷一つ付いていなかった。
「本当に王子様になったんだね……」
「第六……だけどね。王位継承権は在るけれど、僕に回ってくることはまず無いさ」
「…………悔しいなぁ……」
―――ガクッ
「おっと!」
緊張の糸が切れ倒れ込む少女を王子が咄嗟に抱えた。
「いくら気丈に振る舞っても、やはり女の子は女の子だな……。悔しいがオークの気持ちが少しだけ分かったよ」
今すぐにその腕の中に眠る少女を連れ去りたい衝動に駆られた王子だったが、少女を救護隊に任せ自分はオークの撃退任務へと舞い戻った。
その後、この戦闘による怪我が元で女騎士隊を脱退した少女はひっそりと王子と結婚し、末永く幸せに暮らした。
「―――と、言う訳さ……ってあらあら、寝ちゃったのかい?」
スヤスヤと寝息を立て眠る僕。
「ばあさんや、大福餅買ってきたぞい」
小さな袋を下げた気品溢れる佇まいの老人が姿を現し、老婆に話し掛けた。
「んほぉぉぉぉ!! 大福餅食べりゅぅぅぅぅ!!」
元女騎士は軽快なスキップをしながら老人の元へと駆け寄った。
読んで頂きましてありがとうございました!!